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今週の全米アルバムチャート事情 #254- 2024/9/21付

MLBもシーズン残り2週間を切りましたが、NYメッツ、まだ頑張ってます(笑)。セカンドのホセ・イグレシアスキャンデリータ名義でミュージシャンとしても活動してますが、今回今シーズンのメッツのテーマソングになってる彼の「OMG」は7月にビルボードのラテン・デジタル・セールス・チャートでナンバーワン獲得!その勢いに乗ったかのように今週とうとうアトランタ・ブレーブスをブッちぎってNLワイルドカード残り一枠を確保して、ワイルドカード2位のダイアモンドバックスにも迫る勢い。いいねえいいねえ。カブス今永昇太投手も破竹の活躍でもう14勝、あと2勝で日本人MLBピッチャー1年目としては、ダルビッシュ・前田に並ぶタイ記録達成と、大谷翔平選手の50/50だけじゃなくて、今年のMLBはいろいろ楽しみ満載で最高ですわ。

"Short N' Sweet" by Sabrina Carpenter

今週の全米アルバムチャート、9月14日付のBillboard 200ですが、サブリナ・カーペンターの『Short N’ Sweet』が思いの外粘りながらあまりポイントを減らさず、今週も117,000ポイント(うち実売15,000枚)と10万ポイント超の出力を保って、余裕の3週目首位をキープしました。Hot 100の方では今週とうとうシャブージーが10週1位を記録してしまって、なかなか1位が取れない状況ですが、例の3曲、「Espresso」「Taste」「Please Please Please」が依然としてトップ10に居座ってる(それぞれ3位、6位、8位)だけに、ストリーミング・ポイントをがっつり稼いでいる関係で、この余裕の3週目達成になってます。

これで今年のナンバーワンアルバムでは、テイラー以外で3週以上首位をキープしたのはサブリナだけなので(ビヨンセ、アリアナ、カニエ+タイ・ダラ・サイン、21サヴェージがそれぞれ2週1位)名実共に2024年を代表するヒットアルバムとしての存在感を着実に固めてる感がありますね。結構早い段階でチャペル・ローンに追いつかれるのでは、と思ってたんですが既に先々週からチャペルの出力も下降トレンドに入っているので残念ながらナンバーワンはないかな(「Good Luck, Babe!」のテイラーとのリミックス・バージョンとかドロップしたりすれば別でしょうがw)という感じですね。一方、サブリナの方は今週のリリーススケジュールにも目ぼしい新譜はないので、来週も首位をキープしそうです。

"Luck And Strange" by David Gilmour

個人的にちょっと驚いたのは、今週トップ10で唯一の初登場、元ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアの5作目のソロ・アルバム『Luck And Strange』(32,000ポイント、うち実売30,000枚で今週のアルバムセールス・ナンバーワンです)!先週「ロック・ファンの間では評判になってるけど、USでは100位内初登場なら御の字だろう」なーんて偉そうに言ってたら何と堂々3作連続のトップ10入りを果たしました。恐れ入りました!いやあ何だかんだ言ってもBillboard 200でも最長チャートイン記録(990週)を誇る、ロック史上に輝く名盤『狂気(The Dark Side Of The Moon)』(1973年1位)のレガシーはUSのロック・ファンの間に強く残ってるんだなあ、というのを改めて実感しました。

当然UKでは初登場1位で、ソロとしては3枚目の全英ナンバーワンを達成しただけでなく、ピンク・フロイド時代もカウントすると、通算9枚目、しかも6デケイド連続で全英ナンバーワンを達成したことになります。以下、そのリストです(RIAAシンボルはUS認証のもの)。

1970年 Atom Heart Mother ●(原子心母)(Pink Floyd) US 55位
1975年 Wish You Were Here ▲6(炎〜あなたがここにいてほしい)(Pink Floyd) US 1位
1983年 The Final Cut ▲2(ファイナル・カット)(Pink Floyd) US 6位
1994年 The Division Bell ▲3(対/TSUI)(Pink Floyd) US 1位
1995年 Pulse(P.U.L.S.E.)▲2(Pink Floyd) US 1位
2006年 On An Island(オン・アン・アイランド) US 6位
2014年 The Endless River ●(永遠/TOWA)(Pink Floyd) US 3位
2015年 Rattle That Lock(飛翔) US 5位
2024年 Luck And Strange (邂逅)US 10位

