今週の全米アルバムチャート事情 #235- 2024/5/11付
ゆったりとしたゴールデンウィークもとうとう終わり、風薫る5月の到来と共に大谷翔平選手もいよいよHR量産体制に入った様子。それだけでなく、今永昇太選手も開幕から5勝無敗、防御率1点台前半という驚くべき好調を維持してるので、カブス戦も彼が先発する試合は実況して欲しいもんですね。いずれにしても野球を見るにはいい季節になってきました。いい天気、いい音楽、いいスポーツで春を楽しんで行きましょう。
そんな気持ちのいい気候の中、今週の全米アルバムチャート、5月11日付のBillboard 200の首位は当然予想されたようにテイラーの『The Tortured Poets Department』がポイント83%減ながら、依然439,000ポイント(うち実売107,000枚とこれも94%減ながら依然すごい数字)という高いポイント数を維持して余裕の2週目の首位をキープしてます。このくらい歩留まりが高いと来週半減しても20万ポイント台なので、3週首位もほぼ確定のような気がしますね。ちなみに2週め43万ポイント、というのはアデルの『25』 (2015)が初週338万ポイント→2週目111万ポイントという異様なワンツーパンチでスタートして以来最高の2週めポイントになります。UKでも先週から2週連続の首位をキープして、テイラー天下は英米で継続中。
先週は初週の各ポイントの記録についてお伝えしましたが、今週はテイラーの1位アルバムに関する記録をおさらいしてみましょう。まずこの『TTPD』の1位でテイラーの全米ナンバーワン・アルバムは14作目。これはジェイZとタイで、ビートルズ(19作)に次ぐ歴代2位です。テイラーのナンバーワン・アルバム、改めておさらいすると以下のとおり(*は継続中)。
Fearless ▲10 (2008〜09、11週1位)
Speak Now ▲6 (2010、6週1位)
Red ▲7 (2012、7週1位)
1989 ▲9(2014〜15、11週1位)
Reputation ▲3(2017〜18、4週1位)
Lover ▲3(2019、1週1位)
Folklore ▲2(2020、8週1位)
Evermore ▲(2020〜21、4週1位)
Fearless (Taylor’s Version)(2021、2週1位)
Red (Taylor’s Version)(2021、1週1位)
Midnights ▲2(2022〜23、6週1位)
Speak Now (Taylor’s Version)(2023、2週1位)
1989 (Taylor’s Version)(2023〜24、6週1位)
The Tortured Poets Department(2024*、2週*1位)
こうして見るとやはり彼女の場合、ここ数年の再録プロジェクトのアルバムの1位が、ナンバーワンアルバムを稼ぐ大きい要素になってます。さすがに再録盤はオリジナル盤に比べると売上枚数は少なく、まだRIAAのマークが付いたアルバムはないですが、これだけ出せば必ずナンバーワン状態が続くとあと5年くらいでビートルズに並んで追い越す可能性があるということになります。いやはやどこまでこのドミナント・パワー、続くんでしょうね。
今週のトップ10、もう一枚の初登場は37,000ポイント(テイラーの10分の1以下ですねw、うち実売3,000枚)で10位初登場の、カナダ人のR&Bシンガー、パーティネクストドア(本名:ジャーロン・アンソニー・ブラスウェイト)の4作目『PartyNextDoor 4 (P4)』。これで3作連続のトップ10、ファーストの『PartyNextDoor Two』(2014)も15位なので、アルバムは全てトップ20という安定したチャート・パフォーマンスですね。もともとキャリアブレイクのきっかけが、カナダつながりもあってかドレイクの『Nothing Was The Same』(2013)へのバックコーラス参加ということもあり、ドレイクのOVOサウンド・レーベルの最初の契約アーティストで、ドレイクとのコラボ・シングルも多数あるアーティストです。
いやいやしかしちょっとジャケ写が結構ヤバいアルバムですが(ここに掲載したジャケ写は自主規制でボカしてあります。オリジナル見たい方はネットで検索をw)、全体的にはチル系の浮遊感たっぷりなトラップR&Bで埋め尽くされてます。ここまで毎回必ずゲストで1曲にはフィーチャーされていたドレイクは今回は名前が見えませんが、ドレイクの片腕であるノア・シェビブは全14曲中5曲で共作者として名を連ねているので、相変わらずドレイク傘下の体制の元でのアルバム制作だったようです。なので、サウンドスケイプ的にも楽曲的にも男と女の夜の世界を官能的に表現しているような、そんなトーンで統一されてますね。音的にはドレイクの初期、正しく『Nothing Was The Same』の頃の感じです。90年代ヒップホップR&Bあたりがお好きな向きにはいい感じなんではないでしょうか。自分もしばらくパワロテにしそうですね。
