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今週の全米アルバムチャート事情 #96- 2021/9/11付

たまたま今週ご紹介するBillboard 200全米アルバムチャートの日付が、あの9-11の20周年に当たることに気が付いていろんな思いが頭をよぎりました。当時自分は勤務していた会社の駐在でNYにおり、当日朝はたまたまニュージャージーにオフィスのある某社を訪れるために、上司の乗ったリムジンをマンハッタンのミッドタウンの旭屋書店前で待っていました。リムジンに乗り込んで、ニュージャージーとマンハッタンを結ぶリンカン・トンネルに向かう途中、突然ラジオのアナウンサーが「World Trade Center is on fire!(貿易センタービルが火事だ!)」「Airplanes crashed into it!(飛行機が飛び込んだ!)」と怒鳴り始めた時のショック。そしてトンネルを抜けてニュージャージーサイドのPAで降りたって対岸のマンハッタン南端で恐ろしげな噴煙を上げて燃え盛る貿易センタービル…まるで悪夢の一場面のようなあの光景は一生忘れないでしょう。このタイミングでまたアフガンでのISISの攻撃に対して「報復」を口にするバイデン大統領を見るにつけ、いったいアメリカはこの20年で何を学んだのだろう、と暗澹たる気持ちにならざるを得ません。全ての9-11犠牲者の方々に、改めて深くご冥福をお祈りするばかり

さて今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、連動ポッドキャスト、今週はやっと日曜日に配信しました。でも今回はスポティファイ経由で音源も聞けるバージョン、是非上記のリンクから今週のポッドキャストをお楽しみ下さい。

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先週予想したように、今週9/11付Billboard 200全米アルバム・チャートの1位に初登場してきたのは、集計期間の週中の8/29のリリースなのにダントツの309,000ポイント(うち実売37,000枚)を叩き出した、そう、カニエ・ウェストの新作『Donda』。先週も触れましたが、このアルバム、出るよ出るよ、といいながら思いっきりリリースを引っ張る一方、その間7/22と8/5にアトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムNFLアトランタ・ファルコンズの本拠地)、8/26にはシカゴのソルジャーズ・フィールド(同じくNFLシカゴ・ベアーズの本拠地)と3回も『リスニング・イベント』なるお披露目ショーを開催。いずれもアップル・ミュージックがストリーミング配信したんですが、いずれも記録破りのストリーミング回数を記録したらしく(最初のアトランタでのリスニング・イベントは42,000人の観客を入れたらしい)、まあこういうぶっちぎりの1位は容易に予想が付いたところです。今回のポイントのうち、気になるストリーミング・ポイントは272,000ポイントと、オンデマンドストリーミング3.6億回相当というすさまじいもので、これは昨年3月に278,000ストリーミング・ポイント(4億回相当)を記録して1位に初登場した、リル・ウジ・ヴァートの『Eternal Atake』以来の記録になります。

そのリスニング・イベントを開催しながら、カニエはイベント開催したアトランタのスタジアムのロッカールームに急造スタジオを作って、最初の2回のイベント開催期間はそこに寝泊まりしてイベントごとにアルバムの手直しを繰り返したという、なかなかこれまでにないアルバム制作手法で作られたこのアルバム、カニエの作品にしては今回ゲスト陣も豪華。リル・ベイビー、ザ・ウイークンド、クリス・ブラウン、故ポップ・スモーク、ロディ・リッチ、ジェイZと新旧のR&B・ヒップホップスターが総出演。その中で物議を醸してるのが、先日ライブでゲイに対する差別的発言でその後のフェス出演を干されたリル・ベイビーと、パートナー虐待で訴訟中のマリリン・マンソンのゲスト出演。この二人は先週のシカゴでのリスニング・イベントにも登場したらしく(二人とも無言でカニエの後ろに立ってただけだったらしいけどw)、こういうメンツを起用するカニエのセンスには疑問符が飛びまくりますね。まあ、彼自身トランプ支持を表明したり、かと思うと突然大統領選に出馬したり、奥さんだったキム・カーダシアンとエロエロのPV作っときながら突然ゴスペルアルバム出したりと、まあ精神分裂的な不可解行動多いだけに今更驚かないんですが。そうそう、その離婚したはずのキム元夫人もこの3回のリスニング・イベントには全部登場したらしいんですが、一体どういうことになってるのやら?メディアの評価も前回の『Jesus Is King』同様厳しめでメタクリティックなんて前作と同じ53点しか付けてません。これってダメダメ評価ですよね

