
今週の全米アルバムチャート事情 #272- 2025/1/25付
今週大寒を過ぎて少し寒が緩んだ感はありますが、まだまだ寒さが厳しい日々が続いてます。皆さんくれぐれもインフルなど感染しないよう。ところで今年のグラミー賞授賞式、ついにあと2週間を切ってしまいましたが、例年このnote.comでやっている各部門予想ブログにまだ全く手が付いてない状況、ヤバいです。せめてブルーグラス、ジャズ、ゴスペルを除く36部門くらいの予想は何とか授賞式までにアップするようここからアクセル踏みますので、すみません、ちょっと待ってて下さいね。

さて今週の全米アルバムチャート、1月25日付のBillboard 200の首位ですが、大勢の流れは先週にらんだ通り。リル・ベイビーはポイントを落としましたが、バッド・バニーはポイント落とすどころか逆にストリーミング・ポイントを72%も増やして2.64億オンデマンド・ストリーミング相当のポイントをガーンと積み上げ、トータル対先週何と67%増の203,500ポイント(うち実売7,500枚)という、ここ最近ではとんと見たことのない「チャートイン2週目のポイントアップ」という圧倒的な強さで『Debí Tirar Más Fotos』が今週首位をリル・ベイビーから奪ってます。
このバッド・バニーの圧倒的な強さは何なんだろう、と思っていたら、ちょうどビルボード誌にチャート集計データを提供しているルミネート社(旧ニールセン・サウンドスキャン)が2024年のUS及びグローバルの音楽消費動向をまとめたレポートをリリースしていて、その中にあっと驚くというか、大変興味深いデータがあったのでここで紹介したいと思います。下記の地図を見て下さい。

これは、2021〜24年の間に全米各州で最もオンデマンド・オーディオストリーミングのシェアが増えたジャンルを色で表したマップですが、見てわかるように、ほぼ全米の7割以上がブルーで、これ、ラテンなんですよね!しかも東西の大都市圏で移民人口も多いと思われる州だけでなく、中西部や南部のカントリーやロックの強そうないわゆる「レッドネック・ステート」も軒並み真っ青。これは僕らが考えている以上にラテン・ジャンルがここ数年で全米リスナーの音楽消費の中心になってきていることを厳然たる事実として示してるわけです(ちなみに2番目に多くの州で伸ばしてるのがカントリーの黄色で、これもここ最近の全米の音楽消費傾向に如実に反映されてますね)。いやあ、これほどとは思いませんでした。バッド・バニーがこれだけ強いのも、ペソ・プルーマを始めとしてリージョナル・メキシカンのアーティストが続々とチャートに登場してくるのも、こういうデータを見せられるとある意味必然に思えます。そしてバッド・バニーのこのアルバム、ストリーミングだけで20万ポイントということはなかなかポイントを落とさないでしょうから、強力な新譜が現れないとここから結構長期政権になる可能性もあり。うーん全米音楽消費新時代を象徴するようなアルバムになるかもしれません

そして今週それと同じくらい驚いたのは、2位に202,500ポイント(全て実売枚数、うちヴァイナルが161,000枚です)で飛び込んで来たのが、昨年3月にパリのオリンピア劇場で行われた、当時アルバム『Lover』をサポートする唯一のコンサートとして行われたステージのライブ盤、テイラーの『Lover: Live From Paris』のリイシューの再登場。これ、当時テイラーのウェブサイト限定で、ハート型ヴァイナル2枚組で13,500枚のみリリースされて、58位にチャートインしていたアルバムで、今回改めてテイラーのウェブサイトで期間限定で再リリース、併せてデジタル・アルバムもリリースされたところ、これだけの売上を叩き出したというわけ。そりゃあ、初回限定を逃したテイラーファンは飛びつきますわな。当然ヴァイナルは数時間で完売したそうです。でもあと1,000枚余計に売れてたら、さっき強力だ、って言ってたバッド・バニーを押さえて今週1位になってたわけだから、こちらも別の意味で凄いです。
しかしこうやって新譜が出てない時期でも、過去の音源を再リリースしたりして、簡単にマーケティング・ブラストを実施できるテイラー陣営の力というか、テイラーのアーティスト・パワーを改めて感じさせるようなリリースだし、ポイント出力ですよねえ。そして今回追加されたデジタルアルバムは、オリジナルの8曲バージョンに加え、3種類のボートラ(エラス・ツアーでパフォームされた「False God」「I Think He Knows」「Paper Rings」)がそれぞれ追加された合計4種類のバリエーションが提供されたとのこと。どこまで商売上手なんや(笑)。

