今週の全米アルバムチャート事情 #149- 2022/9/17付
先週末に飛び込んで来たエリザベス女王2世の訃報。イギリスのみならず、世界中のミュージシャン達もこぞってSMSやツイッターで弔意を表明、改めて70年間、帝国主義の終焉やダイアナ妃の事故死、EU離脱等様々な時代をイギリスの統治君主として乗りきったエリザベス女王への世界からのリスペクトを強く感じている今週。ついに全ての世代で国葬反対が過半数を超えたという、某国の元首相などとは全く次元の違う世界で、グローバル時代の国家元首としての矜持を保った女王に心から安らかに、と申し上げたいですね。
さて今週9月17日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位。先週予想の通り、99,500ポイント(うち実売3,000枚)と今週とうとう10万ポイントを割ったのにもかかわらず、強力な新譜のない中、バッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』が5回目の首位返り咲き、通算10週目の1位を記録、『Encanto(ミラベルと魔法だらけの家)』の9週を抜いて2022年の最長ナンバーワンの記録を達成しました。この5回の首位返り咲き、というのは先々週お伝えしたように、2011〜12年に9回首位返り咲きしたアデルの『21』(トータル24週1位)に次ぐ歴代単独2位です。
そして10週1位というのは、昨年2021年にデビューから連続10週を記録したモーガン・ウォレンの『Dangerous: The Double Album』以来で、2000年以降アルバムチャート10週以上を記録した9枚目のアルバム、ということになりますが、その9枚は下記の通り。ちなみにそのモーガン・ウォレンのアルバムは今週チャートイン87週目にして、先週5位から2位にアップ、通算トップ10在位86週のソロアーティストとしては単独最長1位記録を決めていて、去年と今年の10週1位アルバムが今週はワンツーパンチのトップを占めていることになります(*は継続中、日付は1位を記録した週):
Supernatural ▲15 - Santana (12 weeks, 1999/10/30-11/13, 2000/1/122-2/5, 2/26-4/1)
Fearless ▲10 - Taylor Swift (11 weeks, 2008/11/29, 12/27-2009/2/7, 2/28-3/14)
21 ▲14 - Adele (24 weeks, 2011/3/12-19, 4/2, 4/23, 5/7-6/4, 6/25, 8/6, 8/20, 11/5, 2012/1/14-3/17, 6/23)
Frozen ▲4 - Soundtrack (13 weeks, 2014/1/18-25, 2/8-15, 3/8, 3/29-5/17)
1989 ▲9 - Taylor Swift (11 weeks, 2014/11/15-29, 12/13-20, 2015/1/3-24, 2/14-21)
25 ▲11 - Adele (10 weeks, 2015/12/12-2016/1/23, 2/13, 3/5-12)
Views ▲6 - Drake (13 weeks, 2016/5/21-7/16, 7/30-8/13, 10/8)
Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen (10 weeks, 2021/1/23-3/27)
Un Verano Sin Ti - Bad Bunny (10 weeks*, 2022/5/21, 6/18, 7/9-8/6, 8/20, 9/3, 9/17*)
こうして見ると改めてアデルの『25』は怪物級のヒットアルバムだったこと、そしてバッド・バニーの人気がいかに高いレベルにまで上がってきているか、ということが判ります。ただ前者は英米系白人中心ではあるものの広く様々な国の様々なリスナーに支持されたのに対し、後者の人気の急上昇を支えていると思われるのは、アメリカでも黒人アフリカン系人口比率(12.1%)を既に大きく抜き去っているヒスパニック・ラテン系(18.7%)中心のリスナー層だということ(2021年8月米国国勢調査局発表データによる)。人口動態的に見ても「ラテン系のメインストリーム化」がここ数年で一気に進んだことのリアルな好例になっています。そしてこれはバッド・バニーのみの話ではなくて、「Despacito」の頃から一気にメインストリーム・ブレイクしたJバルヴィンや、今年衝撃的なアルバム『Motomami』でメインストリームブレイクしたロザリアなど、ラテン系アーティストたちが着実に躍進して裾野が広がっている点も要注目ですね。この点についてはまた後ほど。
今週のトップ10内初登場は2枚。先週トップ10来るかな、と言ってた2組は惜しくも圏外となり、初登場一番人気はベテラン・スラッシュ・メタル・バンド、メガデスの16作目のオリジナル・アルバムで通算8作目のトップ10アルバムとなった『The Sick, The Dying…And The Dead!』が48,000ポイント(うち実売45,000枚)で何と3位に初登場。これは2017年第59回グラミー賞で最優秀ロック・パフォーマンス部門を受賞した前作『Dystopia』の3位に続くもの。
