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今週の全米アルバムチャート事情 #142- 2022/7/30付

家族が先週末からコロナ陽性になり、濃厚接触者としての一週間を過ごしてきて「陽性になったらどうしよう」と思ってたのですが、幸い月曜日やったPCR検査の結果が陰性と出て、晴れて今週フジロックに参戦してます。何と言っても2019年以来3年ぶりのフジロック、景色も懐かしく、なかなか格別な空間を改めて満喫してます。でもその一方で初日メガネを紛失したり、現在佳境の仕事上のプロジェクトの件で電話やメールしたりと大変でしたがそちらも何とか一段落し、今日の2日目以降フジロック、天気もまずまずそうなので存分に楽しみたいと思います。現地でも感染に気を付けながら

"Un Verano Sin Ti" by Bad Bunny

さて今週の全米アルバムチャート、7月23日付のBillboard 200、なーんと何と何と、今週はさすがに10万ポイントを割るだろうと思ってたバッド・バニーUn Verano Sin Ti』、今週も103,000ポイント(うち実売今週も1,000枚以下)とデビューから11週連続で10万ポイントと、とうとう2016年のドレイクViews』の10週を抜いて、同じ2016年のアデル25』(デビューから14週連続10万ポイント)以来の記録を達成してしまいました。何かここ最近毎週ポイント減少数が少しずつ少なくなってるようで、ひょっとして来週も10万ポイントジャスト!とかいって記録を伸ばしてそうな雰囲気なのがすごいし、この後出てくる2位初登場のリゾを4万ポイント近くぶっちぎってるのも凄いなあ。ところで今週1位予想してたBTSj-ホープのソロ、トップ10に入ってないってのはどういうことなんでしょうね。

さて「今週のバッド・バニーの一曲」はイケメンのレガトン・ラッパー、ラウー・アレハンドロとのコラボ曲、その名も「Party」(笑)。ちょっとシティポップっぽい感じの導入部だなーって聴いてると、しっかりダンスホールっぽいガツンガツンと来るレガトン・ビートに乗った、ほぼラップっぽい展開に乱入していくという、まあいつものバッド・バニーの芸風そのままのトラックです。そしてリリックも、そう、ご想像の通り「パーティ、パーティ、パーティ、パーティ」と延々のたまうといういやあ、この曲も軽いなあ(笑)。でもこの調子だとこのアルバムの曲、何か全曲紹介できそうですね(爆)。

"Special" by Lizzo

そして今週1位争いの一角を占めると予想してたリゾの『Special』は69,000ポイント(うち実売39,000枚)で惜しくも2位初登場。でもさっき言ったようにバッド・バニーと4万ポイントくらい離されてるってのはちょっと予想外でした。何てったって今週、このアルバムからの先行シングル「About Damn Time」、Hot 100であのハリー・スタイルズAs It Was」の11週目1位を阻止して1位をゲットしてるんですから。「About Damn Time」、ナイル・ロジャーズが曲とプロデュースで参加してるんか?って感じのカッティングギターのリフがホントに気持ちいい、彼女一流のバリバリ70年代ファンクR&Bナンバーなんで、売れて当然だと思いますね。しかもプロデュースに個人的に大好きなLAソウル・ジャズシーンの大立者、テラス・マーティンが入ってるし!

プラス、リゾのジェンダー的観点とか、このMVでもテーマになってるようにありのままの容姿を礼賛する姿勢とかがやっぱり音楽消費層の好感度高いからねえ。その他にもビースティーズをサンプルしてる「Grrrls」とか、テラス・マーティンがここでもサポートしてるタイトルナンバーとか、ローリン・ヒルズの「Doo Wop」をサンプルしてる「Break Up Twice」とか、クール&ザ・ギャングの「Summer Madness」をサンプルしてる「Naked」とか、コールドプレイの「Yellow」をサンプルしてるその名も「Coldplay」(笑)とか、いやあいい曲多いですよ、このアルバム。70年代以来からのソウルファンにも自信を持っておすすめできる内容です。1位取って欲しかったなあ。

"Gemini Rights" by Steve Lacy

かたや7位に初登場してきたのは、LAのプログレッシヴR&Bバンド、ジ・インターネットのギタリスト、スティーヴ・レイシーのセカンド・アルバム『Gemini Rights』(34,000ポイント、うち実売はフィジカルリリースがないこともあってほとんどゼロ)。これは嬉しかったねえ、というのもジ・インターネットは自分のお気に入りのバンドで、2019年のフジロックで来日した時も大喜びで観に行ったくらい。彼のこの前のデビュー・アルバム『Apollo XXI』も独特のグルーヴの素晴らしいアルバムだったんだけど商業的にはイマイチだったんで(2019年160位)、今回のセカンドがこんなに大ヒットするというのは嬉しい驚きでした。しかもR&B系アーティストとしては珍しく、トップ・オルタナティブ・アルバム・チャートで今週何と1位を獲得してるんですよね

