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【恒例新年企画#3】Boonzzyの第63回グラミー賞大予想#2〜ダンス、ロック&オルタナ部門

さてBoonzzyのグラミー賞大予想のパート2、引き続きダンス部門、そしてロック&オルタナ部門に行ってみます。まずはダンス部門。

6.最優秀ダンス・レコーディング部門

  On My Mind - Diplo & SIDEPIECE
✗ My High - Disclosure Featuring Aminé & Slowthai
  The Difference - Flume Featuring Toro y Moi
○ Both Of Us - Jayda G
◎ 10% - Kaytranada Featuring Kali Uchis(受賞)

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去年のこの部門はケミカルズスクリレックスという新旧の大御所がノミネートされて、ケミカルズピーター・ブラウンの「Dance With Me」使いの王道エレクトロ・ダンクラナンバー「Got To Keep On」で、横綱相撲で軽々と受賞してましたが、今年もベテラン3組と新し目の実力派が2組というバランスの取れたノミネーション。特にDJ二人組のサイドピースとコラボしてるディプロメジャー・レザーLSDシーアラブリンスとのユニット)、スクリレックスとのジャックÜなど自分名義以外でも様々なヒットを飛ばしてきた、もはやダンス・シーンの大御所だし、サム・スミスのブレイクの功労者でもあるUKのローレンス兄弟によるユニット、ディスクロージャーはメインストリーム・ポップとも親和性の高いエレクトロ・ビートでは定評あるし、オーストラリアのフルームはこの部門4年目のノミネートながら、中堅の実力派。それに対抗するのが、今年新人賞部門の規制緩和でシーンで評価ブレイク2年後にノミネートされたケイトラナダことルイス・ケヴィン・セレスティン。アンダーソン・パークゴールドリンクなど、今のR&B寄りのヒップホップ系アーティストを多くフィーチャーした、彼の2016年のブレイク作『99.9%』は自分もよく聴いてました。彼の立ち位置は70〜80年代R&Bのグルーヴを軸足にしたDJというかサウンド・プロデューサー。今回のノミネート作で、コロンビア系アメリカ人女性R&Bボーカリスト、カリ・ウチズをフィーチャーした「10%」もそんな感じでいい感じ。もうひとりのジェイダGは、スイスの大学で環境毒性学の博士課程を学びながらオフタイムに欧米のクラブでDJやってるという素敵な女性DJで、ノミネート作の「Both Of Us」も90年代UKハウス風ながらしっとりしたグルーヴが魅力的なトラック。

一方ベテラン勢はいつもよりもエレクトロにより過ぎな感じで今回聴いてピンと来なかったので、本命◎はケイトラナダ、対抗○はジェイダGにしました!いずれも90年代のUSはR&Bルネッサンス期でUKはハウスやアシッドジャズで盛り上がった時期に青春を送った人であれば気に入るサウンドだと思います。穴✗は一昨年フジロックでもライブを見たディスクロージャーに。

7.最優秀ダンス/エレクトリック・アルバム部門

✗ Kick I - Arca
  Planet’s Mad - Baauer
○ Energy - Disclosure
◎ Bubba - Kaytranada(受賞)

  Good Faith - Madeon

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毎年のグラミー賞受賞予想で苦労するトップ3部門というと「最優秀メタル・パフォーマンス部門」「最優秀ブルーグラス・アルバム部門」そしてこの「最優秀ダンス/エレクトリック・アルバム部門」。いずれも日頃からそうしたジャンルの作品をあまり積極的に聴いてないというのが大きいわけですが(うーんメタルの場合、それだけじゃない気がするがw)、上述したようにこの部門は去年は予想、簡単でした。もうケミカルズ見え見えだったし。で、今年の予想ですが、フランス人のDJ、マデオンはまあないだろうな、と言う以外はどれも音楽メディアでもいろんな意味で評判のいい作品なので、去年ほど予想が簡単ではありません。それでもその中で際立ってるのが、さっきの最優秀ダンス・レコーディング部門同様、最優秀新人賞部門にもノミネートのケイトラナダこのノミネーション傾向、いかにも取りそうですよねえ。ということで彼が本命◎。そして対抗○は、先ほどの部門にもノミネート、この部門では過去第56回(2014)、第58回(2016)と2回ノミネートのローレンス兄弟ディスクロージャーでしょうか。

