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名刺代わりの小説10選
2023/07/30更新
はじめに断っておくと、10冊を選ぶことはまだできていません。
ジャンルを横断して今でも手元に置いておきたい、人に薦めるならまずはこれからという本を厳選しました。
中島敦「山月記」
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人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。
同書に収録されている「名人伝」「弟子」「李陵」も名作です。
朝井リョウ「正欲」
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みんな本当は、気づいているのではないだろうか。
自分はまともである、正解であると思える唯一の拠り所が”多数派でいる”ということの矛盾に。
多様性とな何か、考え続けるきっかけになった一冊。
この本と出会えたことがきっかけで、以前よりも他人に対して寛容な自分になれた気がします。
夕木春央「方舟」
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この、山中に埋められた貨物船のような地下建築から脱出するには、九人のうち、誰か一人を犠牲にしなければならないのだ。(中略)
タイムリミットまでおよそ一週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければいけない。
2023年に読んだ中で一番よかったミステリー。
多くは語らないのでとりあえず一旦読んでほしい。
村田沙耶香「コンビニ人間」
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そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。
純文学というジャンルを意識するきっかけになった一冊。
森博嗣「すべてがFになる」
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思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ
天才と天才との掛け合いが含蓄深い、理系ミステリーの傑作。
乾くるみ「イニシエーションラブ」
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「(中略)初めて恋愛を経験したときには誰でも、この愛は絶対だって思い込む。絶対って言葉を使っちゃう。でも人間にはーーこの世の中には、絶対はないんだよって、いつかわかるときがくる。それがわかるようになって大人になるっていうのかな。それをわからせてくれる恋愛のことを、彼はイニシエーションって言葉で表現してたの。それを私ふうにアレンジするとーー文法的には間違ってるかもしれないけど、カッコ良く言えばーーーイニシエーション・ラブって感じかな」
この本を読んで、どんでん返し中毒になりました。
平野啓一郎「マチネの終わりに」
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「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」
平野啓一郎を読んだことがない人にはまずはこれから薦めたい。
中村文則「何もかも憂鬱な夜に」
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でも、ぼくは、死ぬまでのあいだ、ぼくがえられなかったものを、ぼくが本当はどういう思いで生きて、どうすれば今と違う人生が歩めたのか知ってから、死のうと思う。
生きることが嫌になったときに読み返す一冊。