今週の全米アルバムチャート事情 #158- 2022/11/19付
先週末に来年2月発表の第65回グラミー賞の主要部門ノミネート予想しましたが、いよいよそのノミネーションが今週発表になりましたね。何とアバが2年連続のレコード・オブ・ジ・イヤー(ROY)にノミネート、そのアバとメアリーJブライジがROYと最優秀アルバム部門にノミネートされるなど、今年もサプライズがちゃんと用意されていたグラミーのノミネーション、ここnote.comにポストした予想との答合わせのポストもこの週末くらいに挙げようかな、と思ってますのでお楽しみに。
さて今週11月19日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが先週の予想は、テイラーが28万ポイント水準をキープしたらドレイク+21サヴェージのコラボ盤もキツいだろうから、テイラー3週目1位をキープするだろう、というものでした。ところがドッコイ、蓋を開けてみるとテイラーのポイントは299,000ポイントと予想を上回るしぶとさだったのですが、ドレイク+21サヴェージの『Her Loss』は何と404,000ポイント(うち実売12,000枚)という、ドレイク前作の『Honestly, Nevermind』の倍のポイント数で今週ぶっちぎりの1位初登場、という結果になりました。今回のアルバムが、ハウスミュージック主体という大きな方向性の転換を見せたかに見えたその『Honestly, Nevermind』で唯一の従来のトラップ路線だった「Jimmy Cooks」での21サヴェージとのコラボの延長プロジェクトだ、と聴いた時からまた全面トラップ・アルバムになることはまあ見当はついていたわけだけど、いくつか聴いてみて全くその通りになってるんで正直あまり全曲通して聴く気が起きてないです、個人的に。
加えて本作で4曲のプロデュースに絡んでるリル・ヤッティのアイデアだというこのアルバムのジャケ、何だか黒人女性の尊厳を根本的に貶めてるような写真のように見えてかなり気分良くないです。皆さんどう思います?更に加えてこのアルバムのプロモーションで、ジャスティン・ビーバー夫人でモデルのヘイリー・ビーバーと、アカデミー賞女優のジェニファー・ローレンスが21サヴェージのタトゥーを入れた写真(もちろん合成)の載ったヴォーグ誌の表紙を街角で配布したところ、アルバムリリースの4日後にヴォーグ誌の発行元のコンデナスト社から訴えられるという事態に。アルバム制作への流れと経緯といい、ジャケ写といい、プロモーションの訴訟騒ぎといい、どうも今回のアルバムは筋悪ムード満載なんですけど、でもドレイクだからこれだけ売れちゃうんですよねえ。今回のアルバム1位でドレイクのナンバーワンアルバムは12作目で、ブルース・スプリングスティーン、バーブラ・ストライザンド、テイラー・スイフトの11作を抜いて、ビートルズ(19作)、ジェイZ(14作)に続く歴代3位になったわけですが、ドレイクはこういうことでいいんでしょうか。疑問です。ちなみに今週Hot 100ではこのアルバムから8曲がトップ10入りして、ドレイクは同時にトップ10に7曲以上チャートインというのを3回やった史上初のアーティストになってます(『Scorpion』リリース初週の2018年7月14日付チャートで7曲、『Certified Lover Boy』リリース初週の2021年9月18日付チャートで9曲、そして今回)。
それより今週嬉しかったのは、先頃繊細なメロディによるバラード曲「Glimpse Of Us」をHot 100最高位8位にぶち込んで、坂本九さん以来59年ぶりに日本人ソロアーティストとして全米トップ10シングルを達成したジョージことジョージ楠木の、そのヒットを含む3作目のアルバム『Smithereens』が堂々57,000ポイント(うち実売17,500枚)で5位に初登場してきてくれたこと。これで彼はデビュー以来『Ballads 1』(2018年3位)、『Nectar』(2020年3位)そして今回と、3作続けて全米トップ5アルバムを達成したことになります。これってスゴいことですよね。アルバム全体も彼の従来のドリーミーで物憂げな世界観を感じさせるような楽曲で満載です。
でもここでも何回か言ってますが、残念なのは「Glimpse Of Us」の歴史的なヒットの時同様、今回も日本の音楽メディアがほとんど騒いでないこと。同じく日本人ソロアーティストで今年初めてアルバム『Laurel Hell』(5位)をトップ5にぶち込んだミツキ同様、海外在住だってことだけでどうしてこう日本のメディアは知らんぷりするんでしょうかねえ。このアルバムリリースに先立って9月からスタートしてる北米ツアーも好評らしいのにね。なお、このジョージのヒットは彼が所属する音楽マネジメント会社88Risingに取っては、先日BB200で15位にアルバム『Magic Man』をぶち込んだ中国人シンガーのジャクソン・ワングに続く今年2人目のヒットということで、88rising、ジワジワとシーンで存在感を高めてきている感があります。