問題は穴×。「Harlem Shake」(2013年初登場、5週1位)から全く音沙汰のなかった割には、結構シーンの評価の高いバウアーの『Planet's Mad』も気になるところですが、何と言っても無茶苦茶インパクトのあったのは、バルセロナ在住ヴェネズエラ人で、自らノン・バイナリー・ジェンダー(男でも女でもない第三の性)と公表しているアーカことアレハンドロ(ラ)・ゲルシの『Kick I』。まあこの作品が、性別不明のアーカがいろんな出で立ちで登場して狂気とアートとエレクトロでインダストリアルなビートで繰り出す超エキセントリックな世界観満載の問題作でして。この「Mequetrefe」のPV見てもらったらその凄さにぶっ飛びまっせ。ビョークともよくコラボしてるアーカは前作『Arca』(2017)が音楽メディアの2017年間ランキングの上位に軒並み入るという評価でブレイクしたんですが、今回でもしケイトラナダとかのトラディショナルな方向に選考が行かないとすると、このアーカが取る可能性もゼロではないな、という存在感を考えて穴×を付けておきます。

では、続いてロック部門です。

8.最優秀ロック・パフォーマンス部門

  Shameika - Fiona Apple(受賞)
◎ Not - Big Thief
✗ Kyoto - Phoebe Bridgers

  The Steps - HAIM
○ Stay High - Brittany Howard
  Daylight - Grace Potter

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さて今回ジャンル部門の中でも激戦区なのが、このロック部門。昨年はトランプ政権によるアメリカ国内分断が進む中で、アメリカ自身を見つめ直すようないかにもな内容のゲイリー・クラークJr.の「This Land」が、ソング部門と併せて受賞してました。ところが今年はノミニー5アーティストのうち、2つ(ハイムフィービー・ブリッジャーズ)は主要4部門ノミネート、それ以外のビッグ・シーフフィオナも2019〜2020年にかけて音楽メディアの評価が高かった作品からのカットということで、正直どれが取ってもおかしくない(グレイス・ポッターは個人的に取って欲しいけどこの中では多分一番弱いでしょうねえ)状況。そんな中で自分が本命◎を打ったのは、本来主要4部門、少なくとも新人賞部門にはノミネートされてしかるべきだった、一昨年大いに音楽メディアで評価の高かったビッグ・シーフの「Not」。何といっても2019年に『U.F.O.F.』(こちらは去年のグラミーで最優秀オルタナ・アルバム部門にノミネートされたが、ヴァンパイアの前に敗れた。だから今回新人賞部門ノミネート資格あったんだけどなー)と『Two Hands』といういずれも高い評価を集めたアルバムをリリースして、ロックシーンでは鉄板の存在感だったし、「Not」はオバマ元大統領の2019年の年間プレイリストにも入ったし。それよりも何よりも、今回彼らのノミネートがこことロック・ソング部門だけなので、ここくらいでは取ってほしいという思いもありまして。

片や対抗○は、この部門に去年から連続同じアルバム『Jaime』から2曲連続ノミネートされてる、アラバマ・シェイクスブリタニー・ハワードの「Stay High」かなあ、やっぱり。アラバマ・シェイクスってデビュー当時からとにかくグラミーに絶対気に入られてるって感じがすごくあるんで(この部門でも2016年第58回「Don't Wanna Fight」で受賞済)、今回わざわざ2年マタギのアルバムからノミネートされた時点でかなり強そうなんですよね。一時のU2みたいなそんなイメージ。そして穴✗はそれ以外の誰が取っても全然アリなんですが、ここはやはり個人的に押してる、フィービー・ブリッジャーズのお茶目な「Kyoto」に。

9.最優秀メタル・パフォーマンス部門

  Bum-Rush - Body Count(受賞)
○ Underneath - Code Orange
✗ The In-Between - In This Moment
◎ Bloodmoney - Poppy

