今週の全米アルバムチャート事情 #211- 2023/11/25付
まずは大谷翔平選手、2度めの満票アメリカンリーグMVP受賞おめでとうございます!これで正に2023年のMLBシーズンがちゃんと締まったな、という感じが本当にする、それほどWBCでのエピックなパフォーマンスに始まった今年の大谷は圧倒的だったというしかないですね。この後、このオフで大谷がどこのユニフォームを着ることになるのかも大いに興味あるところですが、どこに行くにしても本人にとってベストの結果になって欲しいなと思います。
さて先週の予想では、クリス・ステイプルトンの新譜がテイラーを抑えて1位を取るのでは、と言ってたのですが、何と今週11月25日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位はこれがデビューから4作連続初登場1位となった、Kポップのストレイ・キッズの8曲入りEP『ROCK-STAR』(224,000ポイント、うち実売213,000枚)でした。でもおかしいんですよねえ、というのも自分がリリーススケジュールを毎週確認しているgenius.comの11/10のリリースリストにこのアルバムは影も形もないんですわ。だから予想のしようがないというか。以前にNCT127のリパッケージ・アルバムが別アルバム扱いになって上位に来たりとか、SEVENTEENのリパッケージ・アルバムが週中にリリースされて見落としてたりというのはありましたが、まったくリリーススケジュールになかったKポップのアルバムがリリースされて大売れするというのは今回が初めて。いったいどうなってるんでしょう。
しかしデビューから4枚連続1位というのは2001〜2007年にかけて同様に4枚初登場1位アルバムを続けたアリシア・キーズ以来の記録とのこと。そして、最初の1位(2022年4月の『ODDINARY』)から4枚目の1位までわずか20ヶ月での4枚1位連続達成というのは、2020〜2021年の16ヶ月で『Folklore』『Evermore』『Fearless (Taylor’s Version)』『Red (Taylor’s Version)』の4枚を1位に送り込んだテイラー以来の記録だというから、いかにストレイ・キッズの記録が規格外かがわかりますね。でも何でそこまで人気あるんでしょう。Kポップの場合、BTSのアーミーのように固定ファンがわっとCDを買い漁って初動のポイントが積み上がる、というのはよくあるパターンですがそれでもせいぜい10万ポイントレベルで、彼らのように前作そして今回と20万ポイント超えを叩き出すアーティストはなかなかないんですよね。しかもそれをほとんど韓国語のレコードでやってるところがある意味凄い。あと、このEP収録の曲「Social Path」ではあの『鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌を歌ったLiSAがフィーチャーされてて一緒にバリバリ英語で歌ってるなど、その向きのファンにも話題性ありということでまあそういうのもあって売れたんでしょうか。すいません、音楽性については全く語ってませんが、ちょっとテンション高すぎて自分とかはなかなか一曲通して聴ける曲がないんですわ。うーんやっぱり何でここまで人気あるかがよくわかりません。
そして1位予想だったクリス・ステイプルトンの『Higher』は90,500ポイント(うち実売57,000枚)という微妙に残念な出力で3位初登場にとどまりました。とはいえ、デビュー作にして彼最大のヒット作『Traveller』(2015年1位)から5作連続全米トップ3に送り込んでいる、その強力なアーティストパワーはやはり刮目に値するところです。今回もファースト以来彼のアルバムを手掛けている、今のアメリカーナ・シーンを代表するプロデューサー、デイヴ・コッブと共に、奥さんのモーゲインさん共々自らプロデュースを担当してます。