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さあとはいいながら今週はもう完全にドンダ祭りなわけなんですが(笑)先週も言ったように、世が世なら問題なく1位だったのに、というのが今週2位に初登場してきた、ホールジーの『If I Can’t Have Love, I Want Power』。何たって98,000ポイントなんで、これって過去10週のチャートのうち7週で余裕で1位になってるポイント数なんですよ。しかも実売70,500枚というのもかなりの枚数で、当然これ、今週のアルバム売上ナンバーワンの枚数なんです。ホールジーって去年のグラミーでも「Without Me」のナンバーワンヒットにもかかわらずガン無視されたりと、とかく不運なイメージが強いんですが、今回もタイミング悪かったねえ。

で、今回のこのホールジーのアルバム、彼女に取って大きな転機となってる作品。というのも、このアルバム、子宮内膜症の関係で何度か流産を経験した後にやっと今年7月に第一子を出産した彼女が、妊娠と出産をテーマに、何とナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーアティカス・ロスの二人をプロデューサーに迎えて、インダストリアル・ロックとゴシック・ロックの雰囲気とホールジー独自の世界が見事に渾然一体となった意欲作なんです。メディアからの評価も高く、メタクリティックでは80点取ってるほど。この子もビリー・アイリッシュとはまた別次元で自己変革を進めているのがすごいし、今回なかなか素晴らしい作品になっているこのアルバム、実は密かにリンジー・バッキンガムがギターで、そしてフーファイデイヴ・グロールがドラムスで参加してたりして、判ってる人のサポートもちゃんと得てるなあ、と。いやあ1位取らせてあげたかったなあ

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そして今週トップ10内初登場のもう1枚は、これも先週名前を出していた若干19歳のNYはクイーンズ出身(あのナズの出身と同じですね)のラッパー、リル・テッカの2作目のアルバム『We Love You Tecca 2』(30,000ポイント、実売1,000枚)が10位初登場。2年前(当時17歳か!)にあのジュースWRLDのプロデューサー、ニック・マイラインターネット・マネーの主宰、タズ・テイラーが手がけた「Ransom」(最高位4位)の大ヒットでいきなりブレイクした後は、シングルヒットをバンバン飛ばす、というよりはその「Ransom」を含むデビュー・ミックステープ『We Love You Tecca』(2019年4位)、ファースト・アルバムの『Virgo World』(2020年10位)と地道にアルバムやミックステープをリリースしながらファンベースを積み上げて来た、という感じ。

今回もポップでメロディアスな感じで得意のオートチューンも駆使しながらのトラップ集、というある意味メインストリーム・トラップ・ポップ路線を踏襲していて安定した作品になっています。そういう意味でいうとポスト・マローンの歩いて来た道を約2年遅れで歩いているようなリル・テッカ、これからまた一皮むけて大きくなるのでしょうか。

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今週のトップ10初登場は以上3枚。続いていつものようにトップ10圏外100位までの初登場アルバムをチェックしましょう。まず惜しくも11位初登場とトップ10を逃したのは、これも先週名前を出した、ライアン・テダー率いるワンリパブリック5年ぶりの新作『Human』。2005年にマイスペースにポストしたライアン作の「Apologize」で注目を集めて、これをティンバランドがリミックスしたバージョンが大ヒット(最高位2位)してブレイク以来、21世紀のメインストリーム・ポップの旗手として活躍を続けてきたライアンのいつものエレクトロ・サウンドとスケールの大きい楽曲スタイルは今回も健在です。前作『Oh My My』(2016年3位)以降この5年間はライアンの専らサウンドメイカーとしての活動が主で、2017年のカミラ・カベーヨのソロデビュー作を全面的に手がけたり、2019年に始まったNBCのソングライター発掘リアリティ・ショー『Songland』をプロデュースして主要審査員としても出演するなど多面的な活動を展開してきました。

ただ、そうしてワンリパブリックとしての活動が間が空いたから、って訳ではないんでしょうが、今回のアルバム収録に先立ってその間リリースされたシングル5枚がことごとくHot 100チャートインを逃してるのはちょっと気になります。今回アルバムリリースに合わせてリリースされた「Someday」も今週現在チャートインしてないし。アルバムの内容や、パフォーマンスは悪くないのでこのアルバムからも1枚くらいはヒットを飛ばしてもらいたいもんですが。

