今週の全米アルバムチャート事情 #90- 2021/7/31付
さて、オリンピックが始まって各種競技でメダルラッシュが続いているようですが、同時にコロナ感染状況も一気に盛り上がってしまってきてますね。取り敢えず自分は来週は二回目のワクチン接種もあり、できるだけ外出をおさえて在宅で仕事の予定ですが、状況がどうなっているのかかなり不安でもあります。皆さんもくれぐれもお気を付けて。今週もお送りするこの「全米アルバムチャート事情!」、連動ポッドキャスト、今週も土曜日に配信してますので、下記のリンクからお楽しみ下さい。
今週7/31付のビルボード誌全米アルバムチャートBillboard 200の1位は「やはり!」という感じで、先週の予想通り、故ポップ・スモークの遺作第2弾アルバム『Faith』が1位初登場を決めました。UKでも初登場3位を決めたこのアルバム、ポイント的には88,000ポイント(実売4,000枚)と思ったより控えめのポイント数で、2位とも4,000ポイントという僅差で何とか1位を決めたこの『Faith』、10万ポイントくらいいくかなあ、と思ったのですが、いかんせん実売がほとんどないというヒップホップの弱点が出てこの結果になってます。
先週もコメントしたとおり、収録されている曲は、ポップが残したラップの音源に、様々なヒップホップ系の一線のプロデューサー達(トラヴィス・スコットの仕事で有名なテイ・キース、ネプチューンズ、ドリル系の売れっ子808メロビーツ、スイズ・ビーツと幅広いメンツです)が様々な客演アーティスト達の音源(カニエ・ウェスト、フューチャー、21サヴェージ、ファレル、スウェイ・リーなどなどこちらも豪華メンツ)を加えて作られてます。メディア的にはポップのラップはタイトでいいんだけど、音盛りすぎじゃね?的な評価が多いようで、Metacriticのスコアも52点とかなり低め。
ただこれだけ盛られると若いヒップホップ・ファンは飛びつくというもんで、この1位はその証拠。今週のHot 100にもカニエとその舎弟プッシャTとのコラボ曲「Tell The Vision」(49位)を筆頭に、PVで妖艶なデュア・リパとのコラボシングル「Demeanor」(86位)など収録20曲中8曲が初登場。前作の『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』もこの煽りを受けて今週圏外11位→9位にトップ10復帰してます。しかし今後もポップの遺族はこういう2パック的商法を続けるのでしょうか。あと、このアルバム、次のグラミーでは前作がガン無視された中、どういう評価になるのか。
そしてそのポップと僅か4,000ポイント差の84,000ポイント(実売61,000枚で今週のアルバム売上1位です)で2位初登場に泣いたのはジョン・メイヤーの8作目『Sob Rock』。今回のアルバムジャケを見てアラフィフからアラ還の洋楽ファンでニヤリとした人多いのでは。いかにもな80年代AORロックアルバム的なデザインで見た瞬間笑ってしまいました。しかも限定盤で、よく当時US輸入盤の安売LPに貼ってあったオレンジ色の「Nice Price」のステッカーが貼られたデザインのバージョンもこうやってあるらしく(笑)。いやぁいいじゃないのジョン・メイヤーこの遊び心。
そしてサウンドも、冒頭の80年代を席巻したポリフォニックシンセの名機、プロフェット5のコードリフが超懐かしい感じのミディアムナンバー「Last Train Home」からスローミディアムの「Shouldn’t Matter But It Does」に流れていく感じとか、前作の『The Search For Everything』(2017年2位)などで聴かれた、2020年代のサウンドランドスケイプを意識した音作りから、そのちょっと前の音作りのスタイルの戻ってる感じがして、何か聴いててオジサンとしてはホッとする感じ。ジョンというと、大ブレイクしてスティーヴ・ジョーダンと組んでAORロックのフレイムワークで好き勝手やってた時代と、その後ルーツロック系に傾倒したドン・ウォズと組んだ時代があって、どちらも違う意味で好きだったけど、今回ドン・ウォズが共同プロデュースしてるのに、スティーヴ・ジョーダン時代のサウンドに回帰してる、てのが面白いところ。ジャケのパロディだけじゃなくて、ジョンとしてはちょっとステップバックして基本に戻ってみた、ていう感じもあるのかな。
フランク・オーシャンのバンドでギター弾いたりとか、クラプトンのお墨付きのクロスロード・フェスティヴァルでメイン張ったりとか、いわゆる現代の3大ギタリスト(あと二人はジョン・フルシャンテとテデスキ・トラックス)の一人としては一番ヴァーサタイル(何でもできる)さを発揮しながら、すごく基本に忠実なのがやはり好きなところかな。このアルバム、個人的な年間ベストの結構上の方に入ってくる予感ありありです。あ、あと、アルバムで3曲でボーカルに参加してるマレン・モリスの存在も気になるなあ。
