今週の全米アルバムチャート事情 #240- 2024/6/15付
先週の日本男子バレーチーム怒涛のネーションズリーグ福岡シリーズでの勝ちっぷりの余韻(特に最後のそれまで全勝だったスロベニアをセットカウント3-1で下した劇的な勝利!)冷めやらぬ今週、ゴルフ好きにはたまらない全米オープンが週末にかけて開催されます。先週末、松山英樹選手が初めてのPGAツアー優勝した、帝王ニクラウスがホストのメモリアル・トーナメントでは最終日に伸ばしてトップ10入りを果たした松山選手の活躍が期待されるところ。最近日本が世界で頑張ってんの、アスリートだけだからなあ。是非松山選手にはバチバチの優勝争いを演じてほしいですね。
先週末メモリアル・デイ(アメリカではメモリアル・デイの週末で学校の学期が終わり、家族でバーベキューして夏の到来を祝うという習慣あり)も通過したからというわけでもないですが、今週からは日本も夏日が増えてきていよいよ初夏の兆しの今週。全米アルバムチャート6月15日付のBillboard 200の首位は、恐れていたモーガン野郎の地すべり的な首位復帰を、何と相変わらず地力の強さを発揮しているテイラーの『The Tortured Poets Department』がわずか先週比16%減の148,000ポイント(うち実売27,000枚)で、7週目の1位を維持しました。モーガン野郎は恐れていたとおりポイントをほとんど減らさず(3%減の71,000ポイント)でしたが、この後ご紹介する新譜の強力な初登場もあり、4位どまり。これでテイラーのアルバムのデビューからの首位継続記録としては、『Folklore』(2020)の6週を抜いて、また新しい記録を達成したことになります。そしてこのデビューから7週連続というのは、歴代9位タイの記録なんですね。以前にこの記事のポッドキャストをやっていた時のネタの使い回しですが(笑)、その歴代ランキングをここでおさらいしましょう(*=記録継続中)。
1.13週 - Songs In The Key Of Life ▲10 - Stevie Wonder (1976/10/16-1977/1/8)
2.12週 - One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen (2023/3/18-6/3)
3.11週 - Whitney ▲10 - Whitney Houston (1987/6/27-9/5)
4.10週 - Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen (2021/1/23-3/27)
5.9週 - Views ▲8 - Drake (2016/5/21-7/16)
6.8週 - No Strings Attached ▲11 - ’N Sync (2000/4/8-5/27)
6.8週 - The Marshall Mathers LP ▲11 - Eminem (2000/6/10-7/29)
6.8週 - Weathered ▲6 - Creed (2001/12/8-2002/1/26)
9.7週 - Bruce Springsteen & The E Street Band Live / 1975-85 ▲13 (1986/11/29-1987/1/10)
9.7週 - 25 ▲11 - Adele (2015/12/12-2016/1/23)
9.7週 - *The Tortured Poets Department - Taylor Swift (2024/5/4 - 6/15*)
何気に2位と4位にモーガン野郎がいるのが気に食わないこと甚だしいのですが(笑)、さすがにそうそうたる大ヒット作品が居並ぶランキングになっていて、そのうちダイアモンド・レコード(▲10=1,000万枚以上の売上認定)以上のアルバムが6枚もありますね。テイラーの今回の『TTPD』もとっくにマルチプラチナ認定されていい枚数売り上げてるんですが、まだ認定されてません。いきなり認定で▲5、とかになっちゃうんじゃないでしょうか。それより、来週も1位維持すると一気に歴代6位タイになりますね。
今週くらいまでは首位争いに加わるんじゃないかと思ったビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』は117,000ポイントと踏ん張ったんですが残念ながら今週3位に後退。それを上回る131,000ポイント(うち実売127,000枚で今週のアルバム・セールス・ナンバーワン)で2位にこつ然と初登場してきたのが、何とKポップの8人組ボーイズバンド、エイティーズ(ATEEZ)の11枚めになるEP『Golden Hour: Part. 1 (EP)』。しかしねえ、また起きてしまいましたよ、リリーススケジュールに記載のないKポップ勢のリリース。いつも自分が見ているGeniusのリリーススケジュールにはATEEZの記載は一切ないんですよねえ。ただ一応事前にリリースアナウンスされてたようなので、GeniusのリストにはなかなかKポップ・リリースが反映されないのかもしれません。ということはKポップ勢のリリースは個別にチェックしなきゃいかんということになりますよねえ。困ったな。彼らはセカンド・アルバムの『The World EP.Fin: Will』(2023)でナンバーワン達成したくらいから、初動で10万枚は軽く売るような出力になってきているので、普通の週なら今回もナンバーワン、という勢いなわけです。加えて去年くらいからUKでも人気を集めていて、今回のこのEPも今週UKアルバムチャート4位初登場ですから、ATEEZ侮れません。
内容的にはこれまでになくエレクトロ・ポップ色を強く打ち出してて、冒頭の「Golden Hour」や「Empty Box」なんて正におー、王道エレクトロ・メインストリーム・ポップ!てな感じ。その他のトラックは、同じエレクトロでもビートはダンスホール風だったり(「Blind」)、従来からのスタイルのヒップホップ・エッジの効いた感じだったり(「Work」)、レゲエ風だったり(「Shaboom」)と、僅か6曲収録ながら結構いろいろやってます。また、Kポップお馴染みのジャケや封入ノベルティの異なるバージョンのCDを沢山出してアーミーの購買力を利用するという物量作戦マーケティングは今回もやってます。前回みたいに33パターンとまでは行かないまでも、今回は25種類のCDと6種類のヴァイナルをリリースですって。
