今週の全米アルバムチャート事情 #146- 2022/8/27付
東北勢初の甲子園優勝を果たした仙台育英高校チーム、圧倒的な強さで久々に甲子園で旋風を起こしてくれて、今回の夏の甲子園を途中から追い始めていた自分にも存分に感動をくれました。思えば今MLBで活躍している大谷もダルヴィッシュも菊池雄星もみんな東北の高校出身。若干39歳の須江監督は初の甲子園初戦で敗退から1,000日以内に全国制覇を誓ったとのことだけど、月曜日の優勝した8/22は1,471日目だったらしいですね。成功、実現を信じて努力すれば道は開かれる、というのを地で行った仙台育英からは大きなインスピレーションをもらいました。自分もまだまだ考えて、努力しなきゃな、と思った次第。
さて今週8月27日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位ですが、先週の予想ではミーガン・ザ・スタリオンとロッド・ウェイヴの一騎打ちで、ミーガン優勢の予想でしたが、蓋を開けてみると何とロッド・ウェイヴ『Beautiful Mind』がミーガンをぶっちぎって115,000ポイント(うち実売2,000枚)で1位初登場を決めてます。と、いっても先週まで1位だったバッド・バニーも殆どポイント減らさずに108,000ポイントで2位でしたから、それと比較するとギリギリの1位だったということになります。ポイント減らさないバッド・バニー、今後もニューリリースが弱い週にニュルッと(笑)1位に復活する可能性ありそうですね。
そのロッド・ウェイヴですが、初の1位を決めた前作『SoufFly』(2021)同様、基本控えめなトラップビートにギターやピアノなどアコースティックなサウンドを乗せて、R&B的フレイバーのトラックに自分の心情とか、孤独やパートナーとの別れなど、エモなラップを聴かせるいつものスタイルで、癒やしのオーラを今回も大いに発してます。先行シングルで、自分の過去の彼女との別れをラップした「Cold December」なんてカントリーの大御所、ハンク・ウィリアムスJr.の曲をサンプルするなんていうしなやかなこともしてて、ギャングスタやストリートの荒廃を暗くラップするトラップ勢に疲れたヒップホップ・ファンの支持を受けているんだろうな、というのは容易に想像が付くところ。ただし本人は「今回が最後のSad Ass Album(悲しんでるヤツのアルバム)」と言ってるらしく、次作ではどんな展開があるか、興味のあるところです。
そしてそのロッドと1位争いすると見ていたミーガンの『Traumazine』は63,000ポイント(うち実売8,000枚)と予想を大きく下回る初週ポイント数で、4位に初登場しています。先週末のサマソニでも力強いステージを見せてくれたミーガン、既にヒットしてるデュア・リパとのコラボ・シングル「Sweetest Pie」(最高位15位)や、「Plan B」(29位)などがチャートを賑わしていただけに、これまでの彼女の勢いだったら前作のデビュー・アルバム『Good News』(2020年2位)を上回って1位来てもおかしくないと思ったんですが。まあアルバムリリースのアナウンスがされたのが発売日前日だったというのがマイナスに働いた可能性はありますね。
今回もこれまでの路線同様、女性のジェンダー・エンパワーメント的な自己主張を打ち出す「Not Nice」や後輩格のラットをフィーチャーした「Budget」などでミーガンらしさを存分に発揮する一方、アイズリーズの「Between The Sheets」をサンプルしてジェネ・アイコをフィーチャーした「Consistency」や当代一のR&Bクルーナー、ラッキー・デイを配した「Star」では露骨なリリックも駆使しながら濃密なセクシーさを演出したりと、いろんなミーガンの側面をみせてくれてますね。音楽メディアの評価もかなり高く、メタクリティックでは82点を獲得。順位的にはやや予想を下回りましたが、ソリッドな作品であることは間違いないですね。
今週トップ10での目立つ他の動きは、これが何回目のトップ10返り咲きになるの?というザ・ウィークンドのベスト盤『The Highlights』の圏外36位から8位への復帰。これ、何度もお伝えしているように、彼の最新アルバム『After Hours』と両方に収録されている曲、例えば大ヒットの「Blinding Lights」や「Save Your Tears」なんかのストリーミングポイントは、その週の実売の多い方のアルバムにポイント加算される、というビルボードの(未だに不合理だと思う)ルールのおかげで、今週わずかに売上の多かった『The Highlights』の方にこれらの曲のストリーミングポイントがごっそり移って来たことによるランクアップです。こういう消費実態を必ずしも反映しないチャートルールは早く改正してほしい、とこれまでも何度もコメントしてきた点ですが、自分の声がビルボードに聞こえてる様子はどうもありませんね(笑)。
さて今週トップ10内初登場は2枚のみでしたが、圏外も今週はやや静かで100位までの初登場は3枚。そのうち一番人気だったのは、先週予想でトップ10来るかも、といっていたザ・ゲームの通算11作めになる『Drillmatic - Heart vs. Mind』の12位初登場。惜しかったねえ、ザ・ゲーム。トップ10行ってたら2016年の『1992』(4位)以来のトップ10だったんですが。