今週トップ10初登場は1枚ですが、圏外11〜100位の初登場は5枚と、久々にちょっと賑やかです。筆頭で32位にエントリーしてきたのは、いつもおなじみグレイトフル・デッドのライブ音源コレクター、デイヴ・ラミューさんによるライヴ音源集第50弾(しかしこのシリーズ、いつまで続くんだろう?)『Dave's Picks, Volume 50: The Palladium, New York, NY - 5/3/77』。今回も25,000セットの限定販売で、CD3枚組。タイトル通りニューヨークはマンハッタンのイースト・ビレッジにある映画館「パラディウム」でのライブセットですが、ディスク2と3には翌日1977年5月4日のセットがボーナスとして5曲収録されてます。ちょうど9作目のオリジナル・アルバム『Terrapin Station』 (1977年28位)リリース直前のライブということで、同アルバム収録の「Samson & Delilah」や「Dancing In The Street」などのカバー曲をはじめ、チャック・ベリーやジョニー・キャッシュなどのカバーが今回もやや多めのセットになってますね。
続く51位に初登場してきてるのは、2021年にドレイクをフィーチャーした「You’re Mines Still」(Hot 100最高位18位)でブレイクして早くも今回が4作目になる、アラバマ州出身のラッパー兼シンガー、ヤング・ブルーの『Jeremy』。アルバムタイトルは彼自身の本名で、たいていヒップホップ系のアーティストが自分のファーストネームをアルバムタイトルにするのって、内省的な内容の作品が多いような気がするんですが、ジャケに自分の少年の頃の写真(?)をあしらったこの作品もその線のよう。事実かどうかよくわかりませんが、冒頭のスキット「Everybody Hates Jeremy」では自分が起こした発砲事件や、奥さんとの離婚と10歳の息子の親権獲得、弟との契約関係のいざこざなんかを報道するニュース音声が流れた後、これまでのチルでオーガニックなスタイルからちょっと目先の変わった、オートチューンでエモにラップする「Chrome Heart」になだれ込むというオープニングが何となくアルバム全体のトーンを定義してる気がします。
それでもトラップ風味ながら基本R&Bでオーガニックなトラックに乗せてチルなラップを聴かせたり(ジョン・レジェンドをフィーチャーした「Be OK」や「Court In The Morning」など)、達者なR&Bボーカルでチル感を盛り上げたり(リル・ウェインをフィーチャーした「Confirmation」や「Make Me Stay」など)と安定したスキルフルさは相変わらずです。今回初めてR&B/ヒップホップ・アルバム・チャートにチャートインしてないのが気になりますが、内容的には叙情的ヒップホップ系がお好きな向きには充分お勧めできるアルバムですね。
さて、個人的にこの間のヴァンパイア・ウィークエンド同様やや驚いたのが、86位という順位でチャートインしてきたセント・ヴィンセントことアニー・クラークの7作目『All Born Screaming』。2011年に『Strange Mercy』(19位)でブレイクして以来、作品の内容だけでなく安定してアルバムチャートのトップ20圏には必ず送り込んで来ていた彼女の新作がHot 100入りギリギリのこの順位にしか登場できなかったことにちょっとショックを受けています。今回前2作で共同プロデュースしていたジャック・アントノフ(ご存知テイラーやラナのアルバムの仕事でここ10年USロック・シーンでの存在感抜群)は参加しておらず、アニー自身ピンでのプロデュースですが聴いたところ作品自体のクオリティは相変わらずで、音楽メディアの評価も極めて高い(メタクリティック89点という高得点)だけにこの順位は不可解です。事実UKでは前作の『Daddy’s Home』(2021)の4位(USでは16位)に続いて今回も5位初登場と高い人気を印象づけてますしね。
聴いてて思ったのは、ゴリゴリのギターサウンドが『Strange Mercy』の頃の楽曲を思わせる「Broken Man」などのように、前々作『Masseduction』(2017年10位)のエレクトロな音像や、『Daddy’s Home』のオーガニックなR&Bロック路線から今回初期のオルタナ感が強い楽曲スタイルに大きく回帰してるのが影響してるのかな、ということ。つまり最近2作でセント・ヴィンセントを聴き始めたリスナーのイメージからズレてしまった可能性があるのじゃないかと。ロック・アルバムとしては本人も言ってるように「自分の気持ちをリアルに表現したアルバム」なんだけど、それが最近のリスナーのイメージと合ってない可能性があるかもしれません。もう一つ、今回はデジタルとストリーミングのみリリースで、現時点フィジカルを一切リリースしてないというのも影響してるのかも。毎回フィジカル、特に最近はヴァイナルの売上を確実に稼いでる彼女のこと、ここのポイントが乗っかっていればおそらくトップ20近辺には来ていたんだろうと思います。個人的には久々にアニー「らしい」ロックアルバムになってるなあ、という感触。もう少し聴き込んで見ますが。
今週も90位台ギリギリにチャートインしてきたKポップ勢、今週は今年4月にデビューしたての、5人組ガール・グループのアイリット(ILLIT)初の全米チャートイン作『Super Real Me (EP)』。BTSやTXT同様、HYBE傘下のレーベル所属で、メンバーに19歳の境萌花(さかい・もか)と16歳(!)の外園彩羽(ほかぞの・いろは)の2人の日本人がいて、つい先週5/3には日本での初パフォーマンスを行ったらしいです。既に初Hot 100チャートインを果たした先行シングル「Magnetic」(91位)を含む僅か4曲入りのEP(ほとんどシングルですなあ)で今回初チャートインを果たしてます。