今回も冒頭の「What Am I Gonna Do」からゾクゾクっとするようなエモーションと深みのあるボーカルでいきなり持っていかれるこのアルバム、これまで自分はあまり気が付いてなかったけど、奥さんのモーゲインの存在感が今回一際強力で、4曲目の「It Takes A Woman」でのクリスとのハーモニー・ボーカルなんて心にガンガン響いてくる感じなんですわ。それに限らず、今回のクリスは全面とってもソウルフルでロックしてるのがいいです。「Loving You On My Mind」のギターなんてホントソウルで震えるし、シングルヒット中の「White Horse」(ちなみに共作者が、90年代に「Closing Time」の一発ヒットを出したセミソニックのダン・ウィルソン!)もこれまでにないスケールの大きい曲で、何となく今回のアルバム、クリスがまた次のフェーズに行ったなという感じがしていやあいいですわ。今年の自分のベスト・アルバムはザックかな、と思ったけどこのアルバム急上昇してます。
今週トップ10のもう1枚の初登場は、45,000ポイント(うち実売6,000枚)で9位に入ってきた、クリス・ブラウンの通算11作めになるその名も『11:11』。今回彼はこの11という数字にこだわってるようで、当初リリースも11月11日(実際はチャートサイクル初日の11月10日リリース)にすると言ってたり、2枚組アルバムのそれぞれに11曲ずつ収録した計22曲だったりという感じです。オチとしては、UKチャートでの初登場が11位。やったねクリス(笑)。
中身を聴くと、やっぱりいろいろ言動がおかしかったり、お騒がせなことも多いクリスですが、やっぱり歌は巧いし、華のある楽曲が多いですねえ。アフロビートが流行りだというので、ナイジェリアのダヴィドとロージェイをフィーチャーした「Sensational」ではアフロビート風をやってみたりしてますが、彼の信条はやはりマイケル直系のメインストリームR&B・メロウファンク系だな、というのを再認識するアルバムになってます。今回のグラミー賞の最優秀R&Bパフォーマンス部門にノミネートされたシングルの「Summer Too Hot」なんて実に王道のクリス節が堪能できる楽曲。彼のそういうアーティスト・パワーは今回も含めデビュー以来リリースするアルバムはすべてトップ10に送りこんでることが証明してますね(実は今回の9位が一番低い順位ですが)。
以上トップ10内初登場は今週3枚でしたが、先週も賑やかになるのでは、と予想したようにトップ10に入れなかったアルバムが結構11位以下100位までに入って来ていて、今週は7枚が初登場してます。ちょっと走り気味に行きますね。その筆頭は17位に入って来た、相変わらず多作のヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインの今年4作目のミックステープ『Decided 2』。
今回もいつものようにちょっとエフェクターで処理した声で聴きやすめのトラップ楽曲で固めてますので、まあ代わり映えはしません。今回唯一のゲスト、ロッド・ウェイヴがフィーチャーされた「Better Than Ever」も特に代わり映えはありませんね。でもそれでも彼の場合、こうしてトップ20には叩き込んでくるあたりが根強い人気を感じさせます。
そして同じラップ系でもこっちはどーんと構えたオールドスクールなトラックで迫って来てるのが、23位にエントリーしてきたマイアミの親分、リック・ロスとミーク・ミルのコラボ・アルバム『Too Good To Be True』。この取り合わせならトップ10は堅いと思ったんですが、こういう順位止まりになってます。
冒頭の「Shaq & Kobe」とか(リリックの内容は自分達が成り上がってきたことで終始してるみたいで、2人のNBAレジェンドは関係ないみたいw)、ティアーズ・フォー・フィアーズの「Shout」をベタにサンプリングしてる「Go To Hell」とか、DJキャレドやテイアナ・テイラーをフィーチャーしたR&Bチックな「Above The Law」とか、話題性は満載ですが、ちょっと決め手に欠ける嫌いはあるかもしれません。
続いては26位に初登場してきたキッドLAROIのファースト・フル・アルバム(2020年に1位になった『F*ck Love』はミックステープ扱い)『The First Time』。今メインストリーム・ポップとヒップホップのミクスチャーでキャッチーなサウンドを聴かせる彼の面目躍如的な内容のよくできたアルバムだと思いますが、これもトップ10に入るかなあ、と思ってたらこの順位でした。
このアルバムのハイライトは何といってもキッドLAROIと今をときめくBTSのジョングク、そしてUKのラッパーとしては今一番イケてるセントラル・シーが豪華饗宴してて、曲もキャッチーな「Too Much」。UKではトップ10ヒット(10位)になってるのにUSではイマイチウケてないのがちょっと解せませんが、ジャスティン・ビーバーも共作者に名を連ねるこの曲、全体的にポップでキャッチーながらエッジのある楽曲群の中でも一際光ってますね。
