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地獄行きオクトーバー
十月になった。つまりハロウィンの季節だ。お姉が地獄から帰ってくる。
「ヘイ、妹よ。炬燵にゃ早くね」
炬燵に入ったまま出迎えたわたしに、お姉は言った。
「令和がわるいんだよ」
「寒がりちゃんめ。脂肪がたりんな」
お姉は自分のおっぱいを鷲掴みにして、たゆんたゆん揺らした。青い肌に黒いレオタード、翼に尻尾。どこに出しても恥ずかしくない本物のサキュバスだ。敵うわけなかろう。
お姉は炬燵に入らず、わたしの隣でどっかと胡坐をかいた。股の食い込みがエグい。
「今年はひと月いられるの?」
「おうよ。ハロウィンガチャと同じさ。世界があたしら魔族を求めてんのよ」
「よかった。嬉しい」
お姉が死んだのは五年前。両親を殺したヤクザに復讐するため、魔族と契約してサキュバスになった。そんで組員をひとり残らず搾り殺して、最後は魔族に連れてかれちゃったのだ。
でも、毎年ハロウィンの日にはこうして帰ってきてくれる。しかも今年は一ヶ月。本当に嬉しい。
「あんた、仮装は用意した? 姉妹でファビュラスにバズろうぜ」
「仮装? シスター服ならあるけど」
「おげ。信じられんセンス」
お姉は舌を出した。やっぱり魔族だから嫌なのか。
「でも、シスターとサキュバスの姉妹ってのは訴求力ありそうね。ふたりで出歩いて、近所のガキども片っ端から精通させっか」
「やだよ、社会的に死ぬ……ふあ」
欠伸がでた。お姉は片眉をあげる。
「寝不足? 顔色わるいよ」
「最近、お隣のタロが朝早くに吠えるんだよ」
「まだ生きてんだ。あいつナニもでかいよね」
「やめい」
「よちよち、お姉がホットミルクをつくってやろう。特濃だぞ」
そう言って、お姉は台所に向かった。
わたしは願う。神よ、どうか一年中ハロウィンにしてください。
翌日、わたしは久々に寝坊した。タロが吠えなかったのだ。どうも干からびて死んでいたらしい。
「……お姉?」
「ちがうちがう! 多分、チュパカブラだよ」