今週の全米アルバムチャート事情 #130- 2022/5/7付
日本はゴールデンウィーク真っ盛りの今週、緊急事態宣言のない2年ぶりのGWということもあって人出も多く、海外に出てる人も結構いるようですね。自分は近場で山行ったりゴルフしたりと控え目に過ごしてますが、GW後にまたまた一気に感染爆発、なんてことにならないように願いたいものです。何せ夏にはフジロックを始め2年ぶりのフェスが待ってるので。
さて、さて今週の全米アルバムチャート、5月7日付のBillboard 200の1位は久々に予想が当たって、カニエ(最近はYeに改名したらしいですが)舎弟のプッシャTの4作目『It’s Almost Dry』が彼にとって初の全米ナンバーワンアルバムに輝いてます(55,000ポイント、実売9,000枚)。もともと90年代東海岸ヴァージニア州のラップ・デュオ、クリプスの片割れとしてブレイクした彼は2000年代に入ってカニエに認められてカニエのレーベル、G.O.O.D.ミュージックの社長に就任。以来、社長業とラッパー業を並行してやってきてるというキャリアながら、ラッパーとしてもシーンで結構リスペクトを集めていて、前作の『Daytona』はカニエが使用料8万5千ドルを払ってドラッグ中毒中のホイットニー・ヒューストンの私物が雑然と置かれたバスルームの写真をジャケに使うという悪趣味さが一部の非難を浴びたものの、作品自体はナスやP.ディディを始めシーンからは高い評価を受けていました。
今回はその次作ということで前作同様カニエ、もといイェを共同プロデュースに迎えて、ゲスト参加もそのイェ、ジェイZ、ファレル・ウィリアムス(一部共同プロデュース)、キッド・カディ、リル・ウジ・ヴァートといった蒼々たるメンツに加えて、何と先日トップ20にアルバムをチャートインさせた日本人ヒップホップ・プロデューサーのNIGOや、エレクトロ系のラブリンスといった多彩な布陣です。先行シングルでカニエをMVにフィーチャーして、クラック・コカインの売人としての自分のストリート経験をラップしてる「Diet Coke」や、ダニー・ハサウェイ・バージョンの「Jealous Guy」をループで使うという大ネタ使いの「Dreaming Of The Past」など話題トラックの多いこのアルバム、プッシャTのカニエ・コネクションなども考えるともう少しポイント伸びてもおかしくなかったところですが、ここのところBB200全体のポイント水準が低位で推移してますね。全米の音楽消費活動が停滞気味なんでしょうか。
同様に停滞気味の今週のトップ10のもう1枚の初登場は、こちらも予想されていたカントリーのジェイソン・オルディーンの前作の『Macon』(2021年8位)に続くジョージア2部作の2作目、その名も『Georgia』が8位に入って来ています(26,000ポイント、実売13,000枚)。ジョージア2部作というのは、彼の出身地であるジョージア州メイコン(Macon, Georgia)をタイトルにしたアルバムを2回に分けてリリースする、というプロジェクト。彼は2007年のセカンドアルバム『Relentless』から今回まで10作連続全米アルバムチャートトップ10を記録中(2012年『Night Train』から2018年『Rearview Town』までは4作連続全米ナンバーワン)と、王道中堅どころのカントリー・シンガーとしては安定した人気を確保しています。
前作からはキャリー・アンダーウッドとのデュエット曲「If I Didn’t Love You」(Hot 100最高位15位)がスマッシュヒットし、かつ先月開催された第57回ACM(Academy of Country Music)アウォーズでは年間最優秀シングルを受賞と絶好調のジェイソンですが、今回も同様に恋人との別れをしっとりと歌った「Trouble With A Heartbreak」がただいまヒット中、今週33位に上昇してトップ40入りしてきてます。今回の2作品(最終的には『Macon, Georgia』という2枚組アルバム扱いになるようですが、チャート上はまだ別表記のようです)はそのタイトルの通り、ジェイソンが自分の生まれ育った町をコンセプトにした、言わば原点回帰の作品。デビュー当初はちょっと軽い印象もあったジェイソンですが、この10作目を節目に新たな円熟の域に入ってきた感もあります。
さて以上はトップ10内初登場ですが、今週は圏外11位から100位までの初登場は4作。ただしちょうど対象期間2日目の4月23日には、2022年のレコード・ストア・デイ開催ということで、RSD特別ヴァイナル・リリースされた既発アルバムがチャートに再エントリーしてきています。具体的には13位にチャイルディッシュ・ガンビーノのEP『Kauai』(2014年デジタル・ダウンロードのみリリースで16位チャートイン)が13位、マライア・キャリーの1998年のベスト盤『#1’s』(当時最高位4位)のヴァイナル2枚組が20位、スティーヴィー・ニックスの有名盤『麗しのベラ・ドンナ(Bella Donna)』が52位にそれぞれ再登場してます。このRSDイベントも、ヴァイナルの消費が順調に増えているここ最近はこうして開催毎にチャートにインパクトを見せるようになってきました。今年の次回開催は6月18日なので、6月25日付チャートにはまたRSD関係の再登場、多く見られそうです。
さて圏外初登場ですが、今週一番上に入って来たのは今や大御所ブルース・ロック・ギタリスト&シンガー、ボニー・レイットの6年ぶり、通算18作目になるオリジナル・アルバム『Just Like That…』が44位にチャートインしてきています。前作まで2作続けて一緒にプロデュースしていたジョー・ヘンリーは今回からんでおらず、ボニー自身で全面プロデュースしてますが、それが全体、ボニーの長年のキャリアから産み出される得も言われぬグルーヴを醸し出しており、なかなかいい感じの仕上がりになってる気がします。
