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店主と、本のある暮らし November 2023

こんにちは。いどうほんやKOKOです。
Instagramにて連載中の、【店主と、本のある暮らし】を月ごとにまとめ、投稿しています。

本との出会いや、交流のきっかけになればとても嬉しいです。


かぜのひ

November 4, 2023

昨日は今シーズン最後の車出店となりました。

天候が心配でしたが、幸いにして雨にもほとんど降られず、暖かい一日となりました。

でも、風はそこそこ強かった!
イベント中はときどき吹く程度でしたが、最も風を感じたのは、移動中でした。

車の窓から見える街路樹は大きく揺れ、色づいた木の葉が舞っています。
停車中の車体も揺れています。
油断するとハンドルをとられかねない!と意識を集中しながら、目的地を目指して進みました。

本棚のレイアウトはどうしよう?
いつものように、箱を外に出そうか出すまいか。
後ろの扉を開けられるだろうか?
予報によると、雨は夕方からで、雷も鳴るとか鳴らないとか……?

いろいろ考えながら、これは『かぜのひ』だなと、本棚に並べる予定の絵本を思い浮かべました。

秋の風景といえば、澄んだ空に紅葉が美しく映えた、ぽかぽか陽気を思い浮かべてしまいますが、秋は風や稲妻の季節でもありますよね。

穏やかなことだけが、良いことだとは限りません。
嵐の日だってあるけれど、それを楽しむことも、素晴らしい思い出にすることもできる!

ついつい忘れてしまうのですが、この感覚は、大事にしようと思います。

***
『かぜのひ』
作・絵:サム・アッシャー
訳:吉上 恭太
発行:徳間書店 2018年初版


あきのセーターをつくりに

November 6, 2023

またまた、小さい頃の思い出を。

冬が近づくと、古いニットをほどいた毛糸の束が、部屋にいくつも吊るされていました。

祖母がその毛糸を巻き直す作業が面白くて、ときどき手伝いをしていたのを『あきのセーターをつくりに』を読んで思い出しました。

毛糸の束は輪になっていて、それを両手首にひっかけます。
祖母が毛糸を糸の端から巻いていくのですが、その時にタイミングよく左右の手首を交互に折り曲げて、糸を巻き取りやすくするのです。

母が編んだニットも、よく着ていました。
木の丸いボタンがついた、濃い緑茶のような色合いのカーディガンは特にお気に入りで、編み直してもらった記憶があります。

今思うと、エコでスロウな暮らしは、ごく当たり前に身近にありました。
今や、求めないと手に入らない、憧れのようなものになってしまったけれど、ときどき、日常だったときの感覚を思い出しています。

***
『あきのセーターをつくりに』
作:石井 睦美
絵:布川 愛子
発行:ブロンズ新社 2019年初版


November 9, 2023

彫刻家佐藤忠良を知ったのは、大学生になってからでした。
安田侃や本郷新をはじめ、多くの彫刻家の作品に触れたのが、その頃でした。

既に札幌の風景を創り出し、馴染んでいる作品たち。
あらためて芸術として鑑賞しようとしても、どう感じたら良いのか、どう理解したら良いのか、分かりませんでした。

そんな時に出会ったのが、作品と遊ぶ、楽しむという概念(アニマシオン)でした。
作品に触ってみたり、描いてみたり。作品に合わせてシチュエーションやセリフを考えてみたりと、とにかく実践してみました。

特に、描いてみることで、ゆったり落ち着いた気持ちで作品に近づくことができるのは、面白い発見でした。

でも実は、佐藤忠良さんの作品は、もっと前から知っていたはずなのでした。
それは、福音館書店から発行されている『おおきなかぶ』の絵本です。

それに気がついたとき、なんとも不思議な気持ちになったのを覚えています。

『木』は、佐藤忠良さんが彫刻の合間に描いたデッサンをもとに作られた絵本ですが、『おおきなかぶ』とはまた異なる趣きがあります。

「おおきな木を えに かくと おおきな木は いろいろ はなしをしてくれる」という、木島さんの文章を読んでいると、作家も、描くことで何かを捉えようとしているのだろうかと、親近感がわいてきます。

描く、というのは、対象と向き合うためにうってつけの方法なのかもしれません。

***
『木』
画:佐藤 忠良
文:木島 始
発行:福音館書店 2005年初版


蛇の棲む水たまり

November 8, 2023

鹿児島睦さんの器から、梨木香歩さんが物語を作りました。

先にあったのは器で、一つ一つ独立したもの。
つながりがあるわけではありません。
しかも鹿児島さんは、道具でもある器を制作するときには、何かを訴えるメッセージや物語を排除しているそうなのです。
この本のために作られたのは、最後の一枚だけです。

それなのに、ほんとうにそうなのかと疑いたくなるほど、世界に引き込まれます。

自分の語彙の乏しさに悲しくなるけれど、物語って、ほんとうにすごい!

