見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #203- 2023/9/30付

先週末くらいからめっきり朝晩が涼しくなって、秋がすぐそこまで来てるなあと感じる今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。MLBもポストシーズンスタートまであと1週間足らず。その他読書にスポーツにと絶好の時期ですがやはりこの時期はいい音楽も欠かせませんよね。9/15で次回グラミー対象期間も締め切られたので、そろそろ恒例のノミネーション予想もやってみようと思ってます

"Nostalgia" by Rod Wave

さて、今週9月30日付のBillboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、2週目の首位を難なくキープすると思われたオリヴィア・ロドリゴGuts』を何とわずか3,000ポイント差でかわして見事初登場1位を決めたのはロッド・ウェイヴの『Nostalgia』(137,000ポイント、うち実売デジタルのみ1,500枚)。2021年のサードアルバム『Soulfly』、2022年の4枚目『Beautiful Mind』に続いて3作連続1位を記録しました。この2021〜2023年の3年間で毎年ニューアルバムを1位にしてるのはテイラーに次いで2人目(テイラーは2019年からもう5年毎年ニューアルバムを1位にしてますが)ということで、単なるゴリゴリトラップでもなく、ストリートやガンやビッチがリリック満載のハードコアでもない、ピアノやアコギなどの生音を使ったメロディアスなトラックをバックにエモにラップするロッド自身を支持する固定ファンがかなり多く存在することが証明されているようでちょっとホッとしますね。

今回も名の知れたゲストは「Turks & Caicos」にフィーチャーされてる21サヴェージのみ。やたらめったら有名ゲストをテンコ盛りにしてヒップホップ・ファンのストリーミングを稼ごうという魂胆ありありのその辺のラッパーとは一線を画するような、毎回有名ゲストは必ず一人だけ(前作はジャック・ハーロウ)であくまでラッパー、ロッドを聴かせる、というスタンスが見えてなかなか毎回好感度大ですよね。でも今回のロッドはまた一段いろいろ冒険してて、オープニングのタイトルナンバーとか、もはやトラップビートなんかとは全く違う、エレクトロ・ポップとヒップホップのマリアージュをぶつけてきてます。先行シングルの「Fight The Feeling」(16位)と「Call Your Friends」(26位)も手堅い曲作りでしっかりヒット。ロッドの快進撃はもうしばらく続きそうです。

"The Land Is Inhospitable And So Are We" by Mitski

今週トップ10内初登場はこのロッド・ウェイヴのみ。先週トップ10にいっぱい初登場してきて賑やかになるのでは、と言ってた新譜ご一行は、11位以下100位内にごっそり登場していて、この間の9/2付チャートに続いて9枚初登場してますので、ちょっと走り気味に行きますね。その中でトップで初登場しているのが、12位に入って来て前作『Laurel Hell』(2022年5位)に続く2作連続トップ10をわずかに逃してしまったミツキの7作目『The Land Is Inhospitable And So Are We』。

前作でエレクトロなサウンドも駆使しながら、ビートを強調した楽曲をふんだんに盛り込んで、新境地にトライし高い評価を得たミツキが、以前のシンガーソングライター的なスタイルに回帰している今回の作品、音楽メディアからは軒並み高評価を得ています(メタクリティックスで90点というのは自分がみてきた中でも最高のレベルです!)。オーケストラをバックにしたスケールの大きい、ビジュアル性の高い楽曲が多数収録された今作は確かにここ数作の中で楽曲クオリティの高さが一番一定した作品のように思いますね。まだまだ聴き込み必要ですが、今年の自分のベストアルバムランキングの上位に入ってきそうな予感がします。今週UKアルバムチャートでも4位初登場、彼女に取ってUKでの最大ヒットアルバムになってます。

"Boy Meets World" by Sleepy Hallow

続いて17位に入ってきたのは、ジャマイカ出身、NYはブルックリンをベースとする、ブルックリン・ドリルをスタイルとするラッパー、スリーピー・ハロウ(本名:ティーガン・ジョシュア・アンソニー・チェンバーズ)のセカンド・アルバム『Boy Meets World』。前作『Still Sleep?』(2021年16位)に続く全米トップ20アルバムになってます。

