今週の全米アルバムチャート事情 #201- 2023/9/16付
今週月曜日は22回目の9−11(「同時多発テロ」などという日本の呼び方はまったくしっくり来ません)の日でした。あの日の朝、マンハッタンにいて、あのとんでもない出来事のショックと、ハドソン川越しに見た禍々しい黒煙を吹き上げるワールドトレード・センターの姿は一生忘れません。犠牲者の方々の心からの冥福を改めて祈るとともに、世界に一日も早く平和が訪れますように。
さて今週9月16日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位は、先週1位初登場を決めたザック・ブライアンの『Zach Bryan』が予想通りポイントを減らしながらも115,000ポイント(うち実売3,000枚)としっかり10万ポイントを確保して2週目の首位をキープしてます。先週もコメントしたように、先週同様90%以上がストリーミングポイント(今週は対先週比77%減ながら111,000ポイントと全ポイントの96%を占めてます)で、フィジカルリリースは来月までなく実売の伸びは期待できないので、来週は7〜8万ポイントくらいまでは落ち込んでしまうと思いますし、来週のチャートは強力な新譜が飛び込んで来ますので、ザックの首位は今週まででしょうね。来月フィジカルリリースで1位返り咲きを期待しましょう。
彼のこのアルバムがチャートインして以来、繰り返し聴いてますが、前作の『American Heartbreak』が長年ザックが机の引き出しにためていた、社会全体や自分自身の人生、男女関係に対する感情や思い、考えなどをあるがままに綴った楽曲で埋め尽くされていたのに対して、今回のアルバムでは、より自分自身の信念というか、一本軸を持った価値観や世界観に基づいて綴られた私小説的な雰囲気を強く感じてます。彼自身も言っているように、売れたからと言ってチャートトッパー作品を作ろうとは思わず、あくまで自分の「うた」を綴るという姿勢に一点の揺るぎもないところに、大きな共感と魅力を感じますし、前作ではなかった、ウォー&トリーティ、ケイシー・マスグレイヴス、ルミニアーズといったゲストとの共演も、ザックが価値観を共有できそうなミュージシャン達を選んだことで彼の世界観を補強する結果につながっているのがいいところ。ブルース・スプリングスティーンやジョン・メレンキャンプといった、アメリカン・ハートランド・ロックの系譜を、ナッシュヴィルという保守層の支持も受けながら、しなやかに、エモーショナルに、そして清冽に表現しているザック・ブライアン。今年の自分の年間アルバム・ランキングの上位に入ってくることは間違いなさそうです
そして初登場ではないですが、嬉しくもほろ苦いチャートインとなったのが、今週4位に再登場してしてきた、先日9月1日に76歳で亡くなったジミー・バフェットのベスト盤『Songs You Know By Heart: Jimmy Buffett’s Greatest Hit(s)』(52,000ポイント、うち実売15,500枚)。1985年リリースのこのアルバムが1985年12月に記録していたそれまでの最高位100位を大きく今回上回るチャートアクションになりました。きっと彼の訃報を聴いて、70年代に彼の歌をよく聴いていたファンも、そしてつい最近までリゾート各地で行っていた彼のライブに親しんでファンも、自分と同じようにみんな彼の代表曲「魅惑のマルガリータヴィル(Margaritaville)」(1977年最高位8位、今週Hot 100の38位に再登場してます)や「Cheeseburger In Paradise」(1978年32位)なんかをストリーミングでこぞって聴いてたんだろうなあ。
彼の音楽の魅力は、ただひたすら親しみやすく、聴く者を楽しい気分にさせてくれること。だからいわゆるヒット曲とは1980年代以降縁がなくても、シニア中心にライブには多くのファンがつめかけたし、そうしたステージのライブ盤も含めて、2〜3年ごとにコンスタントに出すアルバムは常にチャート上位にランクイン(直近では2020年リリースの30作目『Life On The Flip Side』は2位初登場でした)するという根強く高い人気を誇ってました。地元マイアミ本店のレストランチェーンの『Margaritaville』のハワイホノルル店なんかに行かれた方も多いと思いますが、そうしたビジネスでも一時代を成し遂げた彼の逝去を悼むファンや、ミュージシャン達(ポール・マッカートニーやポール・サイモン、カントリー・スター達の追悼メッセージがSNSに溢れてます)のメッセージが改めて彼の存在感を物語ってますね。ちょうど亡くなる直前にレコーディングしていた遺作が11月にはリリース予定とのことで、そちらも上位にチャートインしてくるでしょう。もともとキャリアのスタートがビルボード誌のライターだったジミーも、最後まで自分の作品がビルボードのチャートに登場して満足でしょうね。ジェーン夫人への最後の言葉が「Have fun!」だったというジミーの作品をしばらくは改めて楽しむことになりそうです。
