今週の全米アルバムチャート事情 #94- 2021/8/28付
コロナの新規感染者数が抑えられている状況でもなく、具体的に抑える実効策が打たれているわけでもない中、パラリンピックも始まってしまいました。もちろんパラアスリートの皆さんには罪はないのですが、政治の無策さにはほとほと呆れてしまいます。そして先週末のフジロック、一日だけでも参戦するつもりでチケットも宿も電車も手配していたんですが、YouTubeでいくつかのステージでの密状態を見るにつけ、自分というよりも家族や何よりも近くに住んでてほぼ毎日会ってる老齢の母へのリスクを考えるとやむなく断念せざるを得ないということで、涙を呑んで参戦中止してしまいました。Misiaが言ってた「コロナのバカヤロー!」って心境です。
それ以外にも、今週はストーンズのチャーリー・ワッツ翁とエヴァリー・ブラザーズのドン・エヴァリーの訃報が飛び込んで来て、折からアリーヤの20周忌もあり、何かとミュージシャンの人生やキャリアなどを改めて考える一週間でした。8月も最終週に向い、皆さんはどういう一週間だったでしょうか。
今週もお送りするこの「全米アルバムチャート事情!」、連動のポッドキャストもいつものように配信済ですので、下記のリンクからお楽しみ下さい。
さて、今週8/28付の全米アルバムチャートBillboard 200の1位は、今週も大方の予想通り、ビリー・アイリッシュの『Happier Than Ever』が、先週の85,000ポイントから3割ほどポイントを減らしながらも60,000ポイント(実売23,000枚、依然今週もこれでアルバムセールスナンバーワンです)で3週目の1位をキープしています。実売枚数も、全体ポイント同様3割ほど減らしながら、依然売上トップということで、アルバムを買う人もそんなに一気に落ち込んでいないあたりが、今回は前作に比べて購入者の幅が大きく広がったのかな、と思います。出てすぐには飛びつかないけど、ネットで流れてるのを聴いて「今回は前回ともちょっと違ってなかなか良さそうだ」と購入する、という二次的ファンが増えているような機がしますね。
この3週1位で、連続1位週数では既にモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』(10週)に次ぐ、2021年のロングラン1位アルバムになってますが、6万ポイントというのはいかにも低いポイントで、今年の1/16付BB200で、テイラーの『Evermore』が飛び飛びで通算3週目の1位を記録した56,000ポイント以来の低さ。その前となると2019/2/16付チャートで、ア・ブギー・ウィット・ダ・フディーが実売枚数わずか398枚という最小枚数記録で47,000ポイントで通算3週目の1位を取って以来でした。これだけポイントが減ってくると、来週チャート対象期間のリリースの顔ぶれ次第では来週には1位交代がありそうですね。事実今週ポイントを微増させて先週5位→2位に上げてきてるドジャ・キャットとはわずかに1,000ポイント差という僅差でしたし。
そして、先週ひょっとしてビリーと1位を張り合うかも、と言っていたカントリー・デュオのダン+シェイのアルバム『Good Things』は、33,000ポイント(実売12,000枚)という予想よりも結構ショボいポイントで、6位に初登場してました。ダン・スマイヤーズとシェイ・ムーニーの二人にとってこれが4作目のアルバムで、過去3作もいずれもBB200のトップ10、カントリーアルバムチャートでは必ず1位か2位を取ってる(今回は2位)2014年のデビュー以来、広く安定した人気を誇るポップ・カントリー・デュオです。
今回は2019年から20年初頭にかけて大ヒットしたジャスティン・ビーバーとのコラボ・シングル「10,000 Hours」(Hot 100最高位4位、カントリーチャートでは21週連続1位)をはじめ、昨年の「I Should Probably Go To Bed」(Hot 100は28位、カントリーチャート4位)、今年の「Glad You Exist」(Hot 100 21位、カントリーチャート2位)と、あの結婚式定番ソングとなった「Speechless」(2018年24位、カントリーチャート9週1位)収録の前作『Dan + Shay』以上にがっつりヒット曲満載のアルバムでもあったので、結構ポイント伸ばすのかなあ、と思ってたんですが、このアルバムもシングルがアルバムの2年前に出ちゃってるという事前リーク効果もあったのか、かなり地味な結果になってます。このアルバムからはもうこれ以上シングルは切らないでしょうから、今後出すシングルはまた次のアルバム向け、ということになるんでしょうか。最近サブスクによる曲単位の音楽消費が進んできたせいか、ジャンルを問わずこういうパターンが増えて来ているように思います。