前2作は元ロキシー・ミュージックフィル・マンザネラとの共同プロデュースでしたが、今回はオルト-Jのプロデューサーで知られる若手のチャーリー・アンドリューを起用。これまでのフロイドや自分の過去作のスタイルややり方にチャレンジしてくれるチャーリーのアプローチが良かった、と語るギルモアですが、内容的には『永遠/TOWA』あたりのスタイルと音像を纏った、ありきたりな言い方をすると「大人のロック」という感じ。メディアの評価も高いし(メタクリティック83点)、これなら『狂気』ファンにも違和感なく受け入れられるだろうな、とは思いました。

"Cowboys And Dreamers" by George Strait

さて、11位以下100位までに目を移すと今週の初登場は7枚と久しぶりに賑やか。まず14位で惜しくもトップ10を逃したのは、カントリーの大御所、ジョージ・ストレイト31作目『Cowboys And Dreamers』。何と今回のトップ10ミスで、これまで15作連続トップ10入り(うち4作はナンバーワン)だったのが途切れてしまいました。カントリー・アルバム・チャートでも今回6位で、連続ナンバーワン記録が11作で途切れてます。最近のポップやヒップホップとのクロスオーバーによるカントリー人気の盛り上がりのトレンドは、超トラディショナルな、所謂ホンキートンク・タイプの彼のようなアーティストには恩恵よりもむしろマイナスに働いちゃってるということか。

トラディショナルとは言ってもさすがに2020年代に入って、御大ジョージ・ストレイトのサウンドも90年代と比べると遙かにコンテンポラリーに聞こえるけど、やはりジェリー・ロールとか(笑)モーガン野郎とかに比べるとやや古色蒼然とした佇まいであることはしょうがないところ。それでもクリス・ステイプルトンをフィーチャーした「Honky Tonk Hall Of Fame」なんかには彼の矜持みたいなものが感じられますね。

"abouTZU: The 1st Mini Album (EP)" by TZUYU

続いて19位にチャートインしてきたのは、今週も炸裂Kポップ・パワー、ということでTWICEのメンバーで台湾出身のツウィ(TZUYU)のファースト・ソロEP『abouTZU: The 1st Mini Album (EP)』。既に2枚のEP『Im Nayeon』(2022年7位)、『Na』(2024年7位)をトップ10にチャートインさせてるナヨン、そしてEP『Zone』(2023年14位)をリリースしているジヒョンに続く、TWICEからの3人目のソロ・デビューになりました。BTSもそうですが、KポップUS侵略フェーズ2進行中、って感じですね。

ナヨンの方が、TWICEのメインストリーム・ポップ路線からちょっと距離を置いた、ややエッジの立ったヒップホップ・テイストの楽曲を中心にしているのに対して、このツウィの方はもろTWICE路線のメインストリーム・ポップ・スタイルで統一している感じ。まあこれが彼女のキャラなんでしょうが、聴きやすいと言えば聴きやすい、TWICEとどう違うんだというとうーんという感じではあります。「One Love」なんてブルーノ・マーズの「Locked Out Of Heaven」とリズムパターンが全くそのまんまだったりしてますし。まあでもSpotifyのポップ・プレイリストなんかに入っていても全く違和感ないあたりがこういう順位に入ってくる所以なんでしょう。

"That Ain’t No Man That’s The Devil" by Jessie Murph

ちょっと下の24位に初登場しているのは、アラバマ州アセンズ出身の女性カントリー系シンガーソングライター、ジェシー・マーフのデビュー・アルバム『That Ain’t No Man That’s The Devil』。ジェシー・マーフというと、昨年あたりからジェリー・ロールとのデュエット・ヒット「Wild Ones」(2023年35位)や、最近ではコウ・ウェッツェルとのデュエット・ヒット「High Road」(2024年22位)などの、最近売出中の無頼系のカントリー・シンガーのヒットにフィーチャーされて、同じくちょっとラフで無頼なイメージのシンガーとして注目されてるシンガー。ブルースっぽいスタイルとか歌い方とか、カース・ワーズも気楽に飛び出す感じなど、ちょっと前に「Ex’s & Oh’s」(2014年10位)のヒットで登場したエレ・キングとかに通じる感じで、髪の毛をブレイズにしてたりするあたりもカントリーシンガーとしては個性的で、結構こういう女の子、USのカントリー・ファンには受けが良さそうな感じです。

