今週の全米アルバムチャート事情 #173- 2023/3/4付
早いもので2023年も2月が終わり。ここ数日朝晩は相変わらず冷え込んでいるものの、昼間は春の陽気を思わせる暖かい日が続いてますね。うちの庭の河津桜も今満開で、春はもう目の前という感じです。そろそろ卒業、入学、進学などの時期で活動ベースも上がってくる頃ですが、コロナも含めて体調には充分気を付けて春を迎えたいものですね。そして依然戦火のウクライナ、そして地震の被害に苦しんでいるトルコ・シリアの人々にも一日も平和な春が来ますように。
さてチャートの方も3月に入り、今週3月4日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、先週より7%ポイント減の87,000ポイント(うち実売500枚)とようやくポイント下降幅が大きくなり始めたものの、2位に初登場のピンクを1万ポイントの差でかわして今週も1位で通算10週1位に到達したSZAの『SOS』。これでこのアルバム、先週のこの記事でお届けした、2000年以降の女性シンガーによる長期1位ランキングでアデル『25』(2015-16)に並ぶ歴代4位タイと、一つ順位を上げました。
この感じですと、来週10%ポイント減したとしてもまだ78,000ポイント規模を維持することになるので、11週まではギリいけそうですね。先週ご紹介したランキングは「2000年以降の女性アーティスト」でしたが、Billboard 200史上(1956〜現在)の「アフリカ系アメリカ人女性アーティストの最長1位」ランキングも紹介しておきましょう。このランキングだと歴代5位タイ(ボディーガードのサントラ盤はやや微妙なのでそれを除くと歴代4位タイ)、その上にはホイットニーとマライアしかいません。
1.(20 weeks) The Bodyguard ▲18 - Whitney Houston / Soundtrack (1992/12/12-1993/3/6, 4/3, 4/17-5/1, 5/15-29)
2.(14 weeks) Whitney Houston ▲14 - Whitney Houston (1986/3/8-4/19, 5/17-6/28)
3.(11 weeks) Whitney ▲10 - Whitney Houston (1987/6/27-9/5)
3.(11 weeks) Mariah Carey ▲9 - Mariah Carey (1991/3/2-5/11)
5.(10 weeks) Forever Your Girl ▲7 - Paula Abdul (1990/2/3-3/31)
5.(10 weeks, so far) SOS ▲ - SZA (2022/12/24-2023/2/4, 2/18-3/4*)
7.(8 weeks) Music Box ▲10 - Mariah Carey (1993/12/25-1994/1/8, 1/22-2/5, 3/5-12)
8.(6 weeks) Bad Girls ▲2 - Donna Summer (1979/6/16, 7/7-8/4)
8.(6 weeks) janet. ▲4 - Janet Jackson (1993/6/5-7/10)
8.(6 weeks) Daydream ▲6 - Mariah Carey (1995/10/21-11/4, 12/30-1996/1/13)
そしてそのSZAに今一歩及ばなかったピンクの通算9作目になる新作『Trustfall』は、74,500ポイント(うち実売59,000枚)で初登場2位でした。こちらのアルバム、全英チャートではU2のボノの息子イライジャ率いるインヘイラーを抑えて、見事初登場1位を決めています。
昨年11月のアメリカン・ミュージック・アウォードでローラースケートで登場して初披露した、マックス・マーティンとシェルバックとの共作の先行シングル「Never Gonna Not Dance Again」に代表されるようなメインストリームなダンス・ポップ・ナンバー(ちょっとジャスティン・ティンバレイクの「Can’t Stop The Feeling!」に似た感じのキャッチーなナンバー)を中心に、いつものようにテディ・ガイガーやエド・シーランの「Thinking Out Loud」の共作者として有名なエイミー・ワッジなど、プロのソングライター陣と共作したクオリティ充分の楽曲満載のアルバム。前作ではカリードなどR&B系のアーティストとのコラボが多めでしたが、その前作で初めて共演したクリス・ステイプルトンを始め、ルミニアーズやスウェーデンの女性フォーク・デュオ、ファースト・エイド・キットら、アメリカーナやフォーク系のアーティスト達とのコラボが多く、冒頭のピアノ弾き語りの「When I Get There」や、ルミニアーズとの「Long Way To Go」など、アコースティックでしっとり目の楽曲もいつもの今時ポップ・ナンバーと好対照で、意外と聴き込むとお気に入りになりそうな感じがしてますね。
