今週の全米アルバムチャート事情 #253- 2024/9/14付
テイラーがカマラ・ハリス副大統領支持表明しましたね。これは間違いなく若年浮動票の動向に大きなインパクトを与えると思うので、これまではハリスやや優位くらいだったのが、大きい山が動く可能性があります。米大統領選、興味を持って注視を続けたいですね。一方、今週も着実に数字を積み重ねて47/48まで来ている大谷翔平選手の動向もさることながら、個人的にそれよりも最近盛り上がってるのは、先週末にあわや10連勝か!という破竹の勢いで快進撃中のNYメッツの動向。残念ながら今週に入って久しぶりに黒星が付いたけど、一時はポストシーズンなんて夢のまた夢だったのが、ナショナルリーグ・ワイルドカードの3チーム目をブレーブスとガチで争うまで戻してきてるんです。チームを引っ張るのはキャプテンで、将来殿堂入り可能性大の名ショート、フランシスコ・リンドー。HRもアロンゾに次ぐ30本でチーム2位で、打率・打点・特典・OPS・ヒット数でチームトップで文字通り獅子奮迅の活躍。ワイルドカードを決めれば2022年以来、もし地区優勝を決めれば2015年以来となるだけに、30年来のメッツファンとしてはあまり期待せずに(笑)ひそかに応援する毎日です。
さて今週の全米アルバムチャート、9月14日付のBillboard 200ですが、今週もサブリナ・カーペンターの『Short N’ Sweet』がポイントを約半減しながらも159,000ポイント(うち実売28,000枚)とほぼ先週予想した通りのポイント推移でしっかり2週目の首位をキープしています。先週の30万ポイント超えもこれまでトップ10実績のなかったアーティストの初週出力としてはかなり凄かったんですが、この2週目出力が15万ポイント超えというのも相当なもので、今年2週目で15万ポイント以上を叩き出していたのは、テイラーの『The Tortured Poets Department』(439,000ポイント)だけなのでサブリナのこのアルバム、早くも今年を代表する大ヒットアルバムの仲間入りを果たしたと言えそうです。
そんな今年を代表する大ヒットアルバムになっているこの『Short N’ Sweet』ですがリリースが8/23なので、来年2月授賞式の第67回グラミー賞の対象にもギリ間に合ってるから(今回のグラミー賞対象作品は、2023/9/15〜2024/8/31リリース作品)、ひょっとすると最優秀アルバム部門で、テイラーやビヨンセ、ザック・ブライアン(ノミネートされるかなあ…)らとバトルするかもしれません。ある意味今年一気にブレイクして、チャペル・ローンと並んで今年を象徴するポップ・スターだけに、来年のグラミー賞でも結構いろいろ受賞しそうな気がしますね。
今週の初登場一番人気はというと、7位に47,000ポイント(うち実売38,000枚)で飛び込んできた、Kポップ5人組ガール・グループのル・セラフィム(Le Sserafim)の4枚めのEP『Crazy』。今回はわずか5曲入のEPで通算3枚目のトップ10入りを果たしてます。これまた、Geniusのニューリリース・スケジュールに載ってないので見落としてました。
TWICE同様、日本人メンバーが2人いるこのル・セラフィム、前作と同様オープニング・ナンバー「Chasing Lightning」はエレクトロなEDM風ビートに乗って、韓国語、英語、日本語のモノローグが次々に交互に聞こえてくるという、今回も何やらサントラ盤のような仕様。メンバーのホ・ユンジンと宮脇咲良(サクラ)もソングライティングに参加してることになってるタイトルナンバー「Crazy」も同様のEDM系のハウスっぽいビートのナンバー(デヴィッド・ゲッタやピンクパンサレスのリミックスも存在するらしい)と、今回は前作のEPがちょっとロックっぽかったところから結構軸足を動かしてきてるみたいです。唯一ロックっぽいのは売れっ子ソングライターのブラッドポップとオマール・フェディが共作している「1-800-Hot-N-Fun」くらい。果たしてこの方針転換が今後の彼女たちのパフォーマンスにどう影響しますか。
もう1枚のトップ10内初登場は、10位に37,500ポイント(うち実売19,000枚)でチャートインしてきた、アトランタの若手ラッパー、デストロイ・ロンリーのセカンド・アルバム『Love Lasts Forever』。3枚目のチャートインにして、初のトップ10入りを今回果たしてます。前作のファースト『If Looks Could Kill』(2023)が18位でしたから、この人も今回躍進組の一人。ただこのオジサン的には何でこの人がこんなに人気があるのかよく判ってません(笑)。