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続いて30位に初登場してきたのは、ボルチモア出身の5人組ハードコア・パンク・バンド、ターンスタイルの3作目で、これが初のBB200チャートインとなる『Glow On』。2018年のセカンド・アルバムからこの手のハード系のバンドが多く所属するロードランナーと契約、今回のアルバムからは、オルタナティブR&Bのブラッド・オレンジをフィーチャーしたちょっとムーディーなナンバー「Alien Love Call」をシングルカット、これがどうも話題を集めてのチャートインとなった模様です。

この手のバンドはまあ星の数ほどいるんですが、こういうジャンル関係なくコラボするという、90年代のミクスチャー・ロックにも通じる柔軟なスタンスはきっと彼らの今後のキャリアのプラスになるでしょうね。要注目かもしれません。

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続いてそのすぐ下、31位に初登場したのは、今年で結成10年を迎えて既に中堅の風格を備えつつあるスコットランドの人気シンセ・ポップ・バンド、チャーチズの4作目『Screen Violence』。女性ボーカル+男2人のシンセ・ポップ・バンドというメンバー構成は個人的に大好きなロンドン・グラマーともスタイル的にかぶるんだけど、チャーチズロングラのようにシアトリカルで壮大な感じではなく、小気味よくキレキレのポップ・ロックを聞かせるという感じで、日本のフェスにも何度か来日して確実な人気を持ってるバンドですね。

今回のこのアルバムもUKでは今週4位とまずまずの発進なんですが、USではこれまでの4作のうち最低順位での発進になってしまってます。聴いた感じ、今回も彼らの世界観をボーカルのローレンの美しく伸びのあるボーカルで小気味よく聞かせてくれていて、メディアの評価も大変いいので(メタクリティックでは81点)もう少し上に来ても良かったんでは、と思うんですが。あのキュアロバート・スミスをフィーチャーした「How Not To Drown」がシングルカットで話題になってます。

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そして「えーまだやってたんか!」と思わず呟いてしまったのは、2000年に「(Hot S**t) Country Grammar」(7位)の大ヒットでブレイク、「Hot In Herre」(2002年1位7週)、ケリー・ロウランドとのデュエット「Dilemma」(同年1位10週)などなど一成を風靡したセントルイス出身のラッパー、ネリーが実に8年ぶりにリリースした8作目『Heartland』で45位に初登場してきました。懐かしいなあ。

ネリーといえばティム・マグローとコラボした「Over And Over」(2004年3位)やフロリダ・ジョージア・ラインの「Cruise」(2013年4位)にフィーチャーされたりと、R&Bやヒップホップ・アーティストだけでなく、カントリー・ミュージシャンとのコラボも結構やって自分を差別化してきてるんですが、現在もフロリダ・ジョージア・ラインとのコラボシングル「Lil Bit」(23位)がヒット中の中、今回のアルバムはそのタイトルといい、テンガロン・ハットをあしらったジャケといい、全編カントリー・アーティストとのコラボやカントリーをテーマにした曲で固める企画もののようです。アルバム出してない8年の間も、自分の成功物語をテーマにしたTVリアリティ・ショー『Nellyville』などTV番組に出演したりと、自分の芸域をいろいろ広げてたようなので、今回の企画盤もその路線なんでしょうかね。柳の下にそう何匹もドジョウはいない気がするんだけどなあ。

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さてずーっと順位は下がって82位に初登場したのは、ビッグ・レッド・マシーンの初チャートインとなったセカンド・アルバム『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』。MLBファンならピンと来ると思いますが、このグループ名は、1976年にピート・ローズ、ジョニー・ベンチ、ジョー・モーガンらを擁してワールドシリーズ・チャンピオンになったあのシンシナティ・レッズの別名ですよね。後に「赤ヘル打線」で一時期を風靡した広島東洋カープがそのモデルにしたあの強力チームのことです。

