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今週の全米アルバムチャート事情 #178- 2023/4/8付

桜爛漫が終わりを告げようとしている今週、坂本龍一さんの訃報が飛び込んできて年初から続く内外の大物アーティスト達の訃報の止めを刺すかのように、ずっしりと重くのしかかっています。今週急遽NHKで放送された坂本さんの最後の魂のこもったようなピアノパフォーマンスを観るにつけ、正しく大きな才能を失ってしまった、という喪失感が半端ないという感じです。改めて心よりのご冥福をお祈りします。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週4月8日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、先週予想したBTSジミンのソロ・アルバムがモーガン・ウォレンを1位から引きずり下ろすことが期待されてたんですがモーガンが先週の209,500ポイントからわずか6%減の197,000ポイント(うち実売17,000枚)と思いの他粘り腰を見せて、164,000ポイントとかなりでかいポイントを稼いだジミンをかわして4週目の1位をキープしてしまいました

今週はストリーミングポイントが依然高止まりしているだけでなく(先週比8%減でオンデマンドストリーミング2.36億回相当)何とアルバム実売が36%もアップしてることもポイントが落ちなかった要因のようです。今週売上が急にアップしたのは、これまでCD・デジタルのみだったのに加えて今回ヴァイナルがリリースされたからのようで、今週のヴァイナル・チャート6位に初登場しちゃってますね。この分だと来月アルバムのサポートツアーが始まるとますますポイントが下がりにくくなることが予想されるので、ちょっと気分が暗くなってしまいますわ、個人的には。ホントにどんだけモーガン・ウォレン好きなんだよ、アメリカ人って感じ。

"Face (EP)" by Jimin

16万ポイント超えというKポップでもかなり強力なポイントを叩き出しながら、残念ながらモーガンを上回れず2位初登場に甘んじたのがBTSジミンのデビュー・ソロアルバム『Face』。164,000ポイントのうち実売124,000枚で今週だけでなくソロとしては今年最大の週間売上でもちろんアルバム・セールス・チャートはダントツの1位でした。彼の場合セールスもさることながら、今週Hot 100で初登場1位を飾ったシングル「Like Crazy」のトラック・ダウンロード・ポイントが通常より遙かに高い26,500ポイント(去年11月のテイラーAnti-Hero」の34,000ポイント以来の高ポイント)ってのも大きかったみたい。でもモーガンには及ばず。残念。

その「Like Crazy」でKポップのソロ・アーティストとして初のHot 100の1位を記録したジミン、ビルボード誌が「ビートルズ、シュープリームスに並んで、6曲以上のHot 100の1位を持つグループとそのメンバーの両方がHot 100の1位を記録した3組目になったBTS」という記事を出してます。まあデータ的にはそうですが、同じレベルで語るのはやや強引かな、というのが個人的な感想。というのもある音友の調べによると、Hot 100のポイント集計対象となっているサイトの一つに、BTSTXT、エンハイプンなどが所属する韓国のHYBEが運営しているWeverse(ウィバース)が含まれているようで、韓国やアメリカのファンはデジタル購入やストリーミングで世界で180万人以上の会員を持つこのサイトを集中的に使ってるのがかなり影響を与えているのではないか、ということのよう。信憑性のほどは要確認でしょうが、そういう組織的な動きが大きく影響しているようであればこの曲のHot 100首位の妥当性にも疑問符が付きそう、ということ。あと、このアルバムやシングル、聴いてみたんですが正直80年代のエレポップをなぞってるだけのような感じで個人的にはまったく面白くなかったというのもこの記録達成に素直に驚けない要因かも(昨年末出たRMのソロアルバムの方はかなり良かったですが)。そして来週この曲がHot 100に残ってるかどうかも疑問です。その場合1位初登場、次週圏外という別の史上初の記録になるかも(過去の1位初登場曲のHot 100滞在最短記録は2020年のBTSLife Goes On」の3週)。

