今週の全米アルバムチャート事情 #206- 2023/10/21付
MLBの方は今週からチャンピオンシップ・シリーズ(リーグ優勝決定シリーズ)がスタート、いきなり熱い戦いが展開されてますね。今週末はゴルフの方でもアメリカPGAツアーの大会で唯一日本開催のZOZOチャンピオンシップが開催されて、この週末はMLBとPGAゴルフ両方で大いに盛り上がりそうです。天気の方も日々朝晩の肌寒さが増してきて、本格的な秋の到来を感じる今日この頃、皆さんも体調管理に気を付けながら、音楽を中心に秋を楽しんで下さい。
さて今週10月21日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位はもう当然のごとくドレイクがニューアルバム『For All The Dogs』で402,000ポイント(うち実売はまだデジタルダウンロードのみで10,000枚)を叩き出して、彼にとって通算13作目の全米ナンバーワンを決めています。先週も前振りでお伝えしたようにリリース日のスポティファイ・デイリー・チャートの上位がアルバム収録23曲全曲で埋め尽くされてましたが、ポイントの97%はストリーミング・ポイントで、オンデマンドストリーミング5.14億回分相当という桁外れのストリーミングを記録してます。当然このストリーミング・ポイントは、2023年では3月18日付のモーガン野郎『One Thing At A Time』の初週(4.98億回相当)を抜いてトップ、歴代でもドレイク自身の2枚のアルバム『Scorpion』(2018年に7.46億回相当)と『Certified Lover Boy』(2021年に7.44億回相当)、そしてテイラーの『Midnights』(2022年に5.49億回相当)に次ぐ歴代4位のストリーミング・ポイント記録になってます。ちなみに今週全英アルバムチャートでも1位。UKではドレイク通算6枚目のナンバーワン・アルバムになってます。
まあドレイク出たら取り敢えず全米のヒップホップ・ファンは当然一通り聴くだろうし、驚くにはあたらない数字ではありますが、最近トラップ系のラッパーを中心に明らかにチャート出力が落ちてきている傾向がある中で、こういうどでかいストリーミングを初週とは言え叩き出すあたり、ドレイクの人気はまだまだ衰えそうにないな、というのが実感。ここ最近四つ打ちのハウスに走ったりしてたドレイク、先行シングルでこの間Hot 100初登場1位だったSZAとの「Slime You Out」がチル系のR&Bトラックでドレイクもラップせずに歌ってたんで「おおこれはドレイク、原点回帰で『Take Care』(2011年1位)とかの時代にスタイルを戻してくるか?」と思ってたんですが、蓋を開けてみるとそういうトラックはアルバム中盤のこの曲と「Bahama Promises」「Tried Our Best」から「What Would Pluto Do」くらいまでの5〜6曲とSZAとのもう一曲でマイアミ・ベース・ビート風の「Rich Baby Daddy」くらいで、やはりメインはちょっと前のトラップ路線に回帰してる感じ。今回は最近人のアルバムによく顔を出してるバッド・バニーをフィーチャーした「Gently」ではしっかりレガトンのビートでラップするなど、いろんなことやってるなあ、という印象。ただし音楽メディアの評価は高くなくて、メタクリティックでも52点なので正直低評価ですね。リリックの内容がつまらんとか、トラックのクオリティにしては曲数が多すぎるとか、いろんなこと言われてるみたいですが、個人的には充分楽しめる内容なので、まあそれだけドレイクの作品に対するメディア筋の期待度が高かったと言うことなんでしょう。ちなみにジャケの犬?の絵は息子のアドニス君(冒頭の写真に写ってる頭モシャモシャの男の子です)
さて今週のトップ10内唯一の初登場アルバムであるドレイクのこのアルバムで、彼は様々な記録を今週達成してるんですが、それには後ほど触れることにして、11位以下100位までの圏外の初登場、今週は5枚ですが、見ていきます。まず14位にはこの間の7月にアルバム『Nata Montana』を35位に送り込んでいたナタナエル・カノーと並んで、トラップ・コリドーと呼ばれる「コリドス・トゥンバドス」の代表選手と言われている、メキシコ出身のシンガー、ジュニアH(本名:アントニオ・ヘレーラ・ペレス)に取って初の全米トップ100アルバムとなった『$ad Boyz 4 Life II』が初登場してます。
