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今週の全米アルバムチャート事情 #250- 2024/8/24付

いやあ、松山英樹選手やりましたね!PGAツアーチャンピオンシップ・プレイオフ・シリーズ第1戦セント・ジュード・チャンピオンシップ見事な優勝おめでとうございます!最終日の15番・16番以外4日間ほとんど首位を独走、最後はハラハラさせられましたが、最終2ホール連続バーディ・フィニッシュで見事な優勝でした。これでPGA10勝目、このままプレーオフを勝ち進んでスコッティ・シェフラー選手を破ってPGAの年間王者を勝ち取って欲しいものです。向こう3週間の松山選手のプレイから目が離せませんね!

"The Tortured Poets Department" by Taylor Swift

松山選手の優勝の興奮冷めやらない中、今週の全米アルバムチャート、8月24日付のBillboard 200は他に目に付く新譜もない中、ポイントを先週比40%減の85,000ポイント(うち実売28,000枚でこれも先週比67%減)に減らしながらもテイラーの『The Tortured Poets Department』がとうとう通算15週目の首位を達成してしまいました。これで女性ソロアーティストのナンバーワン・アルバムとしてはキャロル・キングの『つづれおり(Tapestry)』(1971)に並んで、歴代3位タイの長期首位アルバムとなっています。ここでその女性ソロアーティストによる最長ナンバーワンランキング(10週以上1位)を確認してみましょう((1位週数)、タイトル、アーティスト、1位の週の日付、*は継続中)。

1.(24週)21 ▲14 - Adele (2011/3/12-19, 4/2, 4/23, 5/7-6/4, 6/25, 8/6, 8/20, 10/29, 2012/1/14-3/17, 6/23)
2.(20週)The Bodyguard ▲18 - Whitney Houston / Soundtrack (1992/12/12-1993/3/6, 4/3, 4/17-5/1, 5/15-29))
3.(15週)Tapestry ▲14 - Carole King (1971/6/19-9/25)
3.(15週*)The Tortured Poets Department - Taylor Swift (2024/5/4-7/20, 8/10-24*)
5.(14週)Whitney Houston ▲14 - Whitney Houston (1986/3/8-4/19, 5/17-6/28)
6.(13週)Judy At Carnegie Hall ● - Judy Garland (1961/9/11-12/4)
7.(12週)Jagged Little Pill ▲17 - Alanis Morissette (1995/10/7-14, 1996/2/24, 3/16-30, 4/13-27, 8/24-9/7)
8.(11週)Whitney ▲10 - Whitney Houston (1987/6/27-9/5)
8.(11週)Mariah Carey ▲9 - Mariah Carey (1991/3/2-5/11)
8.(11週)Fearless ▲10 - Taylor Swift (2008/11/29, 12/27-2009/2/7, 2/28-3/14)
8.(11週)1989 ▲9 - Taylor Swift (2014/11/15-29, 12/13-20, 2015/1/3-24)
12.(10週)The Singing Nun ● - The Singing Nun (Soeur Sourire) (1963/12/7-1964/2/8)
12.(10週)Forever Your Girl ▲7 - Paula Abdul (1989/10/7 & 1990/2/3-3/31)
12.(10週)25 ▲11 - Adele (2015/12/12-2016/1/23, 2/13, 3/5-12)
12.(10週)SOS ▲3 - SZA (2022/12/24-2023/2/4, 2/18-3/4)

さすがに上位はそうそうたる顔ぶれで、何気にジュディ・ガーランドなんかが存在感を見せてるのがいい感じのランキングです。しかしここから先はアデルホイットニーのみ、しかもかなり先まで伸ばさないと彼女たちの領域には届かないことを思うと、改めてこの2人の稀代のボーカリストは別格だな、と思います。稀代のシンガーソングライター、キャロル・キングと肩を並べたとはいえ、失礼ながらテイラー、まだそこまでのレベルには行ってないと思うので。

"The Rise And Fall Of A Midwest Princess" by Chappell Roan

さて今週もトップ10は静かで先々週に続いて初登場はゼロですが、チャペル・ローンの『The Rise And Fall Of A Midwest Princess』、今週も着実にポイントを積み上げて72,000ポイント(先週比13%アップ)でとうとう先週の3位→2位に上昇、最高位を更新してます。今週でこのアルバム、チャートイン21週目ですが、初チャートインから20週以上かけてこんな風に上昇していって1位になったアルバムって、2005年3月5日に1週1位になったレイ・チャールズの『Genius Loves Company』の25週目1位以来だと思います