先日、学生時代、一緒に絵本や児童文学について学んでいた友人が、この本を手に取ってくれました。
そのことが、わたしの心許なさを補ってくれたように思います。

ありがとう!嬉しかった!

まだ、在庫がございます。
「すごい」を共有してくれる方、募集中です。

ちなみに、昨年初めてラジオ番組に出演させていただいた時にリクエストした曲でもある、スピッツの「大好物」のジャケットにも、鹿児島さんの器が使われています。

お料理をのせて、器を美しく使う人の姿も、思い浮かびます。

***
『蛇の棲む水たまり』
文:梨木 香歩
器:鹿児島 睦
発行:ブルーシープ 2023年初版


ひびけ わたしの うたごえ

November 14, 2023

とうとう今年も、雪が降り始めました。
小さな小さな雪が、舞っています。

あと数週間もすれば、積もり始めます。

雪あかりということばもありますが、素直な印象として、北国の冬は暗くて静かです。

昔、冬の夕方に、海沿いの国道を歩いて家に帰らなければならなかったときの心細さと言ったらありませんでした。
海も空も山も真っ暗。

波の音が、響きます。

日本海には本当に演歌がよく似合うなと、子ども心に思いながら、頭の中に流すのは明るくポップな音楽です。
心細さや恐怖を吹き飛ばすため、歌いながら早足で歩きます。

『ひびけ わたしの うたごえ』は、そんな懐かしい記憶を呼び戻してくれました。

わたしの思い出は、1日の終わりの出来事ですが、こちらは始まりの出来事です。
見える景色も、シチュエーションも全く違うけれど、共感しあえる気がする。
そんな物語でした。

暗くて怖くて心細いとき、この物語を思い出してみても良いかもしれません。

***
『ひびけ わたしの うたごえ』
文:カロライン・ウッドワード
絵:ジュリー・モースタッド
訳:むらおか みえ
発行:福音館書店 2021年初版


きょうはなんのひ?

November 16, 2023

もうすぐ「いい夫婦の日(11月22日)」ということにちなんで
『きょうはなんのひ?』をご紹介します。

どうちなんでいるのかは、読んでいただくことにして、簡単なあらすじはこうです。

主人公のまみこは、朝学校に行く時に、イタズラっぽい満面の笑みを浮かべ、玄関で見送るお母さんにある謎をかけます。
お母さんは、仕事先のお父さんの協力も仰ぎながら、その謎を解いていきます。

この絵本が出版されたのは、1979年。
物語の舞台であるまみこの家の造りや家財、暮らし方などが丁寧に描かれており、昭和の後期の雰囲気を保存しているようです。

わたしは小学校2年生のとき、学校でこの絵本に出会ったのですが、都会の家庭的な雰囲気や謎解きの面白さに、強い憧れを抱きました。

『どろんこハリー』がわたしの絵本の原体験だとして、『きょうはなんのひ?』は、絵本が好きだと気付くきっかけになった本です。

この本のことがずっと忘れられず、大学生になって間もなく、書店で購入しました。
「わたしの本になった!いつでも読める!」と、心の中で、子どものように大はしゃぎしました。
まみこの好きな本として作中に登場する『マドレーヌといぬ』も、買いました。

いどうほんやKOKOでも、小さい頃好きだったという本を見つけて買ってくださる方がいらっしゃいます。
そっか、同じ気持ちなのかな?
はしゃいでいるのかな!!

好きな本が手元にあるって、子どもも大人も嬉しいですよね!

***
『きょうはなんのひ?』
作:瀬田 貞二
絵:林 明子
発行:福音館書店 1979年初版


どのはないちばんすきなはな?

November 20, 2023

赤ちゃんと読む絵本に迷ったら、福音館書店の「0.1.2.えほん」シリーズから、自分の読みやすいものを選んでみるのはいかがでしょう。

いいところがたくさんあるのですが、デザイン面でいえば

①角が丸いので、安心(落としてしまった時の衝撃にも強い)
②ボードブックなので、赤ちゃんでもめくりやすく、破損しにくい
③配色や構成がシンプルなので、赤ちゃんが絵を認識しやすい

こんなところが好きです。

「自分の読みやすいもの」というのにも訳があり、赤ちゃんが気にいるかどうかよりも、まずは自分が読んでいて気分が上がるものがいいと思うからです。

赤ちゃんとの生活は、ときに孤独で、気力も体力も使いますよね。
ゆえに、「あれ?今日はついつい無言で過ごしてしまった!」なんてこともあると思うのです。

そんなとき絵本を読めば、自然に声を出すことができるので、気持ちが開放されます。
もし、赤ちゃんが興味を持ってくれたらラッキーくらいに思って、まずは自分が楽しむのが肝心!
きっと、楽しいお母さんやお父さんの声を聞いたら、それだけで赤ちゃんは嬉しいんじゃないでしょうか。

『どのはないちばんすきなはな?』は、マリメッコやSOU・SOUのデザイナーとして活躍する脇坂克二さんが絵を担当された絵本です。

瑞々しい色彩や、軽やかなことばのリズムで、きっと気分もぱっと華やぎます。
クルマ好きの方には、脇坂さんの『ぶーぶーぶー』もおすすめですよ!

