見出し画像

「馬が教えてくれる、感覚を磨くことの大切さ」〜bookwill「小さな読書会」第10回レポート ゲストキュレーター:小日向素子さん(COAS代表)~

  
 東京・蔵前のビンテージビルの一室をリノベーションしてつくられたブックアトリエ「bookwill」。管理人の小安美和が主宰する招待制の読書会は、2024年4月で10回目を迎えました。

 例年より遅めの開花となった桜が舞い散る夜、一人、また一人と、部屋に集まる女性たち。それぞれが社会の中で果たす役割や肩書きをそっと置いて、フラットな対話を交換する時間が今夜も始まります。

 今回のゲストキュレーターは、国内外の企業経験を経て、2017年に札幌に牧場「COAS」を設立した小日向素子(こびなたもとこ)さん。馬と触れ合う時間を通じてリーダーシップを学ぶ牧場研修(ホースローグ)は、資生堂をはじめとする企業の研修にも採用され、受講者はのべ2000人を超えています。「これまでにない気づきを得られる」と評判を呼び、熱心なリピーターも増えているそう。『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)
 初の著作となるについて、小日向さん自らが語る言葉を聞こうと、ビジネスの現場で奮闘する女性リーダーが集まりました。



 
◆bookwill 小さな読書会◆
10代の中高生、キャリアを重ねたマネジャーやリーダー、研究者など、多様な経験を持つ多世代の女性たちが集まる読書会。7〜10人で一つのテーブルを囲み、肩書きや立場を置いてフラットに対話を楽しむ形式です。参加者は事前にゲストキュレーター指定の「テキスト(課題図書)」を読んだ上で参加し、感想をシェア。本をきっかけに対話を重ねていきます。

https://note.com/bookwill_kuramae/n/n07b548ffd1e5

 
<第10回「bookwill 小さな読書会」開催概要>
2024年4月11日(木)
ゲストキュレーター:小日向素子さん(COAS代表)
テキスト:『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)
 
 

 読書会のはじまりは、参加者の皆さん、そして、札幌からはるばる東京まで駆けつけてくださった「COAS」牧場主・小日向素子さんの自己紹介から。この場では「素子さん」という呼び名で、飾りのない言葉でご自身のストーリーを語ってくださいました。

 30代後半まで外資系企業を中心に転職を重ねながら、「自分に合うリーダーシップ」を求め続けていたという素子さん。あるグローバル企業で女性初の30代マネジャー候補に抜擢されるも、本国の上司から「日本のビジネスでは、あなたのポジションには50代以上の男性が求められると聞いたが本当か」と問われた瞬間に絶望を感じ、“離脱”を決意。その後、資本主義社会から離れた生活文化に身を置く旅や、リーダーシップに関する文献に触れる時間の中で、「感覚を磨く重要性」に気づいたのだそう。
 そしてたどり着いたメソッドこそが、「馬」。都会生活で鈍化した感覚を呼び覚ます自然体験として、なぜ「馬」が優れているのか。読書会の参加者たちも興味を寄せるその理由を、素子さんはロジカルに解説してくださいました。

 生育に日数を要する植物と比較して、即時に反応が得られる動物のほうがより速く、「気づき」「学び」を得やすいこと。
 動物の中でも、馬は人間に寄り添って進化を遂げた稀有な存在であること。
 周囲を観察し、その微細な変化を察知する「ミラー細胞」の数が人間より多いと言われ、「目の前の相手のありようそのものに反応する力」が非常に優れていること。
 脳の構造上、過去の記憶にとらわれず「今」を感じとる力にも優れていること。
 ゆえに、馬の反応を通じて、人は自らの力では気づかない行動や思考の特性を知るきっかけを得られる――。 

「私たちは、驚くほど自分自身に対して無自覚な生き物。でも、馬は私たちが自分を知るための助けになってくれます」

  牧場研修を通じて、素子さんが提供するのは「ナチュラル・リーダーシップ」を身につける機会。「ありのままの私が、自然や他者の一部であるという感覚に基づいて発揮するリーダーシップ」を意味します。


 この日の読書会には、素子さんの牧場を訪れてホースローグを受けた経験がある人も複数参加。製薬会社で長く人事を担当してきたという女性は、「私が牧場を訪れたのは、会社で360度評価を受け、その結果にショックを受けてつらかった頃。けれど一緒に過ごした馬が見事に私のリーダーシップの特徴を教えてくれたことで、上司や部下から受けた指摘も素直に受け止めることができました。今では、初対面の方々にも『私はこんなタイプのリーダーです』と弱さも含めてさらけ出すことができるようになりました」と、自身の体験をシェアしてくれました。

  設立時から牧場を支援し、リピーターでもあるbookwill管理人の小安美和も、馬と一緒に散歩をするアクティビティでいつものようにうまくリードできず、自分の中にある焦燥を突き付けられた経験があることを告白。
「馬の反応を受けての素子さんのフィードバックがまた素晴らしくて。何度も思い返すほど、胸に刻まれている」という感想に対し、「私は起きた事実を伝えるだけ。それをどう解釈するかは自分次第なんです」と素子さん。「馬とのさまざまなアクティビティを重ねることで、その時に自分が抱えている課題が明らかになり、同時に周囲の変化や相手の反応を受け取る感覚が研ぎ澄まされていくのです」。

  大学で教鞭をとる女性は、かつて研究の一環でジャングルの山奥で野宿をした経験をふりかえり、「死を意識するほどの環境の中で、私たちの感覚がいかに閉じてしまっているかを実感した。素子さんの本を読んで当時の気づきが呼び覚まされました」と感想を述べました。

  この読書会の後に牧場を訪れる予定を立てているという「おいちゃん」こと、bookwillアドバイザーの及川美紀さん(ポーラ社長)も、「リーダーは無自覚に周囲に影響を与えてしまうもの。幸せなチームをつくるために、リーダーとして自分が知るべき課題を感じる時間にしたい」と目を輝かせていました。

  一方で、札幌の牧場を訪れる機会をすぐにつくるのは簡単ではないのも事実。だからこそ、素子さんは本を書いたのだと語ります。
 『ナチュラル・リーダーシップの教科書』では、眠れる感覚を鍛えて、日々のコミュニケーションに活かすためのメソッドとして、3つのステップと10の行動様式が丁寧に解説されています。
 「大事なのは、思い込みを脱して『言葉の檻』を出ること。感覚を起点として、感覚を情報としてよりふさわしい行動につなげていく。本で紹介したトレーニングを1日10分でも意識するだけでも、確実に変わると思います」 

 本を読んだ参加者からは、「リーダーだって、もっと自然体でいい。弱さをさらけ出していいというメッセージを受け取り、ホッとした」という声も寄せられ、素子さんも「その言葉が聞けて心からうれしいです」とにっこり。

 今後、都会にいながら気軽に参加できる研修プログラムも準備中とのこと。気になる方は、COASのホームページで最新情報をフォローできます。 

 次の記事では、ブックラウンジ運営経験もある素子さんが推薦するブックリストを紹介します。 

まとめ/宮本恵理子