基本キャッチーなダンス・ポップ路線の曲で勝負するスタイルのようで、「Magnetic」は軽快でメリハリの利いた808ベースとさりげないトラップ風味が印象的なアップテンポ・ナンバーなんで、スタッフがガッチリとデビューに備え満を持して楽曲を厳選してリリースした、という感じが強くしますねえ。いかんせんまだ4曲しか楽曲ないので今後は未知数ですが。
そして今週最後の初登場は99位ギリギリにチャートイン、オーストラリアの5セカンズ・オブ・サマーのリード・ボーカル兼ギター担当のルーク・ヘミングスの初ソロEP『Boy』。彼はすでに2021年に初ソロフルアルバム『When Facing The Things We Turn Away From』(124位)をリリースしてますが、今回のEPは「自分と自分を取り巻く世界のいろんなことについて改めて問い直しながら書いた曲」7曲を収録したものとのこと。
そういう心境を反映してか、一曲「Close My Eyes」以外は、冒頭の「I’m Still Your Boy」やシングルの「Shakes」など、バンドのパワーポップなサウンドとはちょっと一線を画したような、音響派的なサウンドスケープを基本にした、スケールの大きいエモなナンバーが並んでるような気がします。バンドの方は2022年末に前のワールドツアーが終わって今はお休みの時期なんで、個人的に書いてみたかった曲を書いてレコーディングした、という感じなんでしょうか。
ということで今週の100位までの初登場は都合6枚でした。一方Hot 100の方では、テイラーとポスティの「Fortnight」がまだ強く2週目の1位をキープしてる一方、2位にこれが初チャートインとなるヴァージニア州出身のトミー・リッチマンというアーティストの「Million Dollar Baby」がいきなり初登場してきてます。エレクトロベースながら、オーガニックなビートとグルーヴのシンセベースに、キャッチーな半分ラップ、半分歌っぽいトミーのボーカルが乗った、ちょっと90年代オルタナR&Bっぽい風味もあるナンバーで、TikTokでバズって今回のヒットになった、というのもうなずける曲ですね。他に対抗馬がなければこれ、来週くらい首位取ってもおかしくない勢いですが、生憎5/2にケンドリック・ラマーが急遽ドロップした、ドレイクへのディス返しトラック「Euphoria」が急速にストリーミングを集めてるのでこちらに来週の首位はさらわれるかもしれません。ケンドリックはこれ以外にも続々とディス返しトラックをドロップしてて、その他の曲もストリーミング集めてますので、来週のHot 100上位はえらいことになってるかもしれません(笑)。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (1) (2) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <439,000 pt/107,000枚>
*2 (4) (61) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <69,000 pt/1,281枚*>
3 (2) (6) We Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <61,000 pt/613枚*>
4 (3) (5) Cowboy Carter - Beyonce <52,000 pt/7,184枚*>
5 (7) (75) Stick Season ▲ - Noah Kahan <41,000 pt/4,620枚*>
*6 (11) (173) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen <40,000 pt/370枚*>
7 (8) (4) Fireworks & Rollerblades - Benson Boone <40,000 pt/1,304枚*>
8 (6) (3) We Still Don’t Trust You - Future & Metro Boomin <39,000 pt/145枚*>
9 (9) (73) SOS ▲3 - SZA <39,000- pt/1,831枚*>
*10 (-) (1) PARTYNEXTDOOR 4 (P4) - PartyNextDoor <37,000 pt/3,000枚>
ということでテイラーが盤石の2週目首位をキープした今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週1位の予想ですが(チャート集計対象期間:5/3~9)、来週のテイラーの3週目1位を阻止するためには最低20万ポイント級の出力の新譜のドロップが必要なんですが、リリーススケジュールで可能性がありそうなのがデュア・リパくらいでしょうけど、彼女初週で10万ポイント行ったことないんですよね。なので来週も首位はテイラーかと。それ以外にトップ10に来そうなのはシアの久しぶりのアルバムくらいか。ではまた来週。
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