今週の全米アルバムチャート事情 #154- 2022/10/22付
いやあMLBのポストシーズン、下剋上の嵐が吹き荒れてますねえ!昨年ワールドシリーズチャンピオンのブレーヴスはフィリーズに撃破され、ダルヴィッシュのパドレスは今年メジャーリーグ最高勝率のドジャーズを撃破。アストロズは貫禄でマリナーズを退けたけど、ヤンキースもインディアンズ改めガーディアンズに苦戦の末何とかALCSに進出。ワールドシリーズマッチアップの予想としては、アストロズ対パドレスと見てますがさあどうなりますか。引き続きMLBの三昧の日々は続く。
そんな感じでMLBで連日興奮の中、今週10月22日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は久々に余裕で予想的中で、今年の4月にセンセーショナルに1位を決めたばかりの前作のEP『ODDINARY』に続いて117,000ポイント(うち実売110,000枚でもちろん今週のアルバム・セールス・チャート1位)とぶっちぎりのポイント数で1位初登場を決めた、Kポップの8人組ボーイズ・バンド、ストレイ・キッズの9作目のEP『Maxident』でした。いやでも凄いねえ。前作は初チャートインで107,000枚を売っていきなり1位に初登場してびっくりしたもんだけど、今回はそれを上回る売上枚数ですぜ旦那。これで今年のKポップ勢の全米ナンバーワンアルバムは、自分たちの『ODDINARY』、BTSの『Proof』、ブラックピンクの『Born Pink』に次ぐ4枚目で、アーティストとしても2枚の全米ナンバーワンはBTSの3枚に次ぐ勢い。
チャートインの最初の2枚がどちらもナンバーワンというこのストレイ・キッズの強さって何なんでしょうね。もちろんKポップ勢のここ数年の勢いだとか、Kポップアーティストお約束の複数の異なるバージョンのCDパッケージによるマーケティング(今回のストレイ・キッズの場合は10種類だったそうでw)とかは当然プラスに働いてるんでしょうが、彼らのサウンド自体はBTSのように広くアメリカで受けるような70〜80年代R&Bディスコオマージュ的なものでもなく、どちらかというとBTSが売れる前のエッジの聴いたエレクトロ・ヒップホップ・ビート的なサウンドなんですよね。もちろん最近ブレイクしてる他のKポップのボーイズバンド、例えばTomorrow x Togetherとかもそういう感じなんだけど、ここまで圧倒的に売れてないのになぜストレイ・キッズだけ?というのは謎です。
今週トップ10初登場2枚めは、33,500ポイント(うち実売2,000枚)で7位に入ってきたヒップホップ・トリオ、ミーゴスの3人のうちの二人、叔父さんと甥っ子デュオのテイクオフとクエイヴォの『Only Built For Infinity Links』。このタイトル、ヒップホップ・ファンなら思わずニヤリとしたと思うんだけど、あのウータンのメンバー、レイクウォンの90年代ヒップホップの名盤、『Only Built 4 Cuban Links…』(1995年4位)へのオマージュたっぷり。何でもテイクオフによるとちゃんとレイクウォンのOKを取ってのこのタイトルらしいです。90年代ヒップホップ好きにはたまらんですなあ。
で、サウンドの方はそのレイクウォンのサウンドとは全く違う、ミーゴスの頃から変わらぬ、トラップベースなんだけどトラップ一辺倒ではない、いろんなスタイルのトラックをベースにした、先行シングルの「Hotel Lobby (Unc & Phew)」(最高位59位)に代表されるような二人のキレッキレのフロウが聴ける、なかなかの出来ですね。こうなるとミーゴスのもう一人、カーディBの旦那のオフセットは何で一緒にやらないの?というのが気になるわけですが、昨年のミーゴスのアルバム『Culture III』(2021年2位)の後、どうも彼はこの二人と袂を分かってしまったようで、クエイヴォとテイクオフも「もうあいつとはやらねえ」と言ってますねえ。何があったのか不明ですが、オフセットはソロでアルバムリリースするみたいなので、乞うご期待ということで。
もう一つトップ10のヒップホップ初登場は、27,500ポイント(うち実売500枚)で9位に入ってきた、シカゴのドリル・シーンを代表するラッパー、Gハーボの5作目にして3作目のトップ10アルバムとなった『Survivor’s Remorse』。タイトルからして先に逝ってしまった仲間(前作『25』でも取り上げた、親友で銃殺されたリル・グレッグが筆頭でしょう)のことを考えるとやりきれないぜ、といったようなエモな内容になってますね。