メガデスというと日本では、TV番組のゲストでよく登場するマーティ・フリードマンが以前在籍したバンドということでも有名ですが(笑)、これまでに前述のようにグラミー賞受賞1回を含む12回ノミネートされるなど、結成当時のメタリカのスピンオフ・バンド的なイメージは完全に払拭した今や押しも押されぬメタル・シーンの大御所。今回前作から6年という過去最長のアルバムリリースインターバルの間にはもちろんコロナの影響もあったけど、何よりもリーダーでボーカルのデイヴ・ムステインの喉頭癌発症と復帰という大きな出来事もあって、それが今回のアルバム制作にじっくる時間をかけることにつながった模様です。今回は黒人のみで編成されたヘリチームである米国陸軍160号大隊を題材にした「Night Stalkers」では何と実際服役経験のあるラッパーのアイスTをフィーチャーするなど新しい試みも見られてなかなか興味深いところです。
そして今週首位のバッド・バニー以外にも「メインストリームのラテン化」を実感させたのが、10位に初登場してきたラテン・ポップ・シンガー、ロミオ・サントスの5作目のオリジナル・アルバムで4作目のアルバムチャートトップ10となった『Formula, Vol. 3』(26,000ポイント、うち実売2,000枚)。90年代にラテン系で人気のあったグループ、アヴェンチュラのリード・ボーカルとして活躍したロミオは2011年のグループ解散以来、ソロで活動。もともとドミニカ発祥のバチャータというギター中心のラテン歌謡を基本スタイルにしながら、過去にはアッシャーやリル・ウェイン、ドレイクやニッキー・ミナージュなど、R&Bやヒップホップ・アーティスト達とも積極的に共演して広くオーディエンスを獲得してきていて、正にバッド・バニーのポジションから更に従来のメインストリームに寄り沿ったスタイルで人気を博しているシンガーです。
今回もジャスティン・ティンバーレイク(「Sin Fin」)や、今旬のロザリアとの共演(「El Pañuelo」)など今の流れをうまく捕らえたアルバム作りで、前々作『Golden』(2017)以来のトップ10入りを果たしてます。何曲か聴くと確かにバッド・バニーみたいにバウンシーで弾けてるレガトンとは全く別モンのオシャレなラテン歌謡って感じで、こういうスタイルのファンも多いというのはうなずけるし、こういうタイプの作品がメインストリームに入ってくることも全く違和感ないですね。今後ラテンを取り巻く情勢からは目が離せません。
ということでトップ10内初登場は2枚、そして圏外11位から100位までの初登場は今週も3枚。先週トップ10来るんじゃないか、と言っていたヒップホップ・プロデューサー兼ラッパーのピエール・ボーンは残念ながら200位内にも入れませんでした。で、今週の圏外一番人気は34位に初登場してきた、サンフランシスコ郊外ディクソン出身のカントリー・シンガー、ジョン・パーディの4作目『Mr. Saturday Night』。その発声法といい、楽曲のスタイルといい、いわゆるカントリーの伝統的スタイルを踏襲する「ネオトラディショナル・カントリー・シンガー」のジョンですが、この手のシンガーは根強い人気がありますよね。ルーク・コムズやジェイソン・オルディーンなんかも同じようなスタイルですが、彼らほどポップやアメリカーナに寄り添ってない、正に王道カントリー・シンガー。
今回シングル「Last Night Lonely」が先週までカントリー・エアプレイ・チャート1位を2週記録、Hot 100でも現在上昇中で今週27位を付けてますが、ポップクロスオーバーでのトップ40ヒットは2016年の「Dirt On My Boots」(37位)に次いでこれが2曲目、カントリーでもエアプレイ・チャートはこれが4曲目の1位ですが、カントリー・ソング・チャートではまだ1位がないという、まあ1.5軍選手的なポジションのシンガー。ケニー・チェズニーみたいに、途中でポップ・カントリーに軸足を変えると更にブレイクするかもしれませんが、今のところはネオトラ・カントリー軍団のワン・オブ・ゼムといったところでしょうか。前作・前々作のアルバムはBB200で11位だったので、ちょっと今回停滞気味かもしれません。
続いて45位に入って来たのは、ある意味今旬のアーティストの一人、先日のサマーソニック2022で初来日を果たしたヤングブラッド(本名:ドミニク・リチャード・ハリソン)の3作目『Yungblud』。もともとイギリスのTV俳優出身ということと、バイセクシャルを公言しているということもあって、シアトリカルでモノセクシャルな風貌とスタイルなヤングブラッド、やってる音楽は結構ストレートな80〜90年代ニューウェイヴ風ロックなのが結構新鮮に受け止められてるのかも。このアルバム、前作の『Weird!』(2020年75位)に続いて本国UKでは堂々アルバムチャート1位を飾ってます。UKのロック系1位がUSでトップ10にも入らない、というのは先週のミューズ同様まあここ最近よくあることですが、彼の場合結構USでも最近盛り上がってたと思ってたのでちょっと意外でした。
