bookwill「小さな試写会」第1回レポート「韓国のドキュメンタリー映画『アフター・ミー・トゥー』は、傷ついた人の心を救う作品になる」ゲストキュレーター:湯川靖代さん(配給会社ストロール株式会社代表)
新旧のカルチャーが交差する東京都台東区の蔵前。そこに拠点を置くブックアトリエ「bookwill」では、定期的に多様な世代の女性たちが参加できる紹介制の対話型読書会「小さな読書会」を開催してきました。
そのスピンオフ企画として2023年9月4日(月)の夜に開催されたのが、「小さな試写会」でした。「小さな読書会」同様、20代から50代までさまざまなバックグラウンドを持つ女性たちが集い、未来志向の対話を重ねる会合です。
小さな試写会 第1回目のゲストキュレーターは、映画配給会社のストロール株式会社を立ち上げた湯川靖代さん。
そこで今回は、ストロールの配給第1作目となる映画「アフター・ミー・トゥー」を参加者で鑑賞し、湯川さんに配給に至った経緯や思いを聞きながら、映画の感想を述べ合いました。
<「bookwill 小さな読書会スピンオフ企画 小さな試写会」開催概要>
2023年9月4日(月)
ゲストキュレーター:湯川靖代さん(ストロール株式会社代表)
映画:『アフター・ミー・トゥー』※2021年ソウル国際女性映画祭招待作品
公式サイト:https://aftermetoo-jp.com/
『アフター・ミー・トゥー』は2021年開催のソウル国際女性映画祭招待作品に選ばれたドキュメンタリー映画。女性の性的被害を告発し、2017年秋にSNS上で世界的に広がった市民運動の「#MeToo」キャンペーンの「その後」を描いた作品です。
日本では、ジャーナリストの伊藤詩織さんによる性被害の告発が「#MeToo」キャンペーンの契機となりましたが、実は日本以上に「#MeToo」キャンペーンが大きな盛り上がりを見せたのが韓国でした。
2018年、韓国では女性検事が上司からの性暴力を告発したのを機に「#MeToo」運動が急速に拡大。これまで沈黙されてきた問題に対して、女性たちが次々と声を上げたのです。
その熱気から3年、韓国での「#MeToo」キャンペーンの連帯の軌跡と残された課題を追ったのが、『アフター・ミー・トゥー』です。
特徴的なのは、4人の監督によるオムニバス形式の映画であること。各々の監督の問題意識や表現方法によって、別々の角度から「#MeToo」キャンペーンの実相に迫ることができます。
本レポートでは、映画鑑賞後の参加者の対話の中から、湯川さんが映画配給について思いを語った部分を抜粋してお届けします。
――なぜ『アフター・ミー・トゥー』を日本で配給しようと思ったのでしょう?
私が『アフター・ミー・トゥー』を初めて観たのは、福島での自主上映会でした。主催者が、私が独立する前に所属していた映画配給会社で担当した韓国映画『はちどり』にとても共感してくれて、問い合わせフォームから感想を送ってくださった方だったのです。
あるとき、「福島だけで上映される韓国の映画があるらしい」と耳にしたので、たまたま気になって調べてみたら、主催者がその方でした。「あの時、感想を送ってくださった人だ!」と連絡したことがきっかけで、福島で『アフター・ミー・トゥー』の自主上映会に足を運ぶことになったのです。
当時の私は、独立して配給事業の準備をしていた頃。配給をひとりで手がけてみたいと思うきっかけのひとつが、実は福島の上映会の主催者が見てくださった『はちどり』だったのです。『はちどり』は1990年代の韓国を舞台に少女の心の動きを描いた人間ドラマ。無名の監督の映画でしたが、口コミで評判が広がり、じわじわとヒットしました。小さな映画だっただけに、当時所属していた映画配給会社で営業、宣伝まで幅広く担当させてもらいました。
映画配給会社では通常、買い付けは国際部、映画館への営業は営業部、一般の人たちへのPRは宣伝部と、担当がバラバラです。私はこれまで主に宣伝と国際部の仕事をしていて、営業の経験はありませんでしたが、このときに映画館への営業も担当したことで「良質な作品を自分で探して、自分の声で全国の映画館にお話しして、一般の見てくださる方にも『ここがいいよ』と直接訴えて届けてみたい。小さくても1本の配給を、最初から最後まで自分で手がけてみたい」と思うようになりました。