トップ10内初登場はこの2枚。そして今週圏外11位から100位の間には、そろそろ季節的需要からか、下記の4枚のクリスマス・アルバムが再登場してきていて、いよいよ今年も最後に近づいたな、という感じを醸し出してます。来週はアメリカはサンクスギヴィング。ブラック・フライデー・ショッピングに出かける家族がこのあたりもりもり購入(またはホームパーティーなどでストリーミングプレイ)して順位を上げてきそうです。
48位 マイケル・ブブレ『Christmas』
77位 『A Christmas Gift For You From Phil Spector』
85位 マライア・キャリー『Merry Christmas』
90位 ヴィンス・グアラルディ・トリオ『A Charlie Brown Christmas』(アニメ映画『スヌーピーのメリークリスマス』サウンドトラック盤)
一方、純粋な初登場では、今週は圏外はわずか1枚。それも先週トップ10来るだろうと予想していた、マーヴェル製作の映画『Black Panther: Wakanda Forever』のコンピレーション・サントラ盤『Black Panther: Wakanda Forever: Music From And Inspired By』が62位という予想をかなり下回る順位で初登場しているのみです。言うまでもなく前作『Black Panther』(2018)の続編で、前作の主役だったティチャラ役のチャドウィック・ボーズマンの急逝を受けて妹のシュリ(レティーシャ・ライト)を主人公にしたこの作品、さっそく全米ボックスオフィスでも大ヒット、初週で1.5億ドル(全世界で3.5億ドル)の売上をあげたそうで。
そんなにヒットしてて、しかもリアーナ6年ぶりの新曲となるシングル「Lift Me Up」収録(先週Hot 100初登場2位)なんでどう考えてもトップ10は余裕でしょ、と思ってたのですがアルバム実際に聴いてみると、ナイジェリアのテムズやバーナ・ボーイといったアフリカ系のアーティストを中心として、比較的地味な感じのアルバムなので、リアーナの曲以外がガンガンストリーミングされる、という感じでもなく、あくまで映画の劇伴アルバム的な位置づけが強い作品なので、まあこの順位もしょうがないかな、とは思います。ただ先週末にリアーナのもう一曲の新曲「Born Again」が追加されたので、来週のチャートではかなり上昇してくることが予想されてます。映画まだ観てないのですが前作では大いに感動したので、今回も早めに映画館に観に行きたいですね。
ということで今週はトップ10以外はかなり静かなチャートになってましたが、ここでいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Her Loss - Drake & 21 Savage <404,000 pt/12,000枚>
2 (1) (3) Midnights - Taylor Swift <299,000 pt/89,772枚*>
3 (2) (4) It’s Only Me - Lil Baby <62,000 pt/284枚*>
4 (3) (27) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <58,000 pt/1,398枚*>
*5 (-) (1) Smithereens - Joji <57,000 pt/17,500枚>
6 (5) (96) Dangerous: The Double Album ▲4 - Morgan Wallen <41,000 pt/1,105枚*>
7 (6) (91) The Highlights - The Weeknd <39,000 pt/593枚*>
8 (9) (25) Harry’s House ▲ - Harry Styles <30,000 pt/6,230枚*>
*9 (11) (25) American Heartbreak - Zach Bryan <28,000 pt/897枚*>
*10 (17) (17) Gemini Rights - Steve Lacy <27,000 pt/3,313枚*>
ドレイクが何だかなあ、な感じの圧倒さを見せた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつものように来週の1位予想ですが、ポイントはドレイクのポイント数がどれだけ落ちるか、テイラーはポイント水準維持するのか落とすのか、そしてこの2つを超える強力新譜はドロップされるのか、の3つ。ドレイクのアルバムは普通リリース2週目は6~7割減がパターンなので、来週のポイントは多分25万ポイントくらい。一方テイラーはシングルがまだかなりHot 100に残ってるので、来週も25万ポイントくらいは維持しそうな感じ。そしてこれを超える新譜が対象期間11/11~17にあるかというと、うーん渋いですねえ。ブルース・スプリングスティーンのR&Bカバーアルバムとかトップ10入りは堅そうですが、20万ポイントは厳しそう。ということになると来週は今週以上のドレイクとテイラーのガチ一騎打ちになりそうです。ではまた来週。
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