ということで今週のトップ10初登場はテイラーのみ。そして3週連続初登場ゼロだった11位以下100位までの圏外にも、今週ようやく1枚初登場がチャートインしました。ただしこれが2010年にリリースされたアルバムという珍現象。そのアルバムは53位に初登場した、ハイディ・モンタグの『Superficial』。ハイディは今からもう20年ほど前にMTVで放映されたリアリティ・ショー『The Hills』(LAに暮らす若い男女の日常を描く、ソープオペラ風の番組だったらしい)のメインキャラの一人としてブレイクした、今年38歳のブロンド美人タレントで、その『The Hills』で共演していたスペンサー・プラットと2008年に結婚、LAのパリセイズ地区に住んでるという、まあパリス・ヒルトンあたりと同じような類のセレブのようです。
アルバムの内容は何てことないダンス・ポップ・アルバムで、お世辞にもあまり褒められない類のマスプロな内容で、リリース当時もチャートインしてなかったくらい。で、何でこのアルバムが15年後の今こんなところにチャートイン?調べたところ、彼らのパリセイズの自宅が、ビリー・クリスタルやボブ・クリアマウンテンTikTokに「あたしのアルバムを買って、ストリーミングして、家を再建する費用の助けにしてええ!」と訴えたところ、彼女ら夫婦のファンがそれに応えてこの一週間でこのアルバム(デジタルオンリー)が11,000枚売り上げられ、アルバムトラックの「I’ll Do It」が140万ストリーム、6,000ダウンロードの売上を記録したのを筆頭に350万ストリーム、12,000ダウンロード売上を記録してここにチャートインしてきたというわけ。いやあ、チャートインの仕方もいろいろあれど、こんなパターンもあるんですなあ(笑)。
ということで今週の100位までの初登場は2枚。一方Hot 100の方はガガ+ブルーノの「Die With A Smile」が安定の3週目の首位をキープしてますが、バッド・バニーのストリーミングの大幅アップを受けて「DTMF」(38→2位)、「Baile Inolvidable」(28→3位)そして「Nuevayol」(27→8位)と一気に3曲がトップ10入りしてきています。それ以外のバッド・バニーの曲も軒並み急上昇で今週は正にバッド・バニー祭りの様相を呈してますね。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (2) (2) Debí Tirar Más Fotos - Bad Bunny<203,500 pt/7,500枚>
*2 (RE) (2) Lover: Live From Paris - Taylor Swift <202,500 pt/202,500枚>
3 (3) (110) SOS ▲3 - SZA <102,000 pt/2,141枚*>
4 (4) (8) GNX - Kendrick Lamar <64,000 pt/695枚*>
5 (1) (2) WHAM - Lil Baby<55,000 pt/354枚*>
6 (5) (21) Short n’ Sweet ▲2 - Sabrina Carpenter <48,000 pt/8,832枚*>
7 (7) (35) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish <40,000 pt/6,262枚*>
8 (6) (8) Wicked: The Soundtrack - Cynthia Erivo, Ariana Grande & Various Artists <39,000 pt/11,570枚*>
9 (8) (98) One Thing At A Time ▲7 - Morgan Wallen <39,000- pt/718枚*>
10 (9) (30) The Secret Of Us - Gracie Abrams <36,000 pt/2,468枚*>
まざまざとバッド・バニーの、いやラテン・ジャンルの強さを見せつけられた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか?最後にいつもの来週の1位予想ですが(チャート集計対象期間:1/17~23)、今週も大型の新譜リリースは見当たらず、おそらくバッド・バニーは10万ポイントはまず割ってこないでしょうから、どうやらバッド・バニー、2週目の首位はほぼ決まりですね。ではまた来週。