前作の時も書いたけど、まあラッパーとしてのスキルは並以上かな、とは思うものの、ところどころにオートチューンを使って、トラップやってるだけのように聞こえてしまうんですよね。トラックについても、悪くはないけど、特に出来がいいようにも思えず。というか今更こういうド正面のトラップやってどうするの?というのが自分の反応だし、それを喜んで聞いてアルバムトップ10に入れてくれるようなファン層がいるのって、今や世界中USしかないんじゃないかしら。まあUKにしても突然飛び出したオアシス再結成にいきなり反応して『Definitely Maybe』がいきなりアルバムチャート首位復活、トップ10に3枚アルバムがチャートインするという状況もいかがなものか、とは思いますけどね。あ、失礼、デストロイ・ロンリーの話でした。
一方、今週の11位以下100位までの圏外初登場は先週と同じ4枚。トップエントリーは、先週トップ10来るかも、と言っていたビッグ・ショーンの6枚目『Better Me Than You』。コロナ前の前作『Detroit 2』(2020)までは3作連続全米ナンバーワンと人気絶頂だったこの人も、わずか4年でトップ10すら掠らないレベルに出力ダウンしてしまいました。前作まではカニエのGOODミュージックに所属してましたが、カニエと利益分配でもめたらしく、GOODミュージックを離れて最初のアルバムになりました。取り分の少なかったナンバーワン・アルバムと、取り分の多くなった25位のアルバムとどっちが彼に取ってプラスだったかは不明です。
今回久々の新作であり、新たな出発ということもあってか、なかなかゲスト陣も豪華ですね。R&Bのチャーリー・ウィルソンやテイアナ・テイラー(あれ?彼女カニエつながりだったはずだけど)にジ・インターネットのシドにブライソン・ティラー、ヒップホップ勢もコダック・ブラック、ガンナにラリー・ジューンなんて渋いチョイスも。サンダーキャットやDJプレミア、アルケミストなんてところまで引っ張り出してます。その割には全体の印象があまり散漫になってなくて、ビッグ・ショーン自身の存在感もしっかり感じられる出来になってるのは、満を持しただけあるな、という印象。全体的にシンガーとしてよりはラッパー・ビッグ・ショーンに軸足置いててそれが結構ハマってる感じです。個人的なベストカットは、チャーリー叔父さんをフィーチャーしてショーンのラップが思いの外グルーヴ満点な「Break The Cycle」、サンダーキャットらしいジャズ・ファンク・グルーヴが気だるくていい感じの「Black Void」、プリモらしいオールド・スクール・ヒップホップでドリーミーなトラックに乗って、ショーン、テイアナ、そしてラリー・ジューンが入れ替わり立ち替わり絡んでくるこちらもグルーヴ満点な「Million Pieces」かな。夏の終わりにまったり聴くにはいいアルバムです。
そっからぐーっと下がって66位にチャートインしてきたのは、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ、5年ぶりの新作、18作目になる『Wild God』。コロナ前に愛息アーサーを失ったことに突き動かされて作られた前作『Ghosteen』(2019年108位)が、その年の音楽各誌の年間アルバムランキングの上位に軒並みランクされるほど評価が高かったですが、基本エレクトロなサウンドの『Ghosteen』に比べて、今回はバッド・シーズのフル参加でバンドサウンドを基本にしたよりオーガニックなサウンドになっていて、今回もまたメディアの評価は高いようです(メタクリティック89点)。UKアルバムチャートでも今週初登場5位。
ゴスペルちっくなコーラスが全体のカタルシスを盛り上げるタイトルナンバーや「Frogs」、バッド・シーズのメンバーのアニタのモノローグのバックに静かなピアノベースのロック・トラックが荘厳ながら人生の喜びを表現しているような「O Wow O Wow (How Wonderful She Is)」など、古くからのニック・ケイヴならではのスタイルでの深みのある楽曲が素晴らしいですね。このアルバムも今年の各誌の年間ランキングを賑わすんだろうな。しっかり聴き込んで、長く付き合いたい、そんなアルバム。
さて今週で最もよく判らないのが、71位にチャートインしてきた『Epic: The Wisdom Saga (EP)』。チャート上はアーティスト名義が「オフィシャル・コンセプト・アルバム」となっていますが、調べてみるとこのEP、プエルトリコ出身のホルヘ・ミゲル・リヴェラ・ヘランズというアーティストによる作品みたいで、どうも彼がホメロスの『オデッセイ』を題材にして、ビデオゲームやアニメにインスピレーションを得たストリーで組み立てた『Epic』というミュージカルのうち、構成している9つのサーガの一つ、『ザ・ウィズダム・サーガ』の楽曲集、ということのようです。(判りましたか?)