今週のトップ10内初登場はこのピンクのみ。一方、11位以下100位までの圏外には、今週4枚のアルバムが初登場しています。その一番人気は19位に初登場、ルイジアナ州シュリーヴポート出身のカントリー・シンガーソングライター、ジョーダン・デイヴィスのセカンドアルバムにして2枚目のチャートイン・アルバム『Bluebird Days』。2021年にルーク・ブライアンをフィーチャーしたシングル「Buy Dirt」がカントリー1位の(Hot 100では22位)最大のヒットとなり、その年のACMアウォードでソング・オブ・ジ・イヤーを受賞、シーンでの地位を確立した彼のその「Buy Dirt」と現在のヒット曲「What My World Spins Around」(カントリー8位、Hot 100 40位)を含むアルバムです。
ガッツリと伸ばした顎髭がトレードマークのジョーダンですが、ルーク・コムズなどのように伝統的カントリー・シンガー・スタイルというよりは、70年代のカントリー・ロック的なスタイルの、よりメインストリーム寄りの楽曲を多く書いて歌ってるヤツ。前作同様今回もプロデュースがもとボーイズ・ライク・ガールズのポール・ジョヴァンニだってのもそういうスタイルに影響しているかもしれません。今回も前作のデビューアルバム『Home State』(2018年47位)同様全曲自ら共作し、ヒット中の「What My World Spins Around」はマレン・モリスの旦那のライアン・ハードと共作してる他はナッシュヴィル・シーンのライター達と書いた気持ちのいい曲を聴かせてくれます。タイトルはおそらくナッシュヴィルの伝説のライブハウス、ブルーバード・カフェのことかなあ。
ちょっと下がって43位初登場は、メンフィス出身のラッパー、ビッグ・スカーの『The Secret Weapon』。2021年のミックステープ『Big Grim Reaper』が最高位25位となってチャート・ブレイク、昨年12月からは同じメンフィス出身のキー・グロックの来月3月からスタートするツアーに参加することになっていたビッグ・スカー(本名:アレクサンダー・ウッズ)ですが、そのアナウンスのあった12月に処方薬過剰摂取のために若干22歳で急逝。従ってこのファースト・フルアルバムが彼の遺作となってしまいました。
22歳にしてはドスの利いた声でどっしりした存在感のフロウを聴かせて、そこらのトラップ野郎とは一線を画したスタイルだけにその急逝が惜しまれます。しかしキー・グロック周辺って、師匠のヤング・ドルフといい、このビッグ・スカーといい最近訃報が続いてますね。ビッグ・スカーを見出したアトランタ・ラップ・シーンの大物、グッチ・メインもきっとがっかりしていることでしょう。冥福を祈ります。
続いて51位に入って来たのは2014年の大ヒット・ファースト・アルバム『Recess』以来9年ぶりの新作となった、スクリレックスの『Quest For Fire』。そして何と彼今回、このアルバムのリリース翌日にもう1枚のアルバム『Don’t Get Too Close』もリリースしてるんですよね。そして『Quest For Fire』の方に客演フィーチャーされているアーティスト達はどちらかというとEDMシーン以外ではあまり知られてないメンツなんですが、『Don’t Get Too Close』の方には今旬のピンクパンサレスとトリッピー・レッドをフィーチャーした「Way Back」(これが今ヒット中の「Boy’s A Liar」に負けないくらいキャッチーな曲)やキッド・カディとのコラボ曲、ジャスティン・ビーバーとドン・トリヴァーをフィーチャーした曲などどう見てもこっちの方が売れ線なんですが、チャートインしているのは一日先にリリースされてる『Quest For Fire』の方のみ。マーケティングとしては失敗だったんじゃないかしら。
唯一『Quest For Fire』の方の客演陣で目を引くのは、「RATATA」にフィーチャーされているミッシー・エリオット(大ヒット「Work It」のループが一瞬登場してます)くらい。曲も『Don’t Get Too Close』のよりメインストリームに寄せた感じのキャッチーな楽曲に比べると、インダストリアルでハードなビートを強調した曲が多いような感じのこのアルバム、久しぶりのアルバム・リリースでちょっと実験的なことをしたくなったということなのかもしれません。
