今週の全米アルバムチャート事情 #255- 2024/9/28付
あの大谷翔平の3打席連続HR、10打点で50/50をこれ以上ない派手なやり方で達成したのがもう何だか遙か昔のような気がしてしまいますが、いよいよMLBのシーズンもあと1週間足らず。ドジャーズが地区優勝を決めるには今週のパドレスとの直接対決3連戦勝ち越しが必須ですがどうなりますか。一方わがNYメッツも今週ブレーヴスとの直接対決3連戦でワイルドカードの3チーム目を争いますが、スイープすれば決まり、2勝1敗以下だと最終戦で同率で並ぶ可能性ありという、ホントにギリギリまで判らない状況(ただし雨天順延で決戦は来週月曜日のダブルヘッダーに持ち越しになりました)。その間に大谷は記録を伸ばしそうだし、打率も3割復帰してるし、いやあ今年のMLBは近年希に見る面白さですね!ここのところ秋らしい気候になってきてるし、スポーツと音楽を存分に楽しみたいものです。
さて今週の全米アルバムチャート、9月21日付のBillboard 200はサブリナ・カーペンターが地味に4週目の首位をキープするかと思っていたら、思わぬ伏兵が首位をかっさらって行きました。先月サブリナの首位初週に361,000ポイントという大出力なのに僅か1,000ポイント差で2位に泣いたトラヴィス・スコットの『Days Before Rodeo』が何と先週106位から今週一気に首位を獲得、サブリナを蹴落としてるんです。その要因はヴァイナルのリリース。トラヴィスのサイト限定ですが、スタンダードと曲数追加したデラックス・バージョン、およびこの2つのバージョンのそれぞれに前者はフーディー、後者はTシャツが同梱されたボックスセットなどの予約が先月のリリース時点で受け付けられてて、それが今週のチャート対象期間に一斉に発送されたということ。従って150,000ポイントのうち149,000ポイントが実売枚数になってます。いやあ、このフィジカルリリースの話は初登場時に聴いてたのですが、すっかり忘れてましたね。うっかりしてました。
リリースから時間を置いてヴァイナルリリースで1位にリバウンド、というのは最近結構あるパターンで、タイラー・ザ・クリエイターの『Call Me If You Get Lost』が2021/7/10に1位初登場して10ヶ月後の2022/4/30付チャートでヴァイナルリリースを受けて120位から一気に1位に復帰、というのがまだ記憶に新しいところ。あと、テイラーの『Evermore』はリリースから半年後、オリヴィア・ロドリゴの『Sour』が3ヶ月後にそれぞれ1位に返り咲いているのも同じパターンでした。ただこれらはいずれも初登場も1位でヴァイナルリリースで1位に返り咲いてるパターンですが、今回のトラヴィス・スコットは、初登場は1位ではないのに、ヴァイナルリリースで1位になっているという、ちょっとレアなパターン。自分の記憶する限りではこのパターンは初めてだと思うのですが(トラヴィスの場合、初登場時は充分普通であれば1位になっておかしくない出力でしたが、サブリナと同週リリースというタイミングの綾がありましたからね)。
ということで今週のトップ10では初登場はゼロですが、もう1枚、今週トップ10に強力に復帰してきたアルバムがあります。7月に初登場1位を決めていたエミネムの『The Death Of Slim Shady (Coup de Grâce)』が、圏外に落ちてましたが今週、トラヴィスと同じようなパターンで42位から7位に復帰してます。エミネムの場合はCDのリリースと、4曲ボートラを追加したデラックス・バージョンのリリースで今週実売24,000枚を売り上げて、トータルポイント48,000ポイントでここに戻って来てました。一方、圏外11〜100位の初登場は今週4枚。その筆頭は21位にチャートインしてきたカントリー界の今や大御所、ミランダ・ランバートの通算10作目になる『Postcards From Texas』。前々作、テキサス州マーファでマイク2本、アコギ2本だけで録音された『Marfa Tape』(2021年51位)以来共同プロデュースしている盟友ジョン・ランドールと今回もプロデュースしてます。
前々作の『Marfa Tape』が上記のように敢えてミニマルな手法で録音されたり、前作の『Palomino』(2022年4位)では何とB-52ズと共演したり、ミック・ジャガーの曲をやったりと、いろいろ新境地を模索していたような感じだったミランダが、今回は基本に戻って彼女本来のオーセンティックながらポップセンス溢れるカントリー・ソングを紡いでいるアルバムになってますね。折から前作までのソニー・ミュージック・ナッシュヴィル(レーベルはRCA)を離れて今回から新たにリパブリックに移籍したことも、彼女自身がこのアルバムを「新鮮なスタート」と捉えている理由の一つでしょう。タイトルが韻を踏んでいて、あのウェイロン・ジェニングスへのオマージュも感じさせる「Looking Back On Luckenbach」は、ナッシュヴィルの売れっ子ソングライター2人、ナタリー・ヘンビーとシェイン・マカナリーと共作した佳曲だし、若手のパーカー・マッコラムをフィーチャーした「Santa Fe」は南部テキサス情緒満点のレイドバックなバラードと、楽曲の粒も揃ってます。秋の夜長を大人のカントリー・ミュージックで楽しむならうってつけの一枚でしょう。
続いて27位に初登場してきたのは、前作デビューアルバム『Gabriel』(2022)がいきなり16位とブレイクした後名前を聞かなくなってた、ヒューストン出身NYベースの、ベトナム系アメリカ人R&Bシンガー、ケシのセカンド・アルバム『Requiem』。前作はちょっとオッド・フューチャー的な音像で、フランク・オーシャン辺りの影響を色濃く感じさせる作風でしたが、今回はメロディーはよりキャッチーで、サウンド全体スタイリッシュなR&B、という感じに進化しています。
ジョージとか、ライとかこのあたりのスタイルのR&Bシンガーってここ数年の一つの受けるスタイルのトレンドだと思うんですが、ケシの場合USのチャートにはまったく登場しておらず、Spotifyチャートなどにも顔を出さずして、アルバム出すとこうして結構上位にチャートインしてくる、というのがどういうリスナー層に支えられてるのかがいまいち見えてこないのが不思議ですね。それにしては楽曲もメインストリームでキャッチーでレベル高いと思うんですが、いったいどういう層が聴いてるのか。いずれにしてもポップセンス溢れるR&Bお好きな方だったら絶対気に入ると思うので、その方面がお好きな方には一聴をお勧めします。