ジャケの彼の風貌を見るといかにもワルそうな雰囲気プンプンですが、案の定というか今年5月には以前からコラボしてるラッパー、シェフGやその他の地元のギャング連中ともども、12件の発砲事件や殺人事件に関連した門で逮捕されちゃってます。今は保釈金で出所して裁判待ちらしいですが、そういうこともあってこういう高い順位に登場してるんでしょうか。普通のトラップとはちょっと異なるハイハットのビートパターンと、オーガニックな音作りに乗ってる彼のフロウ自体はなかなかタイトで存在感を感じさせるんですけどね。

"The Love Album: Off The Grid" by Diddy

そのすぐ下、19位に登場したのは、先週の予想で1位争いに参戦するのでは、と言ってたパフ・ダディ改めPディディ改めディディの17年ぶりの新作になる『The Love Album: Off The Grid』。バスタ・ライムスファボラスフレンチ・モンタナといったNYラッパー達や、ザ・ウィークンド、ベイビーフェイス、メアリーJ(古い付き合いですな)、スウェイ・リー、ジョン・レジェンド、テイアナ・テイラー、H.E.R.、ジャスティン・ビーバーなどなど超豪華なゲスト陣をビッチリ配して満を持した作品だっただけにトップ10くらいは来るだろうと思ってたんですが、ディディももはや過去の人ということか。まあ今一番ヒップホップ聴いてるティーンエイジャー達ったら、彼の全盛期はまだ生まれてないもんなあ。

一通り聴いてみましたが、ディディことショーン・コムズが全盛期にビギーを筆頭に彼子飼いのラッパーやミュージシャン達を山ほど盛って作っていたアルバムのような作品のオーラみたいなものがどうもあまり感じられないんですよね。参加しているのはディディ配下のミュージシャンじゃなくて、今旬の連中達なんで、何となくDJキャレドとかああいう連中のDJアルバムと同じようにしか聞こえなくて。それでいてDJキャレドみたいに全曲で「ディディ!」と叫んでるわけでもないので、いい意味でもそうでない意味でもディディの存在感が見えてこないんですよね。だいたい全曲ヒップホップというわけでもないので、むしろ個別のミュージシャンのパフォーマンスとしてしか聞こえてこなくて。そんな中でサマー・ウォーカーの「Stay Long」とかザ・ウィークンドフレンチ・モンタナの「Another One Of Me」、ケラーニの「Mind Your Business」なんかは普通に華があっていいし、ベイビーフェイスジョン・レジェンドの「Kim Porter」やH.E.R.の「Space」なんかは普通によく出来たR&Bバラードだし。まあそういう聴き方がふさわしいのかも、このアルバム。

"Bigger Houses" by Dan + Shay

さてぐっと下がって34位にはカントリー・デュオのダン+シェイの5作目『Bigger Houses』が初登場。ここまでデビューから4作連続しっかりトップ10を確保してきたんですが、今回は前作でのジャスティン・ビーバーとの共演シングル「10,000 Hours」(2019年4位)とかその前のアルバムからのヒットで、全米の結婚式で大人気の「Speechless」(2018年24位)みたいな大ヒットが生まれてないこともあって、始めてトップ10を外してますね。

作品はいつものように、アシュリー・ゴーリーとか、ロリ・マッケンナとかいったナッシュヴィルの実力派ソングライター達と、この二人が共作した盛り上げ系のポップ・カントリーの楽曲でかっちり作られてて悪くはないし、「We Should Get Married」なんて曲も入ってて、一定従来のファンにはそこそこ受けるんだろうけど、この人たちもそろそろ新境地を開拓してみてもいいんじゃないでしょうかね。

"Revamped" by Demi Lovato

更にランキングがぐっと下がって60位初登場はデミ・ロヴァートが、これまで発表した自分の曲をリミックスした「ロック・バージョン」で再録したリミックス・アルバム『Revamped』。昨年1月に自分のポップ・ミュージック・スタイルを葬り去るというイベントをやった後、ヘヴィーなロック曲中心の『Holy Fvck』(2022年7位)をリリースしたデミ。その後の「ホーリー・ファック・ツアー」で披露していた「Cool For The Summer」や「Sorry Not Sorry」など自分の過去曲のロック・バージョンを中心に集めたのがこのリミックス集みたい。