トラップ・コリドーと言っても、ナタナエル・カノー同様、いわゆるチキチキハイハットのドヨーンとしたダウナーなヒップホップ色は強くなく、敢えて言うとビートがハッキリと効いてるコリドー、という感じの曲で構成されてるこのアルバム、アコギのストラミングやトランペットのスタッカートなサウンドに乗ってまったりした歌唱を聴かせるので、ここのところ台頭してきているリージョナル・メキシカンのペソ・プルーマとかがお気に入りの人なら問題なく聴ける内容です。Kポップほどのダイナミズムにはまだ及ばないものの、リージョナル・メキシカンの波もアーティストの数も増えてだんだん裾野が広がってきている感がありますね。
そのすぐ下、16位初登場は、そのKポップの最近の代表選手の一つ、9人組ボーイズグループのNCT 127(今回はメンバーのテイルがバイク事故で怪我したため8人でやってるようです)の5作目のフルアルバム『Fact Check: The Fifth Album』(日本のみリリースの2019年『Awaken』を除く)。2作目の『Neo Zone』(2020年5位)から『Sticker』(2021年3位)『2 Baddies』(2022年3位)と順調にトップ5内に送り込んで来てたんですが、『2 Baddies』のリパッケージ・アルバム『Ay-Yo』(今年13位)でちょっと順位を落としたのが今作も続いてるようです。
内容的には欧米のソングライター達を中心に作られたヒップホップ色の強いポップ・トラックに韓国語と英語の混じったリリックを載せてる、という路線ですが、「Space」とか「Angel Eyes」など、メインストリーム・エレクトロ・ポップにかなり寄せた曲も今回はいくつかあって、この路線の微妙な変更?がどう今後の結果になるんでしょうか。日本人のユウタは変わらずメンバーの一員として頑張ってますね。
Kポップは続くよどこまでも、ということで今週はKポップ2組目の初登場となる、5人組ガールグループの(G)I-DLE(ジー・アイドゥル)の3枚目の全米トップ100チャートインEPとなった5曲入りEP『Heat (EP)』が25位に初登場してます。今回が初のオール英語での作品で、もともとメンバーが自分で曲を書いたりして実力はあるグループですし、EPでなくフルアルバムならストリーミングもある程度稼いでトップ10もあったかも知れません。
ドリーミー・ポップな「I Do」、EDMヒップホップ的なビートが強調された「I Want That」や「Eyes Roll」、ハードコアなトラップに挑戦してる「Flip It」、そしてEPのラストはまたドリーミー・ポップな「Tall Trees」と、トラックはクオリティもまずまずですから、昨年リリースしたけど全米チャートインは逃したフル・アルバムの2枚目がそろそろ待たれるところです。
そして30位に初登場してきたのは、個性的なシンガーソングライターとして一部に絶大な人気を誇るスフィアン・スティーヴンスの10作目のアルバムとなる『Javelin』。通好みのシンガーソングライター、というイメージのある彼も2005年の『Illinois』が評論家筋の絶賛を集めてブレイクした直後は『The Age Of Adz』(2010年7位)や『Carrie & Lowell』(2015年10位)などがトップ10に入ってきたりしてたんですが、その後めっきりチャートとは縁遠くなってましたので久しぶりのチャート上位復帰です。
といってもその間も彼はいろんな活動をしてて、2017年には主演のティモシー・シャラメが若干22歳でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされて話題を呼んだ映画『君の名前で僕を呼んで(Call Me By Your Name)』の音楽を担当してアカデミー賞やグラミー賞にノミネートされてました。そんな彼の今回のアルバムは『Carrie & Lowell』以来のガチなシンガーソングライター・アルバムと言われてるだけあって、詩情とイメージ喚起力豊かな、滋味たっぷりのアルバムに仕上がってます。大人数のコーラスをバックにゆったりと歌う「Will Anybody Ever Love Me?」や、アコギで途切れそうなボーカルを聞かせる「Everything That Rises」など、『Illinois』の頃のミュージカルを思わせるような作風と全く風情を異にしていて、折から朝夕が涼しくなった今の気候にぴったりでただただ気持ちいいですね。久しぶりにのめり込むスフィアンのアルバムになりそうです。