  Executioner’s Tax (Swing Of The Axe) - Live - Power Trip

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さあ、いよいよ問題のメタル部門です(笑)。例年ノミネートされてるアーティストがよう判らん上に、どれを聴いてもよく似た感じのメタル楽曲なんで、問題なんですが、今年は全く違った意味で問題の部門。というのも、ノミネートされた5組のうち、3組(コード・オレンジ、イン・ディス・モーメント、ポッピー)が女性ボーカルという多分この部門史上初のダイバーシティ現象。しかも今回本命◎を付けたポッピーは女性ソロ・シンガーで、この部門で女性ソロアーティストのノミネートも史上初らしい。このポッピーの「Bloodmoney」って曲が凄くて、インダストリアル・ゴス・メタルみたいな楽曲を可愛らしい女の子(=ポッピー)が宇宙人みたいなコスプレで叫びまくりながら、PVでは次々に襲いかかる男どもをバールみたいなのでコテンパンにやっつけ、最後は十字架に乗って昇天するという「これ、何??」って感じにただただ圧倒。対抗○付けたコード・オレンジの曲も、ボーカルとギターのリバ・マイヤーズの出で立ちは普通なんだけど、こちらもバリバリのインダストリアル・ゴス・メタル系の楽曲でぶっ飛び。

穴×つけたイン・ディス・モーメントの曲のPVも凄い。ジャケそのままでボーカルのマリア・ブリンクは美形ながら自分の顔の周りをなで回す、おどろおどろしい何本もの赤い手の群れで異様な雰囲気を醸し出しながら、最後はゴスな加工ボーカルで絶叫するという...まあ、今年のメタル部門の女性パワーがもの凄くて、アイスT率いるボディ・カウントとか、70年代のヘビメタそのままって感じのパワートリップの曲なんて、てんで普通でへなちょこに聞こえてしまうんですから。いやあえらい時代になったもんだ

10.最優秀ロック・ソング部門(作者に与えられる賞)

○ Kyoto - Phoebe Bridgers (Phoebe Bridgers, Morgan Nagler & Marshall Vore)
  Lost In Yesterday - Tame Impala (Kevin Parker)
  Not - Big Thief (Adrianne Lenker)
× Shemeika - Fiona Apple (Fiona Apple)
◎ Stay High - Brittany Howard (Brittany Howard)(受賞)

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さて、気を取り直して(笑)ロック部門でもう一つの激戦部門の、ソング部門です。これがまた、ロック・パフォーマンス部門と4曲が全く一緒で、違うのはグレイス・ポッターの代わりに、自分の年間10位アルバム『The Slow Rush』がオルタナ・アルバム部門にノミネートされてるテイム・インパラLost In Yesterday」が入ってるだけ。この曲、正直あのアルバムではちょっと目立たない感じの曲なんで、まずテイム・インパラはないな、と思いましたが、他の4曲、これもまたどれが来てもおかしくないところ。で、考えたんですがやはりこの部門でも2年連続、アルバム『Jaime』からの曲がノミネートされてるブリタニー・ハワードが本命◎で来そうですね。何となくグラミー・アカデミーのしつこさを感じますから。そしてパフォーマンス部門の予想ではビッグ・シーフに華を持たせたんですが、ここは対抗○にはフィービー・ブリッジャーズの「Kyoto」を挙げました。この曲、あのインディ・フォーク然とした感じ(実は後半全く違う展開になるんですが)の『Punisher』というアルバムの中では、一曲だけ凄く明るいポップな感じでやや違和感あるんですが、シーンからの人気は高い曲なんですよね。

そして穴×はビッグ・シーフでもよかったんですが、一応フィオナの「Shameika」に。あのアルバムは個々の楽曲単位で評価されるというよりもアルバム全体として評価されてると思うので、こういう楽曲単位の部門ではちょっと違うかな、とは思うんですが、昨年一番の話題盤のフィオナが2部門連続無印というのもどうかな、と思いまして。

11.最優秀ロック・アルバム部門

  A Hero’s Death - Fontaines D.C.
○ Kiwanuka - Michael Kiwanuka
✗ Daylight - Grace Potter

