【実話怪談】二段ベッドと机と夢
6歳の時の話。公園で砂遊びをしていると、2つ下の妹が「ねえちゃん、
ベッドのうえのだん、かわって」と言い出した。
「なんで?なんかあった?」
私は不審に思った。先週、私達姉妹は「新しく買った二段ベッドの上の段で寝る権利」を巡って争い、ジャンケンで決着をつけたばかりだったからだ。獲得した特等席をなぜわざわざ手放そうとするのだろう。
「おばけがでる」
「どんな?」
「しろいうでがてんじょうからでてきた」
「えっ」
「あかいつめが、ギガッ!てはえてた」
どうも「尖った赤い爪が生えた白い腕が天井から伸びてきて怖いから、寝る場所を代わってくれ」と訴えたかったらしい。冗談じゃない。私だって怖い。でも、妹をこのままにするのもかわいそうだ。
「わかった、代わったげる」
内心の葛藤を隠しながら見栄を張って答えたその日から、私は二段ベッドの上の段で寝るようになった。その日はもちろんのこと、一週間ほど経っても、何も見えなかったし、金縛りのような怪現象に見舞われることもなかった。
「何ともなかったけど、どうする?戻す?」
一応妹に聞いてみたが、もうこのままでいいとのことだったので、私は安心して特等席を占領し続けたのだった。
それから3カ月ほど経った頃、奇妙な夢を見た。夢の中で私はどこかの部屋の中にいて、なぜか妹を机の下に匿っている。お屋敷の書斎に置いてあるような、箱のような形をした立派な机だ。私の後ろに回り込まない限り妹の姿は見えない。
「●●(妹の名前)はどこだ?どこにいった?」
男と女の声を混ぜたような奇妙な声が、机のすぐ右にある扉越しに聞こえる。夢の中の私は扉に向かって「ここにはいない」と答えた。不思議なことに、姿も言動も大人のそれに変わっていた。
「どこに隠した」
「ここにはいない」
「どこにやった」
「ここにはいない」
声はなかなか扉の前から去らなかった。大人の私は機械のようにひたすら「いない」と繰り返した。膝の上に置いた手から汗がふきだしてジーンズに染み込んだ。しかしなぜだか、声の正体は自分で扉を開けられないという妙な確信をもっていた。それからどうなったかはっきりとは覚えていないが、気が付いたら朝になっていた。
それから五年に一回くらいの頻度で、同じような夢を見るようになった。細かいところは違うが、妹が人ではない何かに追われていて私が匿う、という筋書きは同じだ。相変わらず、人ではない何かが私たち姉妹に危害を加えてくることはない。同じような変な夢を何回も見ることってあるよね、と社会人になった私は受け流すようになったが、数日後妹のTwitterの投稿を見つけて固まってしまった。
”なんかに追っかけられて姉に助けを求める夢を見た”
なんで?私は妹に一切夢の話をしていないし、あの時から何度も引っ越しをして、妹は通学のために家を出て、二段ベッドも解体して、別々の部屋に置いてあるのに。
怖がらせるといけないので、妹に返信はしていない。個人的な考えだが、あの奇妙な夢を見るようになったきっかけは、妹が昔見たであろう天井から生えた白い腕だったような気がしてならない。あのまま妹が我慢して上のベッドで寝続けていたら、彼女は一体どうなっていたのだろうか。