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【恒例年末洋楽企画#2】Boonzzyの選ぶ2020年ベストアルバム: 15位〜11位

今日はいよいよニューイヤーズイヴイヴ。生憎の天気で大掃除のモティベーションも上がりませんが、ブログ執筆日和かも。ということでBoonzzyの選ぶ2020年ベストアルバム、15位いきます。

15. Pick Me Off The Floor - Norah Jones (Blue Note / Capitol)

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2020年の年間ベストアルバムを選ぶに当たっての大きなキーポイントの一つは「アーティストがどうコロナ禍による活動スタイル変更を余儀なくされたことにどう対処して作品を作ってるか」ということだと、この記事シリーズの冒頭で言いましたよね。自分がこの一年いろんなアーティストの活動ぶりを見た中では、とにかく演奏を続けること、創作を続けること、自分の心情はこの状況が自分にもたらすものを曲という形で具現化すること、にただただ打ち込んだのは、不思議に女性アーティストが多かったように思いました。その中でもノラジョンはこうして久々に彼女の魅力がストレートに楽しめるアルバムをドロップしてくれただけでなく、今年を通じてYouTubeでも自宅のミュージックルームから、ただノラがピアノを弾きながら、あの素晴らしい歌声で、自分の曲、カバー曲、スタンダードなどなどを毎日1本ずつ発信してくれてました。コロナ籠もりで疲れた時に彼女のそうしたデイリー演奏動画にどれだけ癒やされたか。例えばクリスマスに発信されたこの動画

そして今年ドロップされたこのアルバムは、こうした環境の中で、基本に返ったかのようにただ彼女の歌とピアノが、ジャズ演奏のスタイルでポップな楽曲を何のてらいもなく届けられる、これまたコロナ籠もりしてる我々に取っては心癒やす素敵なアルバムでした。前作の『Begin Again』(2019年全米164位)でもコラボしていた、ウィルコジェフ・トウィーディーの共作・プロデュースによる「I'm Alive」とラストの「Heaven Above」の2曲が、前者がカントリー・ロックっぽくて、後者がアメリカーナ・バンドのラウンジ・パフォーマンスのようである以外は、冒頭の「How I Weep」からラス前の「Stumble On My Way」まで、ただただノラのちょっと哀愁を漂わせる優しいピアノと、必要最小限の楽器(いつものブライアン・ブレイドのドラムスと、あとは時々ギターとハモンドくらい)でノラのあのちょっとハスキーな歌声が存分に楽しめるアルバムになってます。そしてそれはこれまでのラウンジ・ジャズ・シンガー的なスタイルながら、楽曲はフォークやR&Bの要素を感じさせるポップ・マナーが感じられるところが新鮮でした。特にコロナの状況を想起させる「Hurts To Be Alone」は自分のお気に入りの曲ですね。

そんな作品なのに、なぜか今回も前作同様チャート的には振るわず(最高位87位)、事前に音を聴いてこれは久しぶりにトップ10は堅いな、と思ってただけに意外でした。それでも概ね音楽メディアの評価は高く、特にあのグラミー3冠のデビュー作『Come Away With Me』(2002)以来彼女に張られていたラウンジ・シンガー的なレッテルを、今回は自分の自然なスタイルを崩すことなくさらっと脱ぎ捨てて見せたあたりが評価されてるようですね。いずれにしてもこういう年末の時期にもしっくりくる、オススメのアルバムです。

14. Reunions - Jason Isbell & The 400 Unit (Southeastern / Thirty Tigers)

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既にザ・ウォー・アンド・トリーティのところで名前が出た、今やアメリカーナ界を代表するアーティストの一人、ジェイソン・イズベルが奥様のアマンダ・シャイアズ(フィドル)を含むいつものバンド、ザ・400ユニットを従えた形では3枚目、ジェイソンのアルバムとしては7枚目のアルバムがこの『Reunions』。このアルバムのリリースに先立って今年の1/13に興奮の一夜限りの初来日、フル・アコースティック・ライブ(今年行った唯一のライブでした)をビルボードライブ東京で経験した自分にとっては、期待も高かったけどその期待に充分に応えてくれる、ある意味アメリカーナの第一人者としての貫禄と気迫を感じさせてくれるアルバムの出来に、夏頃はこのアルバムを聴きながらコロナ籠もりを耐えたものでした。