『アフター・ミー・トゥー』は、作品のテーマがとても気になりました。主催の方が以前送ってくださった感想も心に残っていて、いつかお会いできたらいいなと思っていたので、この機会にぜひと、最終日に福島に駆け込んだのです。
上映後、主催の方と映画館の支配人の打ち上げに声をかけてもらってご一緒しました。その時に、「『アフター・ミー・トゥー』を全国でも公開してほしい、という声が届いています。日本全国で配給できるように、お手伝いしてもらえませんか」と相談されました。初めてお会いしたばかりだったのでそのご提案に驚くと同時に、まだ実績のない私を信頼して声をかけてくださったことをうれしく思いました。
ただ、その時は即答できませんでした。なぜなら、その話がある直前に別の映画を買っていたからです。そのタイミングで、新たな映画を買うのは資金面のリスクが大きいのでは、との考えが頭をよぎりました。また、通常、一度自主上映した作品の全国配給は難しいとも思いました。
そんな私の背中を押したのは、大学時代の友人でした。「資金面で」と躊躇する私に、「それはやるべきでしょ」と遠慮なく返してきたのです。映画配給はお金と労力がかかる割にあまり儲かりません。「お金がかかるからなかなか難しくて……」と言うと「そうだよね……」とこちらの事情を思い遣ってくださる方が多いなか、友人は「その作品はやったほうがいい」とはっきりと言ってくれた。それで目が覚めるような思いがしました。
「この作品はぜひ配給しよう」。そう私も覚悟を決めて、配給権の獲得に動き始めました。すでに自主上映しており、翻訳されているのに、新たな翻訳料がかかるなど、予想外の出費にも出くわしたり、「自主上映済み」であることの映画館側の反応が冷たかったりと、想定外の事態にも直面しました。
そんな苦労をなんとか乗り越え、9月16日から渋谷ユーロスペースを皮切りに、東北から沖縄まで全国で上映することが決まりました。
この映画は、派手な映画ではありません。おそらく大ヒットする映画ではない。でも、「心がほぐれた」と思える方1人にでも届けばいいんじゃないか。そんな思いで配給しています。
ハラスメントを受けた当事者や、傍観してしまったことに罪悪感を抱いている人。少しでも、現状を変える勇気が欲しいと思っている人へ、多くの人に届いてほしいと思っています。
以下、映画を構成する4つの物語と、それぞれの参加者の感想を一言ずつ紹介します。
Story 1<女子校の怪談>
韓国の「#MeToo」でエポックメイキングとなった「スクールMeToo」が題材の物語。試写会の参加者からは「運動をきっかけに、学校の言うことに従うことに賛成していた母親が、娘の意志を尊重するようになったことに感動した」という声が挙がりました。
Story 2<100.私の体と心は健康になった>
約40年前にあった性暴力のトラウマを克服する姿を描く物語。試写会の参加者は、「どのような被害を受けたのかの詳細を描かず、徹底的に再生の物語にしているところが良かった」と、彼女の乗り越えようとする姿に勇気をもらったようでした。
Story 3<その後の時間>
「スクールMeToo」と並び、活発な運動になった「アートMeToo」。その活動の中心メンバーだったアーティストを描く物語。活動家でもあり、アーティストでもある葛藤がリアルでした。葛藤がある中でも、歩みを止めない彼女たちの姿に心を打たれたと、参加者で盛り上がりました。
Story 4<グレーセックス>
「男性の性的対象として利用されただけ」と傷つく若い女性たちの心境を描く物語。「若い女性たちにこそ観てほしい」という声があがる一方、男の子を育てる母親の参加者からは「思春期になったら息子に見せたい」との声もありました。
まとめ/児玉真悠子
▼アフター・ミー・トゥーの上映情報はこちら