アルバム全体を聴いても、やはり古くはジャニスあたりに影響されたことが伺えるR&B/ブルース系の歌唱スタイルはなかなか実力も伺えて、この間フジロックで熱いステージを見せてくれたテディ・スウィムスとのほとばしるようなデュエット「Dirty」など、なかなか迫力満点。抑えたエモーションをうまく表現しているR&Bバラードの「I Hope It Hurts」でも見事な歌唱を聴かせたり、ラップも達者に聴かせる「Love Lies」などなかなか自由自在で、今後も要注目のアーティストですね。

"Infinite Icon" by Paris Hilton

名前を見て思わず「へ?」と思ったのは、38位に初登場してきた何とあのパリス・ヒルトンの18年ぶりのセカンド・アルバム『Infinite Icon』。何で今頃パリス・ヒルトンがアルバム出してんの?と思ったんですが、彼女自身は2006年のデビュー・アルバム『Paris』(6位)以来、あちこちの音楽フェスでDJとしても活動してきていたらしく(全く知らんかったわ!)、長らくセカンド・アルバムのリリースを考えてきてたんだけど、2022年12月のマイリー・サイラスのニューイヤー・イブ・スペシャルで共演したシーアと意気投合、シーアの勧めとエグゼクティブ・プロデュースで、今回のアルバム制作に至ったということらしいです。

さすがにセレブだけあって、シーアを始めとして、リナ・サワヤマ、メーガン・トレイナー、ミーガン・ザ・スタリオンなど共演陣も豪華なら、プロデューサーにもアデルの仕事で有名なグレッグ・カースティンや、ハリー・スタイルズの仕事で有名なキッド・ハープーンなど一流どころを揃えて、クオリティの高いダンス・ミュージック・アルバムを作り上げてます。きっとカイリー・ミノーグあたりを意識してるんだと思いますが、そういうゲストが立ってるトラック以外でも自分も共作している「ADHD」やメーガン・トレイナーキッド・ハープーンが組んだ「Stay Young」とかではなかなかしっかりした歌唱も聴かせてます。案外マジかも。

"The Force" by LL Cool J

そしてこちらもちょっと驚いたのは50位に登場してきた、何と大ベテランLLクールJのこちらは11年ぶりになる14作目『The Force』。LLといえば前作『Authentic』(2013年23位)を出してた頃はグラミー賞の司会者のイメージでしたが、その後2017年にはパフォーミング・アーツに貢献した文化人に送られるケネディ・センター名誉賞をラッパーとして初めて受賞、2021年にはロックの殿堂入りも果たすなど、もうキャリアとしては上がりのモードに入ってたと思ってたんで、この期に及んで新作リリースしたのにはちょっと驚き。

さらにちょっと嬉しかったのは、今回Qティップがメインでプロデュースしてることもあって80年代オマージュ的に効果的にシンセベースを使ったトラックもなかなか充実しているのと(マイケルの「Don’t Stop Til You Get Enough」のベースラインだけをサンプルしてるという渋いタイトル・ナンバーとかではLLのフロウが熱いです)、ファット・ジョーバスタ、ナズなどNY勢に加えてスヌープエミネム、リック・ロスなどさすがの人脈で強力なゲスト陣を配してるけど、あくまで主役はLLというのを保ってること。エミネムとの「Murdergram Deux」なんかかなりスリリングですね。メタクリティックも75点とメディアの評価もまずまず。安心して聴ける作品です。

