今週の全米アルバムチャート事情 #196- 2023/8/12付
今週は猛暑の日本を抜け出してお仕事でハワイ出張に行ってきて、今日帰国しました(いやホントに仕事ですってw)。現地は最高でも30度程度と、普通の暑さなのと、昼間はカラリとして朝夕は涼しいという最高の気候の中、結構タイトな弾丸出張をこなしてきました。ただちょうど滞在時にマウイで大きな森林火災があり、多数の死者とラハイナの歴史的街並みが大きな被害を受けたとのことで、犠牲者の方のご冥福を祈るばかりです。一方エンジェルスは泥沼の7連敗から何とか連勝して大谷翔平選手も10勝目を上げ、ジャイアンツとの3連戦を勝ち越して何より。ただポストシーズンの確率は今やかなり低いので、10連勝くらいしてあっと言わせてほしいものですが。
さて今週8月12日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は先週の予想通り、2018年の『Astroworld』以来5年ぶりの新譜になる、トラヴィス・スコットの4作目『Utopia』が、496,000ポイント(うち実売252,000枚)という自分の予想(先週20〜30万ポイントと予想)を遙かに上回るぶっちぎりの1位を決めています。実売252,000枚は当然今週アルバムセールスチャートぶっちぎりの1位ですが、2023年通算でもつい3週間前のテイラー『Speak Now (Taylor’s Version)』の507,000枚に次ぐ堂々2位。しかもストリーミングポイントも3.3億回オンデマンドストリーミング(ODS)相当の243,000ポイントを叩き出していて、こちらも2023年で2番目のポイントです(トップは3月のモーガン野郎『One Thing At A Time』初週の5億回ODS相当)。そして今週UKチャートでも彼にとって初のナンバーワンを記録しています。
いきなりバッド・バニーとザ・ウィークンドをフィーチャーした先行シングル「K-Pop」(ちっともKポップではないんですがw)がHot 100で7位に飛び込んできて、今回の集計期間初日の7/28付スポティファイ・デイリー・チャートではこの曲を含めて1位から19位までを独占していたトラヴィスの人気ぶりはやはり凄いものがあります。2021年のアストロワールド・フェスでの観客圧死事件以降、イベント会社のライヴ・ネイションなどと共に300を超える訴訟を提起されていて今もその多くが係争中のようですが、トラヴィス自身は自分のファンディングで、大規模イベントでの安全確保のために政府・公共機関・医療機関・音楽業界など様々な関係者を巻き込んだ「プロジェクトHEAL」というイニシャティブを立ち上げて推進しているようです。犠牲者の方々のご冥福を改めて祈るばかりですが、トラヴィスがこの不幸な出来事を乗り越えようと努力していることが、今回の新作の受け入れられ方に反映されているような気がします。
もちろん、そうした外的要因だけではなく、今回の新作はこれまで以上にミュージック・クリエイターとしてのトラヴィスの意気込みが感じられる内容になってます。先週末から何度か通して聴いていますが、もう既にヒップホップなどという枠に囚われることもなく、インディ・ロックやエレクトロ、ダンスビートやR&B、ジャズといった様々な音楽要素を混沌と採り入れているその音楽性は高く評価できるのでは、と個人的には思ってます。ただそれが故か、音楽メディアの評価は賛否両論のようで、特にヒップホップ系メディアからの受けがよくない模様。カニエの『Yeezus』あたりと比較してカニエの真似だ、と厳しく切り捨ててるメディア(コンプレックス誌)もあって今後このアルバムがどういう評価を得ていくか、興味が集まるところです。個人的にはグラミー賞の最優秀アルバム部門にはノミネートされると思いますけどね。
そのトラヴィスには多分勝てないけど、10万ポイントでトップ3かな、と先週言っていたポスティの5作目『Austin』はほぼほぼ予想どおりで、113,000ポイント(うち実売34,000枚)で2位に初登場してました。UKチャートでは2位アン・マリーのアルバムに後塵を拝しつつも、3位初登場を決めています。前作『Twelve Carat Toothache』(2022年2位)あたりからよりオルタナ・ロックやポップ的な方向性にシフトし始めていたポスティ、今回もその方向性を継続していて、何と今回はオルタナ・アルバム・チャートで1位を記録してます(まあ、テイラーの『Folklore』が通算32週も1位を取るチャートなんでオルタナ・アルバムの定義も怪しいと言えば怪しいのですが)。プロデュースは従来からのアンドリュー・ワット、ルイ・ベルとの3人体制。
そもそもポスティの優れたポップセンスに気付かせてくれたのはあの2つの全米ナンバーワン、「Sunflower」と「Circles」。あの2曲で完全に彼はトラップビートから一線を画した作風を確立して、自分の彼への興味も一気に増してました。前作『Twelve Carat Toothache』はその前2作に比べるとやや地味だったけど、ドジャとの多幸感溢れる「I Like You (A Happier Song)」みたいな曲も書いて見せてやっぱりコイツただモンじゃないな、と思ってたその彼のポップセンスが今回正に全開。先行シングルの「Chemical」からして「おお、今回はこの線か!」と思ってたけど冒頭の「Don’t Understand」からして、音作りの厚みからしてスケールも大きく、ポスティのポップ・ワールド炸裂。昨年長男誕生以来、パーティに明け暮れた生活から自分を内省して曲作りをし始めたというポスティ、このアルバムは一回聴いてみてもう少し聴き込みを重ねたいと思った次第。意欲作だと思います。
