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今週の全米アルバムチャート事情 #105- 2021/11/13付

先週末に、アメリカはヒューストンで極めて残念な事件が起きてしまいました。2010年代を代表するヒップホップの重要人物、トラヴィス・スコットが主宰するアストロワールドのイベントで、観客が殺到したのを止められず、8人の方が亡くなり、多数の重傷者が出るという事態に。トラヴィスを始め主催者側はいち早く遺族のご家族への深い追悼の意と地元警察やコミュニティと協力してまだ通常に戻ってない現地状況の回復に務める、と発表していますが、既に10件以上の訴訟が提起されているというグシャグシャの状況。遺族の方々にはお悔やみ申し上げるしかないし、重症でまだ意識不明の方も多数おられるのでその方々の一刻も早い回復を祈るしかないのですが、騒ぎが起きた時にすぐにライブを中断しなかったトラヴィスへの非難がネット上でも集中しているみたい。ライブの運営の問題もあるかもしれないけど、コロナが落ち着いてやっとライブ産業が復活への道を歩みだしたところにこの事件はかなりマズいですね。状況の進展を見守るしかないのですが、とにかく一人でも多くの人が無事に助かるよう祈ってます

そんな暗い状況からスタートした今週も気を取り直してこの「全米アルバムチャート事情!」お送りします。残念ながら先週は仕事でテンパってしまって、いつものポッドキャスト配信をお休みせざるを得ない状況に。今週は何とか週末までに配信できましたので、上記リンクからSpotifyでお楽しみください。

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さて今週のBillboard 200全米アルバムチャートの1位は、久しぶりにポイントも10万ポイントを上回り、自分の予想も順当に当たるという、こちらの方は明るい状況。その1位を獲得したのは、当然のごとくエド・シーランの『=(Equals)』でした。ポイント数は118,000ポイントで実売68,000枚はモーガン・ウォレンの初週売上74,000枚に次ぐ今年2番目の記録で、軽く今週のアルバム・セールス・チャート堂々の1位。当然ながらUKでも今週元ザ・ヴァーヴリチャード・アシュクロフトのアルバムを押さえて堂々1位を記録してます。

先行シングルの「Bad Habits」や現在ヒット中の「Shivers」の両方が現在Hot 100のトップ10入りしてるという強力な状況もさることながら、今回この2曲も含めて楽曲のクオリティもこれまでの作品に引けを取らない高さですね。中でも初期エルトン・ジョンを彷彿させるようなトルバドゥールっぽい「The Joker And The Queen」や、ナッシュヴィルにおけるここ数年の重要ソングライターであるナタリー・ヘンビーとの共作曲「Love In Slow Motion」といった、抑えめのミディアムからスロウなナンバーに個人的にはグッと来ました。「Thinking Out Loud」のように感動するんだけどベタな感じの曲は今回入っておらず、こうした初期エルトンや昔のビリー・ジョエルを思わせるようなナンバーがいくつか入ってるのがいいなあ、と思いましたね。彼にとってはちょっとした原点回帰のアルバムなのかもしれません。

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そして今週のトップ10のもう一つの初登場は、5位に飛び込んできた、ミーガン・ザ・スタリオンの『Something For Thee Hotties: From Thee Archives』(36,000ポイント?、実売3,918枚)。今回は彼女が過去にYouTubeなどで発表したフリースタイルや、未発表曲などを収録したコンピアルバムで、現在ヒット中のシングル「Thot Shit」(最高位16位、残念ながら先週限りでHot 100からは落ちてます)も収録されてる、まあ次のアルバムまでのつなぎのリリースっぽい感じ。

それでも今年1月の第63回グラミー賞で、最優秀新人賞をはじめ、ラップ部門複数受賞の実績に乗って人気をがっちりものにしたミーガンの勢いを感じる今回のチャートアクションですね。ただ彼女も次の作品をどうするか、というのは正に今いろいろ考えてるところでしょう。次作でもこの「Thot Shit」みたいな路線で引き続きこの人気を持続できるのか、正念場かもしれません。あ、ちなみに「Thot Shit」のPV、ちょっと過激すぎるので良い子の皆さんは見ないようにねw

