主催という表現〜センジュ出版対話型講演会あとがき〜後編
前回の続きになります。
やっと講演会当日の話となる。
当日朝、PCとケーブル、ピンマイクなど、Zoomで繋ぐための最低限の機材を用意して、北千住に向かう。
吉満さんには、丸山さんが来られなくなり、僕が個人的にZoomで繋ぎたいという旨をお伝えした。
「ちょっと、私も配信セット持って行きます」というお返事があり、ありがたいな、なんて考えながら向かっていたら、事態はより活発化していく。
「Zoomで参加したがっていた方が居ました。ご案内して良いですか?」とさらにメッセージが届く。
戸惑いながらも、ありがたくお願いする。
続いて吉満さんのアカウントでのZoomアドレスが届く。これは本気だ。
Facebookを見る。
過去の主催者グループ、アトリエグループ、タイムラインなどに、急遽Zoom配信も可能になったという吉満さんの告知が次々に投下される。
「流れがあったので、急遽Zoom配信も行うことになりました。参加希望の方はご連絡下さい。」と
そして友人達から届く応援メッセージや、参加希望の連絡、当日は来られないけれどアーカイブ希望のコメントもいただいた。
当日になって会場参加を希望された方も、二名いらっしゃり、気づけば当日参加はWeb参加の方々を含め12人になっていた。
目標、達成である。
MessengerでZoom参加用のアドレスのご案内を送りながら、近くの神社の境内をお借りして朝食を済ませる。湿った空気が熱を帯びながら、蝉の鳴き声を響かせていた。
本日会場初参加の方がいらっしゃると丸山さんからご連絡があったので、ご案内の文言を考えながら現地に到着すると、額に汗しつつ、看板を眺めながら戸惑っている男性の姿を見つけた。
あの人に違いない。
そう直感してお声がけすると、ビンゴだった。おもかわさんである。
10時開始のイベントに、「方向音痴なんで・・・」と言いながら1時間前に来て下さった。いい人である。
ちなみに僕は方向音痴な上に遅刻癖があるから初めての場所は大体遅刻する。雲泥の差である。
会場の前で空中階の鍵を持つ吉満さんを待つ。
ほどなくして、大きなトランクを引きながら吉満さんが到着された。
当日朝になって、急遽配信をする事になり、急いで機材を用意してくれたのだろう。
本当にありがたいと思いながら、会場に入り、設営をする。
慣れた手つきで機材を組み上げ、「三脚を忘れました」と言いながら、一旦自宅に戻っていく。
簡単そうにやってのけるこの準備こそ、吉満さんが2020年の初頭、コロナウイルスが目の前に立ちはだかってから今に至るまで、努力して身につけてこられたのを僕はずっと見てきた。
初対面で参加者のはずのおもかわさんも設営を手伝って下さり、机の位置をセッティングしたり、近くのスーパーに飲み物の買い出しに付いてきて下さる。
付いてきて下さるどころか、おもかわさんは店内でかごを持ってくれるだけに止まらず、参加者へのドリンク代を支払って下さった。
会場への帰り道も「僕の方が力持ちですから!」と袋を離さない。
参加者に飲み物代を支払わせる主催がどこにいるだろうか・・・
何故そこまでしてくれるのだろう、と思いながらもありがたくご厚意を受け取ることに。
初対面でここまで出来るだろうか。凄い人である。
おもかわさん、本当にありがとうございました。
会場に戻ると、読書のすすめの小川さんが到着される。
一緒に本を並べ、なんとなくBGMを流す。
大好きな作曲家、高木正勝さんの曲をSpotifyから選ぶ。
参加者の方々が続々と到着される。
いよいよ始まるのだ。と段々緊張が高まる。
不意に高い声が聞こえる。BGMにコーラスなんて入ってたっけなとふと耳を澄ますと、バックヤードでの吉満さんの発声練習だった。
Zoomの方でも丸山さんともうお二方が入られ、準備が整った。
そして、講演会が始まる。