冒頭からカッコいいギターワークがブルージーに迫ってくる「Made Up Mind」、クラプトンがやりそうな叙情感たっぷりなミディアムのブルース・ロック「Something’s Got A Hold Of My Heart」、コロナで失われた友達を思いながら力強く生きる決意を歌う「Livin’ For The One」、アコギの弾き語りが沁みる「Just Like That」、そしてそのコロナで昨年他界したトゥーツ&ザ・メイタルズのトゥーツ・ヒバートのカバー「Love So Strong」などなど、ボニーがお気に入りのバンドとリラックスしてジャムってるのを聴いているような、そんな安楽感満載のアルバム。しばらくリピートで楽しめそうです。
続いて68位登場は、コンテンポラリー・クリスチャン(CCM)の新人女性シンガーソングライター、アン・ウィルソン(あのハートのお姐さんとは名前が一字違いw)のデビュー・アルバム『My Jesus』。カントリーポップ調のこのタイトルナンバーが昨年夏にコンテンポラリー・クリスチャン・チャートで1位を記録、Hot 100には入りませんでしたが、その下の101位以下のチャートである「バブリング・アンダーHot 100」チャートでは1位(=101位)と、彼女にとってのブレイクスルーヒットとなっていました。その直後にこの曲を中心に収録した4曲入りライブEPを経て今回アルバム・デビューとなったもの。ヒットのブレイクを着実に結果に結びつけているあたり手堅いマーケティングです。
ケンタッキー州レキシントン出身のアンの書く曲は、テーマや歌詞がクリスチャンの信仰をテーマにしているという以外は、キャリー・アンダーウッドやイングリッド・アンドレス、ケルシー・バレリーニといった今のメインストリームのカントリー・ポップ・シンガー達の楽曲と全く違和感なく聴けるので、こうしたアーティストのファン達が今回支持しているんでしょうね。
87位に登場してきたのは、こちらも今回のRSD関連で、メタリカのギタリスト、カーク・ハメットのソロ・デビューEP『Portals』。今回のRSDのリリース作品の一つとして、ヴァイナル6,500枚、CD7,500枚限定でリリースされたインストゥルメンタル作品4曲収録のEP盤です。
映画的なイメージを元にカークが書いた楽曲を集めた作品で、カーク自身も「君の人生における想像上の映画のサントラとして聴いてほしい」といってるらしく、それ風な感じの楽曲が並んでます。イエスのリック・ウェイクマンからポリスのアンディ・サマーズ、そして最近ではナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーまで、新旧問わずロック・ミュージシャンが映画のスコア作曲を手がける例は多いわけですが、今回は特に映画があってスコアを書いたわけではなく、正直カークの趣味的作品だと思うんですが、それでもこういう順位にチャートインしてくるあたりはメタリカがいかにロック・ファンの間で大きな位置を占めているかを物語ってる気がしますね。しかしカークも59歳か。
そして今週最後の圏外初登場は、LA出身のラッパー/シンガー兼プロデューサーのブラスト(Blxstと書いてこう読むようです。本名マシュー・ディーン・バーデット)のデビュー・アルバム『Before You Go』が90位に初登場。2020年リリースのデビューEP『No Love Lost』収録の、タイ・ダラ・サインとタイガをフィーチャーした、トラップ・バラード「Chosen」(Hot 100最高位51位)が昨年末から今年初頭にかけてヒット、ラップ・エアプレイ・チャートで通算8週1位を記録したことで一気にブレイクしたブラスト。
何かMV見ると昔のE-40風のやや三の線のルックスと、ポップな作風が相まってここにきてジワジワ人気を集めているようです。今回が初チャートイン作品ですが、元々プロデュース業から音楽業界のキャリアをスタートしてるようなので、これから他のアーティスト達とのコラボも増えるでしょうし、今後注目かもしれません。
ということで今週の初登場は以上。いつものように今週のトップ10のおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。
*1 (-) (1) It’s Almost Dry - Pusha T <55,000 pt/9,000枚>
2 (2) (68) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <51,000 pt/1,447枚*>
3 (3) (7) 7220 - Lil Durk <39,000 pt/85枚*>
4 (5) (49) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <36,000 pt/7,908枚*>
5 (4) (22) Encanto ▲ - Soundtrack <35,000 pt/3,534枚*>
6 (7) (44) Planet Her - Doja Cat <30,000+ pt/669枚*>
7 (6) (34) Certified Lover Boy - Drake <30,000- pt/41枚*>
*8 (-) (1) Georgia - Jason Aldean <26,000 pt/13,000枚>
9 (9) (16) DS4EVER - Gunna <23,000 pt/25枚*>
10 (10) (113) My Turn ▲4 - Lil Baby <22,000 pt/49枚*>
今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週1位予想。来週のチャートの対象期間は4/29-5/5ですが、この期間のリリースで一際ギラギラ光っているのが何といってもフューチャーの新譜。まあこれは久々に10万ポイント超えで余裕の1位をかっさらっていくんでしょう。それ以外にトップ10に顔を出しそうなのはR&Bのケラーニ、カントリーのミランダ・ランバート、ジャーマン・メタルのラムシュタインあたりでしょうか。来週はここのところウジウジトップ10に居座っている旧譜をかなり一掃してくれる、賑やかなチャートになりそうです。ではまた来週。