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今週の全米アルバムチャート事情 #194- 2023/7/29付

いよいよ梅雨も明け、学校の夏休みも始まり、今週末はフジロック 参戦予定。気分も心もすっかり夏ですがこの暑さはやっぱり堪えます。フジロックの苗場は多少気温は低め(それでも30℃くらいにはなりますが)なので雨が降らないことを祈って存分に楽しんで来ようと思います。皆さんもいい夏休みを!

"Speak Now (Taylor's Version)" by Taylor Swift

さて今週7月29日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、何とか先週の予想通り今週もテイラーの『Speak Now (Taylor’s Version)』が首位を守って2週目の1位を記録していますが、今週のポイントは対先週83%減と予想以上に大幅に減らしていて121,000ポイント、実売も91%減の47,000枚(それでもこの枚数なので先週がどれだけ凄かったかが判ります)、そして意外に気になっているのが、ストリーミングのポイントも65%減になっていること。これは今週も2位に蠢いているモーガン野郎がストリーミング・ポイントをほとんど毎週減らさず、今週でデビューから20週連続で10万ポイントをキープしているのとは対照的です。これってモーガン野郎のファンはアルバムが出た直後だけでなく、延々と毎日のようにストリーミングで聴いてるのに対して、テイラーのファンはアルバムリリースされて購入、あるいは一通り聴いたらその後は聴取頻度がぐっと落ちてしまう(ごく普通の音楽消費傾向だと思いますが)、ということを意味してるのでしょうか。だとするとモーガン・ファンがそこまで毎日のように彼の曲を聴き続けるという行為が何だか不気味にも思えてきてしまいます

一方、Erasツアーが引き続き観客を集める中(ちなみに来年2月のテイラーの日本公演、チケット応募したんですが外れちゃいました…)、先週に引き続きトップ10にはテイラーのアルバムが4枚チャートイン中というのも、ストリーミングや実売の票割れにつながっている可能性もありますね。先週末はシアトルでの公演、そして次の次の週末からはカリフォルニアのSoFiスタジアムで7夜連続のショーを行うようなので、2〜3週間後のチャートではまた少しポイントが上がってくるかもしれません。

"Grandson" by King Von

今週のトップ10は、テイラーのアルバムが複数チャートインして賑わっている以外は初登場はゼロ。これは今年の1/28付チャート、SZAの『SOS』が6週目の1位を記録していた週以来半年ぶりのことでした。一方圏外11位から100位までには、先週と同じく4枚が初登場してます。そのうちの一番人気は、先週予想でトップ10あるかも、と言っていたシカゴのドリル・ラッパー、故キング・ヴォンの『Grandson』が14位初登場。2020年11月にアトランタで地元のラッパー、クアンド・ロンドの一派とのいざこざに端を発した銃撃戦の犠牲となったキング・ヴォン、昨年に初登場2位を飾った『What It Means To Be King』に続く2枚目の遺作です。

ジャケに父親と同じような髪型と出で立ちのヴォンの息子のデイヴォン・ベネットJr.君をあしらったこのアルバム、同じ地元シカゴのGハーボ、ポロG、リル・ダークティンクといったラッパー達に加えて近所のデトロイトの42ダッグ、そしてなぜかメンフィス・ラップ・シーンの顔役、マニーバッグ・ヨといったメンツでガッチリ固めた、ガッチリとしたトラップ/ドリル・アルバム。サウンド・プロダクションはかなりタイトなんですが、やっぱりこのサウンドで延々17曲聴き続けるのは自分にはちょっとトゥーマッチではあります。でもジュースWRLDもそうだけど、遺作って何枚くらい出すつもりなんだろうなあ。

"222" by Lil Tjay

そしてこちらもトップ10あるかなーと思っていたNYの若手ラッパー、リル・ティジェイの3作目『222』、ファーストの『True 2 Myself』(2019)、セカンドの『Destined 2 Win』(2021)と連続全米5位だったので、今回もトップ10は堅いと思ったんですが今回は24位初登場です。それにしても彼の場合数字の「2」に拘ってるな、と思ったら彼が去年7弾の銃弾をくらって瀕死の重傷を負ったのが去年の6月22日だったんですな。その事件を忘れまい、ということでこのアルバムも今年の6月22日にリリースしたかったようですが、このタイミングのリリースに。それでも第1弾シングルは銃弾のSEも生々しい「June 22nd」という徹底ぶりです。まあそういう経験をして生死の境をさまよった身としては理解できないこともないです。

リル・ティジェイもNYドリル・シーンの人気者ですが、こちらのアルバムはさっきの「June 22nd」のような生々しいヤツ以外は、キング・ヴォンのアルバムに比べるとかなり聴きやすい作りで「Nobody」やサマー・ウォーカーをフィーチャーしてケラーニなんかも共作している「Stressed」、キッドLAROIをフィーチャーしてる「2 Grown」なんかはレイドバック・R&B・ドリル・ポップとでもいうべきなかなかキャッチーなトラックになってます。個人的にはNYラップ・シーンの大先輩、ジャダキスとかがフィーチャーされた「Hole In My Heart」がちょっと気になりました。