ちょっとアルバム聴いてみると、前作はちょっと今風のエレクトロR&B、って感じだったのが、もっと演奏はオーガニックに、そしてロックやファンクの要素が色濃く出てるということで、音楽メディアの評価も軒並み高い状況です。早くフィジカル出ないかなあ、絶対自分のDJでかけたいんだけど。

"Checkmate" by iTZY

そして今週トップ10の最後の初登場は、今週も来たねKポップ!ってことで、8位に飛び込んできたのは、TWICEと同じJYPエンターテインメント所属のTWICEの妹分的ガールグループ5人組のイッチ(ITZY)の5枚目の7曲入りEP『Checkmate』(33,000ポイント、うち実売31,000枚)。昨年11位にランクインしたデビュー・アルバム『Crazy In Love』に続く全米チャートインを果たしてます。

先行シングルの「Sneakers」とか聴くと、いわゆるビートの効いたヒップホップ・ポップ・ナンバーって感じで特に新鮮さとかは感じないんですが、姉貴分のTWICEと比べるとちょっとハネ具合が元気いいって感じでしょうか。Kポップ・マーケティングの例にならって、このアルバムも17種類のパターンの同梱ブロマイドやポスターを狙ってファンがみんな買いに走ったようで、リゾには負けてますが相変わらずのレベルのセールスを達成してますね。ホントにKポップのこういうマーケティングの徹底ぶりにはある意味敬意を覚えますわ。日本のアーティストでここまでできてないし、やったこともないからなあ。

"Gangsta Art" by Various Artists

さて今週は初登場にぎやかで、圏外11位から100位までにも5枚のアルバムが初登場してますので、どんどん行きます。まずは惜しくも11位でトップ10を僅差で逃したのは、メンフィスのベテラン・ラッパー、ヨー・ゴッティが創設したコレクティブ・ミュージック・グループ(CMG)所属のラッパーやシンガー達のコンピレーション・アルバム『Gangsta Art』。

最近では地元メンフィスのマニーバッグ・ヨー、デトロイトのESTジーやケンタッキー州ルイヴィルの42ダッグなど、NYやロス、アトランタやニューオーリンズといったビッグ・マーケット以外のアーティスト達を拾ってきてはブレイクさせているヨー・ゴッティ、そのコンピが11位というはなかなか凄い人気なんだなあ、と感心。全編トラップ調ではありますが、シカゴのドリルみたいに殺伐さが薄いので何となく聞けてしまいます。レーベル唯一の女性R&Bシンガー、リーラ・サミアの「Hood Rich」なんかもキーシャ・コール・ミーツ・トラップみたいでなかなか聴けますね

"Jack In The Box" by j-hope

続いて先週1位候補に自信を持って推してた、BTSj-ホープのソロアルバム『Jack In The Box』が何と初登場17位というかなり寂しい順位でチャートインしています。既にシングル「More」がビルボードのトレンディング・ソング・チャートの1位をいち早く2週間記録しているだけでなく、2曲めのシングル「Arson」が今週その「More」を蹴落として、15位から1位にジャンプアップするなど人気充分だと思ったんですがこの結果はどういうことなのか。

アルバムを聴いてみると、何となくその理由の一つが判ったような….あのBTSの空に突き抜けるような軽快なダンサブルR&Bの線の楽曲を期待して聴くと、全体オールドスクール・ヒップホップや、グランジっぽい曲が次々に登場するので正直ちょっと面食らいますね。何となくUSブレイク前の時期のBTSの作風をもう少しダークにした感じ。ウータンをサンプリングした「What If…」なんて曲もあり、いやあこれはUSブレイク後のBTSに飛びついたリスナーは引くだろうなあという感じ。そしてすいません、楽曲も正直魅力的なものがあまりない感じなんですよねー。ホントにj-ホープがやりたかったのはこういうことなのかもしれませんが、戦略としては正直外してる気がします...

