今週の全米アルバムチャート事情 #228- 2024/3/23付
気候も今週からようやく暖かめの気温が続いてくれるようになって春の到来をすぐそこに感じる今日この頃、今週からはいよいよMLBシーズンも、ドジャーズ対パドレスのソウル・シリーズでスタート。今週辺りから活動レベルを一気に上げてる方も多いのでは。一方、暖かくなると大変なのが花粉。幸い自分は花粉症ではないのですが、外に出ると最近またマスクの人が多いなあ、と思ったらやはり花粉で大変な方多いんですね。いろいろと大変ですがどうかお大事にして下さい。
さて、月曜日からカラリと晴れて暖かい今週に相応しく、今週の全米アルバムチャート、3月23日付のBillboard 200の首位は先週の予想(期待)どおり、アリアナの新作『Enternal Sunshine』が先週予測した15万ポイントを大きく上回る227,000ポイント(うち実売77,000枚で今週のアルバムセールス・チャート首位)という力強い出力で気持ち良ーく1位に初登場してくれてます。これで2013年のファースト・アルバム『Yours Truly』から7作目にして通算6枚目のナンバーワン(2016年、3作目の『Dangerous Woman』のみ2位)と着実にまた実績を重ねて、今のポップ・シーンではテイラーに次ぐナンバーツーの地位をまた盤石にしたアリアナ。そして今回の20万超ポイントの出力は、前作『Positions』(2020)がその前の『Thank U, Next』(2019)の36万ポイントから174,000ポイントに半減していたのを考えると、アリアナ陣営に取っては朗報でしょう。
前作から3年半ぶりと、彼女にしてはインターバルが空いて届いた今回のアルバムを聴いてまず第一印象は「アリアナが王道ポップをがっつりやっててしかも楽曲のクオリティが高い!」というもの。初登場1位を決めた先行シングルの「Yes, And?」がハウス系のダンクラ・ナンバーだったので、今度のアルバムはこの間のビヨンセとかちょっと前のドレイクみたいに四つ打ち系のダンス・アルバムになるのか、と思っていたら聞こえてきたのは冒頭の21世紀のシュープリームス・ナンバーとでもいえる「bye」や、エレクトロなベッドルーム・ポップ的な感じが素敵な「Don’t Wannna Break Up Again」などなど、マックス・マーティンとがっつり組んだ、正しく王道のメインストリーム・ポップ楽曲の数々。前作『Positions』で耳についたトラップ・ポップ的な楽曲はほとんど見当たらず。所属レーベルのリパブリックの共同社長、ウェンディ・ゴールドスタインによると「今回のアルバムはアリアナの過去作の発展系。『Sweetener』と『Thank U, Next』が合体したようなね」ということで、正にアリアナの従来路線が強化されてるような印象がありますね。そして今回はアリアナ自身曰く「コンセプト・アルバム」。元彼のマック・ミラーとの悲しい死別などを経て、前作が発表された2020年には不動産仲介のビジネスマン、ダルトン・ゴメスと婚約・結婚したものの昨年秋には離婚。同時に彼女がグリンダを演じることが決まっているブロードウェイ・ミュージカルの映画実写版『ウィキッド』(2024年11月前編が封切予定)で共演したブロードウェイ俳優のイーサン・スレイターと新たに親密な関係をスタートする、といったこのブランクの3年半にはアリアナの恋愛状態に大きな変化があったらしい(この辺りの情報についてはユニバーサルのudiscovermusic.jpの池城美奈子さんの解説記事を参考にさせて頂きました。感謝致します)。そしてその池城さんの歌詞の内容(今回も従来同様、ほぼ全曲の歌詞をアリアナ自身が書いている)の詳しい解説によると、このアルバムは離婚した元夫ダルトンへのメッセージと離婚に対する思い、そして新たなパートナーであるイーサンへの強い想いを表現しているらしい。そうしたシンプルで直接的な感情を表現するのに、自らの元来の音楽スタイルに回帰したかのような今回のアルバム構成はおそらく適切だったんだろうな。今どんなサウンドが旬なのかとかそういったことよりも、自分の感情を素直に表現できるサウンドスタイルをマックスや前作でも数曲で組んでいたLA在住の日系プロデューサー、シンタロウ・ヤスダらと共に紡いだ結果がこのアルバムということなんだと、彼女の歌声を聴きながら思いました。
さて、今週のトップ10内初登場はアリアナの1枚のみ。一方11位以下100位までの初登場は、先週より1枚多い3枚でした。その中でちょっと驚いてしまったのは、一番人気の18位に飛び込んできた、ジューダス・プリーストの通算19作目『Invincible Shield』。ご存知のように日本でもメタラーの間で人気の高いUKメタルの大ベテラン・バンドですが、今回は日本のソニーが3/6先行リリースで、欧米はその2日後のリリースだったというからやっぱり日本にはファンが多いんだなあ、と思った次第。一方レコーディングはメンバーが住んでいるテネシー州ナッシュヴィルやアリゾナ州フェニックスで行われたというから、彼らも今や活動の拠点はUSということなんでしょうね。今週UKアルバムチャートでもアリアナに次いで堂々初登場2位、通算4枚目のUKトップ10を決めてます。
前作『Firepower』(2018年UKUS共に5位)がコロナ前のリリースで、その後コロナで新作のレコーディングが止まってた、という事情は彼らも同じだったようで、コロナ規制再開後はツアーで忙しい合間を縫って作られたのがこのアルバムだそう。内容的には、全米でキャリア最高位を記録した前作から6年の空白を感じさせないテンションと迫力で迫ってくるジューダス・サウンドが満喫できる、ファンのメタラー達にはこたえられない内容ですね。ボーカルのロブも禿頭に長い白いアゴヒゲと往年からかなり風貌が変わってるんですが(笑)70代とは思えないシャウトで健在ぶりを示してます。いわゆる「メタリカ以前」のスタイルのこういうメタルも相変わらず人気が高いことを改めて認識しました。
