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今週の全米アルバムチャート事情 #260- 2024/11/2付

自分の予想を完全に裏切る展開で、ドジャーズついにワールドシリーズ4勝1敗であっさり優勝してしまいました。結局最終戦になってやっとジャッジが覚醒したヤンキースは、要所要所で自滅した感も強く(特に最終戦は勝てた試合でしたが三連続エラーであっさり5点リードを追いつかれてしまったのが大きな決定打に)、もう少しワールドシリーズを長く楽しみたかった向きにはやや物足りない結果になった感じです。まあでも大谷山本(は特にメジャー挑戦初年度で)も念願のワールドシリーズ優勝を達成できておめでとう!そして当然のごとくシリーズMVPを取ったフリーマンも素晴らしい活躍ぶりは称賛に値すると思います。ああでもこれでMLBロスが始まってしまうなあ…

"Lyfestyle" by Yeat

いよいよチャート上も11月に突入した今週の全米アルバムチャート、11月2日付のBillboard 200の首位、先週のジェリー・ロールに続き、89,000ポイント(うち実売60,000枚)で初登場、初の全米ナンバーワンを決めたのはカリフォルニアはアーヴァイン生まれでオレゴン州出身のラッパー、イート(本名:ノア・オリヴァー・スミス)の5枚目のアルバム『Lyfestyle』でした。セカンド・アルバム『2 Alive』(2022年6位)で突如ブレイクして以来、サード『Afterlyfe』(2023)が4位、前作『2093』(2024)が2位と着実に実績を重ねて今回晴れて初のナンバーワン達成となりました。

随所にオートチューンを施した正直何を言ってるか聴き取りにくい(笑)ボーカルでのラップ、単純なトラップビートではなく、エレクトロな音像もふんだんに使ってユニークなビートで自らの世界観を作り上げているイートの作風は、凡百のトラップ野郎が未だにそこそこ売れているガラパゴスなUSでも、さすがにヒップホップ・ヘッズ達の強い支持を集めてきていることの証左がこのナンバーワンなんでしょう。前作『2093』はややサウンドやビートで実験的な内容も含んでいたんですが、それでも全米2位を記録したということで自信も付いたんでしょうね。そこから8ヶ月という比較的短いインターバルでリリースされたこのアルバム、何でも制作にあたって4,800種類のビートを作ってそこから最終22曲(デジタル・デラックス・バージョンでは26曲)に落とし込んだということなので、イートとしても極限まで磨き上げた自信の作品ということなんでしょう。各トラックも前作よりはかなりキャッチーなものも多く、ファンに受け入れられたのもむべなるかな、という感じですね。そして着目すべきは実売の多さで、しかも6万枚の実売中、4,500枚はヴァイナルというのもヒップホップではなかなかないパターン。これからもイートへの支持がかなりガッチリしたものであることを伺わせます。ここらからしばらく彼のキャリアハイ状態が続きそう。ヒップホップファンは要注目です。

"SEVENTEEN 12th Mini Album ‘Spill The Feels’ (EP)" by SEVENTEEN

それより今週驚いたのは、5位に初登場してきたKポップのボーイズバンド、セブチことSEVENTEENの12枚めのEP(6曲入り)『Spill The Feels』。これ、今週のチャートの集計対象期間である10/18〜24日より前、10/14に既にリリースされてたやつなんです。それが初動4日分の売上(Kポップの場合USでのポイントは9割以上が実売)抜きで66,000ポイント(うち実売64,000枚)ということは、フルでポイント集計されていたら10万ポイントレベルの出力で余裕で首位初登場だった、ということになります。彼らはこの前2枚のEP『FML』と『Seventeenth Heaven』(共に2023)でそれぞれ前者はモーガン野郎の『One Thing At A Time』、後者はテイラーの『1989 (Taylor’s Version)』に阻まれて首位取れず2位に甘んじてただけに、この出力なら今回リリースを集計期間の初日に合わせておけば、BTS、スーパーM、ストレイ・キッズ、ブラックピンク、TXT、ニュージーンズ、ATEEZに続く8組目のKポップ勢全米ナンバーワン・アルバム・アーティストになれたのに、セブチ陣営何を考えてたんでしょう。

内容的にはいつものようにひたすらキャッチーなメインストリーム・ダンス・ポップ曲がメインで、オープニングの「Eyes On You」なんてそれを絵に描いたようなキャッチーなナンバー。先行シングルの「Love, Money, Fame」はDJキャレドをフィーチャーしてちょっとヒップホップっぽいテイストにも寄り添ってみたちょっと彼らとしては新境地なのかな。エモなバラード「Candy」などもなかなか出来が良く、聞かせますね。しかしそろそろ次のEPかアルバムはナンバーワン、狙ってもいいんじゃないの?

