見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #152- 2022/10/8付

いよいよMLBも今週末からポストシーズンに突入、我らがメッツは残念ながら地区優勝は逃したものの、何とか2016年以来6年ぶりのポストシーズンに進出して久々に熱いポストシーズンが楽しめそうです。またALMVP争いも、かたや62本のホームランでAL記録達成のジャッジなのか、15勝8敗で防御率2.35、HR34本で打点95の大谷なのか(いずれも10/5時点)、はたまた両者同時受賞なのか、11月の発表まではファンの間で侃々諤々の議論が沸騰すること間違いなし。いずれにしても今年はガッツリポストシーズン楽しめそうです。また、9月末で来年2月発表のグラミー賞のノミネート対象期間が終了、これから11月発表の各部門ノミネートに向けて、いろいろ予想記事も上げていきたいと思ってますのでこうご期待

"Un Verano Sin Ti" by Bad Bunny

さて熱いMLBポストシーズンの開幕を横目に今週10月8日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は、てっきり前回初週15万ポイントを叩き出していたダベイビーのぶっちぎりかと思いきや、何とダベイビーは今回16,000ポイントと前回の10分の1の成績で圏外34位初登場と沈んでしまってます。これについては後ほどお話しするとして、この思わぬダベイビーの不振の恩恵を受けたのは…そう、バッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』なんですわ。今回9万ポイントを割って87,000ポイント(うち実売2,000枚)というチャートイン以来最低のポイントまで落ちてきてるんですが、強力な対抗馬が消えた結果、今週何と6回目の首位返り咲き、通算12週目の1位を消去法的に獲得してます

これでバッド・バニーのこのアルバム、2000年以降ではアデルの『21』(2011-12)の24週、『アナ雪(Frozen)』サントラ(2014)とドレイクの『Views』(2016)の13週に続いて、サンタナSupernatural』(1999-2000)と並ぶ21世紀通算4位の長期政権アルバムとなったことになります。これはもう好き嫌いとかは別にして間違いなく2022年を代表するアルバムの一つと言っていいでしょうね。ちょうど8月からスタートして全米16カ所を回った「World’s Hottest Tour」が先週で一旦終了、今は今月21日からは今度は中南米各国を12月までぐるっと回る後半日程開始前のブレイクの期間なので、全米への露出効果を最大限享受したのが、この通算12週1位という結果になってるのは間違いないですね。これでグラミー賞最優秀アルバム部門ノミネートはまあ当確でしょう

"5SOS5" by 5 Seconds Of Summer

そして先週トップ争いに絡むかも、といっていたオーストラリアのポップ・バンド4人組、5セカンズ・オブ・サマー(5SOS)の5作目、その名も『5SOS5』は48,000ポイント(うち実売36,000枚)と、前作『Calm』(2020年2位)の13.3万ポイントからは大きく初週ポイントを減らしての、それでも初登場2位を決めています。デビューから3作連続全米ナンバーワン、前作も2位と1位を伺うには充分な5SOSでしたが、ちょっとポイントが今回低すぎてバッド・バニーを凌駕できず。

アルバム出荷の手違いで惜しくも1位を逃した前作では、ルイ・ベルアンドリュー・ワット、ベニー・ブランコチャーリー・プスなど、ここ最近のヒットメイカー達をプロデューサーに迎えてましたが、今回は基本バンドメンバー自らプロデュースのコントロールを取って制作されたこのアルバム、多分ザ・ウィークンドハリー・スタイルズなど、ここ数年メインストリームの王道を飾った作品の影響も多分に受けていて、サウンドが雄大でアンセミックでアトモスフェリック(浮遊感満点)な楽曲が並んでいて、作品としては一枚皮がむけたように聞こえますね。チャート成績はイマイチながら、シングルの「Complete Mess」や「Me Myself & I」など、極上のコンテンポラリー・王道ポップソングがぎっしりのアルバムになってて、一聴の価値ありです。

"Dirt (30th Anniversary Edition)" by Alice In Chains

さて今週トップ10初登場はこの5SOSのみなんですが、初登場以外で注目すべきは、リリース30周年リマスター盤のリイシューで9位に再登場してきた、アリス・イン・チェインズ(AIC)の1992年リリースのセカンド・アルバム『Dirt』(26,000ポイント、うち実売22,500枚)。最近のヴァイナル人気にも後押しされた形で、実売の殆どが3種類のヴァイナル(通常黒盤、ウォルマート限定の赤盤、バンドのウェブサイト限定のオレンジ盤)の売上で実に30年ぶりにチャートに復活してきました

オリジナルのチャートランでは102週に亘ってランクイン、当時初登場の6位最高位のアルバムだったので、オリジナルの最高位に今回一気に迫ったわけです。ヴァイナル人気、侮るべからず。先月発表されたRIAA(全米レコード協会)のレコード音楽売上レポートでは、昨年同時期の70億ドルから9%伸びた今年の77億ドルの総レコード音楽売上のうち、フィジカルメディア(レコード、CD、カセットなど)の売上は対前年比で13.3%増えて今年7.8億ドル(全売上の10%)になってますが、ヴァイナルの売上はその全フィジカルの73%の売上、5.7億を占めてます。ヴァイナル単体だと対前年日22%増と、ここ数年毎年右肩上がりを続けています。オリジナル盤が高騰している90年代のグランジ・ブームの一角を担ったAICのこの代表作だけに、このパフォーマンスは当然と言えますね。