確かにトラック聴いても、ドリルバリバリという感じではなく、幼い息子のヨソーン君の無邪気な声がサウンドビッツ的にフィーチャーされた冒頭の「FWM」(Fuck With Meの略)とか、カニエの「Flashing Lights」をサンプルしてR&Bシンガーのジェレミーをフィーチャーした「Flashbacks」とか、ムーディーでエモなトラックが並んでます。なかなか辛い内容ではありますが、作品としてのクオリティは結構高いので、この順位初登場も当然かな。
そして今週のトップ10最後の初登場は、26,500ポイント(うち実売10,000枚)でギリギリ10位に飛び込んできたチャーリー・プスのフルアルバム3作目『Charlie』。今の時代を代表するメインストリーム・ポップのシンガーソングライターというだけでなく、サウンドメイカーとしてもKIDラロイやジョン・レジェンド、ケイティ・ペリーなど幅広いアーティストのプロデュースや楽曲提供でその存在感を確立している感のあるチャーリー、今回も珠玉の楽曲満載のアルバムをドロップしてきています。
とにかくこの人の書く曲はフック満載でキャッチーで言うことなしですが、今回は先行シングルの「Light Switch」(最高位27位)にしても、BTSのジョングクをフィーチャーした「Left And Right」(22位)にしてもミディアムからアップテンポの珠玉のポップ・チューン(後者のPVでのジョングクのハマり具合も半端ないですが)。思えばチャーリーというとあの『ワイルド・スピードSKY MISSION』(2015)の主題歌で大ヒットしたウィズ・カリファとの「See You Again」とか、全英1位になったメーガン・トレイナーとのデュエット「Marvin Gaye」(2015年21位)などいろんなスタイルでの極上のポップ・チューンを提供してきてくれたアーティストだけに今回の作品の充実度も当然という感じですね。彼才能あるんだし、こういうレコードが日本でももっとプッシュしてもらって売れてほしいもんです。
今週はトップ10内初登場4枚と多めでしたが、圏外11位から100位まででは初登場は3枚でした。その筆頭が惜しくも今回トップ10を逃して12位初登場となった、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)の18作目になるミックステープ、『3800 Degrees』(Daily Hits Doubleによると24,437ポイントで実売443枚)。ここのところ、アルバムだけではなくて、ミックステープも6作連続トップ10だったんですが、さすがにこれだけ立て続けにリリースしてるのがたたったのか、今回はトップ10を外してます。
しかしまあ、よくこれだけ同じような作風の作品を後から後から出せるなあ、とYBNBAの多作ぶりには改めて感心します。今回もいつもの暗めのトラップトラック満載ですが、キャッシュマネー・レーベルかマスターPのノー・リミット・レーベルかという派手なジャケはあきらかにジュヴィニールの『400 Degreez』(1998年9位)へのオマージュですねえ。絵やフォントの感じや構図までクリソツです(笑)。今年もうこれで4作目のリリース(すべてトップ20内)なんですが、実は今日金曜日の21日また次のミックステープをリリースしているらしく、再来週のチャートでまたトップ20くらいには入って来そう。いつまで続くかこの怒涛のリリースラッシュ。
そのすぐ下の15位に初登場してきたのは、ヴァージニア州リッチモンド出身のデス・メタル・バンド5人組のラム・オブ・ゴッドの9作目『Omens』(Daily Hits Doubleによると21,585ポイントで実売19,231枚)。全米のアルバムチャートで根強い人気を誇るジャンルとしてヒップホップは当然として、こういうゴリゴリのメタルも強いジャンルで、何だかんだでこういうバンドはコンスタントに上位に入ってくるんですよね。彼らもこれで6作連続トップ20で、2作前までは4作連続トップ10入りしてましたからまあ、根強い人気があります。グラミー賞の最優秀メタル・パフォーマンス部門のノミニー常連(でも受賞経験なし)でもあります。
ただ自分的にはメタリカみたいなスタイルの普通のボーカルのどっしりしたメタルはOKなんだけど、このバンドみたいにスクリーモなデス・メタル・ボーカルでただひたすらスピード競争みたいなスタイルは正直苦手ですねえ。すみません、ファンの方。
そして今週最後の100位までの初登場は、ぐっと順位下がって61位に入ってきた、小説『赤毛のアン』の舞台で有名なカナダはプリンス・エドワード島出身のインディー・ポップ・バンド、Alvvays(「オールウェイズ(Always)」と読むそうでw)の3作目で2作目のチャートイン・アルバムになった『Blue Rev』。初チャートインで82位をマークした前作の『Antisocialites』(2017)から5年ぶりのリリースですが、実売10,000枚近くを売ったというからまずまずの成績です。