"The Secret Of Us (Deluxe Version)" by Gracie Abrams

今週のトップ10初登場はこの2枚でしたが、圏外19位から8位に、グレイシー・エイブラムス(映画監督、JJエイブラムスの娘さんですね)の『The Secret Of Us』が7曲ボートラ追加したデラックス・バージョンのリリースの関係でトップ10に復帰しているのが目立つところです(リリースされた7月には2位初登場でした)。一方、圏外11位〜100位の初登場は今週4枚ですが、それ以外に先日の元ワン・ダイレクションリアム・ペインの急逝を受けて、31位『FOUR』(2014年US/UK 1位)を筆頭に38位『Midnight Memories』(2013年US/UK 1位)、62位『Made In The A.M.』(2015年US 2位、UK 1位)、88位『Up All Night』(2011年US1位、UK2位)と4枚の旧譜が再チャートインしているのが目立ちます。改めてリアムの冥福を心よりお祈り致します。

"Don't Mind If I Do" by Riley Green

さて圏外一番人気は25位にチャートインしてきたアラバマ州ジャクソンヴィル(フロリダではない)出身のカントリー・シンガーソングライター、ライリー・グリーンのサード・アルバム『Don’t Mind If I Do』。これまでのチャート実績が前作『Ain’t My Last Rodeo』(2023)の79位でしたから今回大きく躍進したことになります。

といってもシングルがガンガンにヒットしてブレイクしている訳ではありませんが、7月にHot 100にチャートインした、Billboard 200でファースト・アルバムをチャートインさせた女性カントリーシンガーソングライター、エラ・ラングリーの「You Look Like You Love Me」にフィーチャーされていて、これがロングヒットとなってここに来て33位(カントリー9位)まで上昇してきているというのが大きいかも知れません。彼に取っては初のカントリートップ10。もう36歳とベテランの年代ですし、スタイルとしては特にコンテンポラリーなわけでもなく、極々オーソドックスな、トラディショナルながら70年代ロックの香りが感じられる、良く言えば安心して聴ける、悪く言うと特に目立つ個性があるわけではないライリー、この次に続けられるかがキャリアの分かれ目、という感じでしょうか。

"Que Sigan Llegando Las Pacas: Extended" by Chino Pacas

ぐーっと下がって76位に初登場してきているのは、ここ数年の全米でのトレンドの一つ、リージョナル・メキシカンのチノ・パカスのデビュー・アルバムで初のチャートインとなった『Que Sigan Llegando Las Pacas: Extended』(荷物をどんどん持って来い、という意のようw)。リージョナル・メキシカンというとコリドー、というスタッカート・リズムのホーンセクションとアコギ・アコーディオンによるいなたいサウンドがここのところ人気のあるスタイル。ただ彼のスタイルは「シエレーニョ」というらしいですが、正直自分が聴いてもスタイルの違いはよく判りません(笑)。

このアルバムにも収録の2023年のデビューシングル「El Gordo Trae El Mando」がHot 100の58位まで上がるクロスオーバー・ヒットになった関係で、何とドレイクとつながったチノ、今回のアルバムを単独アルバム契約でドレイクPFLレーベルからリリースする運びになったという、ある意味順風満帆のキャリア展開になってます。ドレイクもリージョナル・メキシカンがどのくらいビジネスになるかを見極めようか、というスタンスに見えてなかなかのビジネスマンぶりですが、この後があるかどうかはこのアルバムのヒット次第、ということなんでしょう。いろんな思惑のうかがえる作品ですね。