どちらも、次のイベントにお持ちする予定です。

***
『どのはな いちばん すきな はな?』
文:いしげ まりこ
絵:わきさか かつじ
発行:福音館書店 2017年初版

『ぶーぶーぶー』
文:こかぜ さち
絵:わきさか かつじ
発行:福音館書店 2007年初版


おふろだいすき

November 22, 2023

11月26日は「いい風呂の日」ですね。

わたしは、子どもとのお風呂の時間が好きです。
忙しい毎日でも、お風呂に一緒に入ればじっくり話ができます。
その日あった嬉しかったことや、残念だったこと、ちょっとした悩みも、なぜだかお風呂なら話しやすい。

自分自身も、何か聞いて欲しいことがあると、母と一緒にお風呂に入っていたような気がします。

でも、そろそろ1人でゆっくり入れるようになるかなと、楽しみに思っているのも事実。

子どもたち2人だけでお風呂に入り、上の子が洗い方を教えたり、流してあげたりしているのをドア越しに見守ったときは、夫と目配せして、無言でお互いを労いました。

しかし、喜んだのも束の間。
キャッキャと盛り上がって、なかなか出てきません。
どこでも遊び場になってしまう子どもたちの想像力は、ほんとうにすごいですね。

『おふろだいすき』には、そんな子どもの世界が描かれています。
あひるのおもちゃを連れて、1人でお風呂に入る男の子。
体を洗っていると、湯船からおおきなカメが出てきて……

お母さんの登場によって、動物たちが姿を消していく様子もリアル!
まさに、現実を見ているようです。

我が家でも、わたしがちょっと覗いた途端、中の空気がパッと変わるのがわかります。
湯気と一緒に、物語がどこかに消えていくみたいに。

少し寂しいけれど、子どもの成長を実感する瞬間でもあります。

さあ、いい風呂の日、みなさんはどんなお風呂を楽しみますか?
温泉に行くのもいいですね〜

***
『おふろだいすき』
作:松岡 享子
絵:林 明子
発行:福音館書店 1982年初版


あかいてぶくろ

November 25, 2023

あたたかい手袋が恋しかった今日は、この一冊をご紹介します。

靴下と並んで、片方なくしてしまいがちなものの代表格、手袋。
靴下は家の中で見つかることがほとんどですが、手袋は、見つけられなかったという方も多いのではないでしょうか。

そんな経験をお持ちの方は、ぜひ読んでみてください。

冬景色に映える赤い手袋はとても印象的で、手触りや温度まで伝わってくるよう。
予想を超えたハッピーエンドは、経験を積んだ大人はもちろん、繊細で複雑な感情を知り始めた小さな人の心にも響きそうです。

ところで
赤い手袋が出てくる物語って本当にたくさんあります。
読み比べてみるのも面白そうですよ!

***
『あかいてぶくろ』
作:林 木林
絵:岡田 千晶
発行:小峰書店 2021年初版


ふゆのコートをつくりに

November 28, 2023

みなさん、冬支度はお済みですか?

コートの用意がまだできていなかった、うさぎのさきちゃんは、おかあさんが昔着ていたコートを仕立て直してもらうことにしました。

仕立て屋さんのみこさんは、さきちゃんにぴったりのデザインにするため、いろいろな質問をします。
その質問が、素晴らしいのです。

わたしが本を提案する時も、こんなふうに丁寧なインタビューができたらいいなと思います。

わたしのもう一つの仕事である司書には、利用者の資料探しのお手伝いをする、レファレンスサービスという仕事があります。

例えば、利用者から、「雪の本はありますか?」という相談があったとします。
でもそれは、たまたま表に出てきた言葉に過ぎず、その裏側には、「どうして雪はふるの?」「積雪量が一番多い国は?」「雪の結晶の絵を描きたい」など、たくさんの異なるニーズが隠れています。

質問を重ねながら、それを明確にしていくのがレファレンスインタビュー!
このインタビューを通じて、本当に必要な資料や情報に繋げていきます。

たくさんの興味を引き出して、みんなに相談してもらえるように、そして、それに応えられるように、学校司書としていつでも準備を整えていたいし、ときには仕掛けをしていきたい。

本屋として本を提案するときには、ここに「あそび」の要素をたっぷり加えたい!と思っています。
「ギフト」といっても良いかもしれません。

少しアツくなってしまいましたが
この絵本は仕立て屋さんにコートを仕立ててもらうお話です。
仕立て屋さんのプロフェッショナルな仕事に、胸を打たれるお話です。

***
『ふゆのコートをつくりに』
文:石井 睦美
絵:布川 愛子
発行:ブロンズ新社 2019年初版

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