"Did You Know That There's A Tunnel Under Ocean Blvd" by Lana Del Rey

それよりもおお!と思ったのはラナ・デル・レイの久々の新作『Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd』が115,000ポイント(うち実売87,000枚、ジミンがいなけりゃぶっちぎりのアルバム・セールス1位でしたがw)と2019年の『Norman F**king Rockwell』(3位)以来の10万ポイント超えで3位に初登場してきたこと。前作『Blue Banisters』(2021年8位)がやや地味なチャートパフォーマンスで、このままジリ貧だといやだなあ、と思っていたのでこの快進撃は喜ばしい限り。相変わらずUKでは強くて今週堂々の1位初登場です。

今回も前回『Blue Banisters』で彼女初期のダークネスな感じに回帰した路線をそのまま継続していますが、楽曲スタイルとしてはピアノ主体のオルタナ・ポップを中心に、ゲスト・ミュージシャンに昨年のグラミー賞を席巻したジョン・バティーストとの「Candy Necklace」、インディ・フォークのファーザー・ジョン・ミスティとのアコースティックな「Let The Light In」、カナダ人女性ラッパーのトミー・ジェネシスを配してちょっとヒップホップ的な「Peppers」などいろんな楽曲スタイルをトライしているような感じを受ける内容になってますね。アルバムクロージングには『Norman F**king Rockwell』収録の大作「Venice Bitch」の初期のデモバージョンだという「Taco Truck x VB」を配するなど、彼女の作品をフォローしている者にとってなかなか興味深い構成なのもいいですね。メイン・プロデューサーはいつものジャック・アントノフです。

"Gettin' Old" by Luke Combs

そしてそれに続いて4位に初登場してきたのがカントリーのルーク・コムズの4作目『Gettin’ Old』(101,000ポイント、うち実売32,500枚)。前作の『Growin’ Up』(2022年2位)と同じセッションでレコーディングされた作品で、ジャケも両方並べるとルークのポートレートが出来上がるデザインになってたり、今回のオープニングトラックが「Growin’ Up And Gettin’ Old」というタイトルだったりと、この2枚は併せて楽しんで欲しい、ということのようです。

既にシングル「Love You Anyway」(最高位15位)や「5 Leaf Clover」(今週33位上昇中)がHot 100でも躍進中ですが、このアルバムで一番気になるのはトレイシー・チャップマンの「Fast Car」(1988年6位)のカバーでしょうね。自分が生まれる前にヒットしたこの曲を今回取り上げた背景は結構興味ありますが、実にオリジナルのアレンジに忠実にまじめにカバーしているその姿勢はなかなか好感が持てますね。そういうこともあってか、ルークは前作の『Growin’ Up』もUKで9位と初のトップ10入りしてましたが今回もUK5位とイギリスでも着実にファン層を増やしているみたいです。誰かと違って、変なギミックとかなくて、真摯なスタイルがいいんですよね。ちなみにこのアルバムも含めて、同じ週で10万ポイント超えのアルバム4枚というのは、テイラーの『Folklore』が初登場した2020年8月8日付のチャートで、テイラー、ロジックの『No Pressure』、ジュースWRLDの『Legends Never Die』そしてポップ・スモークの『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』が同時10万ポイント超えして以来だそうです。前回がテイラー以外はヒップホップだったのに対し、今回はカントリー、Kポップ、オルタナ・ポップとかなり多様性に富んだ顔ぶれで、そういう意味では今週のチャートはとても健全だと言えますね。

"So Much (For) Stardust" by Fall Out Boy

今週もう1枚のトップ10内初登場は、6位に入って来たフォール・アウト・ボーイの5年ぶりの新作になる8作目『So Much (for) Stardust』(64,000ポイント、うち実売49,000枚)。前作『Mania』(2018)で3作連続アルバムチャート1位を決めながら、Hot 100ヒットが出ないなど、やや煮詰まり感があったところから今回は時間をおいてじっくりアルバム作りに集中した、とボーカルのパトリック君が言ってますが、何となく初期のポップ・パンク・スタイルに回帰しているような感じもあるこのアルバム、なかなか悪くないですね。UKでも今週3位初登場と好調です。

