「しゃべるピアノ」(409字)
「今日でお別れなんだね」
ピーちゃんは大きめの段ボール箱に詰められながら確かにそう言った。
ピーちゃんとは大学1年生からの付き合いだ。地方の大学に入学が決まった僕は何か新しいことを始めたいと胸を膨らませていた。
一人暮らしのアパートから、高速バスで2時間かけて仙台に出る。降車して少し歩くと、路上でピアノライブをしている人を見かけた。
これだと思った。
仙台駅東口のヨドバシカメラに寄り、キーボードコーナーで一番安い電子ピアノを見つけた。台座とセットで3万円。まだお金はそんなになかったが、クレジットカードの3回払いで購入した。椅子は事務椅子を購入した。
僕はピアノに愛着を込めてピーちゃんと名付けた。勉強や就活に追われていく中で距離が離れることもあったが、触れるといつも、軽いながらも一生懸命に僕の心のドアをたたいてくれた。
サークルの後輩がやってきた。ピアノを見つめる後輩に一言。
「ピーちゃんをよろしくね。」