今週の全米アルバムチャート事情 #210- 2023/11/18付
おかげさまで先週末無事に退院し、現在は検査結果を待っているところ。2週間後に結果がわかり次第医師と相談して必要な治療を開始することになりますので、まあある意味今は束の間のモラトリアム期ということでしょうか。その入院中に発表された第66回グラミー賞ノミネートは、例年通り驚きのノミネートや無視されてしまったアーティスト達もあり、またこの辺の答合わせも含めて、来月には各部門の予想ブログシリーズをスタートする予定ですのでお楽しみに。またこの記事をアップする頃には大谷翔平選手の2度目のアメリカンリーグMVPも発表されるでしょうし、ひょっとすると彼の来年の所属チームも決まってるかもしれませんね。自分も彼の活躍を励みに頑張ります。
さてBTSのメンバーとして初の全米アルバムチャート首位なるか?と思われたジョングク、今週見事なポイントを積み上げたのですが、残念ながらテイラーのポイントが対先週85%減の245,000ポイント(うち実売122,000枚)と減衰が思った以上に少なくて今週もテイラーの『1989 (Taylor’s Version)』が2週目の首位をキープしてます。今回の集計期間の最終日に、更に1曲、「Slut! (Taylor’s Version)」のアコースティック・バージョンを追加した新しいデラックス・デジタル・ダウンロード・エディションをテイラーのサイト限定でリリースした、といったマーケティング・ギミックもかなり効いたのは間違いないところで、いやいやテイラー陣営、ここを先途とガンガンに売りにかかってますね。
さて、先週はテイラーの今回のアルバムが週間売上ミリオン超えしたことを受けて、過去ルミネート社が売上枚数をトラックし始めた1991年以降の週間売上枚数がミリオン超えのアルバムのランキングをご紹介しましたが、今回のアルバム1位でテイラーのナンバーワン・アルバムはトータル13枚となり、Billboard 200史上(1956年3月にアルバムランキング開始以降)歴代3位タイ、そして女性ソロアーティストとしては史上最多のナンバーワンアルバム保持者となってます。ここで、Billboard 200でのナンバーワンアルバム保持者トップ20ランキングを(カッコ内はナンバーワンアルバムの枚数)。
1.The Beatles (19)
2.Jay-Z (14)
3.Drake (13)
3.Taylor Swift (13)
5.Bruce Springsteen (11)
5.Barbra Streisand (11)
7.Elvis Presley (10)
7.Eminem (10)
7.Kanye West (10)
10.The Rolling Stones (9)
10.Madonna (9)
10.Garth Brooks (9)
10.Kenny Chesney (9)
14.Paul McCartney / Wings (8)
14.U2 (8)
14.Justin Bieber (8)
14.Future (8)
18.Led Zeppelin (7)
18.Elton John (7)
18.Janet Jackson (7)
18.Dave Matthews Band (7)
18.Beyonce (7)
テイラーは10年前時点ではナンバーワンはわずか3枚だったので、この10年でいかに一気に積み上げたかが良く判ります。やっぱ再録盤を相次いでリリースしてそれがことごとく1位になってるのも大きいですね。
そして今週210,200ポイント(うち実売164,800枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)という、通常ならぶっちぎりでナンバーワンを獲得していたはずのジョングクのソロ・アルバム『Golden』、残念ながらテイラーの後塵を拝して2位初登場に終わってます。可哀想というか、タイミングが悪かったというか。これでBTSのメンバーのソロがアルバムチャートで惜しくも2位となったのは、ジミンの『Face (EP)』、Agust Dことシュガの『D-Day』、そしてVの『Layover』に続いて今年何と4回目というから何とも不運。ちなみにジミンとシュガはモーガン野郎、そしてVはオリヴィア・ロドリゴにやられてました。てかジョングクの場合もう少しリリースタイミング工夫すれば楽勝1位だったんじゃないの?
