今週の全米No.1アルバム事情 #81 - 2021/5/29付
今週発表されたUS国務省による日本への渡航中止勧告(レベル4)で、月末時点で緊急事態宣言の延長を検討せざるを得ない状況の日本政府にとって「本当にオリンピック実施するのか」の判断(というよりも、IOCの開催固執にノーというか)をいよいよ迫られる状況になってきました。ここでの政府のアクションが日本という国の今後の国際的信用力を大きく左右することになりそうです。政府の責任ある決断を望みます。
さて、楽しい音楽の話をしましょう。今週もこの記事と連動したポッドキャストを先ほど配信しましたので、上記のリンクから併せてお楽しみ下さい!
今週末5/29付の全米アルバムチャート、Billboard 200の1位は、先週の予想どおり、J.コールの『The Off-Season』が282,000ポイント(実売37,000枚、今週の売上ナンバーワンでもあります)というぶっちぎりのポイント数(2位の3倍以上)で初登場してきました。先週もお伝えしたように、このアルバムの1位で、デビュー作の『Cole World: The Sideline Story』(2011)以来、『Born Sinner』(2013)、『2014 Forest Hills Drive』(2014)、『4 Your Eyez Only』(2016)、『KOD』(2018)そして今回とオリジナル・アルバム6作連続1位を達成してます(なお、このカテゴリーではジェイZの11作連続を筆頭に、8組のアーティストが7作以上連続1位を決めています)。UKでは残念ながらポール・ウェラー翁に1位を譲って初登場2位、前作『KOD』の最高位に並んでます。
これも先週お伝えしましたが、タイトなフロウがいつものようにクールな先行シングルの「Interlude」が既に先週Hot 100の8位初登場、今週は21サヴェージと今売り出し中のモレイをフィーチャーした「My Life」の2位初登場を筆頭に、アルバム収録曲残りの11曲も含めて全曲チャートインしてるJ.コール、今やヒップホップ・シーンではドレイク、トラヴィス・スコット、ケンドリック・ラマーらと並ぶ影響力の大きいアーティスト。個人的にはほとんど自身でプロデュースし、彼の少年時代を回想するような2014年の『2014 Forest Hills Drive』がベストですが、今回のアルバム『The Off-Season』では前作『KOD』以来組んでいるT-マイナス(本名:タイラー・マシュー・カール・ウィリアムス)との共同プロデュースの4曲を核に、ティンバランドやボイ・1ダ、フランク・デュークスなど手堅いプロデュース陣で固めて、ある時はトラップ、ある時はジャズ・ラップ、またある時はR&Bスタイルのフロウを聴かせるなど、様々なサウンドスタイルを駆使してますね。リリックの内容も含めてなかなか聴き込み甲斐のありそうなアルバムです。
続いて大きくポイント的には離されて2位に80,000ポイント(実売11,000枚)で初登場してきたのは「何で今頃?」って感じのニッキー・ミナージのミックステープ『Beam Me Up Scotty』。実はこれ、2009年にまだニッキーがファースト・アルバム『Pink Friday』(2010年1位)で大ブレイクする直前、リル・ウェインに見出されたばかりの頃に、リル・ウェインの薫陶の下録音して、無料でリリースしていたミックステープに今回ドレイクとリル・ウェインをフィーチャーした「Seeing Green」など3曲を追加して再リリースしたものらしいです。
確かに追加された3曲を聴くと、なかなかしっかり作り込んだサウンドでさすがにニッキーのフロウもしっかりしてるので、売れて然るべきなんでしょうけど、こいつは全くノーマークでした。ただ既にミーガンやカーディBで女性ラッパー・シーンが改めて盛り上がっているこのタイミングに、既に確立された人気を持ったニッキーがこういう使い回し商法的な方法で稼ぐ、ってのはちょっと個人的には引っかかりますけどね。
そして続くトップ10内初登場は、こちらは先週ちょっと名前を出していたブラック・キーズのカントリー・ブルース・カバーアルバム、『Delta Kream』が35,000ポイント(実売30,000枚)で6位に初登場。リーダーで最近プロデューサーとしても活躍してきているダン・オーワーバックによると、ネオ・ブルース・ロック的な立ち位置で2010年代に大ブレイクしたブラック・キーズのある意味ルーツでもある、ミシシッピ川地域のカントリー・ブルースの代表的ミュージシャンである、ジュニア・キンブローやR.L.バーンサイドといったブルース・ミュージシャン達に敬意を込めて制作した作品とのこと。UKでも今週5位初登場と評判を呼んでます。
前作の『Let’s Rock』ツアーが終わった後に、ダンがナッシュヴィルに持ってる自分のスタジオで、わずか2日、10時間ほどで録音しちゃったというこのアルバム、冒頭を飾るそのキンブローの「Crawling Kingsnake」やバーンサイドの「Poor Boy A Long Way From Home」など、ダウン・トゥ・アースなナンバーが確かにこのバンドの出自がこうした音楽だということと、こうした音楽への彼らの愛情がよく判る、聴くほどに体が自然に動いてしまうアルバムに仕上がってます。ダンのボーカルがところどころで、バッド・カンパニー時代のポール・ロジャースを彷彿とさせるところなんかもあって、これは結構のめり込みそうですわ。
