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今週の全米アルバムチャート事情 #223- 2024/2/17付

ここ近来稀に見る素晴らしいゲームが展開された先週末の第58回スーパーボウル。最後の最後残り3秒でふわっと投げられたマホームズの決勝タッチダウン・パスが、まるでスローモーションのように見えたのがとっても印象的でした。テイラーも必死に日本からジェットでとんぼ返りして応援した甲斐があったというもの。それにしてもVIPボックスで飛んだり跳ねたりしてたテイラーと一緒に飛んだり跳ねたり、抱き合ったりしてたアイス・スパイスについて、ネット上で全くと言っていいほど言及・コメントがない、というのは何なんでしょうね(笑)

"35 Biggest Hits" by Toby Keith - R.I.P.

そんなスーパーボウルの興奮冷めやらぬ今週の全米アルバムチャート、2月17日付のBillboard 200の首位はひょっとしてゾンビ復活したモーガン野郎がもう一週首位をキープするかも、と懸念していたところ、思わぬ形でその懸念が晴らされることになりましたが、それはほろ苦い思いを呼ぶ形になりました。というのも、今週1位に再登場したのは、去る2月5日に2年に亘る胃がんとの戦いに敗れて他界したカントリー・シンガーソングライター、トビー・キースのベスト盤『35 Biggest Hits』だったんです。このアルバムは2008年にリリースして当時2位まで上がってましたが、今回の彼の訃報でおそらく彼の過去のヒット曲を聴いて彼を偲んだファンのストリーミングポイントや、改めてこのベスト盤が購入されたポイントも貢献して首位再登場となったものです(66,000ポイント、うちストリーミングポイントは6404万回オンデマンドストリーミング相当の46,000ポイント、実売は11,000枚)。

トビー・キースというと、時を同じくして起きた自らの父の交通事故死と9-11に反応して書いた、愛国者の怒りに満ちた「Courtesy Of The Red, White & Blue (The Angry American)」(2002年最高位25位)の強烈な愛国者イメージとそれに反発したディキシー・チックス(現チックス)のナタリー・メインとの敵対関係や、アルバム『Shock’n Y’all』(2003年1位)の無頼でマッチョなイメージで、必ずしも自分的には得意なアーティストではなかったんですが、実は彼、保守派ではあるものの2008年までは民主党の党員で、元オバマ大統領アル・ゴア元副大統領らを支持するライブなんかもやってたんですよね。一方共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領トランプ元大統領らに対しても就任時のコンサートに参加しており、そういう意味では自分の指示する政党とは別に、アメリカ合衆国大統領に対するリスペクトを強く持ち続けた、ある意味党利を超越したバランスある政治的信条を貫いたカントリー・ミュージシャンだったと言えるかもしれません。また米軍兵士達へのリスペクトも高く、何度も中東の米軍駐留地にでかけて慰問コンサートをやっていたというトビーの訃報には、ドリー・パートンからルーク・コムズ、ザック・ブライアンに至るまで新旧のカントリー・ミュージシャン達が追悼の意を表明しています。個人的には自分とほぼ同年代であり、亡くなった原因を思うになかなか他人事ではありません。改めてトビーの冥福を心より祈らずにはいられません。

"Hazbin Hotel, Season One" Soundtrack

2位のモーガン野郎を僅か1,000ポイント差でかわしたトビー・キースのベスト盤再登場を除くと、トップ10内初登場は今週もゼロでしたが、今週は圏外11位以下100位までも地味で初登場はわずか2枚。いずれも厳密な意味での「初登場」とはいいにくい感じですが。そのうちの13位とあわやトップ10入り、という勢いでエントリーしてきたのは『Hazbin Hotel, Season One』のサウンドトラック盤。そう、先週このブログでご紹介した、アマゾン・プライム・ビデオで先月までストリーミングしていたアニメTVシリーズのシーズン1のサントラ盤フルバージョンで、先週のチャートに95位で登場していたパート1のEP(6曲収録)と189位に登場してたパート2のEP(4曲収録)に加え、先週のチャート集計期間最終日の2月1日にリリースされたパート3のEP(4曲収録)と放送スタート前のパイロット放送で使われた2曲全てが一枚に収まった、全16曲の言わば「完全版」のサントラ盤です。

