地獄行きオクトーバー (4/10)
さらに撃つ。お姉を囲んで嬲ろうとする下衆どもを次々と殺していく。
まず狙うべくは胴体。的が大きいからだ。そうして堅実に怯ませてから、ヘッドショットでとどめを刺す。二撃一殺がわたしの基本。神父さまが教えてくれた退魔のやり方。
「ミ……ミナさん。君はいったい」
振り返る。及川さんがわたしを見ている。なぜかは知らないけれど、カメラを構えようとしていた。
わたしは右手の銃を向けた。
「ひゃあ! ま、待って、僕は」
「動かないで」
撃つ。弾丸は及川さんの頬をかすめ、「コカーッ!?」背後に迫っていたチュパカブラの眉間に穴をあけた。
チュパカブラはまだまだ増える。その半分ほどはわたしを標的にしたらしく、徐々にこちらを包囲しようとしていた。好都合だ。お姉の負担を減らせる。
とん、と、背中に感触があった。
お姉の背中だった。
「ちょっとなぁに、あんた。武装エクソシストってやつだったの?」
「うん。黙っててごめん」
「すっごいじゃん。お姉びっくりしちゃったわ」
「神父さまには、十年に一人の逸材だっていわれたよ」
「そんな漫画みたいなセリフを? ヤバすぎ。自慢の妹だね」
お姉は笑った。
そしていつも通りの明るい声音で、囁くように言ってくれた。
「ミナ。背中は任せるよ。いい?」
「……うん。任せて」
わたしは泣きそうになるのを堪え、そう返した。
お姉が地を蹴る。わたしも歩き出しながら、左右の銃で化け物を撃ち殺していく。今のわたしは無敵だ。どんどんきやがれ。
「コカーッ!」BANGBANG。「コカーッ!」「コカカカカーッ!」BANGBANGBANGBANG。「コカーッ!」「コカーッ!」「コカーッ!」「コカーッ!」BANGBANG。BANGBANGBANGBANG!
カチリ。撃鉄が空しく鳴った。弾切れだ。
「コカカカカーッ!」
にやついた顔のチュパカブラが飛びかかってくる。ナメんな。わたしはその横面をグリップの底で殴りつけてやった。
「コギャッ!?」
血と乱杭歯が散った。わたしは左の銃を捨て、その手でそいつの首をつかみ、右の銃で頭部を殴った。二度、三度。四度目で頭蓋がぱっくりと割れた。わたしはそいつを地面に叩き捨てた。
「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」
まだくる。わたしは右の銃も投げ捨て、もう一度、両腕を伸ばす。シャガッ。予備の二丁が袖から飛び出し、手のなかに納まった。わたしは十年に一人なので、エクソシスト式収納術も得意だ。
わたしは撃つ。撃ち殺していく。いつもよりハイになっていることが自分でもわかる。感覚が鋭敏だ。
うなじがひりつく。背後から舌攻撃。
「シューッ!」
わたしは地面すれすれまで身を低くして躱す。さらに振り返りながら、ブーツで弧を描くようにしてそいつの足を刈った。
「コギャッ!?」
チュパカブラは転倒した。わたしは立ち上がり、頭を撃ち抜いた。
「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」「コカカカカーッ!」
懲りないやつら。わたしは両腕を交差し、撃ちながら広げていく。薙ぎ払うようにして、チュパカブラの頭部を次々と爆ぜさせていく。
「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」「コカーッ!?」
胴体は狙わなかった。ヘッドショットによる一撃一殺。研ぎ澄まされた感覚がわたしを動かす。
「背中は任せるよ」。お姉の言葉が、この夜のわたしに全能感をもたらしてくれていた。まるで神の御言葉のように。
……気が付いた時は、あたりは血の海だった。もちろんチュパカブラどもの血だ。わたしも、お姉も、浦野さんや及川さんも、みんな無事だった。
「おっつかーれさん。怪我はない?」
お姉がぽんと肩をたたく。わたしは返事をしようとしたけど、喉がきゅっと締まっていて、できなかった。
「あら。あんたの体、なんか熱いわよ。ヤリすぎで火照っちゃった?」
お姉はおでこを合わせてきた。
「うーん、だいぶ興奮してたみたいね。すぐ帰りましょ。浦野っちも、警察とか面倒になる前に帰った方がいいわよ」
「おう。なんか手伝えることあるか?」
「平気平気。あ、ミイラ男くんはちょっと待って」
「な、なんですか?」
お姉は及川さんにつかつかと歩み寄ると、いきなりカメラをひったくって、地面に叩きつけた。及川さんが絶叫した。
「アアーッ!! なんてことするんですか!!」
「あんた、戦ってる最中にも撮ってたでしょ。ミナが困るかもしんないから。写真だけじゃなく、今夜のこと話すのもナシよ」
「わかってるぜ。こいつにはオレがよく言って聞かせっから」
浦野さんはそう言って、めそめそと包帯を濡らす及川さんの肩を抱いた。
お姉は「じゃね」と手を振ると、わたしの背中に優しく手を当てて歩かせてくれた。
全能感はすでに去った。十月の夜の冷たさが、わたしの袖の隙間から忍び込んでいた。