今週はBB200のトップ40は初登場が多いですが、続いて28位初登場してるのは、NY出身のメット3兄弟によるインディー・ポップ・バンド、AJR(グループ名は兄弟アダム、ジャック、ライアンの頭文字)の5作目『The Maybe Man』。前作『OK Orchestra』(2021年10位)、前々作『Neotheater』(2019年8位)と2作連続トップ10達成してましたが、コロナ後初の新作はシングルヒットの不在も響いてかこの順位になってます。
一方本来このアルバムのリリースを予定していた今年7月に彼らの父親が病気で他界したことから、このアルバムは彼ら3兄弟にとって特別な意味を持つものになったようですね。作品全体はこれまでの彼らのスタイルである、ややエレクトロ寄りのメインストリーム・ポップ・チューンで固められていて、非常に聴きやすいアルバムです。
続いて33位にエントリーしてきたのは、今週はストレイ・キッズだけではなかったKポップ・パワー!というわけで4人組のガール・グループ、エスパ(aespa)の4枚目のEP『Drama: The 4th Mini Album (EP)』。まだフルアルバムのリリースのない彼女達ですが、前作EP『My World』(今年9位)と前々作EP『Girls』(2022年3位)とトップ10を2作続けていただけに今回はやや残念な順位に。
彼女達、前々作くらいから北欧のソングライターやミュージシャン達が中心になって作った楽曲に、韓国語の歌詞を付けて歌う、というスタイルを取ってますが、今回もその路線。曲のスタイルはこれまで同様、ちょっとエッジの立ったヒップホップ・テイストをまぶしたR&B、あるいはダンス・ポップ、といった感じである意味特に目新しいところもないので、次作やリリースが待たれるフル・アルバムのヒットには、何か一工夫必要かもしれません。
そこからぐーっと下がって何と61位初登場と、先週トップ10入りを予想したのに大きくその期待を下回ってるのが、ピンクパンサレスの初フル・アルバム『Heaven Knows』。アイス・スパイスをフィーチャーした大ヒットシングル「The Boy’s A Liar, Pt. 2」(Hot 100最高位3位)でブレイクした直後のアルバムで、そのヒットも収録されてるんでこれは当然トップ10、と思ったのですが意外と伸びませんでした。本国UKでも今週28位初登場とイマイチ冴えないチャートアクションになってます。
今回のアルバムも、前作のEP『To Hell With It』(2021年73位で聴かせてくれた、ドラムンベースのテイストを感じさせる軽快なエレクトロ・ポップ・チューン満載で、期待には充分応えてる内容ですね。音楽メディアの評価も上々です(メタクリティックス79点)。前回のEPは収録曲がほとんど2分以下の正しく今時のSNSやネット発信コンテンツをそのままレコードにしたような感じだったのが、今回はデビュー以来サウンドメイカーとして彼女をバックアップしてきたムラ・マサ(本名:アレクサンダー・ジョージ・エドワード・クロッサン)に加えて、ヒットプロデューサーのグレッグ・カースティン(アデルの仕事で有名)をプロデューサーに迎えて2~3分の楽曲をしっかり13曲収録したプロフェッショナル度をぐんと上げた作品になってるので、もっとチャート上でも頑張って欲しいものですが。
そして今週100位までで最後の初登場は、74位に入って来たコダック・ブラックの今年2枚目、通算6作目のアルバム『When I Was Dead』。今年5月リリースの前作『Pistolz & Pearlz』(19位)でこれまで契約していたアトランティックとの契約が満了したので、昨年末契約したキャピトル(現在はユニヴァーサル傘下)からリリースの最初のアルバムになります。
今回もいつものように、メトロ・ブーミン、ボイ・1ダ、そして変わったところでは最近までNFLのクリーヴランド・ブラウンズのディフェンシヴ・エンドだったというユニークな経歴のメジャー・ナイン(本名:チャド・トーマス)といったサウンドメイカーと作ったお馴染みのトラップ・ベースのエモなトラックに載せてラップしてて、何が変わった、ということもないのですが「Super Gremlin」のようなヒットシングルも全く最近でておらずついにアルバム初登場がこの順位まで落ちてきてしまいました。キャピトルとは高額契約だったと思うので、今後盛り返さないと彼的にはまずいんでしょうが、トラップ中心のスタイルの人気が下がってきている昨今、なかなか厳しいかもしれません。