聴いてみると、確かにホルヘらしい男性のボーカルを中心に複数の女性ボーカルが絡み合いながら、ミュージカル風のコール&レスポンスな歌唱の楽曲が5曲。他の8つのサーガのEPもリリースされているのか、なぜこのEPだけが今回チャートインしているのか、謎は深まるばかりですが、このミュージカル自体の配信はTikTok(41万人の登録者がいるらしいです)を中心に行ってるらしいので、TikTokユーザーには既によく知られた作品とアーティストなのかも。是非ご存知の方いらっしゃったら、追加の情報提供いただけると助かります。しかしまあ今日びはSNSの影響でいろんなものがチャートインしてくるなあ。
今週最後の初登場は89位に入ってきた、ノア・カーンのライブ盤『Noah Kahan (Live From Fenway Park)』。今年の7月にMLBファンならよくご存知、ボストン・レッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パークで2日に亘って開催されたノア・カーンのソールド・アウト・ライブの様子を収めてます。聴いてみると、会場の大きさもあって(収容可能な37,700人分のチケットがほぼ完売だったようです)、観客がほとんどの曲で歓声を上げながらシンガロングしている様子がかなりの迫力で、この数年でノア・カーンというアーティストが(特に東海岸で)いかにビッグになったかを如実に感じさせるライブ盤になってます。
収録されてるのは新曲の「Pain Is Cold Water」の他、彼の大ブレイク・アルバム、『Stick Season』からの曲を中心に全18曲。グレイシー・エイブラムスをフィーチャーしたバージョンがヒットした「Everywhere, Everything」では実際にグレイシーが登場してノアとデュエット、観客が大喜びするという会場の一体感が、聴いていても高揚感を感じさせますね。うーんこういうライブ聴かされると、来年くらいフジロックのグリーンで観てみたいなあ、という思いがつのるな。SMASHさんお願いしますよ。
ということで今週の100位までの初登場は計6枚でした。そして今週もHot 100の首位はシャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」、これでもう9週1位ですぜ大将。一体この曲いつまで首位を続ける気でしょう。今一番勢いのあるサブリナでも蹴落とせないとなるとあと何週かまだ首位を続けそうな気がして来ました。先週発表されたCMA(カントリー・ミュージック・アカデミー)アウォードのノミネートでも、シングル・オブ・ジ・イヤーにモーガン野郎とポスティの「I Had Some Help」やクリス・ステイプルトンの「White Horse」と並んで堂々ノミネートされてます。この曲でCMAの年間最優秀シングル取ったら結構スゴいことかも。一方今週首位取れなかったサブリナは今週もトップ10に3曲チャートイン、ただ今週は「Espresso」が3位に上昇して、「Please Please Please」は4位に、先週2位初登場の「Taste」は5位にダウン。ちょっと首位の目は薄くなっちゃいましたね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (1) (2) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <159,000 pt/28,000枚>
2 (3) (3) F-1 Trillion - Post Malone <86,000 pt/9,000枚>
3 (4) (24) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <64,000 pt/13,000枚>
4 (5) (79) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <55,000 pt/895枚*>
5 (6) (20) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <54,000 pt/4,656枚*>
6 (7) (16) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<49,000 pt/6,298枚*>
*7 (-) (1) Crazy - LE SSERAFIM <47,000 pt/38,000枚>
8 (10) (93) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <40,000 pt>
*9 (9) (10) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <39,000 pt/366枚*>
*10 (-) (1) Love Lasts Forever - Destroy Lonely <37,500 pt/19,000枚>
サブリナ・カーペンターが余裕で2週目の首位を守った今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつもの来週の首位予想(チャート集計対象期間:9/6~12)ですが、ロックファンにはデヴィッド・ギルモアの新譜が話題ですが、100位内に初登場すればいい方では。カントリーのジョージ・ストレイトくらいはトップ10来るかもしれませんが、来週10万ポイントクラスを叩き出す新譜は見当たらず、消去法的にサブリナが10万ポイント切るくらいの出力で3週目首位を維持しそうな気がします。ではまた来週。