ちょっとビリー・アイドル入ってて、PVにオジーとシャロンのオズボーン夫妻が出演してる「Funeral」や、ポップなキュアーか、って感じの「Tissues」なんてきっとUSでもハマってるファンは結構いるんじゃないかな、と思うんですが、2020年のコーチェラ出演が決まってたのにフェス自体が中止になったりと、まだアメリカでのフェス等での露出がこれからみたいなので、元カノのホールジーみたいに頑張って今年から来年のフェスとかに出演していけば、今後USでも伸びしろは結構ありそうですね。
そして今週最後の圏外初登場はグーッと下がって71位に入って来たのは、つい先月に4作目のアルバム『The Last Slimeto』が全米2位を記録していたヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)の17作目のミックステープ『Realer 2』。今回はさすがにリリース間隔が短すぎたのか、彼のミックステープもここ5作くらいはトップ10(うち2作、2019年の『AI YoungBoy 2』と2020年の『38 Baby 2』は1位)を決めてたんですが、今回はこういう順位になってます。
何せここ2年間で今回を含めて9作品という多作なヤツなんですが、以前もお伝えした通りこのPVでも垣間見れるように、彼は若干22歳で8人の子持ちという、子作りも作品同様多作なヤツですから(笑)養育費用も半端ないと思うので今稼ぎどき、ってことでせっせと作品を作ってるんでしょう。彼の基本スタイルであるトラップもいつまで人気あるか最近は判らなくなってきているからねえ。幸い先日無罪確定したけど、2020年にはバトン・ルージュで薬物・銃器不法所持の疑いで逮捕されたりと相変わらず昔ながらのヒップホップの王道も地で行ってるYBNBA、この多作ぶりとこういう作風でいつまで人気を維持できるのか。
ということで今週の100位までの初登場は都合5作。それ以外でトップ10では、冒頭触れたモーガン・ウォレンの通算86週目のトップ10在位記録がトピックということになります。今週また2位に消去法的に順位アップしちゃってますし、ここのところずっと4万ポイント台を確保してるので結構まだまだトップ10には居座りそうで、通算87週の『Oklahoma!』サントラ盤(1956)と『Camelot』のオリジナルキャスト盤(1961)や、映画『南太平洋(South Pacific)』(1958)の90週とかは超えてしまいそうな勢い。モーガン・ウォレンが100週もトップ10にいる、なんてことになったらどうする?ホントにもういい加減にしてどこかに姿を消して欲しいです、このアルバムには。
さて気を取り直していつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
1 (2) (18) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <99,500 pt/3,000枚>
2 (5) (87) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <48,000 pt/2,065枚*>
*3 (-) (1) The Sick, The Dying…And The Dead! - Megadeth <48,000- pt/45,000枚>
4 (1) (2) God Did - DJ Khaled <45,000 pt/2,093枚*>
*5 (9) (16) Harry’s House ▲ - Harry Styles <43,000 pt/7,467枚>
6 (6) (6) Renaissance - Beyonce <41,000 pt/3,241枚*>
7 (8) (4) Beautiful Mind - Rod Wave <36,000 pt/107枚*>
*8 (13) (82) The Highlights - The Weeknd <29,000 pt/800枚*>
9 (3) (2) Between 1&2: 11th Mini Album (EP) - TWICE <28,000 pt/22,509枚*>
*10 (-) (1) Fórmula, Vol. 3 - Romeo Santos <26,000 pt/2,000枚>
ということで今週ラテンがかなり存在感示していた「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の1位予想。来週のチャートの集計対象期間9/9~15にリリースされる新作でめぼしいところ、トップ10には来そうな作品というと、ジョン・レジェンド、カントリーのケイン・ブラウン、カナダ人ラッパーのNAV、御大オジー・オズボーン、そして前作でトップ10ブレイクしたラッパーのYeat(イート)といったあたりで、この中で10万ポイント叩き出しそうなのはケイン・ブラウンとNAVあたりか。来週はカントリー、ラップ、ラテン(バッド・バニー)の三つ巴の争いになりそうですね。ではまた来週。
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