この時のレイ・チャールズのアルバムのチャートアクションが「2-3-4-6-7-11-13-5-8-7-15-15-24-23-22-17-14-19-13-25-29-35-24-15-1」と上がったり下がったりの結果最後にジャンプアップで1位となかなか美しいですが、最後の1位はこのアルバムがその年のグラミー賞の最優秀アルバムを受賞したのが理由なんで、今回のチャペルとはちょっとチャート上昇の要因が違うかも。ちなみに今回のチャペルのチャートアクションは、今年の4/13付チャートで127位で初登場以来「127-141-66-36-30-28-31-28-28-16-12-10-8-6-5-5-8-8-4-3-2」とほぼ上昇一直線という美しさ。来週は強力新譜があるので1位は無理ですが、既に7万ポイントを超えて商いの薄い週なら充分1位を取れるポイントまで来てますので、もう一息積み上げれば2〜3週後には夢の1位も大いにありです。注目しましょう。

"Sugar Honey Iced Tea" by Latto

一方今週の圏外11〜100位には初登場が5枚。一番人気は15位にチャートイン、前作の『777』(2022)と同じ自己キャリアタイですが、惜しくもトップ10を逃したアトランタ出身の女性ラッパー、ラットことアリッサ・ミシェル・スティーヴンスのサード・アルバム『Sugar Honey Iced Tea』。トム・トム・クラブGenius Of Love」という大ネタ使いの「Big Energy」が大ヒット(最高位3位)になってブレイク作となった前作が、21サヴェージ、リル・ウェイン、チャイルディッシュ・ガンビーノ、リル・ダーク、コダック・ブラックという錚々たる男性ラッパー陣を配していたのに対して今回は一転して、ミーガンカーディB、フロ・ミリらのラッパー勢+ココ・ジョーンズ、シアーラ、マライア・ザ・サイエンティストらのR&Bシンガー勢など、女性ゲストで埋め尽くした「ガールズ・アルバム」になってるのが印象的です。

ただ彼女自身がそういうことを意識して今回のアルバムを作ったということもなさそうで、アルバム全体はラットのやや抑えめながら存在感ある、いかにもサザンな感じのフロウのトラックが並んでる、という印象です。「Big Energy」の大ネタ使いの時はややハネた印象もあったんですが、ここでの彼女は地に足のついたパフォーマンスで、カーディBとの「Put It On Da Floor Again」も、ミーガンとの「Sunday Service」もしっかりタメでやってます。さすが元々ジャーメイン・デュプリのラップ・リアリティ・ショーの初代優勝者というだけあって、結構実力派なんですなあ。この間のアイス・スパイスよりはこっちの方が自分は好みかな。

"Hood Poet" by Polo G

そして先週うまく出力が出ればトップも狙えるか、と言ってたポロGの4作目『Hood Poet』は敢えなく28位初登場。前作『Hall Of Hame』(2021)が143,000ポイントを叩き出して全米ナンバーワンだったことを考えると、かなりの出力ダウン(多分2万ポイント台だと思います)でこの順位になってしまってます。本人はこのアルバムで引退、なんてことも言ってるそうですがこの結果だとなかなか有終の美、というわけにもいかないからどうなんでしょうか。

オープニングの壮大なオーケストレーション的サウンドの「God’s Favorite」や、何とDr.ルークと組んだエモでリリカルなトラップ・ポップ・ナンバー「Barely Holdin’ On」など、彼のメイングラウンドであるシカゴ・ドリル・ナンバーとは一線を画すようなトラックも散りばめられていろいろ工夫の跡も見られるアルバム構成にはなってますが、彼が目指すところはタイトル(フッド<ここらのシマ>の詩人)が示すようにストリート・リリシストなんでしょうから、必然的に王道ドリル・トラックが中心にはなってます。盟友Gハーボとの「No Recruits」やオフセットとの「G63(ベンツの型番)」、キッドLAROIをフィーチャーした「Rain Fallin」なんかは正にその線。その他にもフューチャー、リル・ダーク、今旬のグロリラなどゲスト陣は充実してるだけにこの順位ではなかなか引退できないんじゃないですかねえ。

"This Is How Tomorrow Moves" by beabadoobee

続いて34位にチャートインしてきたのは2020年にパウフーの「Death Bed (Coffee For Your Head)」(最高位23位)にフィーチャーされてブレイク、その後フェス出演を重ねて着実にファンベースを積み上げてきたフィリピン系イギリス人女性シンガーソングライター、ビーバドゥービーのサード・アルバム『This Is How Tomorrow Moves』。彼女、去年テイラーエラス・ツアーでも前半オープニング・アクトを務めてたので、それで更に露出が積み上がった面もあってか初の全米トップ40を達成。そしてそれどころかこのアルバム、彼女の本国UKでは何と今週初登場1位を決めてます。

