今週の全米アルバムチャート事情 #261- 2024/11/9付
ハロウィーンもワールドシリーズも日本シリーズも終わり(DeNA優勝おめでとう!)、一気に今年も残り2ヶ月、年末モードに突入した感があります。年末モードといえば毎年恒例企画のグラミー賞予想、今年も今週の金曜日11月8日(米時間、明日です)にはいよいよノミネーション発表があります。毎年ノミネーションの予想してるので、今年も何とか主要部門ノミネーションの予想を別ブログで金曜日にはアップしようとおもってますがどうなりますか。
さて今週の全米アルバムチャート、11月9日付のBillboard 200の首位ですが、いやいやビックリしました。先週も予想したとおり、てっきりホールジーあたりが首位と思っていたら、そのホールジーも充分なポイントで今週2位初登場してるんですが(それについてはこの後)、何と、チャート集計期間(10/25〜31)のはざまの10/28にリリースされて、初動4日間のポイントが加算されないのでてっきりトップ10止まりだろう、とたかをくくっていたタイラー・ザ・クリエイターの通算8枚目のアルバム『CHROMAKOPIA』が何と何と、わずか3日間のポイントだけで299,500ポイント(うち実売142,000枚で今週のアルバム・セールス首位)という驚くべき出力でぶっちぎりの首位初登場を果たしてるんですわ!いやいや恐れ入りました。しかしこの支持のされ方は一時期のフランク・オーシャンや全盛期のドレイク並の強力さですね。しかもストリーミング(今回2億1,255万回オンデマンドストリーム相当で今年10番目のストリーミング出力)と実売(こちらは今年6番目の実売出力)両方で大出力を叩き出してるのがすごいところです。
アルバムタイトルの『CHROMAKOPIA』の意味は定かではないですが、本人によると今回のアルバムのテーマはもともと彼が生まれ育ったカリフォルニアのイングルウッドでの少年時代から今までを振り返る、というものだったよう。前作の『Call Me If You Get Lost』(2021年1位)は、タイラーが架空のキャラクター、タイラー・ボードレールとして世界中を旅する、というものでしたが、今回はよりパーソナルなテーマということのようです。それを表すかのように、冒頭このアルバムの主人公、セント・クロマが紹介される、ダニエル・シーザーをフィーチャーした「St. Chroma」は彼の母親のナレーションで始まります。アルバム全体、基本R&B/ヒップホップ・アルバムですが、いろんなサウンドが渦巻いていて楽曲がかなりサイケデリックな作りのものが多く、また「Darling, I」のようにキャッチーなR&Bナンバーだったり、ちょっとミュージカル調だったり、メロディのないラップが延々続いたりとなかなかファンキー。自分などは聴いててふっとビートルズの『サージェント・ペッパーズ』なんかを想起してしまいました。ちょっとこのアルバム、前作と違って聴き込みが必要そうです。メディアの評価はメタクリティック85点とかなり高いですね。今週UKでも初登場1位です。
さてその規格外の出力のタイラーにやられて、93,000ポイント(うち実売81,000枚)という通常だったら余裕で1位取れた出力ながら、残念ながら2位初登場に甘んじたのがホールジーの通算5作目のアルバム『The Great Impersonator』。息子のエンダー君出産直後の前作『If I Can’t Have Love, I Want Power』(2021年2位)ではトレント・レズナーとアティカス・ロスというナイン・インチ・ネイルズの2人をプロデューサーに迎えて、インダストリアル・ヘヴィー・ロック路線の作品を届けて我々の度肝を抜いたホールジーですが、今回は自らがT細胞リンパ性疾患(白血病的な病気らしい)の診断を受けたことを受けて、基本よりメインストリームなフォーク/ポップ・ロック・スタイルの作品になっていて、楽曲の内容も自分の死の可能性や(「Only Living Girl In LA」)、自分がいなくなった後の息子を心配する内容など、極めてこちらもパーソナルな内容のようですね。
また『偉大なるものまね師』というタイトルにちなんで、アルバムリリース直前にインスタグラムで18日のカウントダウン・ポスティングを行い、そこではこのアルバムのそれぞれの楽曲のインスピレーションになったドリー・パートン、PJハーヴェイ、ケイト・ブッシュ、スティーヴィー・ニックス、ジョニ・ミッチェル、ビョークといった様々なアーティストのスタイルで、このアルバムの楽曲をパフォーマンスする、というようなことをやったようです。うーんそれ見たかったな。しかし病気のこともあるんでしょうが、彼女曰く「今回が最後のアルバム」とのことで、今後の彼女の動向が気になるところです。
今週のトップ10は1位2位がなかなか強烈ですが、初登場がもう1枚、4位に54,000ポイント(うち実売35,000枚)で初登場してきたのが、カントリーの若手実力派シンガーソングライター、ケルシー・バレリー二の通算5作目『Patterns』。彼女に取ってはBillboard 200ではこれまでキャリアハイだった、セカンド・アルバム『Unapologetically』(2017年7位)の最高順位を今回更新しました。