作品の内容が、先行のジャック・ハーロウとコラボした「3D」(5位)やラットとのコラボでナンバーワンとなった「Seven」で判るように、21世紀メインストリームのヒップホップR&B・メローファンクチューン満載のすこぶる好盤だけに、是非ナンバーワン取って欲しかったところ。この間のVのソロもJojiを思わせるコンテンポラリーR&Bで良かったけど、ジョングクはもろマイケルとかジャスティン・ティンバレークの線で攻めていてそれがハマってるのがいいですね。今週Hot 100ではマイケル・トリビュートっぽい曲調とMVの「Standing Next To You」も見事5位に初登場してます。そしてこのジョングクのアルバムのトップ10入りで、BTSのメンバーとしては6人目の全米アルバムチャートトップ10入りを果たし、一グループのメンバーのソロ作のトップ10入り最多記録(6)を更新してしまいました(と思います)。彼らに次ぐ記録はビートルズとワンダイレクションの各4人だと思いますが、そもそもメンバーが6人以上で全員がソロ作を出しているグループは過去を含めて他には思い当たらないのでおそらく間違いない記録だと思いますね。凄いことです。
そして今週のトップ10にはもう一枚、先頃9月に惜しくも他界してしまった、Mr.マルガリータヴィル、ジミー・バフェットの遺作となった通算32作目になるアルバム『Equal Strain On All Parts』が53,000ポイント(うち実売51,000枚)で6位に初登場、前々作の『Life On The Flip Side』(2020年2位)以来で通算11作目のトップ10アルバムになっています。
ニューオーリンズを拠点に活動するジャズ・バンド、プリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンドを従えて、ゆったりとしたニューオーリンズ・ジャズ・スタイルで一瞬で和ませてくれる「University Of Bourbon Street」で始まるこのアルバム、全編を通じてジミーの気取らぬ、イージーゴーイングで人生楽しもうぜ!的ヴァイブが満載の、彼の人柄を偲ばせるホッコリ系のアルバムになってます。タイトルの「身体全体を均等に緊張させる」というのはジミーのおじいちゃんが昼寝することをユーモアたっぷりに表現していたのをタイトルに頂いた、ということで、正にうとうと昼寝しながらゆっくり聴くこともできそうな楽しいレコード。先日のストーンズのアルバム同様、サー・ポール(ジミーとは夫婦同士の付き合いだったよう)がベースを弾いている「My Gummie Just Kicked In」や、アフリカのベナン共和国出身のシンガーソングライター、アンジェリーク・キジョーをフィーチャーして、ワールド・トロピカル風で楽しい「Ti Punch Cafe」、そしてオリジナルが収録されてたボブ・ディランのアルバム『欲望(Desire)』(1976)でもバックコーラスに入っていたエミルー・ハリスをバックに気持ち良さそうにジミーが歌う「Mozambique」など、いろんなゲストを迎えてとてもこれが遺作とは思えないほど、しっかりした歌声を聴かせてくれるジミーが存分に楽しめます。パーティの席のバックに是非どうぞ。
さて、アメリカでは月末のサンクスギヴィング・セールを控えて毎年この時期はリリースが増える時期ですが、今週もトップ10内2枚初登場に加えて圏外11〜100位に6枚が初登場してますので、ちょっと急ぎ目に行ってみます。まずは18位にエントリーしてきたのは、カントリーのコディ・ジョンソン、メジャー3作目になる『Leather』。2019年のメジャーデビュー作『Ain’t Nothin’ To It』(9位)でブレイクし、昨年は「’Til You Can’t」(Hot 100 18位、カントリー1位)で初のカントリー1位とクロスオーバーヒットを果たしたコディ、残念ながら昨年のグラミー賞新人賞部門ノミネートは逃したものの、この曲で最優秀カントリー・ソングを見事受賞、今回満を持しての新作です。
基本トラディショナルなスタイルのカントリー・シンガーだし、この後に出てくるジェイソン・オルディーンのように右翼的なポジションを取ったりしないので、いい意味でもそうでない意味でもまあ安心して聴けるというか、安定したパフォーマンスで、今話題のジェリー・ロールとしみじみデュエットしてる「Whiskey Bent」なんかいいんですが、彼がジェイソン・オルディーンのあの歌を支持してるらしいのが気になります。
そしてもう一人カントリー。19位にエントリーしてきたのはその「Try This In A Small Town」で白人ナショナリズムを露わにして物議を醸したジェイソン・オルディーンのそのシングルを含む通算11作目のアルバム『Highway Desperado』。