今回スカッと抜けた感じのハード目ポップな先行シングル「Love From The Other Side」は彼らに取って初のオルタナティブ・エアプレイ・チャート(旧モダン・ロック・チャート)1位を記録したり、アルバム自体に対する音楽メディアの評価もかなり高い(メタクリティック80点)ので、パトリック君のいう「じっくりアルバム作りに集中した」のが功を奏しているようです。単にハイテンションの曲だけでなく、1994年の映画『Reality Bites』のイーサン・ホークのダイアログから始まって、映画音楽的なスケールの大きいオーケストレーションをフィーチャーした「The Pink Seashell」みたいな曲もあったりして、バンドのメンバーがいろんなアイデアを持ち寄って時間をかけて作ったんだな、というのがよく判る作品になってますね。

"Memento Mori" by Depeche Mode

以上がトップ10内ですが、今週の圏外11位から100位には4枚が初登場。そのうち一番上の14位に入ってきてるのは、本国UKではラナ・デル・レイフォール・アウト・ボーイに挟まれて堂々2位初登場、USでもトップ10くるんじゃないかなあ、と思っていたデペッシュ・モード15作目にして6年ぶりの新作『Memento Mori』。オリジナル・メンバーでキーボード担当だったアンディ・フレッチャーが昨年大動脈解離で急逝後、初めての新作になります。

今回のアルバムには、2020年コロナ禍が始まった頃にリーダーのマーティン・ゴアサイケデリック・ファーズリチャード・バトラーの誘いで一緒に曲を書いたうちの5曲が含まれていて、アルバムタイトルの意味(ラテン語で「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」)やフレッチャーの急逝なども影を落としているような重さがある一方、80年代のデペッシュを思わせるようなエレポップぽさもふんだんに感じられる作品になってます。メディアの評価も高いですね(メタクリティック85点)。

"Since I Have A Lover" by 6LACK

続いて24位には、アトランタ・ベースのラッパー兼シンガー、6LACK(ブラック)の3作目になる『Since I Have A Lover』が初登場してます。各方面からの評価が高かった前作『East Atlanta Love Letter』(2018年3位)以来5年ぶりの新作で、リル・ティジェイのヒット・シングル「Calling My Phone」(2021年Hot 100最高位3位)にフィーチャーされるなどR&Bやヒップホップ系のいろんなアーティストの作品にフィーチャーされてて名前はよく見る6LACKですが、今回の作品ではゲスト・アーティストもワレイドン・トリヴァーくらいに絞って、なかなかにクールでグルーヴ満点の自分の世界観を展開していていい感じです。

アルバム全体のスタイルはヒップホップというよりもオルタナ・ポップの雰囲気をなみなみ湛えたR&B、という感じで、最近のR&Bに多いエレクトロ系がガンガンに入ってる感じでもなく、オーガニックな楽器音とシンセ系のサウンドがほどよくバランスされている感じが気持ちいいですね。結構これから聴き込んだらハマるかもしれないです。

"The Dark Side Of The Moon: Live At Wembley, London, 1974" by Pink Floyd

一方、49位に入って来たのは日本では3/24にソニー・ミュージックさんが堂々リリースしてくれた、ピンク・フロイド狂気』50周年記念デラックス・ボックスにも含まれていた、1974年ロンドンのウェンブリー・アリーナでのライブ音源を収録した『The Dark Side Of The Moon: Live At Wembley, London, 1974』の単体盤。最近のヴァイナル人気も後押しして、アルバム・セールス・チャートでは今週8位、そしてヴァイナル・チャートでは堂々今週5位に初登場、ちょっとした『狂気』祭りの様相を呈してます(笑)

本体のデラックス・ボックスにはフロイドの仕事で知られる名エンジニア、ジェイムス・ガスリーによる『狂気』のリマスター盤とこのライブ盤、5.1サラウンド・ミックスとドルビー・アトモス・ミックスによる『狂気』を収録したブルーレイディスク2枚とDVDが同梱されてて、『狂気』ファンにはたまらないパッケージになってるみたいです。何といってもオリジナル盤はリリースされた1973年には全米1位(UKでは最高位2位)、その後何度かチャートインし、今週のBB200でも172位→48位に上昇、通算977週目のチャートイン継続中のオバケアルバム。そして全米のクラシック・ロック・ファンにはたいそう人気ある作品なので、この人気もむべなるかな、ですね。自分もこのライブ盤のヴァイナルは買ってもいいかなあ、と思ってます。