そっからぐーっと下がって62位にエントリーしてきたのは、この間のグラミーで3年連続で最優秀プロデューサー部門受賞、ベイビーフェイスに並ぶ偉業を達成したジャック・アントノフ率いるブリーチャーズの『Bleachers』。前作『Take The Sadness Out Of Saturday Night』(2021年27位)以降、テイラーやラナ・デル・レイ、オリヴィア・ロドリゴにセント・ヴィンセント、ロードにクライロ、フロレンス&ザ・マシーンとまあ売れっ子プロデューサーぶりを発揮して多忙を極めていたジャック・アントノフですが、昨年女優のマーガレット・クオリー(アンディー・マクドウェルの娘さん、このMVに登場してダンスしまくってます)と昨年しっかり結婚するなど公私共に充実してるようで。UKアルバムチャートでも今回初チャートインで堂々5位初登場してますね。
ただそうした充実してるだろうな、というこちらの勝手な憶測とは裏腹に、今回のアルバムに収録された楽曲はややムーディーな感じのものが多いようで、ある意味テイラーの最近作やラナの作品の世界観に通じるような雰囲気をたたえたインディー・ポップ作品然としてるのがちょっと気になるところ。ジャックによると今回のアルバムは、過去のいろんな出来事、例えば高校生の頃に脳腫瘍で他界した妹サラのことや、過去のうまくいかなかった女性関係、更にはメンタル的なこともあって新しい人生のフェーズ(マーガレットとの夫婦生活)に入って行くのが怖い部分もあったんだけど、それを乗り越えるためのアルバムだった、とのこと。なるほどアルバム全体が内省的に聞こえるのはそういうことなのね、と腑に落ちた次第です。そういうのを別にしても、今回も上に名前を出した彼と縁のあるアーティスト達がいろんな曲で共演、共作してるので、インディ・ポップ作品としての完成度はなかなかなもんだと思います。
そして今週最後の100位までの初登場は、去年4月に初チャートインを決めたデビューEP『House Of Tricky: Doorbell Ringing』(2023年75位)に続く2作目のチャートインを果たした、Kポップの10人組ボーイ・グループ、サイカース(xikers)の『House Of Tricky: Trial And Error (EP)』が73位に初登場してます。昨年リリースの2作目のEPは残念ながら全米チャートインは逃してますが、今回は前回よりちょっとだけ順位が上がって良かった良かった。
中身的には、ちょっとエッジの立ったダンス・トラップ・ポップ路線ですが、同じKQエンターテインメントの8人組ボーイズ・バンド、エイティーズ(ATEEZ)が昨年末念願の全米ナンバーワンを達成してるだけに彼らももう一段上を狙いたいところ。ただこの路線だとちょっとメインストリームのファン層獲得は厳しいかもしれませんね。楽曲的にももっと魅力ある作品が必要でしょう。
ということで今週の初登場、100位までは計4枚でした。一方Hot 100の方は、今週アルバム初登場1位のアリアナの曲「初登場1位は難しいかも?」という下馬評を見事に覆して「We Can’t Be Friends (Wait For Your Love)」が見事1位に初登場してきました。これでアリアナのHot 100初登場1位は通算7曲目となり、テイラーの6曲を抜いて見事女性ソロシンガーの初登場1位最多記録を達成してます(全体最多記録はドレイクの9曲)。また、1位は通算9曲目で、これはビヨンセとケイティ・ペリーと並ぶ歴代女性アーティスト7位(1位はマライアの19曲、2位はリアーナの14曲、3位はマドンナの12曲)。アリアナ、着々と実績を積み重ねてる感じで、今回のアルバムからはもう1曲くらいはリミックスして1位になりそうな雰囲気もありますね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Eternal Sunshine - Ariana Grande <227,000 pt/77,000枚>
*2 (1) (54) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <68,000 pt/1,660枚*>
3 (2) (68) Stick Season ▲ - Noah Kahan <48,000 pt/3,961枚*>
4 (3) (5) Vultures 1 - ¥$ (Kanye West & Ty Dolla $ign) <45,000 pt/572枚*>
5 (4) (66) SOS ▲3 - SZA <45,000- pt/1,689枚*>
*6 (8) (29) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <41,000 pt/4,092枚*>
7 (5) (23) For All The Dogs - Drake <39,000 pt/43枚*>
8 (6) (20) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <38,500 pt/9,065枚*>
9 (7) (238) Lover ▲3 - Taylor Swift <38,500- pt/8,006枚*>
*10 (9) (166) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <38,000+ pt/386枚*>
さて気持ち良くアリアナが首位を取ってくれた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の1位予想です(対象チャート集計期間:3/15~21)。さあ来週は久しぶりに賑やかなトップ10になりそう。今週のチャートに入ってくるんじゃないか、と言われてたカニエとタイの『Vultures 2』はどうも5/3リリースにズレたようなので当面関係なさそうですが、そうなるとアリアナと首位を争いそうなのがジャスティン・ティンバレイクの6年ぶりの新作にチーフ・キーフとマイク・ウィル・メイド・イットのコラボ・アルバムあたり。あとケイシー・マスグレイヴスの新作もトップ10に顔を出しそうです。個人的には本当に久々のブラック・クロウズの新作にトップ10、来て欲しいんですがね。ではまた来週。