今回のアルバムは、前作になるEP『Rolling Up The Welcome Mat』(2023年48位)発表前後に離婚を経験したケルシーが「古い過去を脱ぎ捨てて新しい現在・未来に」というアプローチで作ったという、ある意味ケイシー・マスグレイヴスのアルバム『Star-Crossed』(2021)にテーマが通じる作品で、「How Much Do You Love Me」とか「Beg For Your Love」といった曲にそのあたりのプライベートな側面がよく表現されてますね。アルバム全体女性だけで作られたということもあり、エモながら自然でオーガニックなメロディが心地よい楽曲で満たされています。話題はノア・カーンとのデュエット・シングル「Cowboys Cry Too」。秋にゆっくり聴くにぴったりのアルバムですね。お薦めです。
今週のトップ10のもう一つの話題はエミネムの『The Death Of Slim Shady (Coup de Grace) 』の2度目のトップ10復活、圏外44位→今週6位に返り咲いてます。もともと7月に初登場1位の後圏外に落ちていて、9月にはCDとデラックス・バージョンのリリースで42位→7位に返り咲いたこのアルバム、今度はヴァイナルとカセットのリリースで再度トップ10に返り咲いたもの。最近こういうパターン多いですね。でも今回ヴァイナルだけで31,000枚売ったというからエミネム人気、まだまだ根強いものがあります。
一方11位以下圏外100位までの初登場は今週5枚。その一番人気は、24位にチャートインしてきた世界を代表するイタリア人テノール歌手、アンドレア・ボッチェリの『Duets: 30th Anniversary』。デビューからのキャリア30年を記念して、過去のデュエット曲と新たにレコーディングしたデュエット曲全37曲を収めた豪華CD2枚組のファンサービス企画ですね。
過去ものデュエットでポップ・ファンにもお馴染みのサラ・ブライトマンとの「Time To Say Goodbye」(1996)やセリーン・ディオンとの「The Prayer」(1998)は定番として、こんな人ともやってたのかーという、エド・シーランとの「Perfect Symphony」(2017)、アリアナとの「デボラのテーマ(E Piu Ti Penso)」(2015)、エリー・ゴールディングとの「Return To Love」(2019)などなど新しい発見もあり。そして今回新たにレコーディングした、何とクリス・ステイプルトンがボッチェリの出世作ともいえる曲に挑戦してる「夕べの静かな海(Il Mare Calmo Della Sera)」、グウェン・ステファニとのゴージャスな「Holding On」、そしてポピュラー・オペラの2大巨頭、ルチアーノ・パヴァロッティと朗々と歌い上げるカンツォーネの定番「Notte ‘e piscatore」となかなか聴きごたえのある一枚。これからのホリデー・シーズンのBGMにも活躍しそうなこのアルバム、一家に一枚あってもいいかもね。
続いて36位にチャートインしてきたのは毎度おなじみ、グレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによるCD3枚組ライヴ音源集第52弾『Dave’s Picks, Volume 52: The Downs At Santa Fe, Santa Fe, NM - 9/11/83』。今回はニューメキシコ州サンタフェの競馬場施設、ザ・ダウンズでの1983年のライブを収めたものですね。今回も25,000枚限定リリースだと思いますが、この順位ということは今回もしっかり固定ファン相手に売り切ってのチャートインでしょう。
さてここからはKポップのお時間です(笑)。50位に初登場してきたのはSMエンターテインメントの4人ガールグループ、エスパ(aespa)の通算5枚目のEP(6曲入)『Whiplash』。彼女達のEPは『Girls』(2022年3位)、『My World』(2023年9位)とコンスタントにトップ10を決めていたんですが、前作の『Drama』(2023年33位)で大きく順位を下げてからどうもジリ貧傾向のようです。
今回も基本北欧系のソングライターを起用した曲が中心で、エッジの立ったヒップホップテイストのダンス・ポップ・ナンバーが中心ですが、タイトルナンバーはアメリカのソングライター・チーム、モンスターズ&ストレンジャーズ(ホールジーの「Graveyard」やジャスティン・ビーバー「Ghost」など)を起用してます。ただ他の曲とあまり変わり映えしないですが。正直このスタイルもだんだんマンネリ化してきてる気がするので、次のアルバムリリース時には何かの新機軸が必要かも知れません。
続いてこちらは、今やストレイ・キッズ、TWICEの全米ブレイクで絶好調、日本向けにもNiziUが大人気のJYPエンターテインメント所属の5人組ガール・グループ、イッチ(iTZY)の通算9枚目のEP(といっても11曲入)『Gold』が60位初登場。ここ一年くらいはメンバーのリアがメンタルで活動休止して4人でやってましたが、このEPから無事リアが復帰してフルメンバーでのリリースとなっています。
