今週の全米アルバムチャート事情 #187- 2023/6/10付
先週末3日目の最初2ホールでゴルフのメモリアル・トーナメントでトップに立った松山英樹選手、残念ながらその後失速して最終イーブンパーの16位。試合の方は最終2ホールで2打差を追いついてプレーオフに持ち込んだノルウェーのヴィクター・ホヴランドが見事に優勝するという、なかなか見応えのあるマッチでした。さあ松山、2週間後の全米オープンで2つめのメジャー制覇なるか?しばらく週末はゴルフ観戦でつぶれそうです(笑)。
さて今週6月10日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位、皆さんようやく1位が変わりましたよ!やはり我らがテイラー、アルバム『Midnights』に既にリリースされた『The 3am』バージョンに含まれていた7曲と、アイス・スパイスとのリミックス版「Karma」等3曲を加えた『The Til Dawn Version』と、微妙に違う組合せの21曲収録の『The Late Night Version』のリリースで、282,000ポイント(うち実売196,000枚。もちろんぶっちぎりのアルバムセールス・チャート1位です)を記録、2位のモーガン野郎のダブルスコアで今週通算6週目の1位を決めています。パチパチパチ。
今回の2種類のデラックス・エディションのうち、『The Late Night Version』は基本、現在進行中のテイラーの全米ツアー、Erasツアーの会場でのグッズ売場でしか手に入らず、今のところデジタルでもストリーミングでも聴けない「You’re Losing Me (From The Vault)」が収録されてるということで、完全ファンの囲い込みとツアーへの誘導を狙ってるようです。また、今回新しい色のカラー・ヴァイナル(ラブ・ポーションという紫の大理石模様のヴァイナル)もリリースされているということで、2023年テイラーファンは、グッズやアルバムのいろんなバージョンなどでドルがどんどん飛んで行ってるんでしょうね(笑)。残念ながら今回のデラックス・バージョンの目玉の一つだった、「Karma」のアイス・スパイス・バージョンは、Hot 100ではモーガン野郎の「Last Night」を撃墜できず2位初登場に終わったようですが、このバージョンのYouTube動画も合わせてリリースされるなど、引き続きストリーミング需要も見込めることから、今週126,000ポイントに減って2位に下がったモーガン野郎を来週も押さえることができると思うんですがさてどうでしょうか。
そのモーガン野郎とわずか1,000ポイント差という超僅差で3位に甘んじたのが、先々週これもHot 100でモーガン野郎の「Last Night」を撃墜できず2位に甘んじた、J.コールとのコラボシングル「All My Life」を含むリル・ダークの新譜『Almost Healed』。125,000ポイント(うち実売2,000枚)ということなので、「All My Life」のストリーミングがもうちょっと延びていれば2位が取れたはず。「All My Life」のリリースが1週間早かったかもしれません。
先週もちょっと触れましたがリル・ダークの今回のこのアルバム、前作の『7220』(2022年1位)同様、あのモーガン野郎とのデュエット曲「Stand By Me」が収録されてて、J.コールとの「All My Life」同様、なぜかDr.ルーク(最近ではドジャ・キャットの仕事が有名ですね)がプロデュースしてて、明らかにメインストリームのオーディエンスを狙ってるのが見えます。「All My Life」もリル・ダークにしてはかなりキャッチーな感じだったしね(というかリル・ダークよりJ.コールの存在感の上が圧倒的だけど)。ただ今回のアルバムは、アリシア・キーズが共作・プロデュースして共演いる「Therapy Session」のMVでアリシアが言ってるように、ここ2〜3年の間に盟友キング・ヴォンや兄弟を凶弾で失ったダークが傷から立ち直るためのセラピーとして位置付けてるようなので、曲調全体はムーディながら、やや明るいところも感じさせる、そんな内容になってるようです。単なるストリート系やマウント系のリリックを吐き出すトラップ野郎ではないリル・ダーク、ちょっと注目です。
さて今週のトップ10内初登場はこのリル・ダーク1枚。圏外11位から100位までも、先週の8枚から今週は3枚とやや地味目です。圏外筆頭初登場は、19位に入って来ているコダック・ブラックの5作目のアルバム『Pistolz & Pearlz』。前作『Back For Everything』(2022年2位)は久々の大ヒットになった「Super Gremlin」(同年最高位3位)に押された格好で2作ぶりの全米トップ3アルバムになったんですが、今回はそういうオーラもなくこれくらいの順位に留まってます。
しかしこのタイトル、何だかガンズ&ローゼズを意識してるというか、同じように銃と女最高、って感じの価値観で作られてるような気がして何だかやな感じですね。シングルになってる「No Love For A Thug」も「Gunsmoke Town」も、哀愁漂うピアノサウンドをバックにコダックがいつものようにトラップしてるって感じで、スタイルは基本的に「Super Gremlin」の踏襲で正直あまり面白くありませんなあ。
それよりおおっと思ったのは、ぐーっと下がって53位に初登場、実に11年ぶりの新作となったマッチボックス・トウェンティの通算5作目(この人達、こんな寡作な人達だったんですね)『Where The Light Goes』。さすがに11年のブランクは大きくて、彼らにとって初のトップ10逃しがこの順位というのはなかなか厳しいものがあります。先週の予想でトップ10あるかも、と言ったのはさすがにこのブランクを買いかぶり過ぎだったようです。