今週最後の100位までの初登場は、58位に初登場してきたテイラー・スウィフトのライブ盤『Lover: Live From Paris』。このライブ盤、2019年の「Loverツアー」の一環でパリのオリンピア劇場で行った一夜限りのライブを収録したものですが、今回バレンタイン・デーに、テイラーの公式ウェブサイトのみで、しかもヴァイナルのみのリリースで発売されたアルバム。従ってアルバムとしての音源はストリーミングでは出回っていません(楽曲単位ではストリーミングで聴取可能)。バレンタイン・デーのリリースということで、ハート型のピンク・カラー・ヴァイナル仕様のこのアルバム、13,500枚を売って今週のヴァイナル・アルバム・チャートの1位を決めています。収録曲は「Me!」「Lover」「You Need To Calm Down」など、アルバム『Lover』収録の曲8曲。パリでのライブにもかかわらず、曲に合わせてオーディエンスが大合唱している、高揚感たっぷりの内容です。
そしてこのアルバムの初登場で、今週Billboard 200にテイラーのアルバムが10枚同時チャートイン。これは彼女にとっては初の快挙ですが、彼女以外にこの快挙を達成しているのはビートルズ(2010/1/9、2010/12/4、2014/3/1の3回)、ホイットニー(2012/3/10)、デヴィッド・ボウイ(2016/1/30)、プリンス(2016/5/14,21,28の3回)の4組のみ。しかも気付いた方も多いと思いますが、この4組のうち、ホイットニー、ボウイ、プリンスはそれぞれの急逝を受けて一斉にアルバムが再登場したということですし、ビートルズの記録も解散の遙か後のことであるばかりか、2009/12/5にBillboard 200が旧作アルバムのチャートインを認めたことによるものだったり、ビートルズの楽曲が2010/11/16に初めてデジタルダウンロードできるようになったことによるものだったりと、外的な理由によるもの。そうなると、純粋に現在活動しているアーティストが、自身のアーティスト・パワーのみでこの記録を達成したのは史上初ということになります。テイラーのパワーと人気の凄さを改めて実感するチャートインということになりますね。
今週の100位までの初登場は以上。これ以外に、今週15位にはKポップのエイティーズ(ATEEZ)が1/14付のチャートで7位に送り込んでいた『Spin Off: From The Witness (EP)』が再登場しています。理由は今回、従来のリリースに加えて、大手小売チェーンのターゲットでの限定リリースCD、という新たなCDバリエーションが追加になって実売で21,000枚を叩き出したから。なんせ今のKポップはCD出せば必ず売れますからねえ。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (1) (11) SOS ▲ - SZA <87,000 pt/500枚>
*2 (-) (1) Trustfall - Pink <74,500 pt/59,000枚>
3 (3) (18) Midnights ▲2 - Taylor Swift <54,000 pt/14,000枚>
*4 (6) (12) Heroes & Villains - Metro Boomin <47,000 pt/406枚*>
5 (4) (111) Dangerous: The Double Album ▲4 <44,000 pt/1,183枚*>
6 (5) (42) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <41,000 pt/676枚*>
7 (7) (16) Her Loss - Drake & 21 Savage <38,000 pt/95枚*>
8 (11) (40) American Heartbreak - Zach Bryan <28,000 pt/1,767枚*>
9 (8) (356) Anti ▲3 - Rihanna <27,000 pt/6,000枚>
10 (9) (40) Harry’s House ▲ - Harry Styles <27,000 pt/6,000枚>
ということで今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の1位予想ですが、来週のチャートの集計対象期間は2/24-3/2。ようやく今週くらいから新譜が続々とリリースされ始めてきているのですが、来週の1位ラインが75,000ポイントくらいだとすると、そこに迫ってくる可能性のあるのはゴリラズ久々の新作や、ヒップホップ勢のキー・グロックやロジック、ドン・トリヴァーくらいでしょうか。ロック系ではゴッドスマックの新作がトップ10入りしそうですね。ではまた来週。