Death Bed」ヒットの直後はドリーミー・ベッドルーム・ポップ的な文脈で語られることも多かったビーバドゥービーですが、確か数年前のコーチェラか何かで思いっきりニルヴァーナのカバーをぶちかましてたのを聴いて「ああこの子、ポップというよりはポスト・グランジなオルタナ・ロック系なんだなあ」と思ったのを覚えてます。今回のこのアルバムも全体的には90年代後半のオルタナ・ロック・バンドを思わせるような、それでいて女性らしくキャッチーなメロディも見え隠れする楽曲が並んでて、ロック好きのアンテナにしっかり引っかかりそうな内容。この週末盛り上がってたサマソニなんかでも盛り上がりそうな感じです。要チェック。

"Ultra 85" by Logic

その下、45位初登場はコロナが始まった頃引退宣言してたのは一体どうなったんだ、という感じでその後も何事もなかったかのようにアルバムをリリースし続けるラッパー/DJのロジック、9作目の『Ultra 85』。ジャケにレトロなロボットがあしらわれたこのアルバム、この秋に出版予定のロジックによるSF小説のサントラ盤扱いってことのようです。

確かにそう言われて聴くと、SEが入ったり、80年代UKっぽいチルなファンキー・ループがいい感じだったり(「Fear」)、トラックのスタイルがちょっとドラマ仕立てっぽいかなあ、という感じもなくはないけど、この人のいつものスタイル通り、そういうバラエティに富んだトラックに乗せて、ちょっとポップで軟弱なエミネム、といった感じのマシンガン・フロウで一気に駆け抜けていく内容。個人的にはさっき名前の出た「Fear」とか、同じ感じのモンドなグルーヴが気持ちいい、UKの女性シンガーソングライターのルーシー・ローズをフィーチャーした「Intersteller」とかが気持ちよかったかな。

"Doing It For Me" by Larry June

そしてラッパー多めの今週最後の初登場は、ぐーーっと下がって81位初登場、こちらもサンフランシスコ出身のラッパー、ラリー・ジューンの11作目『Doing It For Me』。これが彼の5作目(うち2作はコラボアルバム)のチャートイン・アルバムになります。キャリアハイは去年アルケミストとやったコラボ・アルバム『The Great Escape』の32位。11作目、というので判るように結構キャリアは長くて、2010年代からやってて現在33歳。ということもあって全体トラックにはちょっとクラシックな香りが漂うウェストコースト・ラップ・アルバムです。

アルバム冒頭いきなり70年代ブラックな雰囲気満点のトラック「From Uncle Herm, Pt. 5」から、70年代ブラック映画のサントラに入ってそうな「Magnum P.I.」、思いっきりレイドバックしたラリー・ジューンのフロウがまったりと絡みつく「Morning Calculations」と、クラシックなヒップホップ好きには結構喜ばれそうなトラックが並んでて、トラップとかドリルとかで殺伐としたラップを聴かされることの多い2020年代には珍しく新鮮な感じが良いですねえ。70年代アクション映画のサントラ風「Meet Me In Napa」とかもいい感じだし。ちょっとしばらくこのアルバム、聴き込んでみることにします。結構掘り出しものかも。

ということで今週の100位までの初登場は圏外のみ、5枚でした。Hot 100は今週も「何でこんなに強いの?」というシャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」がこれで通算6週目の1位。来週も1位をキープすると7週1位で今年最長のナンバーワンヒットになりますが、そこまでの存在感ない不思議なヒットですよね。それ以外では先週パリオリンピックの閉会式で演奏されたビリー・アイリッシュの「Birds Of A Feather」が先週7位→5位にアップ、注目のチャペル・ローンGood Luck, Babe!」は今週星★付ながら6位→7位に後退。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (17) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <85,000 pt/28,000枚>
*2 (3) (21) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <72,000 pt/13,719枚*>

3 (4) (76) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <63,000 pt/1,919枚*>
4 (5) (13) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<57,000 pt/9,017枚*>
5 (7) (7) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <48,000 pt/611枚*>
6 (6) (10) Brat - Charli XCX <47,000 pt/5,935枚*>
7 (9) (90) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <38,000+ pt/3,413枚*>
8 (8) (188) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <38,000 pt/455枚*>
9 (10) (4) Twisters: The Album - Soundtrack <34,000 pt/5,473枚*>
*10 (12) (51) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <34,000- pt/2,559枚*>

テイラーキャロル・キングと並ぶ15週目の1位を達成した今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想ですが(チャート集計対象期間:8/16~22)、来週はまず間違いなくポスト・マローンの話題のカントリー・アルバムがかなりの出力で首位を取るでしょう。既にシングルヒットも連発してますしね。ではまた来週。

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