あの曲を別にすれば、このアルバム自体は典型的なややロック寄りのポップ・カントリー・アルバムなので、まあ可も不可もないのですが、彼の奥さんのブリタニーも昨年、性同一障害者への偏見とも取れる、性転換反対の発言をインスタにアップしたことで、それまで17年間ジェイソンのPR会社を務めていたザ・グリーンルーム社から契約を破棄されるという騒ぎを起こしたりしていて、夫婦揃ってオープンにコンサバなスタンスを表明しているので、なかなか個人的には掘り下げたり支持したりしようという気が起きませんね。
そのちょっと下、21位にはアトランタ・トラップ・シーンの大御所、ジージーの通算13作目になるアルバム『I Might Forgive…But I Don’t Forget』が初登場。ちょうど自らのメンタル問題を吐露した本『Adversity For Sale』を上梓したばかりのジージー、今回はフィーチャリングを一切付けずピンでやっていながら、ATLジェイコブやキュービーツなど今旬のヒップホップ・サウンドメイカー達と一緒にさすがのソツのないオールド・スクール・サザン・ラップ・アルバムに仕上げてます。
今回は、デビュー後間もなくからここ20年くらい所属したジェイZのデフ・ジャムとの契約満了で自分のレーベル、CTEニューワールドからのリリースと言うことである意味心機一転のスタートとなるこの作品、タイトルやジャケ写の黒人少年の肖像(若い頃のジージーなのかも?)がいろいろ意味深に思えるのですが、詳細はわかりません。
ラッパーが続きます。ぐーっと下がって65位には、デトロイトのラッパー、ティー・グリズリーの4作目『Tee’s Coney Island』が初登場してます。デビューから3作続けてトップ20(うち、2018年のデビュー作『Activated』は全米10位)と上位に安定したチャート成績だったんですが、昨年リリースした2本のミックステープがいずれも100位に届かず、今回のアルバムもアルバムとしては始めてトップ20を外すことになってます。
デトロイトの割にはドリルっぽくなくて、どちらかというとオールドスクールなビートにところどころトラップっぽさを散りばめてるって感じで、フロウもなかなかタイトなやつなんで、まあまあの実力者だと思うのですが、ちょっとチャート的にはジリ貧傾向ですね。ゲストの顔ぶれも多彩で、先週圏外登場していたマライア・ザ・サイエンティストとクリス・ブラウンを配した90年代ラップ+シング・コラボっぽい「IDGAF」や、最近客演がやたら多い21サヴェージとのコラボの「Loop Hole」やマシン・ガン・ケリーをフィーチャーした王道トラップな「The Sopranos」などなかなか聴けるトラックも多いんですが。
そして87位にはこの夏フジロックでも初来日、その後ソロで日本公演もやってたNY出身の女性シンガーソングライター、キャロライン・ポラチェックの今年初めリリースの4作目『Desire, I Want To Turn Into You』が今頃チャートイン、彼女にとって初のチャートイン・アルバムになってます。何で2月のアルバムが今頃チャートインしてきたのかは不明ですが、彼女はフジロックだけでなく、今年2〜7月のデュア・リパの全米ツアーのオープニングも務めたり、その他のフェスにも結構参加してたみたいなので、そういうところで彼女を知ったファンが積み重なってこのタイミングでチャートインという形で実を結んだのかもしれません。もしそうだとすると結構今時にしてはクラシックなブレイクの仕方ですよね。
もともとこのアルバムの音楽メディアの評価は高く(メタクリティックで94点!)、オープニングのエレクトロ・パワーポップ・チューン「Welcome To My Island」は今をときめくオリヴィア・ロドリゴのプロデューサー、ダン・ネグロ(今回グラミー賞の最優秀プロデューサー部門にもノミネート)が共作・プロデュースしてますし、ヴァンパイア・ウィークエンドのプロデュースで有名なアリエル・レクトシャイドが共作・プロデュースするトリップ・ホップ調の2000年代風オルタナ・ポップ「I Believe」や、あのダイドとグライムスと共作・共演、3人オルタナ女性シンガーの饗宴曲「Fly To You」など、なかなかの楽曲満載です。フジロックでは一曲聴いてちょっと尖りすぎな感じがしてパスしたんですが、ちゃんと聴いとけば良かった。なお、このアルバム、今回のグラミー賞で最優秀エンジニアリング・アルバム部門(クラシック以外)にノミネートされてます。
今週最後の圏外100位までの初登場は、ギリギリ97位にエントリーしてきたマシュメロの5作目のアルバム『Sugar Papi』。2010年代半ば以降、アン・マリーとの「Friends」(2018年11位)、バスティーユとの「Happier」(同年2位)、ジュースWRLDとの「Come & Go」(2020年2位)など、いろんなアーティストとのコラボヒットを飛ばしてきたのですが、去年のカリードとの「Numb」(40位)以降ややシーンでの存在感に陰りがでてきた感じもあり、前作の『Shockwave』(2021年)はチャートインしなかったりしてたので、ちょっと彼もフェードアウト気味かなあ、と思っていたら今回久々にチャートインしてきました。