続いて7位に初登場してきたのは、スーサイドボーイズ($uicideboy$表記、自殺少年団っていう物騒な名前)のセカンド・アルバム『Long Term Effects Of Suffering』(32,000ポイント、実売6,000枚)。グループ名からも何となく作風が想像できますが、ニューオーリーンズ出身のルビー・ダ・チェリーとスクリムの従兄弟同士による白人ハードコア・ヒップホップ・デュオ。2014年結成以来ずっとEPやミックステープを大量にリリースして、薬物中毒や自殺指向に関する激しいリリックや、コーンらヘヴィ・ロック・バンドやブリンク182らパンクロッカー達との音的交流もあって、アンダーグラウンド・ラップ・シーンで根強い支持を勝ち得てきたようです。2018年に出した初のフルアルバム『I Want To Die In New Orleans』もいきなりBB200の9位にランクされてるので、その筋ではかなり多くの根強いファンを持ったアーティストらしく。
音を実際聴くと、ドッシリと重苦しいビートにトラップ系のチキチキハイハットが絡み、陰鬱な感じのフロウで明らかにあまりポジティブなリリックじゃなさそーな感じで、社会に対して嫌悪と不条理感を感じている若者が引きつけられそうな、そんな作風でなかなか何曲も続けて聴くのは自分とかは正直辛いものがあるな。タイトルだけ見ても「If Self-Destruction Was An Olympic Event, I’d Be Tonya Harding(もし自己破壊がオリンピック競技だったら俺はタニヤ・ハーディングさ」(ハーディングは1994年リレハンメル冬季オリンピックの女子フィギュアスケートで対抗選手を攻撃する謀略に荷担したということで有罪になっている元スケート選手)とか発想が自己壊滅的だし。こういう作品がトップ10に入ってくるアメリカ、日本に負けないくらい病んでるなあ。
そして今週トップ10初登場最後は、2004年のデビュー・アルバム『Hot Fuss』以来一貫して、本国アメリカ(彼らはラスヴェガス出身)よりもUKでの評価が高いザ・キラーズの7作目『Pressure Machine』が9位初登場(26,000ポイント、実売22,000枚はビリーに1,000枚差で及ばず)。アメリカでも一貫して出せば必ずトップ10に入ってくるザ・キラーズですが、UKでは今回のアルバムも含めて何とデビュー以来7作連続1位という凄い記録を樹立してます。アメリカでは1位になったのは5作目の『Wonderful Wonderful』(2017)のみなんで、彼の地での彼らの人気のほどが判ろうというもの。
自分はそんなにザ・キラーズの熱心なファンではないのだけど、初期の『Hot Fuss』や『Sam’s Town』(2006)の頃のいい意味でのロックのちょっと胡散臭さをプンプンさせてた頃は結構気にいってたし、前作の『Imploding The Mirage』も「2000年以降のインディやオルタナ系のいいとこを集大成したようなメンツ揃いだし、楽曲もそういう感じ」(2020/9/2の本ブログより)で大いに気に入ってたので今回も期待してちょっと聴いてみた。すると今回は全体フォーキーというか沢田太陽君が自分のブログにも書いていたように、ボスの『ネブラスカ』を想起させるような音像がアルバム全体を包んでいて、更に曲間ごとにいろんな人の会話などのサウンドビットが挿入されているという、また前作とは大きく変わったスタイル。何でもリーダーのブランドン・フラワーズが子供時代を過ごしたユタ州の地方都市、ニーファイ(Apple Musicさん、ネフィじゃないっすよ!)をテーマに、アメリカの小都市における原風景を描こうとしたコンセプト・アルバムらしい。前作でザ・ウォー・オン・ドラッグスことアダム・グランドゥシエルや、リンジー・バッキンガムが客演してたように、今回は最近いろんなところで出没するフィービー・ブリッジャーズが「Runaway Horses」で参加しているなど、自分がハマリそうな要素満載。多分ハマるでしょう(笑)。
さてトップ10は以上。続いて圏外100位までの初登場アルバムのご紹介ですが、惜しくもトップ10逃して11位に初登場してたのは、先週トップ10入り予想していたフロリダの若手ラッパー、YNWメリーの『Just A Matter Of Slime』。