"Flawless Like Me" by LUCKI

一方今週の圏外11位から100位までの初登場アルバムは5枚。その先頭を切って12位にガーンと初登場してきたのが、シカゴ出身のラッパー、LUCKI(これ本名。フルネームはラッキー・キャメルJr.)のセカンド・アルバムで初のトップ100入りアルバムとなった『Flawless Like Me』。「オレって完璧じゃん」っていう不敵なタイトルがこの順位にいきなり入って来てブレイクするってどういう背景?と思って聴いてみると、以前のフューチャーも真っ青なバリバリトラップビートに乗ったマンブル・ラップ。この順位のポイント(多分2万ポイントくらい)の殆どはストリーミングだろうからなあ、いやあ何だかんだ言ってまだこういうの喜んで聴いてるティーンエイジ・ヘッズが多いってことなんだよなあ。

今年26歳になるラッキー、高校1年の時にラッパーで身を立てるために高校をドロップアウトして以来10年、EP5枚、ミックステープ6本、アルバム1枚リリースしてきたという意外と長い下積みの結果今回ブレイクしたという苦労人ではあるみたいですね。その間、正にフューチャーチャンス・ザ・ラッパーとか、FKAトウィッグスとかとコラボった経験はあるみたいだけど、今回のブレイクのきっかけはいろいろよく判りません。最近時々こうやってストリーミング・パワー・オンリーで上位にブレイクしてくるラッパーいますねえ。

"Subject To Change" by Kelsea Ballerini

18位に登場してきたのは、先週トップ10来るかも、と言っていた、カントリーの女性シンガーソングライター、ケルシー・バレリーニの4作目『Subject To Change』。2015年に自作のデビュー・シングル「Love Me Like You Mean It」がカントリー1位になった史上11人目の女性ソロシンガー(直近は2006年、キャリー・アンダーウッドの「Jesus, Take The Wheel」)として華々しくデビューしたケルシー、前々作からは自らプロデュースにも関わって、王道カントリー・ポップ全開のアルバムをリリースしてきていて、今回も正しくその路線。

2019年には実力のあるカントリー・ミュージシャンとしてシーンから認められるステイタスである、グランド・オール・オプリのメンバーになったケルシー、自分も買って結構気に入ってた前作の『Kelsea』(2020年12位)では今旬のホールジーとコラボしたり、大御所ケニー・チェズニーとのデュエットシングル「Hlaf Of My Hometown」はACMのミュージカル・イベント・オブ・ジ・イヤーを受賞したりと一段アーティストとしての階段を昇った感がありました。全盛期のケイシー・マスグレイヴスほどのエッジはないものの、ケイシーと共に今のカントリー・ポップ界の中心になってきたケルシーのこのアルバムもカントリーのみならずポップ・ファンなら必聴ですね

"Baby On Baby 2" by DaBaby

そして問題のダベイビー。冒頭にもお知らせしたように、2枚連続のナンバーワンを決めた前作の10分の1のポイントで34位と大幅に順位を下げた『Baby On Baby 2』。その背景には前作リリース以降のダベイビーのいろいろな問題ある言動が原因だったようです。具体的にはガールフレンドでダベイビーとの子供もいるラッパー/シンガー、ダニレイの兄との乱闘事件、カニエの大統領選出馬を支持する発言などで評判を落としていたところに、去年のヒップホップ・イベントでのパフォーマンス中にゲイ・コミュニティに対する差別的な発言をしたというのでかなりボコボコにネットで叩かれてたんですね

その発言とその後の彼のインスタグラムでの謝罪(でも後半では謝罪してるようには読めないコメントもあり)とかも見ましたが、まあこれは叩かれるわな、という内容。これが原因でその後ビジネスを失ったり、ライブがキャンセルされたりしてることから、今回彼と仲のいいミーク・ミルが「ダベイビーはいろんなところから不当に排斥されてるんだ」と彼の言動を弁護してるみたいですが、ミークもあんまり深入りして同類だと思われない方がいいんじゃないかなあ。ほんの数年前のグラミーではデュア・リパと共演したりとか、人気の絶頂にあったダベイビーですが、今回のアルバムの出来は別にして(ジャケやダベイビー自ら特殊メイクを付けての「Boogeyman」のPVとかあまり趣味いいとは思えないですけど)、下手するとこのまま下降線を辿る可能性結構ありますね。引き続き動向を注視しましょう。