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さて続いて、トップ10圏外、100位までの初登場、今週は5枚です。順番に行きましょう。まず13位初登場、このシリーズも毎回人気ありますねえ、グレイトフル・デッドのライブ音源コレクターで有名なデイヴィッド・レミユーさんの過去ライブ音源シリーズの40作目、『Dave’s Picks, Vol. 40: Deer Creek Music Center, Noblesville, IN 7/18/90 & 7/19/90』。こちら実売が23,000枚とエド・シーランに続く今週アルバム・セールス2位という力強い売上に支えられてこの順位に初登場。今年7月に出た前回のVol. 39も16位初登場でしたから、まあデッドの固定ファンの数がこれくらいいる、ってことなんでしょうね。次のVol.41のリリースも既に来年1月に決まってるようです。今回はインディアナ州ノーブルズヴィルのディア・クリーク・ミュージック・センターでのライブ音源。

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続いて20位に登場したのは、ブレーヴス優勝に沸くアトランタの4人組ベテランヘビメタバンド、マストドンの8作目『Hushed And Grim』。前3作はいずれもトップ10入りしてましたから今回はやや弱めではあるものの、この順位に付けてくるのはやはり根強い人気を確保しているということでしょう。

人気だけではなくてこのバンドはメディアの評価も安定して高く、今回のアルバムもメタクリティックで83点という高得点をもらってますね。こういうストレートなハードロック系に冷たいピッチフォーク以外からの評価は概ね高いようです。全体様式美的ながら叙情的に流れない、プログレ・メタル系のサウンドで統一されてるので、メタリカのファンも被ってるんでしょう。

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一方22位に初登場しているのは、UKでは前作『A Deeper Understanding』の3位(2017、全米では10位)に続いて今回6位と、2作目のトップ10入りを果たしている、アダム・グランドゥシエル君率いるフィラデルフィアのインディ・ロック・バンド、ザ・ウォー・オン・ドラッグスの5作目『I Don’t Live Here Anymore』。

自分は彼らのブレイクアルバムとなった3作目『Lost In The Dream』(2014年26位、UK18位)が当時の内外のロック・メディアで高い評価を受けていたのを見て聴いてみよう、と思ったのが彼らに触れるきっかけ。ティアーズ・フォー・フィアーズチャイナ・クライシスといった80年代UKロックっぽい音像にアメリカーナっぽい雰囲気が漂うその作風にハマってそれ以来新作出るたびにチェックしてます。同じような路線の前作『A Deeper Understanding』もメディアの評価高く、第60回グラミー賞では最優秀ロック・アルバム部門を受賞してます。4年ぶりになる今回も、メタクリティックで85点取ってるのを筆頭に軒並みメディアが絶賛。ちょっと聴いた感じでは、前2作で印象的にフィーチャーされていたシンセビートが曲によってはやや抑えめになっていて、生楽器の音が多めに聞こえてくるような気がしますが、相変わらずちょっと懐かしさを感じさせるインディ・ロック、って感じで聴いててなかなか快感。今年の自分の年間アルバムランキングに入れるかどうか悩むかもしれないなと思ってます。

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ちょっと下がって43位には、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)が2011年に発表した初のミックステープ『Live.Love.A$AP』が全てのストリーミング・プラットフォームに今回再リリースされて、チャートに初登場。2010年代のヒップホップアルバムでは多分10指に入ると個人的に思っている衝撃のデビューアルバム『Long.Live.A$AP』(2013) の1位から2作目『At.Long.Last.A$AP』(2015) も1位、3作目『Testing』(2018) が4位と絶好調のエイサップですが、そのブレイク前のリリースで、しかも当時メディアで高く評価された作品とのことなので、もう少し上に来てもおかしくなかったと思いますが、これも次のフルアルバムのつなぎ的な位置付けでしょうか。

DMX亡き後、ナズバスタらベテランは別として、今や数少なくなってしまったNYラップ・シーンの中心的プレイヤーとしてもっと頑張って欲しいところなので、そろそろ気合いの入った新作を期待したいところですね。