"Mirror" by Lauren Spencer-Smith

ちょっと下がって49位に入ってきたのは、イギリス生まれのカナダはバンクーバー育ち、現在19歳の女性シンガーソングライター、ローレン・スペンサー・スミスのデビュー・アルバム『Mirror』。もともと2020年、アメリカン・アイドルの第18シーズンに出場して、トップ20まで残って見せたのがこの世界で名を知られるきっかけで、2022年にはデモがTikTokでバズったことがきっかけで英米で大ヒットとなった「Fingers Crossed」(全米19位、全英4位)で、ちょっとオリヴィア・ロドリゴの線を思わせるようなスタイルで一気にブレイク。今回はその「Fingers Crossed」とそれに続くヒットになった「Flowers」(全米55位、全英17位)を収録したアルバムでデビューになったというわけ。

ブレイクの経緯や、楽曲のクオリティとかから言ってトップ20くらいには来るのかな、と思っていたのですが全米ではこの順位で、全英でも今週初登場11位でした。ちょうど先週からこのアルバムリリースに合わせて全米ツアーがスタートしたところで、8月中旬までは全米各地でライブ、その後地元のバンクーバーでやった後に、9〜10月はヨーロッパ・ツアーらしいので、次のシングルあたりがヒットすれば、アルバムの方もロングセラーになるかもしれません。

"Little Songs" by Colter Wall

そして今週最後の100位までの初登場は、75位にエントリーしてきたカナダはサスカチュワン州出身のカントリー系シンガーソングライター、コルター・ウォールの4作目『Little Songs』。全米チャートインはセカンド、サードに続く3枚目で、初のトップ100入り、これまでの最高位を更新しています

最近では珍しく、昔のクリス・クリストファーソンマール・ハガードといった、無頼派の無骨なカントリー・シンガー達のスタイルを踏襲した、深く響くバリトンボイスが印象深いコルターですが、ティーネイジャーの頃ギターを覚え始めた頃はAC/DCブラック・サバス、レッド・ツェッペリンなんかをやってたらしいからちょっとビックリ。でも15歳か16歳の頃にディランの「Don’t Think Twice, It’s All Right」を聴いてシンガーソングライターを目指し始め、それ以降はウディ・ガスリータウンズ・ヴァン・ザント、ウェイロン・ジェニングスといったトラディショナルなフォークやカントリー・シンガー達の影響を受けたと言います。確かにこのアルバムを聴いてても、ウェイロンのアルバム、と言われてもそうかな、と思ってしまうような、半分語りで半分歌といったスタイルでオーセンティックなカントリーをやってます。ある意味今聴くと新鮮な感じもしますね。ジャケも60年代後半から70年代前半のレトロな感じです。

さて今週の100位までの初登場は圏外のみ4枚とやや静かなアルバムチャートでした。一方Hot 100に目を移すと今週は以前から初登場1位が確実視されていた、BTSジョングクと女性ラッパー、ラットのコラボシングル「Seven」が初登場1位を決めてます。チル系ヒップホップ・トラックに乗ったキャッチーさがなかなか気持ちいいナンバーですが、驚いたのはそのすぐ下、2位にカントリーのジェイソン・オルディーンの「Try That In A Small Town」が初登場。この曲、歌詞の内容はことさらにアメリカ国内の分断を煽るような内容であること(「俺たちが育った小さな町で/警官にはむかったり、国旗を踏みつけて火を付けたりするような馬鹿者ども/うちの町でそれをやって見ろ/どうなっても知らないぜ」)や、逆にあのワシントン議事堂襲撃を思わせるようなバイオレントなMVなどで現在大きな物議を醸している曲です。カントリーのMTV、CMTは7/14に公開されたMVを3日で放送禁止にしたりしてますが、こういう極右な愛国心や分断を煽るような曲を喜んで買ったり聴いたりする輩が今アメリカには多いのも事実。改めてアメリカの闇を垣間見るような現象にちょっと気が重くなりました。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) Speak Now (Taylor’s Version) - Taylor Swift <121,000 pt/47,000枚>
2 (2) (20) One Thing At A Time - Morgan Wallen <105,000 pt/4,199枚*>
3 (4) (4) Génesis - Peso Pluma <55,000 pt/211枚*>
4 (5) (39) Midnights ▲2 - Taylor Swift <51,000 pt/11,550枚*>
*5 (6) (132) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <48,000 pt/1,015枚*>
6 (7) (204) Lover ▲3 - Taylor Swift <44,000 pt/9,015枚*>
7 (8) (32) SOS ▲2 - SZA <43,000 pt/5,066枚*>
8 (3) (3) Pink Tape - Lil Uzi Vert <40,000 pt/131枚*>
9 (9) (5) A Gift & A Curse - Gunna <40,000- pt/115枚*>
*10 (10) (156) Folklore ▲2 - Taylor Swift <34,000 pt/10,211枚*>

チャートもやや夏バテなのか、トップ10内初登場もなくちょっと地味目だった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつものように来週の1位予想(チャート集計対象期間:7/21-27)ですが、これはひとえに来週テイラーが10%以上ポイントを減らすかどうかにかかってますね。おそらくモーガン野郎は来週も10万ポイントギリギリでキープしてきそうなので、それを下回らなければテイラーの3週目の1位の可能性あり。そしてもう1枚。いよいよKポップのニュージーンズのEPがリリースされたので、ひょっとしてこれが10万枚ほど動かすとトップ争いに絡んでくる可能性もありますね。それ以外でトップ10に入って来そうなのはグレタ・ヴァン・フリートナズの新譜あたりでしょうか。ではまた来週。


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