今週の全米アルバムチャート事情 #159- 2022/11/26付
先週言ってたグラミー賞ノミネート答え合わせの記事もアップ出来ずにバタバタしているうちにとうとう今週は2022年のチャートイヤーの最終週。来週の週中には多分今年の年間チャートが発表されてしまうので、この週末は年間チャート予想の集計作業で忙しくなりそう。自分の年間ベストアルバムも選んで記事アップしなきゃ。ああ師走は毎年のことながら忙しい。気が付いたら今年もあとわずかです。
さて今週11月26日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は、先週の予想でテイラーとドレイクのガチ一騎打ちとお伝えしましたが、テイラーが今週ポイントを落とした以上にドレイクのポイントの減衰が激しく(対先週比58%ダウン)、204,000ポイント(うち実売60,000枚)と徳俵に残った感のテイラー『Midnights』が1位返り咲きでこれで通算3週目の1位をマークしました。これでデビュー週以来4週連続20万ポイント超えという、アデルの『25』以来の記録(2015/12/12〜2016/1/16の6週連続)も達成して、毎度の強さを発揮してるテイラー、シングルの「Anti-Hero」もこちらでもドレイクの挑戦をはねのけて、4週連続Hot 100を記録したようです。4週1位は「Shake It Off」(2014)に並んで、「Blank Space」(2014-15)の7週に次ぐ彼女にとって2番目の大ヒットになってます。
今週はアメリカン・ミュージック・アウォード(AMA)の授賞式が開催されてますが、そちらでも「アーティスト・オブ・ジ・イヤー」「フェイヴァリット・ミュージック・ビデオ」「フェイヴァリット女性ポップ・アーティスト」「フェイヴァリット・ポップ・アルバム」「フェイヴァリット女性カントリー・アーティスト」そして「フェイヴァリット・カントリー・アルバム」のノミネートされた6部門すべてを受賞するという人気ぶり(AMAはファン投票で受賞決定します)。サプライズで授賞式に登場して、その夜の最大の賞である「アーティスト・オブ・ジ・イヤー」を受賞したテイラー、来週も1位をキープできるか?
今週の初登場一番人気は、5位に飛び込んで来て自らの最高順位アルバムをマークした、元ワンダイレクションのルイ・トムリンソンのセカンド・アルバム『Faith In The Future』(43,000ポイント、うち実売37,500枚)。今週本国UKでは見事初の1位を記録してます。全米9位を記録したソロデビュー・アルバム『Walls』(2020、全英4位)を今回上回るヒットになってるわけですが、前作は音楽メディアの評価もイマイチで、自分も聴いて何となくピンと来なかった印象があったのに対し、今回は何度か聴いてみて、今風のメインストリーム・ポップとしてはなかなかのクオリティの楽曲が揃っているな、という印象です。音楽メディアの評価も、全般的には前作よりは良くなっている、という評価のようですね。正直こんなに高い順位で入ってくるというのは予想外でした。
ただ、何分同じワンダイ卒業生のハリー・スタイルズが今や21世紀を代表するポップ・スター的なポジションを確保している中、リアムと共にナンバーワン・ソロアルバムがなく、商業的にやや出遅れ感があっただけに今回の大ヒットは本人としては嬉しいところでしょう。ただここからシングルヒットが出てこないと本格的なキャリアのブーストにはならないんでしょうから、その辺が引き続き課題でしょうね。
むしろ今週一番人気はこっちかな、と思っていたボスことブルース・スプリングスティーンのR&Bカバー・アルバム『Only The Strong Survive』は39,500ポイント(うち実売36,500枚)で初登場6位と、ルイ君の後塵を拝しています。これでトップ10アルバム22作目で、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー(含むウィングス)、ジョージ・ストレイトの21作を抜いて、歴代8番目の記録です(すぐ上に23作でマドンナとディランがいます)。次作がR&Bカバーアルバム、と聴いた時から楽しみにしていて、ボスらしく硬派な選曲で来るんだろうな、と思っていたら、意外に新しめのコモドアーズ「Nightshift」やフォートップスの「When She Was My Girl」とか、更にはR&B?という感じのウォーカー・ブラザーズの「孤独の太陽(The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore)」とかカバーしてると聞いてあれ?と思ったのを覚えてます。個人的にはアルバムタイトル曲や、ジミー・ラフィンの「What Becomes Of The Brokenhearted」とかテンプスの「雨に願いを(I Wish It Would Rain)」といった感じの線で、もう少しブルース寄りの選曲を期待したいところだったですが。まあそれでも緑とオレンジのカラーヴァイナル2種買っちゃいましたが(笑)。