さて今週のトップ10初登場はこの2枚のみ。今週はトップ10圏外も賑やかなので急ぎます。まずトップ10来るかな、と思ってたけど17位初登場だった、クライロの2作目のアルバム『Sling』。ブレイク作となった前作『Immunity』は元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムとのプロデュースで作られたドリーミー・ポップ炸裂の会心作でしたが、今回は一気に売れ線のジャック・アントノフ(ファンのメンバーで、テイラー・スイフトやロード、ラナ・デル・レイなどプロデュース)と組んで更にそのポップワールドを進化させているようで、Metacriticの点数も84点とメディアの評判もかなりいいですね。自分はまだ聴き込めてないですが、ロードがバックコーラスに入ってるシングル「Blouse」なんかはより内省的なクライロの呟きが美しいな。
続いては何と27位に初登場してきたディー・ジーズの『Hail Satin』。このディー・ジーズって、実はフー・ファイターズの変名で、フーファイが何とA面ではあのビー・ジーズの『サタデイ・ナイト・フィーヴァー』時代の曲やアンディ・ギブの曲をカバーしてる(B面は彼らのこの間のアルバム『Medicine At Midnight』の曲のライヴバージョン)という企画アルバムなんです。そしてこれが、今年2回め、7/17に開催されたレコード・ストア・デイ2021の特別企画アルバムなんですねえ。これ、出るのは知ってて自分もRSD2021の今回の特別企画アルバムも何枚か買いましたが(CSN&Yの『デジャ・ヴ』の別バージョンとか)さすがにこの企画はベタ過ぎるやろ、と思ってたら結構受けて買う人多かったんですね(笑)。
実はこれ以外に今回のRSD2021第2回目ドロップのアルバムで今週圏外11〜100位に初登場したのはこのアルバムだけで、先程のCSN&Yは107位でした。しかしデイヴ・グロール、ビー・ジーズ好きだったんだ。
46位には、先週トップ10に入ってくるのでは、と言っていたウィル・スミスの娘さんのウィロウの初チャートインアルバムで4作目の『Lately I Feel Everything』が初登場。ブリンク182のトラヴィス・バーカーや、アヴリル・ラヴィーンなんかをフィーチャーしている、というので判るように、R&Bやヒップホップではなくて、ポップ・パンクやエモ・ロック系のサウンドを展開してるアルバムです。
トラヴィスがフィーチャーされてるアルバム冒頭の「Transparent Soul」や、アヴリルとトラヴィス両方フィーチャーの「Grow」なんてまんま90年代のグリーン・デイとか連想するし、個人的には元グロリアナにいてソロでも2000年代にちょっとヒットしたシャイアン・キンボールを思い出したな。
でも最近マシンガン・ケリーとかキッド・ラロイとかR&Bヒップホップ出自のアーティストがエモ・パンク系やってるのはあるけど、正真正銘のアフリカン・アメリカンでこういうのやるのってあんまりないしユニークだね。
そしてそのすぐ下の47位に初登場してるのが、これも先週トップ10来るんじゃね?って言ってたテデスキ・トラックス・バンドの『Layla Revisited (Live At Lockn’)』。そう、あのデレク&ザ・ドミノスの名盤『愛しのレイラ』の完全カバーライブ・アルバムですねえ。デレク・トラックスとツイン・ギターを噛ませているのはフィッシュのトレイ・アナスタシオ。いやあこれはライブの現場にいたファンも狂喜乱舞だったと思うし、彼らのファンであればこのアルバムは必携でしょうねえ。僕ももちろんポチして今到着待ってます(笑)。
思えば2016年春の彼らの武道館ライブでは、あのジョー・コッカーの『Mad Dogs And Englishmen』をフルカバーしてみせたわけで、こういうシリーズの再現ライブは多分彼らこれからもいろいろやってくれると思うので、やっぱり彼らの来日公演は見逃せないね。ちなみに自分は2018年にUS出張にひっかけて彼らのNYビーコン・シアターでのライブを見に行きましたがその日はオールマン・ナイトで『エリザベス・リードの追憶』とか聴けてもう天国だったなあ。
さて続いて49位初登場は、エレクトロ系のDJ、イレニアムことサンフランシスコ出身の現在30歳のニコラス・D・ミラー君の4作目のアルバム『Fallen Embers』。前作『Ascend』(2019年14位)とチェインスモーカーズとコラボした「Takeaway」(Hot 100 69位、ダンスチャート3位)でブレイクしたイレニアムですが、今回はやや地味目の登場。
今回はカリフォルニア出身のシンガー、アニカ・ウェルズをフィーチャーした「Nightlight」を筆頭に、ポップなダンス・チューンでダンスチャートでヒットを連発していますがまだメインストリームにはクロスオーバーしてない模様。とはいえ、多分来年のグラミー賞のダンス部門には顔を出してくるんでしょうね。
そして65位に初登場してきたのは、野球のバットの生産地として有名な、ケンタッキー州ルイヴィル出身のラッパー、ESTジーの6本目のミックステープ『Bigger Than Life Or Death』。リル・ベイビーのヒット「Real As It Gets」(今年最高位34位)でブレイクしたのを受けてリリースしたこのミックステープがさっそく売れたわけですが、このESTジー、メンフィスのラッパー、ヨー・ゴッティのグループに所属していた関係でインタースコープ・レーベルに契約出来た模様。
いやあしかし彼ったらヤクの密売で自宅勾留されてる間にラッパーやろうと思ったとか、去年弟が射殺されてるとか、自分も2年前に腹に4発、左目に1発くらってるとか(その後手術で視力回復したらしいが)もう何か超破滅的なキャラなんでいつまでこのキャリアが続くものやら。
