今週の全米アルバムチャート事情 #265- 2024/12/7付
早いもので今年も最後の月になりました。今月は自分の誕生日月でもあるので、個人的にもいろんな意味で一年の区切りの月。そして個人的にもいろいろな意味で忘れられない一年になった2024年、年末までには改めて今年自分にとってパーソナルな響き方をしたアルバムをまた選んで、皆さんに改めてご紹介しようかな、と思っていますので乞うご期待を。
今週の全米アルバムチャート12月7日付のBillboard 200の首位は、先週お伝えしたように、突然サプライズ・ドロップされたケンドリック・ラマーの新作『GNX』が事前アナウンスなしとしては驚異的な319,000ポイント(うち実売〜デジタル・ダウンロードのみ〜32,000枚)という出力でぶっちぎりの首位初登場を果たしています。前作『Mr. Morale & The Big Steppers』(2022年1位)がシーンの期待を一心に集めて、せーのドーンという勢いでリリースされ、その内容の重厚さと緻密さ、メッセージ性や社会問題提起性の高さで圧倒的なインパクトと評価を集めたのとは好対照で、シーンもファンもちょっと虚を突かれたようなリリースでありながら、それでもここまでの出力を確保するのは、やはりさすがケンドリック、という感じですね。
上記のように、前作がアルバム全体を通してかなりストイックで、赤裸々に自分の内面をさらけ出して斬り込んで来るような作品だったのに対して、今回のアルバムを通して聴いてみて(もう数回聴いてますが)一転かなりリラックスしたというか、ちょっとレイドバックした雰囲気すら感じさせる、全体的に純粋にケンドリックのパフォーマンス(というかケンドリックとゲスト・ミュージシャン達のパフォーマンス)を楽しめる、そんなファンにはある意味嬉しい作品になってる気がします。ドレイクとのビーフや「Not Like Us」で激しい攻撃的なケンドリックをここ数ヶ月聴いてきた耳にはこのアルバムのトーンは歓迎すべきもの。タイミングとしては絶妙のポッセ・カット「Dodger Blue」も楽しいし、マーヴィンの「If This World Were Mine」のフレーズを歌う故ルーサー・ヴァンドロスの艷やかなボーカルがふわりと舞い降りて来るその名も「Luther」でのSZAとのコーラスワークなんてケンドリックとしては異色な一方、いかにも彼らしく、でも攻撃的すぎない「Squabble Up」での鋭いフロウなどはなかなか満足できるものです。まだまだ聴き込むといろんな楽しみ方がありそうですが、まだあと2週くらいは首位をキープしそうなので、今週はこれくらいにしておきましょう(と、思ってたらそうでもない気配が…)。
ケンドリックに続いて、139,000ポイント(うち実売85,000枚で何と今週アルバム・セールスチャート1位です)という力強い出力で今週2位に初登場してきたのは、しばらく前から話題になっていたあのオズの魔法使いをベースにした人気ミュージカル、『ウィキッド』のハリウッド映画化バージョン『Wicked』のサントラ盤。日本でも劇団四季のプロダクションで何度も上演されているこの人気ミュージカル、今回は西の悪い魔女エルファバを、2015〜2017年のブロードウェイ・ミュージカル版『カラー・パープル』でブレイクしたシンシア・エリヴォ、そして南の良い魔女グリンダをアリアナ・グランデが演じて、映画の評判もかなりいいようで、アメリカ・カナダの封切初日11月22日の興行成績が1.12億ドル(全世界では1.62億ドル)でボックスオフィス当然首位ですが、これはブロードウェイ・ミュージカル原作映画の初日記録としては2012年の『レ・ミゼラブル』の全世界1.03億ドルを抜いて歴代1位だったそうです。
自分も2007年頃でしたか、当時外資系に転職してNY出張の際にブロードウェイで観劇して大いに楽しんだ記憶がありますが、当時から家族連れの観客が多く詰めかけていた人気ミュージカルだけにこの人気もうなづけるところ。グリンダ役のアリアナとエルファバ役の実力者、シンシア・エリヴォのキャスティングも歌唱力とキャラを考えるとピッタリ、という感じです。映画レビューサイトのロトゥン・トマトズも89%と高評価ですね。なお、今回このアルバム2位初登場というのは、ブロードウェイ・ミュージカル原作映画のサントラ盤としては、2003年2月1日付で4位初登場の『シカゴ』以来21年ぶりのトップ5初登場(『シカゴ』は翌週最高位2位を付けてます)。初登場を別にすると、2013年1月19日付で首位を取った『レ・ミゼラブル』以来のブロードウェイ・ミュージカル原作映画サントラ盤の最高位記録ということになります。あの有名曲「Defying Gravity」も今週アリアナとシンシアのバージョンでHot 100の44位に初登場、これからクリスマス・シーズンに向けて全米でこの曲があちこちで聴かれる事になりそうですね。