そして今週のトップ10内初登場最後の1枚は、やはり入って来たか、というカントリーのもはやベテラン、アラン・ジャクソンの15作目のトップ10アルバムとなった21作目『Where Have You Gone』。32,000ポイント(実売27,000枚)で9位に初登場してきました。
2006年の14作目『Like Red On A Rose』以外では1990年のメジャーデビュー以来ずっとコンビを組んできているプロデューサーのキース・スティーガル(『Like Red〜』はアリソン・クラウスのプロデュース)と今回も組んで、いつもと変わらないバンドで、いつもと変わらないネオ・トラディショナル・カントリーの楽曲を、いつもと変わらないちょっと軽いコブシの入ったバリトン・ボイスで歌うアラン・ジャクソン。ここには変わらないことが良さである、というスタイルが貫かれている作品があって、これを良しとするかどうかでこの作品に対する評価が分かれるところでしょうね。一つだけ間違いないのは、こりゃあ今の日本では売れないねえ(笑)。
ということで今週のトップ10内初登場は4作。一方トップ10圏外に目を向けると、16位には先週名前を出したセント・ヴィンセントの7作目になる『Daddy’s Home』が初登場。前回初のトップ10アルバムとなった『Masseduction』(2017年10位)がエレクトロポップの意匠で塗り尽くされた作品だったのが、今回は一転してファンク・ロックっぽい音作りで固めたなかなか硬派な作品になってて、UKでは初登場4位で彼女のUKでの最大のヒットになるなど、音楽メディアでも評価が高いようです。自分も買って聴きましたが、聴き込むほどに良さが増すタイプの作品になってます。
18位にはまたまた新たなKポップ・スターの登場、ということで昨年11月にデビューしたばかりのメンバー7人のボーイズ・バンド、エンハイプンのEP『Border: Carnival』が全米チャートに初登場。しかしKポップのアーティスト、後から後から出てくるなあ。
25位には数年前のあの勢いはどこへやら、2018年の「ZEZE」(最高位2位)以降ヒットも出ておらず、ここ数年はやや失速気味のラッパー、コダック・ブラックのミックステープ『Haitian Boy Kodak』が初登場。これで3リリース連続トップ10を逃してますね。
78位には今年のグラミーでも新人賞をはじめロック・オルタナ部門3部門にノミネートされた個人的にも最近イチオシの女性シンガーソングライター、フィービー・ブリッジャーズが、ロックやオルタナ系のアーティスト達とのコラボで有名なヴァイオリン等マルチなミュージシャン、ロブ・ムースとコラボしたEP『Copycat Killer』が昨年11月リリースにもかかわらずこのタイミングで初登場。このEP、彼女がグラミーにノミネートされたアルバム『Punisher』の曲4曲をリミックスしたもの。「Kyoto」なんてオリジナルはバウンシーなポップソングなのに、チャンバーミュージック風に全く違う曲に仕上がってますね。
そして今週100位までの初登場の最後はアトランタ出身のラッパー、ヤング・ヌディ(本名:クアンタヴィオス・タヴァリオ・トーマス)の2作目のアルバム『Dr. Ev4l』(何て読むんだろう?)が93位に初登場。彼、21サヴェージの従兄弟らしいです。というわけで今週圏外初登場は以上5枚でした。ここでトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。
*1 (-) (1) The Off-Season - J. Cole
*2 (-) (1) Beam Me Up Scotty - Nicki Minaj
3 (1) (4) A Gangsta’s Pain - Moneybagg Yo
*4 (2) (19) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
*5 (5) (59) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
*6 (-) (1) Delta Kream - The Black Keys
7 (4) (9) Justice ● - Justin Bieber
8 (3) (3) Khaled Khaled ● - DJ Khaled
*9 (-) (1) Where Have You Gone - Alan Jackson
10 (8) (46) Shoot For The Stars, Aim For The Moon - Pop Smoke
さて、来週の1位予想です。来週の集計対象期間は5/21-27ですが、その初日の5/21リリースのラインナップの中で一際光っているのが、オリヴィア・ロドリゴちゃんのデビュー・アルバム!ご存知の通り「Drivers License」がHot 100初登場1位に続いて今週のHot 100では3枚目のシングル「Good 4 U」がまたまた初登場1位というまあ、アルバムリリース・タイミングとしてはこれ以上絶好のタイミングはないという状況。その他にここ3枚連続1位のピンクや、前2作が1位、2位で来てるトウェンティ・ワン・パイロッツなどは普通であれば充分1位狙えるんですが、まあ来週はオリヴィアの天下でしょうねえ。ということでまた来週。