ザ・ゲームと言えばGユニットのメンバーとして鳴らして、一時期は西のザ・ゲーム、東のDMXというくらいに2000年代〜2010年代はトップMCとしての存在感を持ってアルバム出せば1位か2位、という時期もあったし、ラッパーとしてのスキルもかなり高いものがあるのは認めるけど、50セントとの有名なビーフでNYラップシーンの失速に加担したということで個人的にはうーんという感じなんですよね。しかし未だにトップMCとしてのリスペクトはかなりのものらしく、今回のアルバムにもカニエやアイスT、リル・ウェインなどの大御所からA$APロッキーやフィヴィオ・フォーリンらのNY勢だけでなく、YBNBAやロディ・リッチ、リック・ロスなど東西以外のシーンの若手から実力者などとても豪華なゲストを並べて、達者なフロウを展開していて、自ら「俺がシーンでベストのMCだってことを証明するアルバムなんだよ」っていうだけのことはあるかな、という感じです。エミネムへのディス・トラック「Black Slim Shady」なんてのもあって、気合はすごいですわ。2022年のヒップホップ作品としては、かなりの完成度だとは思います。それだけにトップ10来てほしかったですねえ。
そしてぐっと下がって43位に初登場してきたのは、何とデンジャー・マウスとザ・ルーツのブラック・ソートのコラボ・アルバム『Cheat Codes』という、ヒップホップ・ファンならこの組み合わせだけでもワクワクするようなアルバム。デンジャー・マウスといえば、そのブレイクがビートルズのホワイト・アルバムのトラックにジェイZの『Black Album』からのボーカルを重ねてアルバムを作ったという最初からジャンル横断のサウンド・プロダクションで独自の世界観を作り出す強烈なサウンドメイカー。彼の仕事で一番有名なのはブラック・キーズの一連のアルバムで聴かせたドロドロしたグルーヴ感満点のサウンド。その彼がそのサウンドのフィーリングそのままのトラックを展開して、そこにザ・ルーツで定評のあるブラック・ソーツのライムが乗ってるのだからこれはもう最高ですね。
アルバム全体聴いても基調はヒップホップ・アルバムなのだけど、あのレイクウォンをフィーチャーしてる「The Darkest Part」とかトラックが60年代R&Bやブルースだったり、「Belize」とかはワールド・ミュージック風だったりとかとにかくジャンル不明のトラックが続々出てきて、催眠的なグルーヴのクルアンビンの作品の覚醒版、みたいな感じでひたすら気持ちいいんですよね。これ、ライブで見てみたいなあ。マイケル・キワヌカをフィーチャーしてる「Aquamarine」なんて、ピンク・フロイドがヒップホップやったらこうなるんじゃないか、って感じだし。これこそクールなヒップホップって感じ!
更にぐーーっと下がって91位に初登場しているのは、デストロイ・ロンリー(本名:ボビー・サンディマニー3世)という若いトラップ・ラッパーの初チャートイン・アルバム『No Stylist』。彼は2000年代にルダクリスのディスタービング・ザ・ピース・レーベルに契約して、ルダのアルバムとかに客演していたラッパー、I-20の息子さんらしい。
トラップベースのYBNBAとかにスタイルが酷似しているラッパーなんだけど、使ってるトラックに結構ユニークなビートを使ってたりして、そんじょそこらのトラップ・ラッパーではないな、まあだからこうしてチャートインしてきたのかな、って感じはする、そんなラッパーですね。トラップの新しいアプローチを提示していると言えなくもない感じなので、今後どうなるかちょっと興味ありますね。トラップは今のままのスタイルでは多分未来はないので。うちのヒップホップ・ヘッズの息子も「大好きです」と言っております。プラグラップ、っていう新しいジャンルらしいんだけど詳細不明。
ということで今週の初登場100位までは合計5枚でした。ちょっと今週は少なめでしたが、とりあえずバッド・バニー天下が一旦終わったということである意味めでたい(笑)週だったかもしれませんね。ではここでトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) Beautiful Mind - Rod Wave <115,000 pt/2,000枚>
2 (1) (15) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <108,000 pt/3,089枚*>
3 (3) (3) Renaissance - Beyonce <64,000 pt/8,000枚>
*4 (-) (1) Traumazine - Megan Thee Stallion <63,000 pt/8,000枚>
5 (2) (2) The Last Slimeto - YoungBoy Never Broke Again <50,000 pt/993枚*>
6 (4) (84) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <48,000 pt/930枚*>
7 (5) (13) Harry’s House ▲ - Harry Styles <43,000 pt/9,877枚*>
*8 (36) (79) The Highlights - The Weeknd <28,000+ pt/1,000枚>
9 (7) (16) I Never Liked You ● - Future <28,000 pt/71枚*>
10 (9) (65) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <25,000 pt/5,339枚*>
ということで今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想。来週チャートの集計対象期間は8/19~25になりますが、今週の状況で判ったように確実に10万ポイントを叩き出すアルバムでないと、バッド・バニーがまたニュルッと1位になりそう。それができそうなニューリリースはうーん、パニック・アット・ザ・ディスコくらいかなあ。でもシングルもヒットしてなくて前作の絶好調な時の15万ポイントが再現できるかは微妙です。それ以外でトップ10に来そうなのは、デミ・ロヴァートと、マドンナのダンスチャート1位曲50曲のリミックス・アルバムくらいかな。ではまた来週。