前作の初フルアルバム『Melly vs. Melvin』(2019)は8位といきなりトップ10入りしてたんですが、彼この時は既に地元の街、ジフォードの副保安官殺害容疑で逮捕されてムショにいたんですよねえ。その後まだ裁判が始まってないようなので、今回の新作もどうやって出したんだか不明。2019年2月の逮捕前に造りためてた楽曲をレーベルが使って出したんでしょうが。彼自身のインスタグラムにアップされたビデオ映像によると、獄中からこのアルバムの制作に参画してたっていうんですけどそんなことホントに許されるの?って感じですが。
そして今週は何と圏外初登場はこれともう1枚、84位に初登場してた、もうすぐ映画版が公開される人気ブロードウェイミュージカルの『Dear Evan Hansen』(2015-17) の主役で一躍名を売った、ベン・プラットのシンガーソングライターとして2作目になる『Reverie』の2枚のみでした。最近にしては圏外初登場、少な!で、そのベン・プラットのアルバムですが、プロデューサー陣にジョン・ベリオン(マック・ミラー、ホールジーなど)やモンスターズ&ストレンジャーズ(マルーン5、デュア・リパ、ジェイソン・デルーロなど)といった今最前線のメインストリーム・ポップ系サウンド・メイカー達を配して、オートチューン加工のボーカルや、エレクトロ系のサウンドをふんだんに使った、今風のポップ・アルバムに仕上がってます。
ベンは全曲で共作者に名を連ねてますが、ジョン・ベリオンとM&Sって、最近ではジャスティン・ビーバー作品でガッチリタッグを組んでるので、何となくちょっと大人版ジャスティン・ビーバーって感じ満載ですね。まあでも楽曲の質もなかなかだし、ミュージカルスターなんで歌も当然うまいし、才能溢れてる人ってのは何やらせてもそつなくこなすもんです。彼は『Dear Evan Hansen』の主役で、既にトニー賞、エミー賞、グラミー賞を取ってますから、今回の映画版でオスカー取ったりすると、史上17人目のEGOT(エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞全ての受賞経験者)になっちゃうんですよね。若干27歳でここまで達成したら、残りの人生何やるんでしょうね、この人(笑)。
ということでいつものように今週のトップ10のおさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。
1 (1) (3) Happier Than Ever - Billie Eilish
*2 (5) (8) Planet Her - Doja Cat
3 (2) (13) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
4 (4) (56) F*ck Love ● - The Kid LAROI
5 (6) (32) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
*6 (-) (1) Good Things - Dan + Shay
*7 (-) (1) Long Term Effects Of Suffering - $uicideBoy$
8 (8) (11) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
*9 (-) (1) Pressure Machine - The Killers
10 (9) (72) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。さて最後に恒例の来週の1位予想。来週の小計対象期間は8/20-26。ビリー・アイリッシュも来週は5万ポイント以下に減ると思うので、ある程度のポイントが稼げる新譜であれば1位のチャンス(その次の週にはカニエの新譜がとうとうドロップされるようなので)がありそう。で、一応最右翼はロードの新譜なんですが、これ結構賛否両論出てるようで微妙かもしれませんねえ。それ以外は過去3作の順位が4位→3位→2位とカウントダウン状態な(笑)トリッピー・レッドも5万ポイントくらいは稼いで来そうなので、来週はビリー、ロード、トリッピー・レッドの三つ巴と見ました。それ以外にスタージル・シンプソンあたりがトップ10に来そうですね。ではまた来週。