トラップ、デスメタルと来た後にこのバンドのアルバム聴くと一気に気分が爽やかになっていいなあ(笑)という、そんな日向ぼっこしながら演奏してるような、ローファイなギターやキーボードの音色が気持ちのいい、エレクトロな雰囲気もある一方、ジャグリング(ガチャガチャしたサウンドの)ポップな楽曲が楽しい作品ですね。2014年のデビュー・アルバムは全米カレッジ・チャートの1位になり、既に本国カナダでは前作で2018年ジュノ・アウォード(カナダのグラミー賞的なアウォード)の最優秀オルタナ・アルバムを受賞していて、シーンからも高い評価のバンドのようです。何だか90年代UKブリット・ポップを思わせる曲調なんかも清々しく、その手のサウンド好きな方にはおすすめですね。
ということで今週の100位までの初登場アルバムは都合7枚でした。トップ10内の他の話題は、ヴァイナル・リリースで実売47,500枚を売り上げたビヨンセ『Renaissance』が6位→3位とぐいっと反転している他は、モーガン・ウォレンのあのアルバムがまたまたトップ10内最長記録のランキングを一つ上げたという面白くも何ともない話。今週でトップ10内通祭91週をマークしたあのアルバム、90週の映画『南太平洋(South Pacific)』のサントラ盤を抜き去って歴代5位に。次の歴代ランキング上位はミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のオリジナル・キャスト盤(1960)の105週ですが、ホントもうそろそろ落ちてくれよ、と思ってしまいます。一方91週というと、Hot 100の方ではグラス・アニマルズの「Heat Waves」も今週通算91週目を記録して、去年ザ・ウィークンドの「Blinding Lights」が記録した90週を抜いて史上最長記録を達成してます。いやあ1977年にポール・デイヴィスの「I Go Crazy」がHot 100チャートイン40週の記録を作った時はこれを超える記録はなかなか出ないだろうなあ、と思ってましたが、それから45年後の今、41週以上のチャートイン記録を持つ曲が230曲も出てきてしまっているというものすごい現状。このグラス・アニマルズの91週(まだ伸ばすと思いますが)の記録もそのうち抜いてしまう曲が登場するんでしょうね。ではいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Maxident - Stray Kids <117,000 pt/110,000枚>
2 (1) (23) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <76,000 pt/1,297枚*>
*3 (6) (11) Renaissance - Beyonce <75,000 pt/47,500枚>
4 (3) (92) Dangerous: The Double Album ▲4 - Morgan Wallen <46,000 pt/1,014枚*>
*5 (4) (87) The Highlights - The Weeknd <40,000 pt/686枚*>
6 (5) (21) Harry’s House ▲ - Harry Styles <34,000 pt/5,981枚*>
*7 (-) (1) Only Built For Infinity Links - Quavo & Takeoff <33,500 pt/2,000枚>
8 (7) (21) American Heartbreak - Zach Bryan <28,000 pt/500枚>
*9 (-) (1) Survivor’s Remorse: A Side - G Herbo <27,500 pt/632枚*>
*10 (-) (1) Charlie - Charlie Puth <26,500 pt/10,000枚>
今週もKポップ・パワーが炸裂した「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。さて最後は恒例の来週1位予想。来週のチャート集計期間は10/14~20ですが、今週リリースの新譜は久しぶりに盛りだくさん。来週の1位争いはズバリ、リル・ベイビーとレッチリとザ・1975の三つ巴の争いと見ました。この間のダベイビーみたいなコケ方は多分しないだろう、リル・ベイビーにわずかに分がありそうですが、来週の1位争いは楽しみですね。ではまた来週。
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