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逆噴射小説大賞2022 ライナーノーツ


 こんにちは。エル様のしもべです。

 今年も参加しました逆噴射小説大賞。去年は連載もあったのでサボりましたが、今年はライナーノーツもやりますよ。エル様からのひとこと裏話もあり。


落ち雛飛翔

 兄弟の話。いつものファンタジー枠。

 モチーフになったのはイヌワシ。日本のイヌワシには、先に生まれた雛があとの雛を殺してしまう兄弟殺しなる習性があるそうで、「弟を庇って死ぬ兄貴」萌えの僕はこの習性を逆転させるとエモいんじゃね?と考えました(ジョジョ四部で一番好きなのは虹村形兆)。今思うと2020年度の『そして北に十三歩』もそうでしたね。これはもう癖。ちなみに崖登りの話になったのは、兄弟殺しを兄弟落としと覚えていたせいです。

 技術的に意識したことは「映画的につくる」「文の流れが不自然にならないようにする」の二点。
 800字という制限がかかる逆噴射フィールドにおいて、情景や短いセリフでストーリーを語る映画的手法はやはり有効。それを抜きにしても、僕は文章やストーリーが冗長になりがちなので、短く纏める技術を映画から学ぼうと最近はいろいろ観ています(以前までは体調的な問題で映画をあまり観られなかった)。ただ影響を受けすぎて、小説というより脚本っぽくなってないか、とは危惧していますが……。
 文の流れについては去年までの反省点を踏まえてのこと。言葉の繋がりが不自然だったり、展開が急すぎたりな部分が没入感を棄損していると感じたので、これを直すコツを今作で身につけようと気合いを入れました。
 特に意識したのはラゥが落ちるまでの流れ。初稿では「うん」となっていたのを「……うん」にして含みを持たせたり、「そっか。あと少し、か」を「そっか。あと少し……か」にして疲労を表現したりして、彼がみずから手を放すまでの流れが唐突にならないよう苦心しました。それに対するシゥのリアクションも、短いながらも不自然にならない台詞回しを気を付けています。この辺も映画から学んだこと。

 その他に考えていたことはこちらのピックアップ記事をご覧いただければ大体わかります。マジでほとんど言い当てられていてビビりましたわ……。

 今作は細部まで具体的なこだわりを持って書いたので、自信も愛着もあります。物語のオチも思い浮かんでいます。
 ただ続きを書くかどうかは微妙なところ。実はこれ、拙作『白狼の子たる修道女』の来シーズンに出てくるキャラのバックボーンを逆噴射ナイズしたものなので、実質的な続きはそちらになる可能性大。独立させた方が良さそうだと判断したら独立させます。はてどうなるやら。


◆エル様のひとこと裏話◆
 ラストでシゥに声をかけたのは金鷹帝じゃないわ。十四歳になる彼の孫娘なの。現皇帝であるこの子は内気な性格で、「顔をあげてください」って言いそうになっちゃったのを彼女なりに威厳のある言い方に直したのね。
 それと、ラゥが兄かどうか本当はわからないの。あるとき身長を測ってみて、ラゥの方がちょっぴりだけ大きかったから、それ以来そういうことになったみたい。


地獄行きオクトーバー

 姉妹の話。ハロウィン枠。
 こっちでも上の子が死んでる。ただしサキュバスになって地獄から帰ってくる。

 10月半ばに突発的に思いついたヤツ。『落ち雛飛翔』を投稿したあと、四本くらいネタがあったんですが、逆噴射的にはどれもしっくり来ないような気がして悶々としておりました。クオリティ的にも『落ち雛飛翔』を超えるのは10月中に出せそうにないな、と判断。思い切って「初期衝動」に従って書いたのがコレです。

 中島らもの『白いメリーさん』を個人的に短編パルプの教科書としておりまして。「日の出通り商店街 いきいきデー」なんか一行目から天ぷら屋が襲ってきますからね。未読の方はぜひ。
 この作品集に通底する「異常なことが起きてるんだけど、登場キャラがするりとそれを飲み込んで話を進めていく」空気がめちゃめちゃ好き。異常を認識しないわけじゃないんですよ。「異常だなあ。まあいいか、べつに」くらいの感じで受け入れてしまう。何だったら視点人物自身が異常だったりする。最近だとジャンプ+で連載されてる『放課後ひみつクラブ』なんかがテンポ感含めて近い気がします。こっちも超絶おもしろくてカワイイからみんな読め。

 『白いメリーさん』のなかでも今作の直接のモデルとなったのは「クロウリング・キング・スネイク」。蛇女になる呪いを背負った姉妹の話なんですが、全然暗くない。蛇女になった姉が生卵まるのみにして「また生卵買っといてね」って言ったら、妹は「わかった。……でも、あねじゃ、そのウロコは」って返すんです。ここが凄い好き。
 まず「わかった」なんですよ。状況をするっと受け入れてから、それはそれとしてどうしたの?と聞く。普通の感覚なら逆ですよね。この順序を入れ替えるだけで心地よいテンポ感が確保されるだけでなく、それを受け入れてしまう人物の特異性や、キャラクター間の信頼関係をも表現できる。
 拙作にも「お姉だけでなく、妹やその他もキャラが濃い」という嬉しい感想を頂戴しましたが、これはやはり妹がするりと状況を受け入れているからというのが大きいんだと思います。

 今作で目指したのはこのテンポと空気感です。これまでは物語やキャラクター、世界観などありきで考え始めていましたが、今作は逆。理想とするテンポと空気感を実現できる物語・キャラ・世界観を構築しました。
 ハロウィンをモチーフにしたのはちょうど旬であるっていうのと、昔からお化けが好きだから。ディズニーに軽いトラウマのある自分でも『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』は大好きだし、ポケモンXYではゴースト統一パでレート潜ってました(切り札はメガジュペッタと色違い4Vギルガルド)。

 賞レースを勝ち抜けるタイプの作品ではないな、とは思いますが、自分としてはめちゃくちゃに好きです。
 これは続きを書きます(※)。20000字以内の短編を目指し、THE PINBALLSの『ブロードウェイ』をヘビロテしつつ、初めてストーリープロッターも使って話を組み立てている最中。好きなものを詰め込みまくってるのですっごい楽しい。完成したらぜひ読んで下さいね。

※ 書きました。30000字になっちゃいました。


◆エル様のひとこと裏話◆
 お姉の名前は真理愛マリア。聖女っぽい名前なのは皮肉かしら?
 ちなみに妹は美奈ミナで、『ドラキュラ(1992年)』っていう映画でドラキュラと恋に落ちるキャラがミナって名前だったから、すっごい感情移入したそうよ。ドラキュラを演じてたゲイリー・オールドマンもそのまま好きになったんですって。



(おしまい)


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