イッチというと、先程のエスパの線に近い、どちらかというとピョンピョン飛び跳ねてるエネルギッシュなイメージがありますが、今回そういう曲は冒頭のタイトルナンバーくらいで、2曲目の「Imaginary Friend」なんてぐっと大人の感じのスロウなポップ・ナンバーでTWICEあたりがやってもおかしくない曲。その後の曲もどちらかというと落ち着いたダンス・ポップが多く、これがもうアイドル年齢を過ぎてしまった(ユナ以外は既に今年23〜24歳)からなのか、路線変更が狙いなのかはよく判りません。ただ4作前のEP『Checkmate』(2022年8位)ではトップ10を決めていたイッチもチャートのジリ貧傾向にあるのでちょっと飽きられて来てるっぽいことへの対抗は必要なんでしょうね。
今週最後の100位までの初登場は、87位に登場した、アトランタ・ベースのラッパー、ハンチョー(Hunxho)ことイブラヒム・ムハマッド・ドゥドゥのセカンド・アルバム『Thank God』。昨年10月に初チャートインしたミックステープ『For Her』(84位)に続く2枚目のトップ100チャートインになります。まだ25歳の若手ラッパーですが、抑えめのビートのトラックをバックにストリートの現実や無情な運命等を淡々と太い低い声でどっしりとラップする、という老成した感じを受けるスタイルですね。
ラップしているテーマや声のトーンもかなり暗い感じはするんですが、ラップ作品としては結構クオリティの高い内容だと思います。アルバム・タイトルからも判るように、そうしたストリートの現実からの救いを神に求める、というスタイルもただのトラップ野郎の殺伐とした作品とは一線を画してますね。なかなか悪くないです。タイ・ダラ・サインやリル・ダーク、ドン・トリヴァーといったメジャーなラッパーや、キーシャ・コールやマライア・ザ・サイエンティストといった女性R&Bシンガーなどゲストの面子は結構豪華なんですが、アルバム全体のコントロールはしっかりハンチョーが持っている、という感じを受けるのも強いところ。今年のヒップホップ作品では結構掘り出しものかも知れません。
ということで今週の100位までの初登場は8枚となかなか賑やかな週になりました。一方、Hot 100ですが何と今週またまたシャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」が首位復活、通算16週目の1位を記録、ボーイズIIメン&マライアの「One Sweet Day」(1995-96)、ルイス・フォンジ&ダディ・ヤンキー+ジャスティン・ビーバーの「Despacito」(2017)、モーガン野郎の「Last Night」(2023)に並ぶ、歴代最長1位在位週数で2位タイになってしまいました。この上はあのリル・ナズX&ビリー・レイ・サイラスの「Old Town Road」(2019)の19週のみ。いったいそこまで行くんでしょうか。でも今週のHot 100の注目曲はこれではなく、先週8位に初登場して、今週13位に下がっている、ブラックピンクのロゼとブルーノ・マーズのデュエット・シングル「APT.」。UKシングルチャートでも今週2位に上昇しているこの曲、グローバル・チャートでは首位を獲得してます。そして何よりもこの曲、8位にチャートインしたことでアジア系女性ソロシンガー初の全米トップ10、という歴史的記録を達成したことになります(男性ソロは、もちろん坂本九さんがいますよね)。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) CHROMAKOPIA - Tyler, The Creator <299,500 pt/142,000枚>
*2 (-) (1) The Great Impersonator - Halsey <93,000 pt/81,000枚>
3 (2) (10) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <74,000 pt/9,953枚*>
*4 (-) (1) Patterns - Kelsea Ballerini <54,000 pt/35,000枚>
5 (4) (3) Last Lap - Rod Wave<51,000 pt/103枚*>
*6 (44) (16) The Death Of Slim Shady (Coup de Grace) - Eminem <49,000 pt/40,320枚*>
7 (8) (19) The Secret Of Us - Gracie Abrams <49,000 pt/2,888枚*>
8 (6) (87) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <46,000 pt/608枚*>
9 (9) (24) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<46,000- pt/5,591枚*>
10 (7) (3) Glorious - GloRilla<45,000 pt/1,160枚*>
タイラー・ザ・クリエイターが規格外の瞬間出力で圧倒的な首位を決めた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:11/1~7)ですが、来週は今週アルバムがドロップされた、リル・ウジ・ヴァートが15~20万ポイントくらいの出力で余裕の首位でしょう。その他、ホリデー・シーズンに突入したので、そろそろクリスマス・アルバムがトップ10に乱入してきそうです。ではまた来週。