とはいえ、彼らのブレイク直前のプロモーション来日時のライブを渋谷の今はなきオンエアイーストで観た人間としては、彼らがこうやって健在でチャートに復帰してくれるのは嬉しいもの。あのロブ・トーマスをはじめ変わらぬメンバーで、マッチボックス節を相変わらず聴かせてくれてちょっとホッコリしてます。サウンド的にも大きく変化はしておらず、ロブとギターのドーセットの共作による「Wild Dogs (Running In A Slow Dream)」や「Rebels」なんてむしろ3作目辺りの尖った感じよりは何となく円熟味を増してよりマッチボックスらしさを増してる感じも。一曲気になった曲は、ドーセットとあのディアナ・カーター(1996年の「Did I Shave My Legs For This?」覚えてますか?)共作で、ジェイソン・イズベルの奥さん、アマンダ・シャイアをフィーチャーした「No Other Love」。この布陣だとカントリー・ポップっぽいのかな、と聴いて見るとさにあらず、マッチボックス節前回の力強いポップ・ロック・ナンバー。ちょっとこのアルバム、しっかり聴き込んでみたいと思います。
そして今週100位までの初登場の最後は92位初登場、ここのところグルポ・フォンテラやエスラボン・アルマドなど、Hot 100の上位にどんどんクロスオーバー・ヒットしてきてるリージョナル・メキシカン系のアーティストの一人でグアダラハラ出身のメキシカン・レガトン・ラッパー、イング・ルーカス(Yng Lvcas、読み方に自信ないので、正しい読み方ご存知の方教えて下さいw)の7曲入りデビューEP『Six Jewels 23』。イングはあのエスラボン・アルマドの大ヒット「Ella Baila Sola」(今年Hot 100最高位4位)でフィーチャーされてたペソ・プルーマとのコラボヒット「Le Bebe」(同じく今年最高位11位)で一躍その名前が売れてきた若干23歳のレガトン・ラッパーです。
エスラボン・アルマドやグルポ・フォンテラらがやってる音楽スタイルはコリドと呼ばれていて、社会的な主題についての物語をバラード調で叙情的に歌うメキシコ風カントリーというかムード歌謡というかそんなスタイルで「Ella Baila Sola」は正にそんな感じなんですが、上記の「Le Bebe」はイングが入ってることによって一気にレガトンに寄ったスタイルになってるんですよね。ビルボード誌のインタビューでイングは「今やみんなコリドやってて、同じことやっても絶対目立たないから、俺はレガトンやるんだ。『Le Bebe』が受けたから絶対これはいけると思う」と、一応戦略持ってやってる模様。7曲しか入ってないし、ストリーミングだけだと思うからそれでも92位に入ってくるということは1曲あたりかなりの数のストリーミングを集めてるんでしょうね。リージョナル・メキシカンへの興味集中に留まらないラテン・パワーを感じます。
さて新旧取り混ぜて登場してる今週のチャートですが、トップ10を改めて見ると、モーガン野郎の2枚を筆頭にルーク・コムス、ザック・ブライアン、ベイリー・ジマーマンと10枚中5枚がカントリー系男性アーティストの作品で占められてます。ビルボード誌によるとこれは2013年10月5日付のトップ10が、ジャスティン・ムーア『Off The Beaten Path』(2位)、クリス・ヤング『A.M.』(3位)、ルーク・ブライアン『Crash My Party』(6位)、キース・アーバン『Fuse』(8位)そしてビリー・カリントン『We Are Tonight』(10位)の5枚で埋められて以来10年ぶりのできごとだそうです。そんな時代あったんだなあ、って感じ。最近カントリーがメインストリームからやや外れてきた感がありましたが、ここに来てカントリーのメインストリーム化が復活するんでしょうか。それにしても女性カントリー・アーティストの躍進が最近少ないのが結構気にはなりますね。あ、ちなみにテイラーはカントリー扱いじゃないです、念のため。ということで今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (3) (32) Midnights ▲2 - Taylor Swift <282,000pt/196,000枚>
2 (1) (13) One Thing At A Time - Morgan Wallen <126,000 pt/5,372枚*>
*3 (-) (1) Almost Healed - Lil Durk <125,000 pt/2,000枚>
4 (2) (25) SOS ▲2 - SZA <55,000 pt/8,731枚*>
*5 (4) (125) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <48,000 pt/977枚*>
6 (6) (197) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,000 pt/6,005枚*>
7 (8) (10) Gettin’ Old - Luke Combs <33,000 pt/1,946枚*>
8 (9) (56) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <33,000- pt/355枚*>
9 (10) (54) American Heartbreak - Zach Bryan <31,000 pt/1,586枚*>
10 (11) (3) Religiously. The Album - Bailey Zimmerman <30,000 pt/1,064枚*>
トップ10半分がむさいカントリー男子だった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。では最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:6/2~8)。上で来週もテイラーが今週の余波でモーガン野郎を押さえて首位キープするのでは、と言いましたが、今週は最新作も快調だったメトロ・ブーミンのスパイダーマンアニメ映画のサントラ盤が出たのを忘れてました。これはガーンと15万ポイントくらいは叩き出して1位来るでしょうね。あとトップ10来そうなのはメタルのアヴェンジド・セヴンフォールド、フジロックで来日間近のフー・ファイターズ、そしてKポップのストレイ・キッズあたりでしょうか。ではまた来週。