でも実際聴いてみると「Nightshift」にしてもマーヴィンやジャッキーへのリスペクトから選んだんだな、という憧憬と敬意がしっかり感じられるカバーだし、「孤独の太陽」もウォーカー・ブラザーズじゃなくてフランキー・ヴァリのオリジナルのカバーということで、同じニュージャージー出身の先達への敬意だったんだな、などなど、字面だけではわからないこのアルバムへのボスの思いが伝わってくる、とってもあったかいカバーアルバムだなあ、としみじみ思うことしきり。一方やっぱりボスのR&Bからの影響は多大であることは、タイロン・デイヴィスの「Turn Back The Hands Of Time」のカバーとかでのボスのシャウトと塩辛いボーカル回しなんかを聴くと如実に判るというそんなアルバムですね。ボスの駆け抜けるようなロック炸裂!というスタイルが好きな方には物足りないと思いますが、近作の円熟味を増した作品のスタイルの流れからいくと自然な感じがします。
そして今週のトップ10初登場しんがりは、2020年に始まった『King’s Disease』シリーズや昨年の『Magic』(27位)など、商業的にもそして作品的にも充実作が続いている御大ナズのその『King’s Disease』シリーズの3作目『King’s Disease III』が10位初登場(29,000ポイント、うち実売8,500枚)。今回もこのシリーズを通じてプロデュースを担当してタイトなサウンドを作ってるヒットボーイ(本名:チョーンシー・アレクサンダー・ホリスJr.)との全面コンビで、今回もメディアの高い評価を集めて(メタクリティックス88点!)、ナズのタイトなフロウも切れ味バツグンの気迫満点の作品になってますね。もちろんトラップの「ト」の字もなく、全編90年代のプリモあたりを思わせるオーセンティックなヒップホップトラック。
何せオープニングの「Ghetto Reporter」からしてスリリングなビートのトラックを軽々と乗りこなすナズのフロウはクールの一言。あと、「Hood2Hood」でのE.U.の「Da Butt」とか、「Reminisce」でのメアリーJの「You Remind Me」とか、結構大ネタ使いの割にはパッと聴きには気が付かない、ベタになってないあたりがヒットボーイの腕ですね。個人的に「おー!」と盛り上がったのは最後のボートラ「Til’ My Last Breath」で、今年ポストシーズンを惜しくも逃したNYメッツのクローザー、エドウィン・ディアズのウォークアップ・ソング(登場曲)「Narco」がガッツリサンプリングされてること!あのトランペットの響きで熱烈なメッツファンの自分としては「メッツ、ポストシーズン惜しかったなあ」と改めて思うことしきり。きっと同じNYはクイーンズ出身のナズもそう思ってこの曲、このサンプリングだったんだね。ますますナズ最高だな、と思いましたね(笑)。
今週はトップ10内にも3枚初登場でちょっと賑やか目。一方圏外11位から100位ではやっぱり先週からの傾向で、マイケル・ブブレの『Christmas』を筆頭に(48位→19位)クリスマス・アルバムが軒並み上昇中。そして先週予測した『Black Panther: Wakanda Forever』も62位→12位と急上昇している中、初登場は4枚。まずは惜しくもトップ10を逃して11位初登場、テネシー州メンフィス出身の女性ラッパー、グロリラ(本名:グロリア・ウッズ)のデビューEP『Anyways, Life’s Great…』。今年プロデューサーのヒットキッドとリリースしたシングル「F.N.F. (Let’s Go)」がTikTokでバズってHot 100の42位に昇るヒットになって突然ブレイク。続いてカーディBをフィーチャーしたシングル「Tomorrow 2」がいきなり9位の大ヒットになって一躍名を馳せたグロリラ、こちらのEPも好調です。
どちらのシングルもリリック的には女性讃歌テーマで、うるさい男どもやあたしたちにケチ付ける連中はどーでもいい、あたしたちは女の子達だけで楽しくやってるんよねー、というまあ、ミーガンやカーディBフォロワー的な感じ。ただPVとか見ると基本ブリンブリンな感じでお尻突き出してトワーキングやりまくり、って感じがミーガンとかより更に下世話で自分にはトゥーマッチかな。こういうの、黒人女性とか若いヒップホップキッズには受けるんでしょうけどね。
続いて25位初登場は今年のバッド・バニーの大ブレイクを追い風にサード・アルバム『Saturno』を送り込んで来た、プエルトリカ出身レガトン・シンガーのラウ・アレハンドロ。ただ前作の『Vice Versa』(2021)の17位からは今回は少し順位を落としてます。今回はアルバムジャケといい、タイトルナンバーのPVといい、近未来SF志向みたいで、しかも楽曲のビートが80年代のアフリカ・バンバータなんかのようなシンセビートを多用してるあたりがちょっと目先を変えてきたところか。
でもシングルの「Lokera」や「Punto 40」など、全般的には前作同様アッパー気味のR&B風味のレガトン・チューンで攻めてきてます。ラウ君、バッド・バニーの例のアルバム『Un Verano Sin Ti』の「Party」で共作・共演、更には今年話題を集めたロサリアのアルバム『Motomami』のあの怪曲(笑)「Chicken Teriyaki」の作詞者としても活躍してて、ロサリアのアルバムがこの間のラテン・グラミー賞の最優秀アルバムを受賞したので、受賞者の一人に名を連ねてます。バッド・バニー同様今後も要注目ということで。