何と一部で高い評価を得ているイギリスのR&Bシンガー、マイケル・キワヌカとの力強い共作曲「What've I Done To Help」(バックコーラスにデヴィッド・クロスビーと、ライヴァル・サンズジェイ・ブキャナンという豪華なバック)でいきなりガツーンと始まるこのアルバム、サウンド的にはこれまでのジェイソンのアルバム同様、いかにも「Dreamsicle」のようなアメリカーナ、オルタナ・カントリー的なナンバーと、「Overseas」のようなブルース・スプリングスティーン的なストレートなロック・スタイルのナンバーと、そして「Running With Our Eyes Closed」のようにR&Bやブルースの香りをふんだんにまとったアメリカ南部的なナンバーがほどよく安定の黄金比率で提示されている、そんなアルバム。一方歌詞など曲の内容では、冒頭の「What've I Done To Help」では過去の過ちに自分を責める歌詞だったり、「It Gets Easier」ではアルコール依存症から抜けだそうとする葛藤を描写する歌詞だったり、心情的にはハードな側面を浮き彫りにするようなものがあったりして、ジェイソンという人間の生真面目さが伝わってきます。

今回のアルバムリリースに当たっては、コロナで被害を受けているチェーン系ではない独立系のレコード店サポートのために、そうした店には一週間早くリリースした、という話を聴くと、その生真面目さが実は「St. Peter's Autograph」などこのアルバムに詰め込まれている楽曲に歌われているように、弱い立場にある人達への思いやりだったりするんだな、と思います。今回もメディアの評価は極めて高く、各誌の年間アルバムランキングではアンカット誌11位、ローリング・ストーン誌28位、ペイスト誌12位、コンシクエンス・オブ・サウンド誌11位、ポップマターズ誌25位と軒並み上位。あの1月のアコースティック・ライブで感じられたように、ジェイソンという人の人柄がじわっと伝わって来て、長く聴き続けられるそんなアルバムです。

13. Folklore - Taylor Swift (Republic)

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このアルバムほど、今回のコロナ禍とそれに伴うロックダウンの産物として象徴的に各方面から言及されているアルバムもないですよね。確かに、このアルバムを発表(発売の数時間前に突然ネットでアナウンスされたサプライズ・リリースでした)した時にテイラー本人が語っていたように「コロナの影響で家にいる時間が増えたので、その時間を創作に当てたいと思って作った」という点でいうと、確かにコロナのロックダウンがなければ今年生まれなかったかもしれない。でも、実はロックダウンはこのアルバムを産み出したカタリスト(触媒、何かの化学変化を起こす手助けをする物質)ではあったかもしれないけど、このアルバム自体を生み出した源だったわけではないのではと思ってます。つまり、テイラーの中には、ナッシュヴィルから外に出て、メインストリームポップやヒップホップといった要素を盛り込んだ楽曲やアルバム制作をしながら、常に「その次」を考えていたと思うし、その具体型が、今回インディ・ロック・バンドのザ・ナショナルのメンバー、アーロン・デスナーや、ボン・イヴェールといった、今のオルタナティヴ・ロックやインディ・ロックの中でも楽曲表現手法やスタイルに独自性を持っているミュージシャン達とのコラボ、という形で今回実を結んだんじゃないかと思うわけで、自分としてはこのアルバムのそういうところを結構評価したいと思ってるわけです。

ほとんど全てのアルバム制作は電話(留守電メッセージも含む)と、メールに添付されたサウンドファイルによって行われたというこのアルバム、正にコロナ・ロックダウン時代ならではの手法で作られたわけだけど、そうしたことが逆にテイラーの創作中枢を未だかつてない形で刺激したんじゃないか。そしてナッシュヴィルを出た以降のアルバムで、今まで付き合った彼氏への攻撃や自分の尊厳を主張するような声高な感じの楽曲が目立っていたのに対し(スクーター・ブラウンとの彼女の過去作品の著作権に関するバトルは多分そういうスタイルに拍車をかけていたような気がする)、今回のこのアルバムは「The 1」「Cardigan」などいい意味でクリエイティブな内省モードの曲が時にはファンタジー的にいろんな物語を語ったり、ボン・イヴェールとのデュエット「Exile」や「My Tear Richoche」など相変わらず男女関係についての物語の歌も多いけど、そのほとんどがこれまでの一人称から三人称になっていることなど、楽曲に対する立ち位置も大きく変わったように思えるところがある意味新鮮だったということもあります。