そして今週最後の100位までの初登場はどーんと下がって62位に入ってきた、ヴァン・ヘイレンの『The Collection II』。これ、『5150』(1986)から『OU812』(1988)、『For Unlawful Carnal Knowledge』(1991)、『Balance』(1995)までのサミー・ヘイガー期4枚の全米ナンバーワンアルバムをリマスターした4枚にレア・トラックを集めた1枚の合計5枚組のボックス・セット。ヴァイナルとCDの両方でリリースされるということで、ヴァン・ヘイレン・ファンはもちろんヴァイナル・ファンを中心に先日から話題を集めていたヤツです。
いやあこの時期のヴァン・ヘイレンは確かに輝いてましたよね。そのヴァン・ヘイレンも2020年にエディ・ヴァン・ヘイレンがガンで急逝したことで事実上バンドは終結。その終焉を記録するかのような今回のボックスセット、複雑な気持ちで聴き返しているファンも多いでしょうね。そんな中、エディの息子で自らもマンモスWVH名義で最近活動しているウルフギャング君は先週8年来の付き合いのガールフレンドと結婚したというニュースも飛び込んできていて、いろんな意味で一時代の終わりと始まりを感じてました。
ということで今週の100位までの初登場アルバムはドレイクを含めて6枚。そのドレイクは当然というか何というか、Hot 100の方でも今週ドカ盛り状態で、J. コールをフィーチャーした「First Person Shooter」が初登場1位を記録したのを筆頭にトップ10に6曲、トップ20に13曲、トップ40に21曲と、収録23曲中、既にチャートインしていた「Slime You Out」以外すべてが今週初登場。これで彼のHot 100ヒット数は320曲となって歴代1位、更に今回が9曲目の初登場1位で、この間お伝えしたように、テイラー、アリアナ、BTSの5曲を抑えてぶっちぎりの1位を更に継続していますね。また、このアルバムの1位も13枚目の1位でビートルズ(19枚)、ジェイZ(14枚)に続く歴代3位を達成しています。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) For All The Dogs - Drake <402,000 pt/10,000枚>
2 (1) (32) One Thing At A Time - Morgan Wallen <72,000 pt/2,190枚*>
3 (2) (4) Nostalgia - Rod Wave <59,000 pt/254枚*>
4 (3) (5) Guts - Olivia Rodrigo <59,000- pt/12,159枚*>
5 (5) (7) Zach Bryan - Zach Bryan <53,000 pt/913枚*>
6 (6) (44) SOS ▲3 - SZA <50,000 pt/2,621枚*>
*7 (8) (51) Midnights ▲2 - Taylor Swift <42,000 pt/8,681枚*>
8 (7) (11) Utopia - Travis Scott <40,000 pt/814枚*>
*9 (13) (46) Stick Season ● - Noah Kahan <39,000 pt/1,626枚*>
10 (11) (216) Lover - Taylor Swift <39,000- pt/9,063枚*>
ドレイクの圧倒的な横綱相撲だった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:10/13~19)ですが、来週もまた今週ドロップされた強力新譜がドレイクを早々に1位から引きずり落としそうです。そのアーティストはバッド・バニー。何と急遽先週リリース発表された新譜からの曲が、既に10/13付のスポティファイ・デイリー・チャートのトップ20中15曲を含めてほぼ全曲が初登場してるので、ドレイクも来週はポイント半減するだろうし、こりゃあ来週の1位はバッド・バニーがもぎ取りそうです。それ以外でトップ10に来そうなのはラッパーのオフセットにKポップのトゥモローXトゥゲザーくらいかな。ではまた来週。
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