「実は世界で突出した『生涯無子』の国、日本」〜bookwill「小さな読書会」第11回レポート 福山絵里子さん(日本経済新聞社記者)
「女の敵は女」と言われることもありますが、本当にそうなのでしょうか。
東京の蔵前にあるブックアトリエ「bookwill」が主催する「小さな読者会」では、その真逆の光景を見ることができます。
多世代の女性たちの連帯が生まれ、シスターフッドが育まれているのです。
なぜ、このような温かい愛に満ちた場になるのか。それは、bookwillの空間と本のチカラが大きいと言えるでしょう。ビンテージビルの一室にポッと灯るランプ。扉を開けると、棚一面に北欧食器と本や淹れたてのコーヒーの香りが出迎えてくれます。
ここで、参加者が向き合うのは1冊の本です。肩書きやタスクを一旦横に置き、20代〜50代までの多様な世代の女性たちが本の感想を語り合いました。
<第11回「bookwill 小さな読書会」開催概要>
2024年6月16日(日)
ゲストキュレーター:福山絵里子さん(日本経済新聞社)
テキスト:『#生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか』(日経BP)
本が生まれた背景
さて、今宵の一冊は、『#生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか』(日経BP)。日本経済新聞の記者、福山絵里子さんがまとめた本です。
冒頭でお話しされたのは、福山さんが『生涯子供なし』を執筆した経緯でした。福山さんは日経新聞の生活文化部の記者として、少子化問題などをテーマに扱ううちに、少子化と切っても切れない関係にある「生涯無子」に関心を抱いたといいます。
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、1970年に生まれた女性の50歳時点の無子率を比べると、日本は27%と先進国で最も高いと言います。
日本が世界でも突出した「生涯無子」の国だということをテーマに、日経新聞で連載を執筆すると、SNS上で大きな反響を呼び、書籍化のオファーが舞い込みました。
「子供を持たない人の声はあまり注目されてこなかったし、学術的な分析も少なかったのでオファーを受けることにした」と語る福山さん。
本では、子供を持たない人の実像や、無子化と少子化との関係、無子化の日本社会への影響などについて、取材とデータを駆使しながら詳細にレポート。1992年に「国民生活白書」で「少子化」という問題が社会で初めてクローズアップされてから30年以上もの間、少子化対策は放置されてきたのに、今頃になって政府は「2030年がラストチャンス」などと言い出したことも記されています。
「この30年間、なんだったんだろう。出産は個人の自由と言いながら、やはり"産ませない社会"だったのではないか」。福山さんは本の執筆過程を振り返り、そのような憤りが湧いてきたと話しました。
一方、「子供を持たない人にたくさん話を聞いたのですが、別にみんなそんなに怒っていたり、憤っていたりするわけでもなく、楽しく生きている人もたくさんいる。それなのに社会問題として扱っていいのかという迷いもありました」(福山さん)
そうした迷いを抱えていたから、「子供を持つ、持たない」のどちらが正解などと決めつける内容にはしたくなかったという福山さん。参加者からは「子供を持つ人、持たない人の両方の視点が、すごく中立に書かれていた」「子供を持たない人の視点も良くわかる内容だった」などという感想が出ました。
この30年間、なんだったんだろう
福山さんからの「この30年間、なんだったんだろう」という疑問が呼び水になり、参加者からは様々な意見が飛び交いました。
「子供を持つ、持たない」という話は、女性同士が本音で対話しづらいテーマです。そんなセンシティブなテーマですが、本を媒介とした対話の場だったため、各々の立場を飛び越えて、女性たちの本音が浮き彫りになりました。
小さな読書会「bookwill」では、これからも1冊の本を通じて女性たちがやさしくつながる対話の時間をつくっていきます。次回のレポートもどうぞお楽しみに。
まとめ/児玉真悠子
◆bookwill 小さな読書会◆
10代の中高生、キャリアを重ねたマネジャーやリーダー、研究者など、多様で他世代な女性たちが集まる読書会。7〜10人で一つのテーブルを囲み、肩書きや立場を置いてフラットに対話を楽しむ形式です。参加者は事前にゲストキュレーター指定の「テキスト」を読んだ上で参加し、感想をシェア。本をきっかけに対話を重ねていきます。
https://note.com/bookwill_kuramae/n/n07b548ffd1e5