あのスラッシュをフィーチャーした「Sorry Not Sorry」のロックバージョンや、ザ・ユーズドバート・マクラッケンとやった「Give Your Heart A Break」のロックバージョンなど、まあ元曲がポップ曲としてもそこそこよく出来てるから、ロックアレンジにしてもそれなりに聴けるわけだけど(というかあまり大きく変わらないように聞こえる)、まあそれ以上でも以下でもないなあと。

"I've Tried Everything But Therapy (Part I)" by Teddy Swims

続く61位に登場したのは、ジョージア州出身のシンガーソングライター、テディ・スウィムスのデビュー・フル・アルバム『 I’ve Tried Everything But Therapy (Part I)』。これまでは2022年にリリースしたEP『Tough Love』が200位にチャートインしただけだったので、彼にとっての事実上のブレイク・ヒット・アルバムということになりました。まだ31歳らしいけど、老成した風貌と顎髭がどうみてもアラフォー以上だろ、って感じ(笑)。

アトランタをベースに2010年代後半から地元のオルタナ・バンドなんかに参加しながら、ネット上にマイケル・ジャクソンからルイス・キャパルディ、クリス・ステイプルトン、エイミー・ワインハウスH.E.R.といったむっちゃ幅広いジャンルのカバーをアップしてたところ、シャナイア・トウェインの「You’re Still The One」のカバーが8600万ビューを集めてたのがワーナーの目に止まり、去年契約したらしい。このデビューアルバムには、確かにルイス・キャパルディっぽい熱唱型バラードの「Some Things I’ll Never Know」や70年代R&Bの影響ありありの「What More Can I Say」などなかなか魅力ある楽曲満載のこのアルバム、歌もかなり巧いし、結構今年の掘り出し物アルバムかもしれません。ちなみに何とワンオクの昨年の全米リリースアルバム『Luxury Disease』(チャートインせず)で一曲コラボしてたらしい。どこまで間口広いんだ、こいつ

"Magic 3" by Nas

その少し下の65位には、ナズの「マジック3部作完結編」となる『Magic 3』が初登場。今回もこの一連のアルバムを手がけてるヒット・ボーイのプロデュースで、相変わらずのタイトなフロウを繰り出してくるナズが楽しめる一枚ですね。このシリーズは毎回ゲストは一組、と決めてるようで、今回は「Never Die」でリル・ウェインがセカンド・ヴァースでコラボしている以外は、14曲すべてナズがピンでやってます。

いつものようにヒットボーイのトラックは70年代レアグルーヴ音源のサンプルをふんだんに使って、オールドスクールのグルーヴとカッコ良さと、キレのあるビートを作り挙げてて、僕らオールドスクールのヒップホップ・ファンには聴いてて誠に気持ちいい限りビリー・ポールの「I Think I’ll Stay Home Today」からボーカルを抜き出してバックでループさせ、そこに畳みかけるようなナズのフロウが快感の「I Love This Feeling」なんかはハイライトの一つですね。「日本のソウルバーで葉巻を吹かして/夜明けまでスコッチ呑んでる/カラオケでバリー・ホワイト歌ってる」なんてゆるーい「Japanese Soul Bar」なんて楽しいトラックもあったりして、こりゃナズも楽しみながら作ってるなあ、と思ったね。なかなか今回もいいです、うん。

"It’s The End Of The World But It’s A Beautiful Day" by Thirty Seconds To Mars

さあどんどん行きます。76位初登場は、先週の予想でトップ10くるんじゃ、って言ってた俳優のジャレッド・レト率いるサーティ・セカンズ・トゥ・マーズの『It’s The End Of The World But It’s A Beautiful Day』。それまでの実験的なサウンドからエレクトロ・ポップに大きく舵を切った前作『America』(2018)は賛否両論を呼びつつも全米2位を記録してただけに、今回の順位はかなり寂しいですね。何かR.E.M.の有名曲みたいなタイトルですが(笑)ジャレッドとバンドがコロナ籠もり中に200曲書きためたという(ホントか?)ストックからよりすぐった自信作のようです。それでこの順位はいかにも残念ですね。

ジャレッド曰く「70年代や80年代のエレクトロ・ミュージックにインスピレーションを受けたんだ」とのことで、なるほどエレクトロなサウンドは多めで、メロディやフックはキャッチーなので、ちょっと「エレクトロきつめのコールドプレイ」といったような雰囲気の楽曲が並んだアルバムですね。曲によってはちょっとテーム・インパラっぽい曲もあったりするので、そのあたりのサウンドスケープが好みの方にはいいかもしれません。