"Stranger In The Alps" by Phoebe Bridgers

さてぐーっと下がって82位に初登場してきたのは、2020年アルバム『Punisher』がシーンの高い評価を得てブレイク、グラミー新人賞部門にもノミネート(不幸にもビリー・アイリッシュと同じ年)されるなど、一躍ここ数年の重要アーティストの一人となったフィービー・ブリッジャーズの2017年のデビュー・アルバム『Stranger In The Alps』。なぜ2017年のアルバムが今チャートイン?その訳は今週9位再登場のアリス・イン・チェインズ同様、ヴァイナル・リイシューの売上なんですね。オリジナルリリース時はチャートインしなかったので、ブレイクの力とヴァイナルの力強しというわけで

今回はリリース5周年記念盤ということで、限定版銀河色カラーヴァイナル(銀河色ってどんな色だ?と思って確認したところコカコーラみたいな色で渦巻き模様が入っているというものでした)での提供になってるので、『Punisher』でフィービーの虜になったファンが遡って前のアルバムを買おうかな、と思っているところにコレクター魂をくすぐる仕様でどうぞ!ということか。自分もこのアルバム買おうかな、と思っていたところだったのでこの際便乗してカラー盤で買うことにしました。『Punisher』ではガイコツスーツでパフォーマンスしていたフィービー、このジャケではオバケのQ太郎(って判るかなー)のようなカッコですが、内容は『Punisher』同様、メランコリックで夢見るようなウィスパーボイスで、時に哀しげ、時にゴシックに、そして時に甘酸っぱい内容の歌詞を淡々と聴かせる素晴らしい作品です。

"This Is What ____ Feels Like (Vol. 1-4)" by JVKE

そして今週最後の初登場は98位に入って来た、JVKEジェイク、と読むらしい)ことジェイク・ローソンの『This Is What ____ Feels Like (Vol. 1-4)』。このジェイクWikiのページもまだできてないのでなかなか情報がないんですが、ワーナーさんのアーティストページによると、ロードアイランド州クランストン出身のまだ19歳のシンガーソングライターらしいです。やはり今時のブレイクパターン同様、TikTokなどで自分の作った楽曲をポストしたり、音楽の先生をしてる母親とのマッシュアップ・ビデオをポストしてりしてバズったのがブレイクのきっかけとか。

つい先月Hot 100に入って来た「Golden Hour」(最高位56位)は波が打ち寄せるような情感たっぷりのピアノと、今時のエレクトロビートに乗っていそうなJVKEの伸びのあるボーカルでドラマチックに展開するエモなポップ・ソングで、何か日本の藤井風に通じるような魅力を感じる楽曲。で、アルバムタイトルにある下線なんだけど、どうもここにいろんなワードを入れて、いろいろ異なる曲をリリースしてるみたいで、YouTubeを覗くと「This is What Falling In Love Feels Like」とか「This is What Hearbreak Feels Like」とかいろんな曲がアップされててこれらもビートが効いてるエレクトロポップだったり、彼の才能を感じますね。アルバムの詳細はわからないけど、こういう楽曲がいっぱい詰め込まれてる作品なのかな、と思うと他の曲も聴きたくなる、そんな要注目の新人です

今週は100位までの初登場は6枚と先週よりは少なめですが、ヴァイナルの力を感じるアクションもいくつかあったりしてなかなか興味深い週ですね。一方Hot 100の方ではとうとうハリー・スタイルズの長期政権に何とジ・インターネットスティーヴ・レイシーBad Habit」が待ったをかけて今週1位になったようです。彼の作品は以前から密かに推していただけに、この突然のブレイクは嬉しい限り。何でブレイクしたかがイマイチ不明ではありますが(笑)。ではいつものようにトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (2) (21) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <87,000 pt/2,000枚>
*2 (-) (1) 5SOS - 5 Seconds Of Summer <48,000 pt/36,000枚>
3 (4) (90) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <46,000 pt/957枚*>
4 (1) (2) Born Pink - BLACKPINK <40,000 pt/15,817枚*>
*5 (7) (19) Harry’s House ▲ - Harry Styles <36,000 pt/5,169枚*>
6 (6) (9) Renaissance - Beyonce <34,000 pt/3,367枚*>
7 (5) (85) The Highlights - The Weeknd <28,000 pt/595枚*>
8 (9) (7) Beautiful Mind - Rod Wave <26,000 pt/53枚*>
*9 (RE) (103) Dirt ▲5 - Alice In Chains <26,000 pt/22,500枚>
10 (11) (19) American Heartbreak - Zach Bryan <25,000 pt/672枚*>

さていつになくフレッシュなアーティストの初登場も目立った今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつものように来週の1位予想行きましょう。来週のチャートの対象期間は9/30-10/6ですが、ズバリ来週の1位は最近大人向けアニメ番組をローンチしたりとマルチメディア展開しているヒップホップのキッド・カディと、相変わらず被りものメタルという独自路線を邁進するスリップノットのそれぞれの新作の一騎打ちと見ます。いずれも10万ポイントは動かせるアーティストなので、バッド・バニーにやられる気遣いはないでしょう。それ以外でトップ10上位に来そうなのはラップのYGミーガンとの訴訟騒ぎがまだ収まらないトーリー・レインズくらいでしょうか。ではまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?