"Le Clique: Vida Rockstar (X)" by JHAYCO

さて一点して77位に登場してるのは、プエルトリコ人レゲトン・シンガー、ジェイ・コルテス改めジェイコ(Jhayco)の4作目のアルバム『Le Clique: Vida Rockstar (X)』。前作『Timelezz』(2021年70位)に続く2枚目のトップ100チャートイン・アルバムになってます。ジェイ・コルテスバッド・バニーの「Dakiti」(2020年5位)や「Tarot」(2022年18位)といったヒットにフィーチャーされて、グラミー賞でもバッド・バニーと「Dakiti」を共演してたんですが、去年名前を変えていたようです。改名の理由は不明。

今回のアルバムは3枚組という意欲的な構成で、冒頭の「Vida Rockstar」ではレゲトンではなくロックビートを強調したスタイルで迫るなど、いろんなことに挑戦しているアルバムのようです。ゲストもDJキャレド、ペソ・プルーマなどを要所要所にフィーチャーしてやってますが、やっぱりメインはレゲトンということで自分としてはあの同じようなリズムで3曲も聴くと飽きてしまうところが残念なところ(笑)。ただラテン層には人気あるんだろうなあ、という感じです。

"Odies But Goodies" by Old Dominion

そして今週最後の初登場は85位にチャートインしてきた、カントリー5人組のオールド・ドミニオンの6枚目『Odies But Goodies』。今回はカバー集なのかな、と思ったんですが、確かにあの懐かしの映画『アーバン・カウボーイ』(1980)からヒットしたジョニー・リーの「Lookin’ For Love」(1980年5位)をちょっとカントリー・ロックっぽくカバーしてはいるものの、基本は自分たちのこれまでのヒット曲を集めたベスト盤のようです。しかも2枚組31曲という大作。

One Man Band」などのヒット曲や、「Lookin’ For Love」のカバー以外で耳に付く新曲は、リトル・ビッグ・タウンと共演しているこちらもちょっとカントリー・ロックっぽい「Stars In The City」、何とあのグラディス・ナイト御大とのデュエットで、70年代R&Bの香りあるなかなかいい感じの「Lonely Side Of Town」当たりでしょうか。ベスト盤として、そしてオールド・ドミニオンというカントリー・ロック風味のグループの魅力を一通り感じるにはなかなかいいコレクションだと思います。

ということで今週の100位までの初登場は都合8枚でした。カントリーあり、Kポップあり、ラテンあり、ヒップホップありとなかなかバラエティ満点の顔ぶれでしたね。一方Hot 100の方ですが、とうとう通算10週目の1位を記録してしまったシャブージーA Bar Song (Tipsy)」以外は特筆すべき動きはなし。それより今週の話題としては、21位に初登場、新女性ボーカリスト、エミリー・アームストロングを擁した新生リンキン・パークの新曲「The Emptiness Machine」でしょうね。マイク・シノダとのツイン・ボーカルで迫る、しっかりリンキンらしい力強い新曲、いいですねえ。新ボーカルを迎えることについてはチェスターの息子とちょっといざこざもあったらしいけど、往年のリンキン復活は歓迎すべきニュース。11月にリリース予定のアルバムも楽しみです。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (3) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <117,000 pt/15,000枚>
2 (2) (4) F-1 Trillion - Post Malone <72,000 pt/8,996枚*>
3 (3) (25) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <57,000 pt/14,491枚*>
4 (4) (80) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <52,000 pt/895枚*>
5 (5) (21) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <51,000 pt/4,656枚*>
6 (6) (17) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<47,000 pt/6,298枚*>
7 (8) (11) The Great American Bar Scene - Zach Bryan <38,000 pt/366枚*>
8 (9) (94) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <38,000 pt/2,731枚*>
9 (11) (192) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <32,000 pt/428枚*>
*10 (-) (1) Luck And Strange - David Gilmour <32,000 pt/30,000枚>

ギルモア先生が余裕のトップ10入りを果たした今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想(チャート集計対象期間:9/13~19)。今週の目ぼしいリリースは、個人的に推しのロンドン・グラマーミランダ・ランバートくらいで、いずれもトップ10も怪しいので、来週もやはりサブリナが10万ポイント割るくらいのポイントに粘って4週目の首位キープ、ということになりそうです。ではまた来週。


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