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純度65%のハッピーエンド「息が詰まるようなこの場所で」

気温5度、風速5メートル。冬の中の冬。これからテニスをするには無謀な数字が並ぶスマホを裏に返し、ベンチにすわり読書を始めました。しかし、なかなか生徒が校舎から出てこない。この寒波から逃れるために、ますます持参した本に意識を傾けました。

というわけで、今日は私立中高の部活指導に出かけていました。が、どうやら合唱コンクールの練習があったらしく、練習開始時間が遅延。その結果、持参した「息が詰まるようなこの場所で」を最後まで読み終えてしまいました。本当に寒かった・・・

この本の帯には「タワマン文学」と見慣れない言葉が書いてありました。Twitterで話題になった小説のことかと思って手に取りましたが、どうやら違う。でも、現代において「売れている小説」であることは間違いない。その実態を学ぶべく選書しました。

内容はタワーマンションに住む2家族の4人の視点で書かれた4つの短編集。ただ、テーマと舞台は1つで、時間は半年ぐらいづつズレている。だから連載小説の形式にもなっている。このつくり込み感が、著者の頭のよわを匂わせます。

最初の主人公はタワマンの下層階に住む奥さん。仕事は銀行の一般職。子供は受験戦争まっただ中。世間から見たら十分に恵まれた環境ですが、上の階の住人との差に悩みます。

次の主人公はその旦那。奥さんと同じ銀行の総合職。そこそこ優秀なれど、仕事では出世コースから外れ、家では奥さんから子供の受験のことで責められる。タワマンを35年ローンで購入した判断にも疑問を持ちます。

3人目はタワマン最上階の奥様です。実は田舎出身の芸能人という経歴です。その生き方は、愛よりも金を選択した人生。その結果、羨望の対象に成りあがるものの、やはりそこにも苦悩の影が漂います。

そして最後に4人目はその旦那。タワマン最上階に住む開業医。しかし、小さい時から現在まで親の敷いたレールを歩んできたという人生。その自分の人生に、もやもやしたものを感じています。

そしてラストは純度65%のハッピーエンドです。誰も傷つけない小説なので、誰が読んでも楽しめる。でも、当然ながらガチの小説を好む人からしたら、物足りない内容です。店主としては、小説ではなくノンフィクションを読んだ後の読書感でした。

読みやすい文体で書かれており、尚且つ誰もが興味があるテーマ。タワーマンションや受験戦争を覆い隠すヒエラルキー構造を表現した内容は、概ね間違いではなさそうです。店主と同様に、一気読みする人も少なくないでしょう。

最後にまとめると、「こういう小説が売れるんだな」ということが理解できました。自分も小説を書きたいと思った以上、参考になる作品でした。ただ、時代にマッチして一瞬輝いたこの小説が名作として残ることはなさそうです。時代という波がテーマごと押し流してしまうでしょう。そう考えると、やっぱ古典的名作ってスゲーなーと思いました。

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