緊張と焦りで、主催としての挨拶の冒頭部分をZoomで録画し損ねる。
何を話すのか具体的には決めておらず、頭に浮かんだことをぽつりぽつりと言葉にしていく。
声量を上げるよう吉満さんから言われる。その後は上げたつもりだったが、ちゃんと聞こえたかは自信がない。
主催の思いとして20分の時間を取らせていただいたが、20分って意外と長いなと感じながら、話題を手繰り寄せつつ、話していく。
参加者の方々のうなずきと時々挟んでくれる笑い声に助けられ、考えていることをひとつひとつ、並べていく。
この、講演会の前に主催が話す流れは、前回の丸山さんから始まった。
ご自身の記憶と主催への思いを、勇気を持って話す姿がとっても素敵だったので、ぜひ続きたいと思った。
なので丸山さん同様原稿は作らなかった。どんなことを話そうか、事前にキーワードくらい確認しておこうと思ったけど、ばたばたして逃してしまった。
なので、あの日話したことは全て、あの場で頭に浮かんできたことだった。
人は普段考えていること以上の事は、とっさの時には出てこない。
だから、与えられた場で浮かび上がってくる自分の言葉を、自分でも眺めながら楽しんだ。
終わったのが10時20分頃、なんとか話し終えた。
こんなに自分のことを人前で話したのは初めてだ。
大学時代、理論武装の虜になり、尖りまくっていた自分から今までの「変化」のこと、今回のテーマについてなど、色々と話したと思うが、結構夢中だったので余り覚えていない。
でもなんだか気恥ずかしくてアーカイブを自分ではまだ見返せていない。
そんな主催の言葉であった。
続いて、吉満さんの講演に移る。スライドには当初の想定により、中年男性の画像がちらほら出てくるが、過去の僕に向かって話をしてくれた。
仲間について考えることとは。
どんな人なら仲間になれるのか。
仲間には何をして欲しくないのか。
問いかけが響く。
後ろでPCを操りスライドを送りつつ聴く。
この感覚はとても懐かしい。歯科医師の師匠と出会った大学三年生の時、僕はやはりステージ上で、スライド送りをしながら師匠の言葉に胸を打たれていた。
仲間とは、なんだろうか。
吉満さんは仲間を、「あることを、しない人」と表現した。
その表現がとってもしっくりきて、なるほど確かにセンジュ出版のファンにはそうした人が集まってくるよなと、思った。
そのあることとは、「自分に嘘をつくこと」だった。
皆が現時点で、100%自分に嘘をついていないかというと、そんなことはないと思う。
けれど、自分に嘘をついてたかもしれない、と気づき、嘘をつけなくなりつつある人は、センジュ出版に引き寄せられてくるような気がしている。
出会って、共に歩くうちに、一枚また一枚と、自分の嘘に気づき、脱いでいく。
今回の講演中、吉満さんの話からも、参加者の方々皆さんのコメントからも、僕はずっと、「仲間がいるよ」と言ってもらえている気分であった。
その仲間とは、本心で話すことを恐れなくていい相手のことだった。
その場には密で、がっしりとしたものではなく、とても自由で、ゆるやかな紐帯があった。
その仲間感覚みたいなもの、読書てらこやという対話の場で散々経験した、あの温泉のような居心地の良さこそ、実は対話の効用かもしれない。
最近読んだ対話の本に、まさにその感覚のことが書いてあって、対話を通じて人間が根っこのところで繋がっている感覚に近づくと、温泉のようになるとあった。
センジュ出版対話型講演会は、まさに対話の場を生み出していたのだ。
そんな参加者の皆さんのシェアはとても素敵な時間だった。Web参加の丸山さんから当てさせてもらい、お話を伺い、言葉を返す。
僕が返答したり、吉満さんに答えていただいたりしながら、一人、また一人と言葉を聞いていく。
会場に移り、挙手制にさせてもらうと、じわじわと手が上がる。
最終的には、参加者の全員にお話いただくことができた。