個人的にはこのアルバムが(アーロン・デスナーが関わったということもあり)単なるポップ・アルバムではなく、オルタナティヴ・アルバムとして捉えられていて、事実ビルボード誌のオルタナティヴ・アルバム・チャートでも14週1位を記録するなど、そういう意味でもテイラーにとっての新境地を確立した作品になったことが印象深かったですね。と、思っていたらその続編というか姉妹作品とも言える新作『Evermore』をまたまた今月サプライズ・リリースするなど、このコロナ・ロックダウンはテイラーに取ってはセットバックではなく、クリエイティビティの新たな発露をプッシュしてくれた、感謝すべき状況だったのかもしれません。この作品、グラミーの最優秀アルバム部門では受賞最右翼になってるように業界やメディアの評判も当然よく、特にローリング・ストーン誌、タイム誌、USAトゥデイ、ヴァラエティ誌など音楽専門誌以外では軒並み年間1位、音楽専門誌でもNME誌2位、ピッチフォーク誌29位、スラント誌4位、ポップマターズ誌17位とかなりの評価ぶりです。いずれにしてもいろんな意味でコロナに振り回された2020年を象徴する作品であることは間違いありませんね。

12. Truth Or Consequences - Yumi Zouma (Polyvinyl)

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19位のLANY同様、このニュージーランド出身のバンド、ユミ・ゾウマ(人の名前ではなく、バンド名)も、このコロナ禍のロックダウンの年に珠玉のポップ・アルバムを届けてくれた、このアルバムが4作目になるインディ・ポップ・アーティスト。実は彼らの名前はこのアルバムが出た6月以前からピッチフォーク誌のサイトなどで見かけていて、名前のユニークさとなかなかそそられるジャケということもあり気になっていたのと、ちょうど(まだ2021年に延期決定前の)フジロックのラインアップにも名前が挙がっていたので、どこかで一度聴かなきゃな、と思っていたところ、DJ仲間で邦楽洋楽、古い新しいに限らずシティ・ポップやAORに造詣の深いToyo-Pさんから「ユミ・ゾウマ、いいよ」とのお言葉があったのでストリーミングで聴いてみたところ一発でハマった、というのが聴き始めの経緯。そしてその勢いでここnote.comの「新旧お宝アルバム!」でも詳しいレビューを書いてますので、詳細はそちらをご覧下さい。今読み返すとかなり緻密なレビューしてます、我ながら(笑)。

そこでも散々書いたので繰り返しになりますが、このアルバムの素敵なところは、同じネット経由でブレイクしたクライロ同様、クリスティー・シンプソンのドリーミーな女性ボーカルがいい、今時の打込み中心のエレクトロ・ポップ・バンドながら、音楽スタイル的にはハイムなんかと同様フリートウッド・マックの系譜を引きつつ、OMDや初期デペッシュ・モード、チャイナ・クライシスといった80年代シンセ・ポップのオマージュというか、意匠をまとった、気楽で心和む楽曲群が心地よい、そんなところです。

19位のLANYも音楽スタイル的にはよく似通っていて、優れたポップ・アルバムであるという点では共通点ありますが、あちらはより2000年代以降のエレクトロ・メインストリーム・ポップのスタイルなのに対し、こちらはあきらかにオールドスクールなシンセポップの影響を隠しもせずに、かつうまーく消化しちゃってるところが逆説的ですが独自性になってます。彼ら、この後このアルバムのオルタネート・バージョンのアルバムをリリースしていて、そちらは本作に比べて各曲のアレンジがよりインディ・ロックっぽくなっていて、よりテーム・インパラとかに近い感じになってます。こっちの方がいい、という方も多分結構いるんでしょうが、自分はやっぱりこのポップ・センス炸裂!的なバージョンがいいですねえ。