でもそういうトリビアよりもこのバンドは、ザ・ナショナルアーロン・デスナー(ちなみにアーロンと双子の弟のブライスはシンシナティ育ちです)と、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンの2人によるインディ・フォーク・ロック・バンドだということがはるかに重要。そう、この二人ってあのテイラー・スイフトがコロナ下で制作して大ヒットアルバムになった『Folklore』と『Evermore』のプロデュースや楽曲提供、客演で最重要の部分を担った二人ですよね。その二人が織りなすこのアルバムでの世界観は、あのテイラーの二作の大きなインスピレーションになったに違いないことが手に取るようにわかる、そんなサウンドスケープに包まれた素晴らしい作品に仕上がっています。しかしこのBRMのコラボは、そのテイラーの作品の作られる10年以上前の2008年にスタート、BRMとしてのファースト・アルバムはテイラー作品の直前の2018年にリリースされてますので、テイラーがその作品を聞いて二人に声をかけた、というのがテイラー2作のきっかけではなかったか、と妄想するところです。

そのテイラーも「Birch」「Renegade」の2曲で客演しているこのアルバム、その他にもフリート・フォクシーズ、シャロン・ヴァン・エッテン、そして昨年素晴らしいアルバムを出したボニー・ライト・ホースマンの一人、アネイス・ミッチェルといった自分も大好きなインディー・フォーク・ロックのアーティスト達が参加しているのでアルバム買わねば!と思ってるところです。

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そして今週圏外100位までの初登場、どん尻は何とビーチ・ボーイズ。『Feel Flows: the Sunflower & Surf’s Up Sessions - 1969-1971』が83位に入ってきてます。ビーチ・ボーイズのコンピレーションというとレーベル・コンピから怪しげな編集盤まで星の数までありますが、こちらはビーチ・ボーイズの正規のアーカイブ・マネージャーであるアラン・ボイド制作のかなりカッチリしたアーカイブ・ボックスセットです。1970年のアルバム『Sunflower』と翌年の名盤『Surf’s Up』の時期に録音された音源をベースに両アルバムのリミックス・エディションを中心にして、何と108の未発表音源が収録されているとか。その中にはあのテリー・ジャックスの1974年のナンバーワン・ヒット「Seasons In The Sun(そよ風のバラード)」なんかもあってコアなビーチ・ボーイズ・ファン以外でもかなり楽しめそうです。

CD5枚組、CD2枚組、LP2枚組、LP4枚組の4パターンでリリースされたこの膨大な音源を含むボックスセット、ビーチ・ボーイズ・ファンなら見逃せないリリースですし、2018年から3年かけて(途中マイク・ラブがリリースになぜか待ったをかけたという噂がありますが)作り込まれたこともあり、メディアからは高い評価を受けてます(メタクリティックで86点)。まあこういうコアなボックスがアルバムチャートの100位内に入ってくるということは、ビーチ・ボーイズのコアなファンがやっぱり今でも多いんだなあ、と変に感心してしまいました。

ということで今週の100位までの初登場アルバムのご紹介でした。ここでいつものようにトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (-) (1) Donda - Kanye West
*2 (-) (1) If I Can’t Have Love, I Want Power - Halsey

3 (1) (15) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
4 (4) (10) Planet Her - Doja Cat
5 (7) (58) F*ck Love ● - The Kid LAROI
6 (9) (34) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
7 (6) (5) Happier Than Ever - Billie Eilish
8 (3) (23) SoulFly - Rod Wave
9 (2) (2) Trip At Knight - Trippie Redd
*10 (-) (1) We Love You Tecca 2 - Lil Tecca

カニエドンダ祭りの今週9/11付の全米アルバムチャート事情、いかがでしたか。さて恒例の来週1位予想ですが、これがまた悩ましい。というのは、対象集計期間の9/3-9の初日に今度は何とドレイクが新譜『Certified Lover Boy』をリリースし、これがまたアップル・ミュージックでの一日のストリーミング回数の2021年の記録を大きく塗り替えたというニュースが入ってきてるから。更にスポティファイでも自分の持ってた記録を破る一日のストリーミング回数記録を更新したらしいので、当初カニエがポイントを減らしても他と比べてダントツなので2〜3週は1位を続けるのでは?と思ってたけど、この調子だとわずか1週で来週はドレイクに1位から蹴落とされると見ました
来週はイマジン・ドラゴンズの新譜も出るんでトップ10には入ってくるでしょうが、今週のドンダ祭りから来週はドレイクCLB祭りになっちゃいそうです。ではまた来週。


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