仲間という言葉に率直な疑問を話してくれた方、勇気を出して遅れながらも当日会場参加を選んでくれた方、何かに気づき、変化への意志を語られた方。色々な思いがあり、涙を流される方。
初対面の方も、いつもご一緒できる方も、本日この場で、出てきた言葉を素直に共有できる。それが純粋に嬉しかった。
そして参加者の最後の一人として、読書のすすめの小川貴史さんにコメントをいただいた。
人生を全てわかった気になって、孤独を感じて尖っていた23歳の若造を、優しく温かく、方向修正してくれた方。
武装して人を傷つける読書をしてしまっていた当時の自分を小川さんが見捨てずに居てくれたおかげで、センジュ出版に出会い、感性が蘇った。
その後僕はヨガ、発酵食、畑、ランニング、乗馬など、生活の中でも自分を取り戻していく方向性にシフトすることになる。
僕にとって、変化の起点は、小川さんだったのだ。
だから、いつもイベントでは、傍観者を決めておられる小川さんに、今回だけは、書籍紹介だけじゃない部分で、話をして欲しかった。
僕の変化を見続けてきた人として、小川さんが話す言葉を聞きたかった。
当時の僕は思っていた以上に尖っていたらしい(笑)
それでも丸くなったつもりでいたのだ、一応。
あの頃、コンプレックスもある程度昇華して、器以上の仕事に立ち向かうために精一杯背伸びして、出せる限りの自分で頑張っていたのは確かで、そんな自分も好きである。
けれど、見える人からは危うさが透けていたのも確かで、それに気づいていたのが小川さんだった。
知識に対しての経験の圧倒的不足があった。
でも当時、僕は知識で経験を補おうと躍起になっていた。
早く大人にならねば。攻撃されたら殴り返せるだけの圧倒的な知識が必要だ。
咎められても気にならないくらいの高次の知恵を持たないと自分が傷つく。
そんな焦りがあった。
頭の中で敵の像が勝手に膨れ上がっていたのかもしれない。
その方向を、小川さんはセンジュ出版の本を紹介し、僕が北千住に行くことを勧めることで、少しずつ変えてくれた。
今の僕があるのは、小川さんのおかげなのだ。
そんなことを思った。
今回、始まるまで、僕は講演会を主催することが、なんで自身の表現になるのかわからないと思っていた。
でも、終わってみると、僕が主催したことで、参加してくれた方一人一人が、僕のために言っているのではないか、と思うような感想をシェアしてくれた。
講演会が終わった後も、みなさんが、それぞれの表現で、感想文やラジオなどを発信してくれた。
そして、不意に生まれたZoom配信という展開のおかげで、僕は一番届けたかった人にこの講演会を届けることができた。
主催という表現の機会をいただいたことで、僕が受け取ったものは計り知れない。
今回、主催をさせていただく上でも、たくさんの方のお世話になった。
度重なる注文に応えて、告知用の画像を作っていただいたるーこさん
素敵な講演と、主催の当日急な無茶振りにも関わらず、Zoom配信環境を整えてくださったセンジュ出版代表の吉満明子さん
書籍の紹介及び販売を行なっていただき、僕の書店韋編三絶の本も一緒に会計をしていただいた、読書のすすめの小川貴史さん
Zoom配信のきっかけを作ってくださった印刷会社安心堂代表取締役の丸山有子さん
お弁当は吉満さんから、足立区の素敵な居酒屋、一歩一歩さんにご依頼いただいた。
そして、現地及びZoom参加者の皆様、アーカイブをお求めの皆様
誠にありがとうございました。
また、こんな長文を最後までお読みくださり、ありがとうございました。
こんなに真面目な記事は、しばらく書きません。
次回のテーマは、ストリップ劇場「浅草ロック座」について、とかにする予定です。
真面目なイメージがつくと、生きていくのが窮屈ですからね!
それでは、またの機会に。
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