  Sound & Fury - Sturgill Simpson
◎ The New Abnormal - The Strokes(受賞)

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最初この部門のノミネート作品を見て、自分の2020年間アルバム2位のグレイス・ポッターの『Daylight』が入ってるのを見て「うんうん、判ってる人は判ってるなあ!」と嬉しくなったもんですが、他のノミネート作品を見ると、スタージル・シンプソンが賛否両論の作品である以外は、どれもシーンでの評価が高く、かつグレイスのアルバムのようにオールド・スクールでないものばかりなので(オールド・スクール大好きですがw)「うーんこれは、グレイスは贔屓の引き倒しで印を打つにしても穴×かなあ」と思った次第。いかにも90年代以降のインディ・ロックの完成形、といった感じの切れ味鋭いギターロックのUKのフォンテインズD.C.、こちらもUKで今年のマーキュリー賞を取ってロックやR&Bといったジャンルを超越してる感じのグルーヴを並々と湛えたマイケル・キワヌカのアルバム、そして一聴して「おお、あのストロークスのいい感じが帰ってきたなあ」と思わせたストロークスのアルバム。いずれもシーンの評価も高く甲乙付けがたいのですが、去年フジロックにもブッキングされていたストロークスに本命◎、対抗○はマイケル・キワヌカにしました。個人的にはどちらのアルバムも評判いいのは知っていたのに充分聴き込めずに、自分の年間ランキングには入れられなかった、というやや後悔めいたものもありまして。

穴×のグレイス・ポッターのノミネートは確かにうれしいんですが、正直この部門にノミネートされるべき作品は他にもいろいろあったと思うんです。例えばキラーズの新譜もかなり良かったし、パラモアヘイリーのソロアルバムもかなり評判高かったしね。まあでも個人的にはグレイスがノミネートされてうれしいです(笑)。

12.最優秀オルタナティブ・アルバム部門

◎ Fetch The Bone Cutters - Fiona Apple(受賞)
  Hyperspace - Beck
○ Punisher - Phoebe Bridgers
  Jaime - Brittany Howard
✗ The Slow Rush - Tame Impala

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去年もそうそうたるアルバムが居並ぶ中、ボン・イヴェールヴァンパイアの一騎打ちだったこの部門(結果はヴァンパイアの勝ち)、今年はもう正直言ってノミネーション見た瞬間に「ああ、フィオナの受賞決まったな」と思いましたね。特にフィオナが主要部門の最優秀アルバム部門にノミネートされなかったから余計それが確信になりましたね。とにかくこのアルバム、リリースと同時にピッチフォーク誌が10点満点付けたのをはじめ、各音楽メディアは絶賛、各誌の年間アルバムランキングでもそのピッチフォーク誌ペイスト誌、コンシクエンス・オブ・サウンド誌、スラント誌などなどが年間1位に挙げるというユニバーサルな評価。これでこのアルバムが取らなかったらグラミー、権威も何もあったもんじゃないでしょうね。個人的には、独得なパーカッションの使い方やフィオナのエキセントリックな歌声で馴染むのに苦労したアルバムですが、その内容のレベルの高さと先進性については理解するところです。だから問答無用の本命◎。

そうなると後はどうでもいいって言ったら失礼ですが、レースは決まってるとしたらあとは好きに印を付けさせてもらいまっせ、と言うわけで自分の年間アルバム・ランキングに入った順番で(笑)対抗○がフィービーの『Punisher』(これも素晴らしいアルバムです)、穴×がこちらも去年のフジロックに来るはずだったテイム・インパラの『The Slow Rush』にさせてもらいますね。ちょっと気になってるのはブリタニー・ハワードの『Jaime』(ちなみにこのアルバム、邦題『ジェイミー』ってなってますが、これはスペイン系の男性の名前で「ハイミー」が正しいです)が来たりしないだろうな、という不安。まさかグラミーそんなアホなことしないよなあ。

ということで今回は一気に7部門の予想を発表。次回のパート3はR&B部門です。お楽しみに。

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