ぐっと下がって59位に入ってきたのは、「Essence」(2021年9位)の大ヒットでブレイク、去年以降この曲にフィーチャーされてたテムズやバーナ・ボーイらナイジェリア・アーティスト達の相次ぐブレイクの先駆者となった感のあるウィズキッドの5作目になるアルバム『More Love, Less Ego』。
その「Essence」を収録、今年4月の第64回グラミー賞では最優秀グローバル・ミュージック・アルバム部門を受賞した前作『Made In Lagos』(2020年28位)からはこちらも今回ちょっと順位を落としてます。
内容的には前作同様の路線の、アフロビートをちりばめたR&Bナンバーでまとめられてるアルバムですが、前作がバーナ・ボーイやテムズなど同郷アーティスト達以外にもH.E.R.やエラ・メイ、ダミアン・マーレイら有名R&B・レゲエアーティストをゲストを迎えていたのに対し、今回のゲスト陣はすべてナイジェリア系でまとめてるのが興味を引きます。今やナイジェリアを代表する世界的シンガーなんで、後進達のプッシュも期待されてるんでしょうなあ。全体的に気持ちのいいアルバムではあります。
そして今週最後の初登場は、ギリギリ99位に初登場、アラバマ州モーバイル出身のラッパー兼シンガー、ヤング・ブルー(Yung Bleu)のセカンド・アルバム『Tantra』。こちらも2020年にドレイクにリミックスされてヒットした「You’re Mines Still」(Hot 100最高位18位)でブレイクして、それを受けてデビュー・アルバム『Moon Boy』は12位の大ヒットだったんですが、その後ヒットが出てないのでセカンドはこの順位に。前作同様ニーヨ、タイ・ダラ・サイン、ニッキー・ミナージュ、リル・ウェインといったそうそうたるゲスト陣を並べておいてこの順位なんで、チャートインしてくるのもこれが最後かもしれません。
アルバム・ジャケも前作のテーマを踏襲して今回も宇宙飛行士服に身をつつんだヤング・ブルーと、月が大きくあしらわれてます。ニッキー・ミナージュとのシングル「Love In The Way」とか「Don’t Forget Me」とか何曲か聴きましたが、なかなか歌もソツないしビートもトラックもそんなに悪くないと思うんですが、この順位ということはややワン・アンド・オンリー的要素が薄いということなんでしょうかね。ただただ暗いトラップ・アルバムなんかよりは百倍いいと思うんですけど、個人的には。
というところで今週はトップ10内3枚、圏外4枚、都合7枚の初登場アルバムのご紹介でした。ここでいつものようにトップ10おさらいです。バッド・バニー、モーガン・ウォレンあたりはほとんどポイントを減らしてないですね(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (2) (4) Midnights - Taylor Swift <204,000 pt/60,000枚>
2 (1) (2) Her Loss - Drake & 21 Savage <170,000 pt/1,512枚*>
3 (4) (28) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <56,000 pt/1,618枚*>
4 (3) (5) It’s Only Me - Lil Baby <52,000 pt/142枚*>
*5 (-) (1) Faith In The Future - Louis Tomlinson <43,000 pt/37,500枚>
6 (6) (97) Dangerous: The Double Album ▲4 - Morgan Wallen <41,000 pt/1,460枚*>
7 (7) (92) The Highlights - The Weeknd <40,000 pt/616枚*>
*8 (-) (1) Only The Strong Survive - Bruce Springsteen <39,500 pt/36,500枚>
9 (8) (26) Harry’s House ▲ - Harry Styles <30,000 pt/5,255枚*>
*10 (-) (1) King’s Disease III - Nas <29,000 pt/8,500枚>
テイラーがドレイクを押さえて1位に返り咲いた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後に恒例により来週の1位予想ですが、今回はこれがなかなか難しい。テイラーの20万ポイント、ドレイクの17万ポイントがどのくらい減衰するのか、そして10万ポイントレベルを叩き出す新譜のドロップがあるのか、というところがポイントになりますが、対象期間の11/18~24リリースのまず新譜で来週の首位争いに参戦してきそうなのはブロックハンプトンのラスト・アルバム、ロッド・ウェイヴとロディ・リッチのヒップホップ勢が有力だとは思いますが、ブロックハンプトンは今週のチャートの対象期間最終日と来週チャートの対象期間初日になぜか1枚ずつアルバムリリースしてるので、票割れが懸念されるのと、ヒップホップ勢はいずれもEPとミックステープなので正規アルバムほどのポイントが取れないかも、というところで10万ポイントは難しいかも。となるとポイント減衰の少なそうなテイラーが4週目の1位を確保するのでは、という予想にしておきます。ではまた来週。