そして今週の最後の圏外初登場は、今週UKアルバムチャートで1位初登場を決めながら、全米では94位初登場という、UKのユーチューバー兼ラッパー兼ボクサー(!)というKSIことオラジデイ・オレインカ・ウィリアムス・オラトゥンジ(ナイジェリア人とイギリス人のハーフらしい)のセカンド・アルバム『All Over The Place』。今年28歳の彼のキャリアは2009年頃にYouTubeにサッカービデオゲームFIFAシリーズのコメントビデオ(ゲームプレイ画面映しながらコメントしてるアレね)をポストし始め、これが人気を呼んだことでスタート。その後コメディ系のVログをアップしたりして今や彼のチャンネル登録者数は3400万人を超えてるというからすごい。
そんな彼、ラッパーとしても2016年頃からEPを出し始め、昨年リリースの初のフルアルバム『Dissimulation』(UK 2位、US 149位)とそこからの2曲のUKトップ10ヒット「Houdini」「Down Like That」でブレイク。今回のアルバムでまた一段ギアを上げてきたわけです。ヤングブラッド、クレイグ・デイヴィッド、フューチャー、ポロGなど英米の実力派を満遍なく客演参加させた音作りは、今のUSメインストリームのヒップホップとは全く異なる、ロック的グルーヴを全面に出したなかなかタイトな作りで結構カッコいいかも。全盛時のユーリズミックスあたりとコラボさせたかった、とふと思いました。
ということで圏外100位までの初登場、今週は7枚しかもどれもなかなかの話題盤という豊作の週でした。ここでHot 100の話題を一つ。先週BTSは、1位だった自分の「Butter」を自分の「Permission To Dance」の1位デビューで蹴落としまして、自分で自分の1位曲を蹴落とした史上14組目のアーティスト(その他は新しい順にドレイク、ジャスティン・ビーバー、ザ・ウィークンド、テイラー・スウィフト、ブラック・アイド・ピーズ、T.I.、アッシャー、アウトキャスト、ネリー、ジャ・ルール、パフ・ダディ、ボーイズIIメン、ビートルズ)となりましたが、何と今週その「Permission To Dance」が再度上昇した「Butter」に1位を奪還されるという、自らの曲で2回連続自らの1位を蹴落とすという快挙を達成。
これって、過去には1964年にビートルズが「I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)」「She Loves You」「Can’t Buy Me Love」と3曲連続のHot 100の1位を達成して以来57年ぶりのこと。BTS、ますます大変なことになってますなあ。ただ我が家のKポップファンの女性陣から「Permission To Dance」、あれはBTSじゃない、というコメントも。まあ確かにこの曲、2019年の「Make It Right」(76位)以来のエド・シーランとの共作ナンバーですからね。ということでここで恒例、トップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。
*1 (-) (1) Faith - Pop Smoke
*2 (-) (1) Sob Rock - John Mayer
3 (1) (9) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
4 (2) (4) Planet Her - Doja Cat
5 (3) (28) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
6 (4) (7) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
7 (5) (6) Hall Of Fame ● - Polo G
8 (6) (68) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
*9 (11) (55) Shoot For The Stars Aim For The Moon ▲2 - Pop Smoke
10 (8) (7) Inside (The Songs) - Bo Burnham
さて今週7/31付のBillboard 200をお届けした「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にこちらも恒例の来週一位予想。今回の集計対象期間は7/23-29ですが、今週の1位のポップも来週は大きくポイントを減らしそうなので1位は8〜9万ポイント取れれば余裕で1位取れそうですが、これくらいのポイントを叩き出しそうなのが、マイリー・サイラスとの「Without You」(8位)そしてジャスティン・ビーバーと組んだ最新ヒット「Stay」が先週3位初登場と好調なザ・キッドLAROIの初フルアルバム。今の調子だと多分確実に10万ポイントは叩き出すでしょうね。それ以外にトップ10に初登場しそうなのはリオン・ブリッジズくらいでしょうか。ではまた来週。
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