"Scaring The Hoes" by JPEGMAFIA & Danny Brown

そして今週100位までの最後の初登場は、NYはブルックリン・ベースのラッパー、JPEGMAFIAがデトロイト出身のラッパー、ダニー・ブラウンとコラボしたアルバム『Scaring The Hoes』。「あばずれ女を怖がらせて」なんていうタイトルはあんまりいい気はしなかったんだけど、ジャケが70年代のブラック映画のパロディみたいだし、聴いて見るとこれがいろんなサウンドビッツやサンプリングをグシャグシャに混ぜこぜしたようなトラックが満載で、オーストラリアのサンプリングオタクのデュオ、アヴァランチーズのアルバムを聴くような感じでこれ、なかなか面白いです

何でもこのアルバム、ローランド社SP-404ヤオヤ808の発展機種か?)というサンプリング・ワークステーションだけを使って作ったらしく、R&B系のサンプリング満載の「Orange Juice Jones」(80年代のR&Bシンガー、オラン・ジュース・ジョーンズと明らかにひっかけてる)とか、何故かジャズ系のサンプリングを随所に使った、かの白人ラッパーをおちょくるかのような「Jack Harlow Combo Meal」とか、なかなか楽しいわこれ。「Garbage Pale Kids」っていう曲なんて日本のニチロマルハのジンギスカンのCMをサンプリング(上記PVを見よ!)してていやはやいろいろやってくれてます。メタクリティックも85点取ってて評判も最高、ヒップホップ・ファン必聴かも!

今週の初登場は100位までに計8枚と久しぶりににぎやかなチャートでしたね。モーガン・ウォレンのヴァイナルが出たという話をしましたが、今週トップ10のアルバムでは、メトロ・ブーミンのアルバムもヴァイナルが出たようで、4枚の新譜がトップ10入りして他のアルバムが軒並み順位を下げる中、メトロ・ブーミンだけは順位を維持してますね。では今週のトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (4) One Thing At A Time - Morgan Wallen <197,000 pt/17,000枚>
*2 (-) (1) Face (EP) - Jimin <164,000 pt/124,000枚>
*3 (-) (1) Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd - Lana Del Rey <115,000 pt/87,000枚>
*4 (-) (1) Gettin’ Old - Luke Combs <101,000 pt/32,500枚>

5 (2) (16) SOS ▲ - SZA <70,000 pt/268枚*>
*6 (-) (1) So Much (For) Stardust - Fall Out Boy <64,000 pt/49,000枚>
7 (3) (23) Midnights ▲2 - Taylor Swift <59,000 pt/11,555枚*>
*8 (8) (17) Heroes & Villains - Metro Boomin <45,000 pt/15,800枚*>
*9 (7) (116) Dangerous: The Double Album ▲4 - Morgan Wallen <43,000 pt/1,723枚*>
10 (6) (5) Mañana Será Bonito - Karol G <40,000 pt/1,391枚*>

教授は星になってしまったけど、桜の終わりと春本番になろうかという今週、久々に多くの初登場アルバムをご紹介できた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想です。来週も引き続きモーガン・ウォレンのアルバムがどのくらいポイントを減らすかがキーですが、今週の感じだとせいぜい減って1~2割、従って来週も15万ポイントは維持してるでしょう。では対象期間の3/31~4/6で15万ポイント以上叩き出せる新譜が出るか?うーん残念ながらそんなアルバムは見当たりませんね。個人的にはフィービー・ブリッジャーズジュリアン・ベイカールーシー・ダカスのスーパートリオ、ボーイジニアスのアルバムがトップ10入りしないかと期待してますが。残念ながら来週もモーガン野郎の1位が続きそうです。ではまた来週。

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