"Emails I Can't Send" by Sabrina Carpenter

続いて23位に初登場したのは、2010年代にディズニー・チャンネルのシットコム『Girl Meets World』の主人公の親友マヤ・ハート役が当たり役となった女優兼シンガーソングライター、サブリナ・カーペンター5作目『Emails I Can’t Send』。タイトルからして今どき感満載ですが、極めて今風のメインストリームなポップ・サウンドに載せて、同年代(彼女は23歳)の女の子達の共感を呼ぶような日常のちょっとしたユーモラスな出来事なんかを歌にしている(本人談)というこのアルバム、なかなか聴いて好感もてる出来になってます。

これまでリリースした4作いずれもBB200にチャートインしていますが今回が彼女のキャリア最大のヒットになってます(これまでは2作目2016年の『Evolution』の28位が最高)。嫌味のないポップサウンドながら、タイトル曲で昨年63回グラミーのソング・オブ・ジ・イヤーノミネート曲「If The World Was Ending」のコンビ、J.P.サックスジュリア・マイケルズがタイトル曲のソングライティング、ワン・ダイレクションのプロデューサーとして有名なジョン・ライアンが3曲ほど参加している他は特に大物起用や豪華ゲストなどもなく、それでも彼女の世界観をしっかり構築しているあたりも好感。コンテンポラリー・ポップな作品を求めている方にはお勧めできます。

"Summertime Blues" by Zach Bryan

そして34位には、先日『American Heartbreak』で鮮烈にブレイクした、ハートランド・アメリカーナ・シンガー(と自分は呼んでます)、ザック・ブライアンが早くもリリースしたEP『Summertime Blues』がチャートイン。EPといっても9曲収録ですからほぼ新作アルバムと言ってもいいかも。『American Heartbreak』はBB200で5位の大ヒットになっただけでなく、その後ベスト・ロック・アルバムチャートで5週1位、ベスト・アメリカーナ/フォーク・アルバムチャートではデビューから今週まで9週連続1位を記録している中、はやばやと次の音源をドロップしたあたり、きっと今クリエイティブに充実していて湧き出るように作品が出てるんでしょうね。

まだ全曲聴き込み、読み込みしてませんが、今回も等身大の視点から、アメリカの中西部に生きる若い男性が日常や(”Motorcycle Driveby”)、社会的に問題を抱えた中西部での男女関係の悲劇(”Oklahoma Smokeshow”)の関係など、社会的な視点と個人的な視点からの物語をシンプルなカントリー風な楽曲に載せて聴かせてくれてます。やはり彼は注目のアーティストですね。ジョン・メレンキャンプの全盛時を思わせる存在感を放っているシンガーソングライター、こちらもおすすめです。

"Zombies 3" Original TV Soundtrack

今週初登場最後はぐっと下がって79位に初登場、ディズニー+のSFミュージカル映画の『ゾンビーズ』シリーズの3作目『Zombies 3』のサントラが入ってきています。(以下ネタバレあり)アメリカのシーブルックという街で住宅開発時に起きた発電所爆発事故が原因で、街の住人の半分がゾンビーになって(どーいう設定やw)いろいろ問題起きるんだけど、主人公の人間の女の子とゾンビーの男の子が奔走して、一般人と平和に暮らすというまー、ディズニーといえばディズニーな設定のドラマで、これをミュージカルでやってるというからどんなもんかという興味はありますが(多分見ないけどw)。

シリーズ3作目では2作目で登場した狼男もコミュニティに加わってゾンビー、人間、狼男が平和に暮らすシーブルックを襲うエイリアンに団結して対抗するという(笑)まあ子どもたちは喜びそうなストーリーのようです。音楽は映画の『オースティン・パワーズ』シリーズを手掛けて名を馳せたジョージ・S・クリントン(あのファンクの帝王とは無関係)が担当し、ディズニー・ミュージカル・サントラとしては手堅い作品に仕上げてます。ミラベルといい、今年は随所にディズニーの消費層への存在感を改めて感じますね。

さて今週の初登場は最近では多めのこの7枚でした。ここでいつものようにトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (11) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <103,000 pt/1,000-枚>
*2 (-) (1) Special - Lizzo <69,000 pt/39,000枚>
3 (4) (9) Harry’s House ▲ - Harry Styles <52,000 pt/13,000枚>
4 (5) (80) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <48,000 pt/865枚*>
5 (6) (5) Honestly, Nevermind - Drake <37,000 pt/250枚*>
6 (7) (12) I Never Liked You ● - Future <35,000 pt/102枚*>
*7 (-) (1) Gemini Rights - Steve Lacy <34,000 pt/0枚>
*8 (-) (1) Checkmate - iTZY <33,000 pt/31,000枚>
9 (2) (2) Wasteland - Brent Faiyaz <32,000 pt/274枚*>
10 (8) (19) 7220 ● - Lil Durk <31,000 pt/62枚*>

今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後はいつもの来週の1位予想、来週のチャート対象期間は7/22-28ですが、来週も10万ポイント前後をおそらくキープすると思われるバッド・バニーを1位から引き摺り下ろせそうな新譜のリリースはなし。前作からわずか4ヶ月、今週末のフジロック出演を前に早くもリリースされたジャック・ホワイトの新譜がトップ10に入ってきそうな他、久々のジョーイ・バッダスがトップ10に顔を出すかな、って感じです。ではまた来週。

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