今週の全米No.1アルバム事情 #39 - 2020/8/8付
いやー昨日の大阪のイソジン騒ぎは先週の追加布マスクの話を遙かに超えて椅子から転げ落ちる話でしたねえ。更にそれでドラッグストアのうがい薬が売り切れたところもあるという報道にはさすがにめまいがしそうになりました。ああいうのを無批判に報道するメディアの酷さにも力が抜ける思いです。
さて今週末のBillboard 200の1位は、先週からもう完全に決定レースになっていた、テイラー・スウィフトが突然ドロップした新譜『folklore』が完全ぶっちぎりで初登場。どれくらいぶっちぎりかというと下記の通り「相当ぶっちぎり」(笑)です。
* 846,000ポイント(実売615,000枚)は先月のジュースWRLDの『Legends Never Die』初週の497,000ポイントを余裕で上回る、2020年ぶっちぎりで最高のポイント。
* 実際、このポイント数は、昨年9月のテイラー自身の『Lover』(867,000ポイント)以来の最高ポイント。
* 実売617,000枚も同じく『Lover』(679,000枚)以来の記録ですが、前回は発売当時に既に様々なチャネルでの発売がされていたのに対し、今回はテイラーのサイトとApple Music等での限定デジタル販売のみで、CDやヴァイナルなどのフィジカルは8/7まで発売されない、それで初週でゴールドディスク。
* 今回で合計7枚のアルバムのそれぞれの週間売上が少なくとも50万枚超えで、それまでタイだったエミネムを抜いて単独トップに。
* ストリームも凄い。『folklore』は2.9億回オンディマンドストリームを達成してますが、これは女性、またはラップ以外では2020年最高記録。2020年でこれを超えているのはジュースの『Legends Never Die』の4.2億回とリル・ウジ・ヴァート『Eternal Atake』の3.5億回の2枚のみ。
とまあ、記録だらけでキリがないんですが、今回のアルバムはこれまでのメインストリーム・ポップ・サウンドの打込み音や強烈なビートが顕著だった作風から、ぐっと音数を抑えたインディ・ポップやインディ・フォーク風のドリーミーで浮遊感溢れたサウンドスケイプで作られているのが、逆に曲のメッセージやテイラーの心情、これまでの経験を客観的に表現している内容を引き立てている、完成度の高い作品を産み出してますね。ザ・ナショナルのアーロン・デスナーと多くの曲を共作またはプロデュースして、あのボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンとのコラボ曲もあるなど、表現スタイルを次のフェーズに上げてきているのが素晴らしいところです。
今週自分の『新旧お宝アルバム!』で取り上げた、こちらも素晴らしいフィービー・ブリッジャーズのアルバムと非常によく似た表現手法で作られたこの『folklore』、8/7にフィジカルも出ますししばらくは1位独走しそうです。
そしてそのアーロンと共作した「Cardigan」が今週Hot 100でも初登場1位。何と、テイラーはアルバム・シングル両方が同時に初登場1位を決めた史上初のアーティストになるというおまけもついてます。
さてそんなテイラー祭りの最中に2位にひっそりと(ホントそういう表現がぴったり)初登場したのが、一昨年あわや「1-800-273-8255」でグラミーのSOY取るか、と一部で騒がれた白人ラッパー、ロジックの『No Pressure』(221,000ポイント、実売172,000枚)。今回のアルバムで引退を表明しているロジックですが、このポイント数ならテイラーの突然の新作ドロップがなければ、多分ほぼ間違いなく初登場1位で引退に華を飾ってたと思われるだけに運がないやつだなあ、という感じ。でもその彼が、微笑ましいパパぶりを惜しみなく見せてるこのPVを観てると、そんなことも関係ないのかな、お疲れ様!と言ってあげたい感じもします(^^)。
初登場ではないですが、ヒップホップの最近のマーケティング手法に則って、8曲追加のデラックスバージョンのリリースで205%のポイント・ゲインで先週の21位→6位に再急上昇してきたのはガンナの『Wunna』(67,000ポイント)。しかしこのアーティスト名とタイトル、何度聞いても笑うわ(笑)。
今週最後のトップ10初登場は、8位に40,000ポイント(実売7,000枚)でデビューした、若干16歳のオーストラリア出身の白人ラッパー、キッドLAROI(本名:チャールトン・ケネス・ジェフリー・ハワード)の『F*ck Love』。オーストラリアのアーティストって、古くはメン・アット・ワークやリトル・リバー・バンド、80年代だとムーヴィング・ピクチャーズやミッドナイト・オイルなど、ポップ・ロック系以外はあまり聞かなかったのですが、彼は故ジュースWRLDがオーストラリア・ツアー中に聞いて大いに気に入ってかわいがっていたという曰く付の新人。最近ではそのジュースの『Legends Never Die』に収録されていた「Hate The Other Side」にフィーチャーされて、結構威勢のいいフロウを聴かせてくれてました。このアルバムでも、ただのトラップに止まらない勢いのあるフロウが、ジュースにちょっと通じる世界観を作り出してるようにも思え、ちょっと要注目かも。このジュースの「Wishing Well」へのアンサーソングにも思える曲での彼のパフォーマンス、ちょっとビリー・アイリッシュとかに通じる鋭さを感じますね。
ということで派手のいっぱい花火の打ち上がったような感のある今週のトップ10、おさらいです。テイラーの新作、とっくにゴールドのはずなんですが、まだ認定が追いついてないようで(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。
*1 (-) (1) folklore - Taylor Swift
*2 (-) (1) No Pressure - Logic
3 (1) (3) Legends Never Die - Juice WRLD
4 (2) (4) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
5 (4) (253) Hamilton: An American Musical - Original Broadway Cast ▲6
*6 (21) (10) Wunna - Gunna
7 (5) (22) My Turn - Lil Baby ▲
*8 (-) (1) F*ck Love - The Kid LAROI
9 (7) (47) Hollywood’s Bleeding - Post Malone
*10 (9) (33) Fine Line - Harry Styles ▲
さて来週の1位予測ですが、8/7のフィジカル発売を前に、対象リリース期間の7/31-8/6の初日にテイラーの『folklore』のデラックス・バージョンがリリースされるそうで、これはもう来週の連続1位は決まったようなもんですねえ。今回はアラニスの久しぶりの新譜とか、ビヨンセの『The Lion King: The Gift』のデラックスバージョンとか話題盤も多いのですが、テイラーには勝てそうにもありません。ではまた来週。
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