ということで今週のトップ10には初登場はゼロでした。一方11位以下100位まではというとこちらも今週の初登場はわずか1枚という静かな状況でした。まあ来週は賑やかそうなのでいいですけど。で、その1枚とは、63位に初登場してきた、イギリスはレディング出身のベテラン・シューゲイザー・バンド、スロウダイヴの5作目になるアルバム『Everything Is Alive』。90年代にマイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)の『Loveless』(1991年全英24位)がシューゲイザーなるオルタナロックのサブジャンルを確立した頃に活動開始してUKではそれなりに人気を博した彼らが2017年に22年の沈黙を破ってアルバム『Slowdive』(全米50位、全英16位)で復活してから更に6年ぶりにリリースされた久しぶりの新作です。
自分が個人的には1991〜93年頃は米国MBA留学のタフな学業で超テンション高い日々を過ごしてたんで、その時期の音楽トレンド全体(例えばグランジもそう)を経験してなかったこともあって、正直同じ時期に出てきたシューゲイザーというジャンルは後で知った上に、『Loveless』とか聴いてもあまり入れ込めないなあ、と思ってました。今回スロウダイヴはフジロックにも来てて、かなり人気あったと思うんだけど、パスしてしまったのもそういうことがあったからだけど。でも今回このアルバム聴くと、思ったよりもメロディアスで、スペイシーなエレクトロ・アンビアントな感じだったり、ちょっとエコバ二みたいだったり、ザ・ウォー・オン・ドラッグスみたいな感じもあって気持ちいいなあ、と思いました。これだったら聴きに行けばよかった、と自分の不徳を恥じた次第です。そしてこのアルバム、メディアの評価も高くて、今週UKアルバムチャートでも6位初登場と、彼らにとってキャリア最大のヒット・アルバムになってますね。
以上、今週の初登場は100位までにスロウダイヴの1枚のみ。なかなかないです、こんな週(笑)。なお、トップ10では上位4枚中3枚がカントリー・アルバムということで(ジミー・バフェットもカントリー扱いですね)、これは2010年11月20日付のチャートで、1位テイラーの『Speak Now』(当時は彼女もカントリーでした)、2位ジェイソン・オルディーンの『My Kinda Party』、3位シュガーランドの『The Incredible Machine』の3枚のカントリー・アルバムがトップ3を独占して以来、12年半ぶりの出来事だったようです。
一方、Hot 100の方では先週1位に初登場したザック・ブライアンとケイシー・マスグレイヴの「I Remember Everything」を蹴落として、先週3位だったドジャ・キャットの「Paint The Town Red」が見事「Say So」(2020)に続く彼女2曲めの1位を決めてます。ディオンヌ・ワーウィックの「Walk On By」のワンラインをループでサンプリングして全面ドジャのラップが聴けるこの曲、ラップ曲としては昨年8月のニッキー・ミナージュ「Super Freaky Girl」以来ちょうど1年ぶりの1位になってます。そう言われれば最近ラップが1位になるのって一時期に比べると随分減ってきた気がします。ということでここで今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (1) (2) Zach Bryan - Zach Bryan <115,000 pt/3,000枚>
2 (3) (27) One Thing At A Time - Morgan Wallen <84,000 pt/2,458枚*>
3 (2) (6) Utopia - Travis Scott <72,000 pt/12,629枚*>
*4 (RE) (36) Songs You Know By Heart: Jimmy Buffett’s Greatest Hit(s) ▲7 - Jimmy Buffett <52,000 pt/15,500枚>
5 (4) (46) Midnights ▲2 - Taylor Swift <45,000 pt/8,031枚*>
6 (5) (39) SOS ▲3 - SZA <45,000 pt/3,475枚*>
7 (6) (7) Barbie: The Album - Soundtrack <42,000 pt/5,573枚*>
8 (7) (11) Génesis - Peso Pluma <42,000 pt/102枚*>
9 (8) (211) Lover ▲3 - Taylor Swift <41,000 pt/5,509枚*>
10 (10) (139) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <41,000- pt/471枚*>
ジミー・バフェットのチャート再登場もあり、何となくほっこりした感じの今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:9/8~14)ですが、来週はもうオリヴィア・ロドリゴの新譜一択ですよね。9/8付のスポティファイ・デイリー・チャートでは1位から9位までを独占しているドカ盛り状態のオリヴィアの来週の1位は間違いないでしょう。それ以外では、ジェームス・ブレイク、CCMのローレン・デイグルの最新作のデラックス盤、故リル・ピープのアイラヴマッコネンとのコラボ盤あたりがトップ10に来るでしょうか。ではまた来週。
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