ちょっと下がって40位にチャートインしてきたのは、Kポップ6人組ボーイズ・バンド、ボーイネクストドアの3作目になる7曲入りEP『19.99』。全米チャートイン3枚目にしていよいよ今回はトップ40にブレイクしてきました。日本でも人気高い彼ら、今回のこのEP、今年の4月にリリースした『How?』(93位)に続いてオリコンの週間アルバムチャートで堂々1位を記録しているようです。
前作同様、基本的なスタイルはメインストリーム・ポップ路線で、「Gonna Be A Rock」や「Nice Guy」、「20」「Call Me」など、LANYあたりを思わせるキャッチーな楽曲で従来路線を踏襲していますが、冒頭の「Dangerous」などはかなりエッジの立ったヒップホップ風なアレンジで、ひょっとしたらそろそろ新境地を狙っているのかもしれません。着実にチャート・パフォーマンスを伸ばしてきていますが、彼らがトップ10レベルの出力を稼ぐには多分もう一つ何かプラスアルファが必要かも。同じハイブ・コーポレーション・グループ傘下のBTSやTXTのフォロワー・バンドにこれから育って行くのか。要注目です。
そして今週最後の初登場は71位、デトロイトのラッパー、ベイビーフェイス・レイの4作目のアルバム『The Kid That Did』。デトロイトといってもドリルやってるわけではなく基本トラップ・ラッパーですが、いわゆるどトラップというよりも、結構エレクトロ・ビートを駆使した催眠的なフロウを聴かせたり、一筋縄ではいかないスタイルを持ったラッパーです。決して全米で大ブレイクしてるわけではなく、多分デトロイトの地元ではそのユニークさでかなりの固定ファンを持ってると見えて、アルバムは出せば必ずトップ100には入ってくるやつ。今回は前作の『Summer’s Mine』(202年92位)からはちょっと順位を上げてますがまあこれくらいの順位です。
エレクトロ・ビートがいい感じだな、と思ったのは「Rubberband Man」、トラップでもチキチキハイハットビートはかすかに聞こえる一方シンセを縦横無尽に駆使したトラックが独得な迫力を演出してる「Count Money」(こちらもB級トラッパーのボスマン・ディロウをフィーチャーしてます)あたりが聴いてて耳に引っかかったトラック。どトラップはもうあまり聴く気がしませんが、これくらい自分のスタイルと工夫したトラックで来られるとちょっと聴いてみてもいいかな、と思ったりしますね。まあそれ以上でもそれ以下でもないですが。
ということで今週の100位までの初登場は4枚でした。一方Hot 100の方はというとまだやってんのかーと思わず思ってしまうシャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」、とうとう11週1位まで伸ばしてます。このまま14週くらいまで行ってホイットニーの「I Will Always Love You」やボーイズIIメン「I’ll Make Love To You」などと並んでしまいそうな雰囲気ですなあ。それより今週のHot 100の注目曲は14位に初登場してきたザ・ウィークンドの新曲「Dancing In The Flames」。今年後半リリース予定のニューアルバム『Hurry Up Tomorrow』からの先行シングルですが、今回もシンセビートをベースにした80年代を思わせるアップテンポのR&Bナンバーで、いつものザ・ウィークンド・スタイルのキャッチーな楽曲。トップ10内に入ってこなかったのはやや意外ですが、この後上昇基調をキープするのかも知れません。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (106) (4) Days Before Rodeo - Travis Scott <150,000 pt/149,000枚>
2 (1) (4) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <108,000 pt/13,779枚*>
*3 (3) (26) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <64,000 pt/13,515枚*>
4 (2) (5) F-1 Trillion - Post Malone <60,000 pt/5,479枚*>
5 (4) (81) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <52,000 pt/917枚*>
6 (5) (22) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <51,000 pt/4,679枚*>
*7 (42) (10) The Death Of Slim Shady (Coup de Grâce) - Eminem <48,000 pt/24,000枚>
8 (6) (18) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<44,000 pt/5,203枚*>
9 (8) (95) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <38,000 pt/2,471枚*>
10 (7) (12) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <38,000- pt/265枚*>
トラヴィスがあっと驚く首位への大ジャンプアップを決めた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の首位予想(チャート集計対象期間:9/20~26)。来週はフューチャーのミックステープがどうもぶっちぎりの首位を取りそう。既にSpotifyのデイリー・チャートにも上位に複数曲ランキングされてるのでおそらく間違いないでしょう。首位を取ると、フューチャーの今年3作目の1位ということになりますね。あとケイティ・ペリーの新譜もリリースされてますが、先行シングルが全くダメだったんでトップ100に入って来るくらいでしょう。ではまた来週。