ということで今週は100位までの初登場アルバムが計10枚と、いつになく盛り沢山な全米アルバムチャートでしたね。さて今週のHot 100の方はテイラーの「Cruel Summer」が通算4週目の首位をキープしてますが、今週ビックリしたのは、毎年12月第1週に発表される年間チャートが何と集計対象期間最終チャートである今週のチャートが発表されたと同時に今週水曜日には発表されてしまったこと。2007年以降毎年発表前に急いで年間チャート予想をアップしてきた自分としては「ええええー、早すぎるよ。予想する暇ないじゃん!」という感じなのですが。結果(こちらから見れます)は、日曜日授賞式があったビルボード・ミュージック・アウォードで11部門受賞と、2019年のドレイクの12部門以来の最多部門受賞したモーガン野郎の「Last Night」(Hot 100 42週、最高位16週1位)がまあチャート的には当然の1位。続く2位がマイリーの「Flowers」(Hot 100 44週、最高位8週1位)、3位がSZAの「Kill Bill」(Hot 100 49週、最高位1週1位)と、それぞれまあ納得の結果にはなってます(いずれもHot 100週数は今週現在で継続中)。
いずれの曲も、モーガン野郎はカントリー・チャート25週1位、マイリーはアダルト・コンテンポラリー・チャート33週1位(今週も継続中)、そしてSZAはR&Bチャート30週1位と、それぞれのジャンル・チャートで長期1位を記録した曲なのでそういう意味からもこの順位はまあ順当でしょう。ということで予想する前に発表されてしまったので今年の年間チャート予想はアップしません、というかできないわな(笑)。ま、12月アップ予定の2023年総括ブログで、自分の手法で集計した年間チャートの比較くらいはするかもしれません。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) ROCK-STAR - Stray Kids <224,000 pt/213,000枚>
2 (1) (3) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <159,000 pt/65,895枚*>
*3 (-) (1) Higher - Chris Stapleton <90,500 pt/57,000枚>
4 (3) (6) For All The Dogs - Drake <72,000 pt/179枚*>
5 (4) (37) One Thing At A Time - Morgan Wallen <68,000 pt/2,901枚*>
6 (2) (2) Golden - Jung Kook <56,000 pt/34,807枚*>
*7 (9) (56) Midnights ▲2 - Taylor Swift <52,000 pt/12,231枚*>
8 (5) (5) Nadie Sabe Lo Que Va A Pasar Mañana - Bad Bunny <49,000 pt/229枚*>
*9 (-) (1) 11:11 - Chris Brown <45,000 pt/6,000枚>
10 (8) (12) Zach Bryan - Zach Bryan <45,000 pt/3,826枚*>
リリーススケジュールに影も形もなかったストレイ・キッズがいきなり席巻してしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:11/17-23)ですが、来週はテイラーもストレイ・キッズも10万を割り込むと思われるので、10万ポイントをしっかり叩き出せる新譜があれば、ということですが、パッとリリーススケジュールを見たところ可能性があるのが2チェインズとリル・ウェインのコラボ・アルバムですが、これに対抗しそうなのが6曲のボートラを追加してデラックス・バージョンが出るドレイクの『For All The Dogs』。可能性としてはドレイクの1位復帰の可能性けっこうありますね。これ以外でトップ10に入ってきそうなのが、アウトキャストのアンドレ3000のインスト(!)アルバム、そしてKポップのENHYPENあたりでしょうか。ではまた来週。