"Silence Between Songs" by Madison Beer

そして今週100位までの最後の初登場は86位に入ってきた、ニューヨークはロングアイランド北部の小さな街ジェリコ出身の女性シンガーソングライター、マディソン・ビアーのセカンド・アルバム『Silence Between Songs』。デビュー・アルバム『Life Support』(2021)は65位だったので、2作めでやや順位を落としたことになります。2010年代後半くらいからネットに有名曲のカバー動画をアップし始めて、ある時アップしたR&B/ブルース・レジェンドのエタ・ジェイムスの名曲「At Last」のカバー動画に何とジャスティン・ビーバーがコメントしたということで注目を集めたのがレコードデビューのきっかけ、という最近よくあるパターンのブレイクの仕方をしたシンガーです。

やはり今どきの女性シンガーソングライターということになると、ラナ・デル・レイフィービー・ブリッジャーズといったドリーミー・オルタナ・ポップ・スタイルの影響を受けずにはいられないわけで、このマディソンもエレクトロでドリーミーなサウンドを基調にしたサウンドを展開してます。ただラナほどオルタナ然としてるわけでもなく、フィービーのようにアコースティックなサウンドスケープは薄めで、ビートが効いてる「Sweet Relief」や「Home To Another One」とか、日本のシティ・ポップも聴いてるのかな?と思うような曲「17」なんかもあり、よりメインストリーム系なあたりが逆に個性になってる気もしますね。ちょっと今後注目かもしれません。

以上、今週の100位までの初登場は計10枚と久々ににぎやかなアルバムチャートになってます。一方Hot 100の方では、今週ドレイクSZAのコラボシングル「Slime You Out」が1位初登場、これでドレイクの初登場1位はフューチャーの「Wait For U」(2022)にフィーチャーされたやつもカウントすると、8曲目Hot 100初登場1位というのは最初のマイケル・ジャクソンYou Are Not Alone」(1995)から数えて今回で72曲めなんで、ドレイクはその1割以上を占めてるということになります。これもここ近年のHot 100集計にストリーミングが加算されたことの恩恵なんでしょう。ではここでアーティスト別Hot 100初登場1位数のランキングを

1.ドレイク(8曲)
2.テイラー・スウィフト(5曲)
2.アリアナ・グランデ(5曲)
2.BTS(5曲)
5.ジャスティン・ビーバー(4曲)
6.マライア・キャリー(3曲)
6.トラヴィス・スコット(3曲)
6.オリヴィア・ロドリゴ(3曲)

改めてBTSが5曲もあったっけ!と驚いてしまいますね。そしてテイラーオリヴィアは多分今後積み上げて行ってドレイクにどれくらい迫るかが興味あるところです。ということで今週のトップ10おさらい(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Nostalgia - Rod Wave <137,000 pt/1,500枚>
2 (1) (2) Guts - Olivia Rodrigo <134,000 pt/44,000枚>
3 (3) (4) Zach Bryan - Zach Bryan <79,000 pt/1,496枚*>
4 (4) (29) One Thing At A Time - Morgan Wallen <76,000 pt/1,839枚*>
*5 (6) (41) SOS ▲3 - SZA <53,000 pt/3,240枚*>
6 (5) (8) Utopia - Travis Scott <47,000 pt/1,283枚*>
*7 (7) (13) Génesis - Peso Pluma <46,000 pt/110枚*>
8 (8) (48) Midnights ▲2 - Taylor Swift <42,000 pt/8,329枚*>
9 (9) (141) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen <38,000 pt/334枚*>
10 (11) (9) Barbie: The Album - Soundtrack <36,000 pt/3,744枚*>

予想に反してロッド・ウェイヴオリヴィアを首位から引きずり降ろした今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想(対象チャート集計期間:9/22-28)ですが、今週リリースの新譜で注目は何といってもKポップのフィフティ・フィフティ。一方ドジャ・キャットの話題の新譜もドロップされてますので、来週はこの2つの一騎打ちではないかと。予想としてはわずかにドジャが上回って念願の1位を取ると見ます。それ以外でトップ10に入って来そうなのはリル・テッカくらいでしょうか。ではまた来週。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?