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さて今週最後の圏外初登場は76位、ビッグ・ショーンと人気ヒップホップ・プロデューサーのヒット・ボーイことチョーンシー・アレクサンダー・ホリスJr.がコラボしてリリースしたEP『What You Expect』が初登場。ヒット・ボーイというと、カニエGOODミュージック所属のプロデューサーとしてキャリアをスタート後、ケンドリック・ラマーの『Good Kid, m.A.A.d City』(2014) やトラヴィス・スコットの「Sicko Mode」(2019年1位)などラッパー達との仕事だけでなく、ビヨンセの『Beyoncé』(2015)や『Lemonade』(2017)でも数曲プロデュースするなど、R&B・ヒップホップシーンで幅広く活動してます。

この2人はビッグ・ショーンの今のところの最新フルアルバム『Detroit 2』(2020年BB200 1位)で一緒に仕事しており、その流れで今回のEPの企画が生まれたのかな、という感じ。リリースに先立ってシングル「What A Life」(ちなみにPVの最初にでっかく日本語で「なんて人生だ」とテロップが出ますw)がリリースされてますが、このコラボ、ワンタイムなのか今後も続編があるのかは不明です。

ということでいつものようにここらでトップ10のおさらいを。なお、今週このブログのソースになっているビルボード誌の記事にはいつもトップ10アルバムは全て実売枚数が記載されてるのですが、なぜか今週は1位のエド・シーランの実売枚数しか載ってないんですミーガンに至っては総ポイント数すら記載なし。こんなこと初めてです)。おかしいなあ、と思っていたら、某所から上位アルバムの正確な実売枚数のデータをゲットして、その数字を見てちょっと驚いたので、下記のリストに併記してみました(エド・シーランの数字のみビルボード誌より)。いかにチャートが実売よりも、ストリーミングに遙かに大きく左右されているかが良く判ります(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数(ビルボード誌より)/アルバム実売枚数>)。

*1 (-) (1) = (Equals) - Ed Sheeran <118,000 pt/68,000枚>
2 (1) (9) Certified Lover Boy - Drake <67,000 pt/586枚>
3 (2) (43) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen <42,000 pt/1,437枚>
4 (3) (19) Planet Her - Doja Cat <40,000 pt/343枚>
*5 (-) (1) Something For Thee Hotties: From Thee Archives - Megan Thee Stallion <36,000 pt?/3,918枚>
6 (5) (24) Sour ▲ - Olivia Rodrigo <35,000 pt/5,681枚>
7 (4) (6) Sincerely, Kentrell - YoungBoy Never Broke Again <34,000 pt/664枚>
8 (9) (7) Montero - Lil Nas X <30,000 pt/305枚>
9 (11) (67) F*ck Love ▲ - The Kid LAROI <28,000 pt/85枚>
10 (6) (28) A Gangsta’s Pain ● - Moneybagg Yo <27,000 pt/387枚>

どうでしょうか。いや、ザ・キッドLAROIの85枚とか、リル・ナズやドジャ・キャットの300枚台とかなかなか驚愕ものですね。この実態を見ると、ビルボード誌には早急にストリーミングの比重をかなり下げて、消費の実態がもう少しリーズナブルに反映されるようにしてもらいたいものです。これではチャートの信頼性というものに?マークが付きますよねえ。この実売枚数、来週もデータが入ったら掲載することにしますのでお楽しみに。

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ということで今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にアルバム実売枚数の実態なんかも加えて、より実態がよく判ったのではないかと。では最後は恒例の来週1位予想です。来週の対象期間は、11/5-11、UKでは早くもABBAの超久しぶりの新譜の1位予想が伝えられていますが、USではどうでしょうか。トップ10は固いと思いますが、1位ということになると、やはり10万ポイント水準が必要。エド・シーランのポイントが2割以内の落ち幅なら、エドが2週目の1位かな。もっと落とすようだと、ABBAにもチャンスがあるかもしれません。それ以外のトップ10の可能性があるのは、2チェインズの過去のミックステープの再発(これ、最近のヒップホップ系のトレンドですね)、レディへの『Kid A』と『Amnesia』の合体リイシュー、そしてサマー・ウォーカーの新譜くらいでしょうか。ではまた来週。

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