今回の久しぶりのチャートインの一つの要因だと思われるのは、今回全編今や旬のラテン系のアーティストとコラボして作られたマシュメロ初のラテン・アルバムだということ。レガトン・シンガーのアニュエルAAとのバウンシーな「Alcohol」やニッキー・ジャムとの「Say Woah!」などに加えて、今年のトレンドであるリージョナル・メキシカンのコリドーのバンド、フエルザ・レジーダとのガチでコリドーな「Harley Quinn」など、ホント全編ラテン。で、思ったのがこのアルバムでのマシュメロの存在感ゼロじゃん、ということ。まあレコードは少し売れたろうけど、次の一手が難しくなったんじゃないかなあ。
ということで今週100位までの初登場アルバムは計8枚でした。一方今週のHot 100でちょっと嬉しかったのは、先週「Hot 100にビートルズの新曲が影も形もない!」と嘆いていたら、おそらく集計期間とリリースタイミングのアヤだったのか、「Now And Then」は今週堂々7位に初登場。そして本国UKでも先週の42位から一気にナンバーワンをゲットしました!楽曲自体がいいかというとうーん、という感じもあるけども、あのPVを観たシニアファンがどっと反応したんでしょう。そういう歴史的イベントとしては結果につながってよかったな、と純粋に思いますね。これでビートルズとしては35曲目のトップ10ヒット(グループとしては史上最多更新)であり、彼ら最初のトップ10ヒットである「I Want To Hold Your Hand」(1964年1位)から数えて59年9ヶ月3週間目のトップ10ヒットになりました。この59年なにがしのスパンはこれまでの記録であるエルトン・ジョンの51年7ヶ月3週(1971年の「Your Song」〜2022年のブリトニー・スピアズとの「Hold Me Closer」)を破って新記録になってます(ホリデー・ソングを除く)。改めてビートルズというポップ・カルチャー・アイコンの偉大さを再認識した今週のチャートでした。では今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (1) (2) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <245,000 pt/122,000枚>
*2 (-) (1) Golden - Jung Kook <210,200 pt/164,800枚>
3 (3) (5) For All The Dogs - Drake <81,000 pt/215枚*>
4 (5) (36) One Thing At A Time - Morgan Wallen <65,000 pt/1,788枚*>
5 (4) (4) Nadie Sabe Lo Que Va A Pasar Mañana - Bad Bunny <60,000 pt/356枚*>
*6 (-) (1) Equal Strain On All Parts - Jimmy Buffett <53,000 pt/51,000枚>
7 (6) (8) Nostalgia - Rod Wave <45,000 pt/124枚*>
8 (9) (11) Zach Bryan - Zach Bryan <45,000- pt/2,914枚*>
9 (7) (55) Midnights ▲2 - Taylor Swift <43,000 pt/9,495枚*>
10 (10)(48) SOS ▲3 - SZA <42,000 pt/2,184枚*>
さて惜しくもジョングクがBTSメンバーでは4人目の2位どまりとなってしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:11/10-16)ですが、来週はいよいよテイラーが10万ポイントくらいには落ちてくると思うのでこれを超えるポイントを叩き出せそうなのが、クリス・ステイプルトンの新譜ではないか、と見てます。カントリーファンのみならずアメリカーナ・ロック・ファンにも根強いファン層を持つクリスのこと、実売で10万枚くらいはこれまでの実績から言っても叩き出してくる可能性あるので、テイラーと首位交代の可能性大ですね。それ以外にも来週はクリス・ブラウン、キッドLAROI、ピンクパンサレス、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインそしてリック・ロスとミーク・ミルのコラボ作なんかがトップ10に飛び込んでくる可能性あるので、久しぶりに賑やかなトップ10になりそうです。ではまた来週。