なかなかこういうチャートインの仕方も珍しいですが、やはり今ノリに乗ってるA24社配給のシリーズということもあり、かなり人気を集めているようですね。何でも過去アマゾン・プライム・ビデオで公開されたアニメ・シリーズでは最も多くの国で公開されたシリーズなんだそうです。既にシーズン1のパイロット1話と8エピソードの放送は1月末で終了していますが、シーズン2の制作がアナウンスされてるようですので、来年もまたサントラ盤がチャートに登場するかもしれません。

"Greatest Hits: The Show Dog Years" by Toby Keith

もう一つの初登場は43位にエントリーしてきた、こちらもトビー・キース訃報がらみのチャートインで、彼のもう一つのベスト盤『Greatest Hits: The Show Dog Years』。今週首位の『35 Biggest Hits』は2008年リリースで、トビーの42曲あるカントリー・トップ10ヒットのうち31曲(うち20曲あるカントリー・ナンバーワンヒットのうち15曲)が収録されてますが、このベスト盤は、2005年に彼が設立した自分のレーベル、ショー・ドッグからリリースされた11枚のアルバムから選曲されてる彼の後期のベスト盤、という位置づけのようです。

従って、「American Ride」(2009年カントリー1位、Hot 100 35位)「Made In America」(2011年カントリー1位、Hot 100 40位)といった、『35 Biggest Hits』に収録されてない彼の後期のヒット曲が収められていて、今回の訃報で最近の彼のヒットをストリーミングで聴くと、こちらのアルバムのポイントに加算される、ということでここにもう1枚エントリーしてきたということのようです。虎は死して皮を残す、ミュージシャンは死してベスト盤を残す、といったところでしょうか。

今週の全米アルバムチャート100位までの初登場は2枚と地味な状況ですが、先々週末のグラミー賞授賞式放映後のストリーミングや売上が反映されてるチャートということで、初登場以外にもいくつか目立つ動きがあります。その中でも特に目に付くのが、当日ルーク・コムズと「Fast Car」の感動の共演を果たしたトレイシー・チャップマンの、その「Fast Car」が収録されているファースト・アルバム『Tracy Chapman』(1988年1位)が59位に再登場してきていることでしょう。ネット上でも大きな反響を呼んだあの共演で、トレイシーの音楽活動復帰も取り沙汰されてるようですが、どうなりますか。一方Hot 100では先週首位初登場のミーガンの「Hiss」は早々としかも一気に13位にダウンして、その合間を縫ってまたあの鼻歌ソング、ジャック・ハーロウの「Lovin On Me」が通算5週目の1位を決めてます。では今週のアルバムチャート、トップ10おさらいです。今週から何とモーガン野郎、一気に5xプラチナ・マークが付いちゃってます(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (RE) (136) 35 Biggest Hits ▲ - Toby Keith <66,000 pt/11,000枚>
2 (1) (49) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <65,000 pt/1,803枚*>
*3 (6) (61) SOS ▲3 - SZA <53,000 pt/3,182枚*>
4 (2) (4) American Dream - 21 Savage <51,000 pt/226枚*>
*5 (9) (68) Midnights ▲2 - Taylor Swift <51,000 pt/11,544枚*>
6 (3) (18) For All The Dogs - Drake <49,000 pt/63枚*>
7 (4) (63) Stick Season ▲ - Noah Kahan <49,000 pt/4,781枚*>
*8 (5) (15) 1989 (Taylor’s Version) - Taylor Swift <48,000 pt/11,375枚*>
*9 (7) (233) Lover ▲3 - Taylor Swift <45,000 pt/10,873枚*>
10 (8) (24) Zach Bryan ▲ - Zach Bryan <42,000 pt/4,097枚*>

ということで今週はすっかりトビー・キース追悼週間となった「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後いつもの来週1位予想(チャート集計対象期間:2/9~15)ですが、今週リリースのアルバムで目を引くのはアッシャーのニューアルバム。先週末のスーパーボウルでのパフォーマンスで今週ストリーミングが一気に上がっていれば1位の目もアリですが、2/9付のスポティファイ・デイリー・チャートではアッシャー、影も形もないので、せいぜいトップ10かな。それよりも2/9リリースの『Stick Season (Forever)』なるこのアルバムのデラックス・バージョン第2弾の方がぐっとポイント伸ばしそうで、今週の49,000ポイントに2万ポイント上乗せできればノア・カーン、待望の首位も夢ではないかも。ではまた来週。

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