今週のトップ10初登場はこの2枚のみ。圏外11位以下100位までも今週は初登場2枚でした。1枚は27位に初登場、お馴染みグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんのライブ音源集第47弾『Dave’s Picks, Volume 47: Kiel Auditorium, St. Louis, MO - 12/9/79』。今回はセントルイスのキール・オーディトリアムでのライブの完全音源です。ちょうどこのライブの4ヶ月後に彼らの70年代終焉を印象付けたアルバム『Go To Heaven』(1980年23位)がリリースされたこともあり、そこからの「Alabama Getaway」(同年Hot 100最高位68位)など何曲かの演奏が収録されてますね。それにしてもこのシリーズ、第何弾まで続くんでしょう。今回も25,000枚限定リリースですがこの順位ということはこれまでみたいに完売ではなさそうですね。
もう一つの初登場は、ぐーっと下がって80位に入ってきた、アトランタ出身のメタルバンド、セブンダストの14作目になる『Truth Killer』。同時期に出てきたステインドとかと違って、Hot 100にクロスオーバーしたヒット曲はないものの、その重量感あふれるメタルスタイルと取っ付きやすいメロディで、セカンドの『Home』(1999年19位)でのブレイクから11作目『Kill The Flaw』(2015年13位)まで、15年間くらい出せば必ずトップ20という安定した人気を維持してたんですが、ここ数作は出すごとにチャート的には下降傾向です。この種のバンドへのマスレベルのニーズはやはり15年前の頃と比較して相対的に低下してしまってるんでしょう。あとはステインドのように変に右傾化しないようにお願いしたいものです。
内容については手堅く作られてはいるのですが、やはり2000年初頭にこの分野のパイオニアとして今も高い人気を誇るリンキン・パークのスタイルを未だになぞっているような感じがするのがやや残念。今回は少しエレクトロニックな要素を新たに加えている、とメンバーは言ってるようですが、さほどそれが効果的に使われているようには聞こえませんね、残念ながら。ただハードロック/メタル系のメディアの評価は高いみたいですし、固定ファンもしっかりついているみたいです。
以上今週の初登場は4枚、最近にしてはやや少な目でしたね。一方Hot 100の方はあの不気味な右翼ソング「Try That In A Small Town」がめでたく1位から21位に大きくダウン、変わって首位に立ったのはモーガン野郎の「Last Night」。もう通算15週目の1位になるこの曲もいい加減退場して欲しいものですが、先週の1位に比べればまだ罪がない分許せますわねえ。集計期間初日にあれだけSpotifyデイリーチャートを席巻してたトラヴィス・スコットは票割れしたのか、ドレイクをフィーチャーした「Meltdown」が3位というのが一番人気でした。それも含めて全19曲中17曲がHot 100にドカ盛りニューエントリーしてますが。ということで今週のアルバムトップ10、おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Utopia - Travis Scott <496,000 pt/252,000枚>
*2 (-) (1) Austin - Post Malone <113,000 pt/34,000枚>
3 (3) (22) One Thing At A Time - Morgan Wallen <96,000 pt/3,665枚*>
4 (2) (2) Barbie: The Album - Soundtrack <91,000 pt/17,321枚*>
5 (4) (4) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <66,000 pt/22,844枚*>
6 (1) (2) 2nd EP ‘Get Up’ - NewJeans <55,000 pt/38,228枚*>
7 (5) (6) Génesis - Peso Pluma <50,000 pt/126枚*>
8 (6) (41) Midnights ▲2 - Taylor Swift <49,000 pt/9,589枚*>
9 (7) (134) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <49,000- pt/726枚*>
10 (10) (206) Lover ▲3 - Taylor Swift <43,000 pt/7,885枚*>
久しぶりにドカーンとでかいポイントを叩き出したトラヴィスが席巻した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の1位予想(対象チャート集計期間:8/4-10)ですが、来週は目立った新譜のドロップはなく、トップ10に入ってきそうなのはヨー・ゴッティとDJドラマのコラボ・アルバムくらい。トラヴィスもそうそうストリーミングも落とさないと思うので、来週は20万ポイントくらいは維持して問題なくトラヴィス2週目の首位でしょう。ではまた来週。