"Goodbye Horses" by ian

続いて86位にチャートインしてるのは、この5月にファースト・ミックステープ『Valedictorian』を54位に送り込んでチャートデビューを果たしていたダラスの白人ラッパー、イアンことイアン・オニール・スミスのデビュー・アルバム『Goodbye Horses』。同じ若手白人ラッパーのイートが初のナンバーワンを決めたこの週にタイミングを同じくしてアルバムをチャートインさせてきたイアン、エレクトロを駆使した独特の音像やオートチューンで加工したボーカルで白人らしからぬフロウを聴かせるあたりイートとの共通点は多いですが、イートのどよ〜んとした世界観とは随分趣を異にした、覚醒したテンション高いビッグ・ビートを展開しているあたりがまた独特ですね。

今回はアルバムとはいえ、ストリーミングのみのリリースなので、どちらかというとミックステープ的な位置づけだと思いますが、この7月にリリースしたリル・ヤッティをフィーチャーしたイアン初のHot 100チャートイン・シングル「Hate Me」(68位)を収録しているのが目玉ということになるでしょうか。この曲とかラストのアルバム・タイトルナンバーなどでの存在感あるフロウはなかなか評価できると思うので、ヒップホップ・ファンは引き続き要ウォッチですね。

"Tension II" by Kylie Minogue

今週最後の100位までの初登場は、もうそろそろアラ還に手が届きそうなのに、相変わらずフェロモンたっぷりの美魔女ぶりを発揮しているカイリー・ミノーグ通算17作目のアルバム『Tension II』、98位とギリギリに初登場してきています。昨年リリースした前作『Tension』の続編的位置づけで、同じようにエレクトロ・ポップ/EDM的ダンス・ポップ路線の作品になってます。UKアルバムチャートでは今週堂々初登場1位、彼女にとって通算8枚目のナンバーワンを達成してます。

ビービー・レクサトーヴ・ローをフィーチャーした「My Oh My」や、シーアとの「Dance Alone」の他、ディプロなどもゲストで迎え、割と若手のアーティストを散りばめて音楽メディアの評価もまずまずのようですが、正直聴いていてケイティ・ペリーの新譜同様、あまり新しさを感じないと言うか、特に今聴くべきアルバムとは個人的にはあまり思えませんでしたね。まあカイリーはイギリス人のシニア層を中心にアメリカでも結構根強いファンは多いので、アルバム出せばこれくらいの順位には入って来るんでしょう。申し訳ないけど自分としてはパスのアルバムですね。

ということで今週の100位までの初登場は計6枚でした。そしてHot 100ではとうとう首位が交代、シャブージーを蹴落として初登場1位を決めたのは、モーガン野郎の「Love Somebody」。次のアルバムからの「Lies Lies Lies」に続く先行シングルのようです。何だか今回は後半オブリガードのギター・ソロが入ってたりとちょっと哀愁漂う感じのメロディがこれまでのモーガン野郎のスタイルとはちょっと趣を異にしているのが耳を引きますが、まあ秋向けのシングルということなんでしょうかね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Lyfestyle - Yeat<89,000 pt/60,000枚>
2 (4) (9) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <79,000 pt/12,027枚*>
3 (1) (2) Beautifully Broken - Jelly Roll<68,000 pt/33,786枚*>
4 (2) (2) Last Lap - Rod Wave<67,000 pt/348枚*>
*5 (-) (1) SEVENTEEN 12th Mini Album ‘Spill The Feels’ (EP) - SEVENTEEN<66,000 pt/64,000枚>
*6 (9) (86) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <50,000 pt/964枚*>
7 (5) (2) Glorious - GloRilla<50,000- pt/1,755枚*>
*8 (19) (18) The Secret Of Us - Gracie Abrams <49,000 pt/2,919枚*>
9 (7) (23) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<48,000+ pt/6,340枚*>
10 (8) (2) Take Care - BigXthaPlug <48,000 pt/624枚*>

若き次世代のラッパー、イートが初の全米ナンバーワンを決めた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつものように来週の首位予想ですが(チャート集計対象期間:10/25~31)、来週もおそらく首位は8万ポイント台の攻防になると思われるので、そうなるとヒップホップのGハーボのミックステープと、ホールジーの争いかなあ。ひょっとするとミーガンのセカンド・アルバムのデラックス・リイシューがさらっていく可能性もあり、うーん読めない。ではまた来週。

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