11. Song For Our Daughter - Laura Marling (Chrysalis / Partisan)

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UKの女性シンガーソングライター、ローラ・マーリングは、以前から自分が「ちゃんと聴かなきゃ」と思って「聴くべきアーティストリスト」の上の方にずっといたのだけど、何故かなかなかちゃんと聴く機会がなくズルズル来ていた、そんなアーティストの一人。マーキュリー・プライズにノミネートされた2008年のデビューアルバム『Alas, I Cannot Swim』や、今回のこのアルバムも共同プロデュースしている、あの名レコーディング・エンジニア、グリン・ジョンズの息子さんのイーサン・ジョンズがプロデュースした3作目『A Creature I Don't Know』(2011)の年にはそのマーキュリー・プライズを受賞。4作目の『Once I Was An Eagle』ではアメリカのインディ・フォーク・シーンでも評価を得てUSブレイクを果たした頃は、彼女の名前とあの印象的なジャケをしょっちゅうピッチフォーク誌のサイトとかで目にしていたもの。その彼女の作品にようやく向き合うことのできた最大の理由は、ノラジョン同様、このコロナのロックダウンが始まった4月頃に、YouTubeでのNPR Tiny Desk (Home) Concert動画で、彼女の自宅からリリースされたばかりのこのアルバムの曲を演奏しているのを見て、一発でやられてしまったから。

コロナのロックダウンの影響で、多くのアーティスト達が新作の発表を遅らせざるを得ない中、ローラは「自分の音楽でロックダウン中の人々が少しでも楽しんでもらえたら」という理由で、逆に夏の後半予定だったリリースを4月に繰り上げたというからうれしいではないですか。そして自分がやられてしまったのは、その澄み切った歌声でさりげないボーカル・テクニックを駆使しながら、アコギ一本でとっても洗練された、それでいて魅力的なメロディとコード進行などがさりげなく複雑な楽曲を聴かせてくれる、にじみ出てくるような卓越したミュージシャンシップぶりでした。そしてさっそくアルバムをゲット、一曲目に流れてきたのは、レナード・コーエンにインスパイアされて書いたという「Alexandra」。そのイントロから最初のサビを聴いて即座に脳内に想起されたのは、70年代初頭にローレル・キャニオンにCSN&Yの連中とジョニ・ミッチェルが集ってフーテナニー(参加メンバー全員参加型のフォーク・ミュージックイベント)的に一緒に演奏している様子。正にあの頃の空気感と楽曲の世界観が見事にシンプルな演奏で再現され、それを完全に自分のコントロールで歌っているローラこういうフォーク・アルバムを自分は求めてたんだなあ、と思いながらアルバム残りを一気に聴き通したのを覚えています。

個人的に印象的だったのは、ポール・マッカートニーへのオマージュだというピアノをバックにローラが歌う「Blow By Blow」と、黒人公民権活動で有名な詩人マヤ・アンジェロウのエッセイ『Letter To My Daughter』(2008)へのオマージュで、今のBLMに先立つ2012年にアメリカでトレイヴォン・マーティンという黒人の少年が撃たれた時に書かれたというアルバムタイトル曲。前者は初期のポールの宅録系アルバムに出てきそうなインティミットさとさりげないメロディが魅力的で、後者はローラが16歳でデビューした頃の自分を想像上の娘にみたてて、30歳の今の自分から伝えるメッセージ、という歌詞が美しいストリングスと、ローラのアコギというこれもシンプルな構成ながら豊かなイメージを想起させる楽曲。そしてこの2曲に限らず、このアルバムの楽曲はいずれも一度聴くとまた繰り返して聴きたくなる、そんな魅力に溢れています。先ほどジョニ・ミッチェルの名前を出しましたが、彼女がジャズの方に行ってしまわなければ、こういうアルバムをたくさん作ってたんじゃないかな、ふっとそんなことも思いました。ちょっと意外なのは、アンカット誌(10位)、モジョ誌(17位)、NME誌(25位)といったUK系のメディアの年間アルバムランキングには入ってますが、ピッチフォークローリング・ストーン、ペイストといったUS系メディアのランキングには入ってないこと。ちょっと残念ですが、このアルバム、実は今回の第63回グラミー賞の最優秀フォーク・アルバム部門に見事ノミネートされてて、自分の見立てではかなり可能性あるんじゃないかと思ってます。楽しみですね。

さてこれで11位から20位のカウントダウンは終わり。次はいよいよBoonzzyの選ぶ2020年ベストアルバムのトップ10。頑張って明日にはポストしたいなあ、と思ってます。お楽しみに。

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