さて一方11位以下100位までの今週の初登場は5枚。その筆頭はここのところ毎年リリースされている、元NFLフィラデルフィア・イーグルスのジェイソン・ケルシー(そう、あのテイラーの彼氏でカンザスシティ・チーフスのトラヴィスのお兄さん)と彼の元チームメイトの2人によるザ・フィリー・スペシャルズのチャリティ・クリスマス・アルバム第3弾『A Philly Special Christmas Party』が16位にチャートインしてます。
一昨年『A Philly Special Christmas』(80位)、昨年『A Philly Special Christmas Special』に続くシリーズ最終作だという今回は、チャートインしなかった前作とはうってかわって32,000枚を売り上げて、ホリデーアルバムとしては4年ぶりの売上を記録したんだそうです。前作ではワクサハッチーやジョーダン・デイヴィスといったカントリー/アメリカーナの渋めのゲストを迎えてたんですが、今回は豪華な顔ぶれで、ボーイズIIメン、スティーヴィー・ニックスらと「ラスト・クリスマス」や「Please Come Home For Christmas」なんかを演ってるみたいです。いいですねえ、ホリデー気分満載。
続いて26位に入って来たのは、ネットフリックスの人気ゲームを原作にしたアニメTVシリーズ、『アーケイン』の最終シーズンであるシーズン2(今年の11月9日から9エピソード配信されたらしい)のサントラ盤『Arcane League Of Legends: Season Two』。自分はこういうゲーム関係、詳しくないのですが、日本でも配信されたらしいので結構人気あるシリーズなんですかね。主人公のヴァイオレットの英語版の声優は「Starving」(2016年12位)のヒットでおなじみのヘイリー・スタインフェルドが務めてます。
アルバムを聴いてみると、先週2位初登場していた新生リンキン・パークのシングル「Heavy Is The Crown」はどうやらこのアニメシリーズの主題歌にも使われているようで、その他にもシーズン1の主題歌に使われていたイマジン・ドラゴンズ+JIDの「Enemy」や、トウェンティ・ワン・パイロッツ、更にはストレイ・キッズなんかの曲も収録されてますね。
そのすぐ下の32位初登場はおお何と、久しぶりに名前を聞くマリリン・マンソンの4年ぶりのアルバム『One Assassination Under God: Chapter 1 』。2003年の最後のナンバーワン・アルバム『The Golden Age Of Grotesque』から7作トップ10が続いてたんですが、時代の流れというのか、シーンがもう彼をそんなに必要としていないのか、こういう順位になってしまってますね。
作品内容的にはいつもと変わらぬ、マリリン・マンソンのヘビーでインダストリアルでグラムでストレートなハード・ロックなんでファンには文句ないアルバムなんでしょうが、そうでない自分なんかは特に新しさも感じないし、あの90年代に彼が登場してきた頃の妖しげでカルトなオーラみたいなものも感じないですね。
48位に入ってきたのはおおこれも6年ぶりの新婦になるアイス・キューブの通算11作めのアルバム『Man Down』。ただアイス・キューブは先日のドジャーズとヤンキースのワールドシリーズ第2戦、あのフレディ・フリーマンの延長10回逆転満塁サヨナラHRの興奮冷めやらぬ試合前に登場して「It Was A Good Day」を演ってたんで、何となく久しぶり感は薄いですね(笑)。
こちらも全面ウェッサイなヒップホップ・アルバムで、スヌープやE−40、トゥー・ショート、コラプト、イグジビットなどなど、昔なじみのウェッサイなメンバーを並べて、レイド・バックなアイス・キューブ節を聴かせてます。何故かは不明ですが、スヌープやE-40とやってる「It’s My Ego」と基本同じ曲のラストの「Ego Maniacs」はバスタ・ライムスとキラー・マイクという、何故かウェッサイでないNYとアトランタの両雄と演ってますね。