今週トップ10の初登場、もう1枚は、この間のビヨンセのアルバム『Cowboy Carter』で2曲ほど客演して名を知られ、自らも現在「A Bar Song (Tipsy)」が現在大ヒット中(最高位3位)のシャブージー(本名:コリンズ・オビナ・シブージー)の3作目にして初のチャートイン・アルバム『Where I’ve Been, Isn’t Where I’m Going』が5位に初登場してます(50,000ポイント、うち実売8,000枚)。ドレッド・ヘアの黒人ながら、基本アメリカーナ・ロックながら、ヒップホップのテイストも色濃く感じられる「A Bar Song (Tipsy)」を聴くと判るように、いろんなジャンルに関係ないグルーヴィー・ミュージックをやってるヤツなんだなあ、と何となく好感が持ててしまいます。
もともと両親はナイジェリアからの移民ながら、生まれも育ちも南部のヴァージニア州だったことや、子供の頃からストーンズやデッド、ディランやツェッペリンなんかを聴いて育ったというのも、こういうジャンルレスな音楽をやるようになった背景だったようです。それでも最初の頃はトラップみたいなことをやってたようですが、このアルバムでは全編アコースティック・ロック寄りで、ところどころにヒップホップやトラップのテイストが感じられる、そんな音楽やってますね。このスタイル、結構間口が広いですし、支持する層も特に南部を中心に幅広いと思うので、以外とこのままぐっと人気を上げて行く可能性もありますが、どうでしょうか。「A Bar Song (Tipsy)」はUKでも最高位3位のヒットになってるから、アメリカ南部だけの支持ではないんでしょうけどね。
以上、トップ10内初登場は2枚でした。一方、ここのところ初登場で賑わっていた11位以下100位までの圏外、今週の初登場はわずか1枚です。その1枚、17位にチャートインしてきているのは、プエルトリコ出身のマリア・ザルドーヤをリード・ボーカルに擁するLAベースのインディ・ポップ・バンド、その名もザ・マリアズのセカンド・アルバム『Submarine』。ファーストの『Cinema』(2021)は176位でしたから、今回大ブレイク成る、ということになります。元々LAのライブハウスでマリアがやるライブのサウンド調整をやってたドラムスのジェイムス・コンウェイが意気投合して付き合い始めバンドも始めた、というのがスタートのようで、ファーストからのシングル「Hush」は、80年代っぽいシンセビートに乗ってビリー・アイリッシュ風のマリアのドリーミーなボーカルが絡む、というもので初期のブレイクにつながったようです。
ところがマリアとジェイムスはその後別れてしまって一時バンドも活動を半年ほど休止してたらしいですが、再び集まって今回のアルバムの曲のレコーディングをして、今回のブレイクにつながったというあたりはなかなか皮肉な展開ですな。作品のスタイルとしては、やはりビリー・アイリッシュ世代を感じさせるウィスパー・ボーカルと、ドリーミーなシンセトラックが織りなす、ベッドルーム・ポップ風ロックという感じ。ただボーカルのマリアの出自がラテン系ということもあって、バッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』(2022年1位)で一曲コラボしてましたが、今回もスペイン語の曲があったり(「Lejos de Ti」「Ay No Puedo」)、1993年のフランス映画『トリコロール/青の愛(Three Colours: Blue)』にインスピレーションを得て、ジャケを青いトーンにしたとか、何となくただのアメリカン・バンドではなく、コスモポリタンな雰囲気を漂わせてるあたりが個性なのかもしれません。浮遊感満点なマリアのボーカルが、聴いてるとなかなか気持ちいいアルバムですね。
ということで今週の100位までの初登場は3枚と今週は静かなアルバム・チャートでした。一方Hot 100の方に目を移すと、相変わらずポスティとモーガン野郎の「I Had Some Help」、強いなー。今週は来月リリース予定の新作からの先行シングルカット、エミネムの「Houdini」がリリースされるので1位来るか?と思われたんですが、スティーヴ・ミラー・バンドの「Abracadabra」という超大ネタ使いにもかかわらず、惜しくも2位初登場。「I Had Some Help」が4週目の1位をキープしてますね。ちょうど先週から毎年恒例のビルボードの「Songs Of The Summer」チャートが始まっていて、こちらの方でもこの曲、2週連続1位と好調です。「Houdini」、いいんですがちょっと大ネタ過ぎて何となくエミネムのトラックにしてはキレがイマイチのような気がするのは自分だけでしょうか。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (1) (7) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <148,000 pt/27,000枚>
*2 (-) (1) Golden Hour: Part. 1 (EP) - ATEEZ <131,000 pt/127,000枚>
3 (2) (3) Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish<117,000 pt/22,412枚*>
4 (4) (66) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <71,000 pt/1,199枚*>
*5 (-) (1) Where I’ve Been, Isn’t Where I’m Going - Shaboozey <50,000 pt/8,000枚>
6 (6) (178) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <43,000 pt/400枚*>
*7 (9) (80) Stick Season ▲ - Noah Kahan <42,000 pt/2,962枚*>
8 (7) (11) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <40,000 pt/88枚*>
9 (8) (4) One Of Wun - Gunna <40,000- pt/62枚*>
10 (10) (41) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <36,000 pt/2,715枚*>
意表をついたKポップがあわや首位獲得か、と思われた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想(チャート集計対象期間:6/7〜13)ですが、うーん今週もテイラーを首位から引きずり落とすような、15万ポイントくらい叩き出す新譜、なさそう。テイラー来週も10万ポイント台は維持しそうだし、これは8週首位で歴代ランキングを一つまた上がるのかなあ。ということでまた来週。