そして今週最後の初登場はぐーっと下がって98位にチャートインしてきた、ナイジェリアのシンガー、ウィズキッド通算6作目のアルバム『Morayo』。「モラヨ」というのは、2023年にロンドンで亡くなったウィズキッドのお母さんのミドルネームだそうで、アルバムジャケに半分写っているのはそのお母さんの写真なので、このアルバム、かなりパーソナルな内容のようですね。
とはいってもアルバム全般はこれまでのウィズキッドのスタイルを踏襲する、R&Bスタイルの明るいアフロビートの曲が並んでいて、母を失った悲しみ、みたいなものはあまり感じられず、むしろ亡き母を祝福するような感じです。本人曰く「これまでで一番の出来だ!」というだけあってなかなかの自信作と見えます。同郷のラッパー、アサケをフィーチャーしたウキウキした楽しい「Bad Girl」、ウィズキッドとヴァースを取り合いながらブレント・ファイアズがセンシュアルに歌う「Piece Of My Heart」あたりはなかなか気持ちよく聴けます。以外とハマりそうなアルバムになりそう。
ということで今週の100位までの初登場は都合7枚でした。Hot 100の方は予想されたようにケンドリック・ラマーのドカ盛り状態で、1位の「Squabble Up」を筆頭にトップ10中7曲、トップ40内12曲が初登場とアルバム全曲がトップ40入りしてます。シャブージーの記録更新阻止という結果になったのは偶然なのか、それとも何らかの意志が働いているのか、それは不明ですね。一方季節柄クリスマス・ソングも躍進していて、マライアのあの曲もしっかりこのドカ盛りの中、今週10位に上昇してきてますね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) GNX - Kendrick Lamar <319,000 pt/32,000枚>
*2 (-) (1) Wicked: The Soundtrack - Cynthia Erivo, Ariana Grande & Various Artists <139,000 pt/85,000枚>
3 (5) (14) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <69,000 pt/16,000枚>
4 (3) (5) CHROMAKOPIA - Tyler, The Creator <61,000 pt/291枚*>
5 (9) (28) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<50,000 pt/23,696枚*>
6 (8) (23) The Secret Of Us - Gracie Abrams <48,000 pt/12,356枚*>
7 (6) (2) Cosa Nuestra - Rauw Alejandro <44,000 pt/407枚*>
8 (11) (32) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <43,000 pt/368,345枚*>
9 (12) (91) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen<42,000 pt/2,575枚*>
10 (10) (36) The Rise And Fall Of a Midwest Princess - Chappell Roan <42,000 pt/13,000枚>
ケンドリック・ラマーが圧倒的だった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?さて最後にいつもの来週の1位予想ですが(チャート集計対象期間:11/29~12/5)、今週もこのブログの執筆が遅れたせいで、来週のデータをちょっと見てしまったんですが、どうもブラック・フライデーに合わせてまたテイラー陣営がマーケティング・ブラストをかましたらしく、かなり売上を積み上げてきているようなので、どうやら来週はテイラーが首位に返り咲きするような勢いです。ではまた来週。